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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
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十四話 怪盗A

 

 ―帝都博物館―


 六月上旬。ある雨の降る日の夜。帝都ログレスの西南に位置するスニエル地区にある帝都博物館に多くの人々が集まっていた。

 もちろん博物館の観覧者という訳では無く、帝国内の治安を維持する、帝国憲兵隊の人々だった。

 博物館の玄関ホールでは、憲兵隊が忙しく動き回り、その中で二人の人物が立ち止まり、深刻な表情で話をしている。


「……もう直ぐ予告された時間ですか……」


 そう言ったのは、歳が五十代後半位の男性だった。

 彼はこの博物館の館長だ。


「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか……?」


 館長はそう言い、もう一人の人物に問いかける。


「……何とも言えません……」


 そう答えたのは軍服を着た紫髪の男性、ネハルム・ロバーツだ。

 彼は年若くして、帝国憲兵隊の大尉に就いているエリートだ。


「そうですか……」


 館長がネハルムの返答に気を落とす。


「すみません……何せ相手はあの怪盗Aですから……」


 憲兵隊はこの博物館の警備の任務を任されていた。

 常時警備していると言う訳では無く、今日は博物館の要請で来ている。


「やはりあの怪盗アルセーヌなんですね……」

「ええ、恐らくは」


 怪盗A……又の名を怪盗アルセーヌという。

 最近、帝都ログレスで数件の予告状を出し、盗みを働いている。

 犯行の手口は巧妙で毎回信じられない手口を実行して、忽ち有名になった。

 そんな怪盗Aから今日の昼、この博物館に予告状が届いた。

 予告状の内容はこうだ。


『本日午前零時、新奇な古代の遺産を頂戴する。怪盗 アルセーヌ』


 その怪盗Aの犯行を阻止すべく、憲兵隊が動いたという訳だ。


「ロバーツ大尉、全員配置に着きました」


 二人に近付いて来てそう言ったのは、軍服を着た鴇色の髪を二つ結びにした若い女性だ。

 彼女はクロエ・トレス、憲兵隊の伍長に就いている。


「了解だ、トレス伍長。君は入口の守備を指揮しろ」

「はっ!」


 クロエは敬礼をして、二人の元から離れて行く。


「俺達も行きましょう。そろそろ予告された時刻です」


 二人はホール中央に繋がっている通路を進み、予告状に記されている物が展示されている場所に向かった。

 通路の先は色々な物が展示してある天井の場所だった。

 その場所で一番目立っているのは、中央のぽつんと置いてある四角柱の展示台だった。

 展示台の周辺には憲兵隊の兵が数人居て、他の場所と比べると警備が固められていた。

 展示台のガラス張りになっている部分からは、近未来風な銀の小さな箱が見える。

 銀色の箱は最近博物館に展示された人工遺物(アーティファクト)だ。

 展示される前に帝国の遺物研究機関が調査したが、人工遺物(アーティファクト)と言う事しか分からなかった。

 箱の開け方は分からず、何に使われた物かさえも不明だった。

 無理矢理壊して開けようという案が挙がったが、人工遺物(アーティファクト)は貴重なものとされており、その案は却下されて箱は開かないまま、この博物館に展示される事となった。

 それが由来で銀の箱は、開かずの箱と命名された。

 最近展示された人工遺物(アーティファクト)はその開かずの箱のみだったので、新奇な古代の遺産という文章から、怪盗Aの狙いは直ぐにそれだと分かった。

 なので、憲兵隊は厳重に開かずの箱を警備しているという訳だ。


「そろそろですね……」


 ネハルムが壁に掛けられている振り子時計を見ながら言った。

 時計の針は予告時刻の午前零時を指そうとしていた。


「…………」


 館長が唾を飲む。


「……」


 ネハルムが拳銃を取り出す。


 そして、時計の針が零時を指して、鐘の音が鳴る。

 一回、二回、三回……一二回鳴り終わった。


「……はあ、良かった……来ません――」


 館長が安堵の声を上げた瞬間、博物館全体の照明が落とされる。


「照明か!直ぐに――」


 ネハルムが憲兵に指示を出そうとしたが、二人が通って来た通路と正反対の壁にあったステンドグラスが割れ、雨と共に薄らと見える一つの人影が広場に入って来た。

 人影はフックショットを天井に放ち、空中を舞う。


「奴だ!奴を撃て!」


 ネハルムが人影に向けて銃を撃つ。

 それに続いて他の憲兵も人影を狙い、アサルトライフルを発砲する。


「フハハハハハハハ!」


 人影は高笑いしながら銃弾を躱す。

 声からして男性のようだ。

 やがて人影が中央の展示台の上に降り立つ。

 その時雨はまだ降っているが、一部の雲が晴れて月明かりがステンドグラスの割れた場所から光が射し込む。

 月明かりで人影が照らされ、明白になる。

 人影の外見はスチームパンク風のテールコートに黒のズボン、その上に黒いマントを着用して、目元を隠す黒い仮面を着用して髪は黒色だった。

 体つきと声からして男性だ。


「怪盗A……!」


 ネハルムは拳銃を構えて弾を放つ。

 だが、怪盗Aにはその弾は届かなかった。

 届かないというより、何かにぶつかり弾かれたといった表現が正しい。

 怪盗Aはフックショットで展示台のガラスを割り、開かずの箱を手にする。


「予告通りこの開かずの箱は我、怪盗アルセーヌが頂いた!ではさらばだ、諸君!」


 再びフックショットを天井に放ち、上に上がっていく。


「待て!」


 憲兵達が弾を撃つが、またも弾かれる。

 その後も撃ち続けるが全部弾かれてしまい、そのままステンドグラスから姿を消した。

 怪盗Aが逃げたと同時に、博物館の照明が一斉に点いた。


「あぁぁ……開かずの箱が………」


 館長は開かずの箱が盗まれたショックで膝から崩れ落ちる。


(また……取り逃して……)


 一方ネハルムは心の中で落胆する。


「ロバーツ大尉!!」


 そこに通路から走って来るクロエの姿が見えた。


「ッ……直ぐに周辺の捜索に当たれ!絶対に逃がすな!」


 ネハルムはクロエの声で我に返り、憲兵達にそう指示を出した。

 憲兵達は「はっ!」と敬礼して、玄関ホールに向かった。


「ふふ、実に愉快だ」


 スニエル地区にある時計塔の上から、博物館の周りを捜索する憲兵を見ながら、怪盗Aはそう呟いた。


「さて、箱の中身を拝見させて頂こう……解錠(アンロック)


 怪盗Aはポケットから赤い石が付いた金色のリングを開かずの箱に翳してそう言うと、簡単に箱の蓋がぱかっと開いた。

 箱からは冷気が漏れ出す。


「……なるほど、これは面白い……実に愉快だ!」


 怪盗Aは箱を閉じる。


「これで今回の依頼は完了――ん、遅かったではないか、我が協力者よ」


 怪盗Aの背後にどこからとも無く現れる人物。


「約束の品だ、受け取りたまえ」


 開かずの箱をその人物に差し出した。

 その人物は箱を受け取った後、跡形もなく消え去った。


「全く、無口な協力者だ。まぁ良い……それでは諸君!また会おう!フハハハハハハハハ!」


 怪盗Aは誰に向かって言うのでもなく、ただ笑いながら時計塔から飛び降りて去っていった。


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