十二話 ラグナロクの使徒
「……ここが今回の調査場所か?」
ある日の夜、帝国領地北東に位置するへストリア大森林の奥地で、黒いローブに黒い仮面を付けた人物が、仮面のせいでこもった声でそう言った。
「はい、ここを捜索せよとの命令です」
そう答えたのは、これまた黒いローブに黒い仮面を付けた人物だった。
容姿は分からないが、声で女性だと推測出来る。
「どう思いますか?」
そう聞いたのは他の2二と同じ格好をした人物だった。
こちらは声からして男性だ。
「何がだ?」
最初に言葉を発した人物がそう返した。
恐らく、他二人を従えているリーダー的な人物だろうか。
「この遺跡にはあるとお思いですか?」
男性の方が聞き返した。
聞かれた人物は黙っている。
「――様……失礼しました、今は《S》でしたね」
女性が名前を口にしようとするが、慌ててそれを呑み込む。
Sというのは、素性を隠す為に使うコードネームだ。
「恐らくだが、この場所にもあれは無いと思っている」
Sは目の前にある前西暦時代の遺跡を見てそう言った。
老朽化が進んでいるが、遺跡の材質はこの世界の今の技術では作れない様な物で出来ている。
この様な前西暦前からある建物をこの世界の人々は遺跡と呼称しており、大陸全土の色々な場所に点在する。
S達の目的は帝国領地の遺跡を調査し、ある物を見つけ出す事だ。
「この手の遺跡は、とうの昔に帝国に調べあげられている可能性が高い」
遺跡の入口は隠されている訳でも無く、大森林の奥地を探索したら直ぐに見つかる程度には、発見しやすい場所にあった。
「では何故、あの方はこの場所を?」
男性がそう聞いた。
「それでも調べろ、と言う事だろう。何としてでもあれを見つけなければいけないからな」
「数撃てば当たる、ってやつだね」
そう言ったのは、どこからともなく3人の目の前に現れた人物だった。
「やあ、遅くなったね」
その容姿は青髪で中性的な顔立ちの青年だった。
「遅かったな。何かあったのか?」
三人はこの人物を待っていた。
仲間という訳ではないが、利害が一致している為、手を組んでいる協力者だ。
「ごめん、ごめん。今日はお前達に良い物を持ってきたんだ」
そう言って指をパチンと鳴らすと、青年の時の様にもう1人の人影が現れた。
「……」
その現れた人影の容姿が、月の光に照らされ段々と顕になる。
それは歳が十五もいかないくらいの顔立ちの少女だった。
赤と青のオッドアイと長い白色の髪が、月夜に光り輝く。
「初めマシテ、創世の騎士団序列十二位、死神サリル、デス。以後お見知り置きヲ」
何処か不自然な口調でそう言った。
「……これは何の真似だ?」
Sが声を少し乱し、そう言った。
「こいつは俺の代わりさ」
青年がサリルの頭をぽんと撫でる。
「……どういう事ですか?」
女性がそう聞いた。
「今日は他に用があって、直接手伝えないからね。だからこいつをと思って。新しい物だけど、それなりには使えると思うよ」
男性が「ふむ」と言い、口を開いた。
「珍しいですね、貴方が同行しない等とは」
「それだけ大事な用って事さ」
青年はそう言うが、男性は納得していない。
「……どうします、S様?」
男性はSの方を向いて、サリルを連れていくかという意味で聞いた。
「連れていく。戦力にはなるだろう」
Sはサリルの方を向きながら、即答した。
「良かったよ。お前達が気に入ってくれるか不安だったからね」
「じゃあ後は任せるよ。こいつらの紹介はいらないよね?」
青年はSからサリルに視線を移して、そう言った。
「ハイ。指揮官のS。そして従者の《K》…」
サリルは女性の方をKと呼んだ。
「…《B》デスネ」
今度は男性の方をBと呼ぶ。
何れもコードネームだ。
「そうそう、よく覚えていたね」
サリルにはS達の事を自前に伝えていた。
「それじゃあ頑張って見つけてきてよ。楽しみにしておくからさ」
青年は、S達の前から煙のように消えていった。
「行きマショウ。協力者S」
Sは頷き、遺跡の中に入っていく。
三人もSの後をついて行き、遺跡の内部に到着した。
「…他の遺跡と変わりないですね」
Bが遺跡の中を左から右にゆっくりと見回しながらそう言った。
遺跡の内部には、ずらりと大型モニターや、何かの研究をしていたと思えるような電子機械が並んでいた。
「先に進みマショウ」
中央奥にある扉にサリルが歩いて行き、S達もそれに続く。
S達がドアに近付くと、それはひとりでに開いた。
扉の先は細い通路になっており、先に進んでいく。
「部屋が多いですね。探すのに苦労しそうです」
Kが通路に幾つもある同じようなドアを眺める。
「ここらは既に調べ尽くされている。立ち入る必要は無い」
S達は通路を更に進んでいく。
やがて、通路の突き当たりの自動ドアに到着し、中に入る。
そこは通路前の場所と同じような場所だった。
「また同じような場所デス」
最初の場所と同じ機械、同じモニターが並んでいたが、一つ違う所があった。
この場所も中央奥に同じドアがあったが、一つ目の場所にあったドアよりも一回り大きなドアがあった。
「あの先、何かありそうですね。行ってみましょう」
Bが真ん中を歩いて、ドアに向かっていく。
「待て。下がれ、B」
ドアの前にいきなり、高さ4m程の傀儡が現れる。
Bは咄嗟に後方に飛び退いた。
「……ステルスモードか」
Sはそう言い、魔法アイテムボックスを使い一本の剣を引き抜く。
それに続き、Kが懐から短剣を取り出し、逆手持ちで構える。
同時にBが目を凝らして、やっとの事で見える程の細い鉄糸を取り出す。
サリルは自分の身長程の大きさがある大鎌を構える。
『侵入者感知、侵入者感知、排除モードに移行します』
傀儡から機械音声が発せられ、手のひらを向けられる
傀儡の手のひらが光り、太さ一メートルはある赤紫色のレーザーが発射される。
四人は左右に二人ずつに分かれて、それを避けた。
レーザーが放たれた場所は熱で溶けていた。
「B、あいつの動き封じろ」
Bは頷いて鉄糸を延ばし、拘束しようとする。
しかし、傀儡はそれを避ける。
「大きさの割には素早いですね……」
傀儡がBを狙い、レーザーを放とうとする。
「ライトニングバースト!」
Sが雷属性の上位魔法、ライトニングバーストを傀儡に放つ。
光り鳴り響く雷撃が襲いかかり、傀儡は動きを止める。
「B!」
Bは再び無数の鉄糸を延ばし、傀儡の全身に巻き付ける。
拘束は成功したと思えたが、傀儡は鉄糸をレーザーで焼き払い失敗に終わる。
「厄介だな……あの腕を切り落とす。死神、奴の動きを止められるか?」
Sはサリルにそう言った。
「ハイ、簡単デス。お任せくだサイ」
サリルは傀儡に突っ込んでいく。
「真正面から!?」
Kは驚いた声をあげる。
「K、奴が隙を作ったら前へ出ろ。Bはあれの準備をしろ」
Kを横目にSが、そう言い放つ。
2人は一瞬戸惑ったが、頷いてそれぞれ準備を始める。
その間にサリルが傀儡の前まで行き、傀儡の頭部の位置まで飛び上がる。
傀儡は当然それを排除しようと、サリルに向かってレーザーを放つ。
その時、S達はサリルにレーザーが当たったと思った。
「遅いデス、ファントムムーブ……」
だが、サリルは瞬間移動したかの様に、一瞬で傀儡の背後で大鎌を構えていた。
「倒れるが良いデス」
サリルは傀儡の背中に縦、横の大鎌の2連撃を与える。
傀儡はその衝撃で前に倒れ込んでいく。
「今だ、二人共!」
Kは傀儡に向かって走っていく。
Bは糸を傀儡付近に張り巡らし、その無数の糸を傀儡に向かって手繰り寄せた。
「絲操術、集結!」
手繰り寄せられた糸は、傀儡の骨格部分の外装を破壊し、導線を顕にさせた。
Kはレーザーが出る右手の肩に飛び乗り、導線に短剣を突き刺して腕を一気に切り落とした。
「…」
それを確認したSは飛び上がって、倒れ込んだ傀儡の後頭部に着地し、うなじ部分の導線を見る。
「大きさは段違いだが、他の傀儡と作りが変わらないのならば…!」
Sは導線を剣の横払いで斬った。
核がある頭部との接続を失った傀儡は、機能を停止する。
「やはり、所詮は傀儡。大したことは無い」
剣をしまうSを見た他の3人も、武装を解く。
「先へ進むぞ」
Sは傀儡が護っていて、まだ探られていないと思った奥の部屋に急ぐ。
四人がドアに近付くと自動で開き、ドアの先には中央に液体で満たされていたガラスカプセルがある部屋があった。
「これは……」
ガラスカプセルに近付くにつれ、中に入っている物が明白になる。
それは鋒から柄の部分まで黒い、一本の剣だった。
ガラスカプセルの近くにキーボードとモニターが付いた端末があり、それをSが操作する。
「識別番号Wー0758、正式名称、フラガラッハ……それがこの名前か……」
モニターには剣の名前と識別番号が表示された。
「ここでこの剣を作っていた、と言う訳か」
Sは剣を眺めてそう言った。
「回収しますか?」
Kがそう聞くとSが頷く。
剣を手に入れようと、再び端末を操作する。
『ロックを解除出来ません。ロックを解除するにはAランク以上の職員の認証コードが必要です』
端末から機械音声が流れた。
「……セキュリティが頑丈だな……仕方ない、破壊する」
Sはガラスカプセルの前に立ち、剣を取り出して、破壊しようと攻撃する。
しかし、ガラスカプセルに攻撃が弾かれる。
「……魔力防壁……余程人の手に触れられたくないらしい……」
剣をしまって考え込むSを横目に、サリルが大鎌を出す。
「私が破壊しまショウ。この武器は防壁を突破できる、そう彼が仰っていまシタ」
Sはサリルを見た後に、少し言葉を詰まらせる。
「………分かった、やってみるが良い」
はガラスカプセルから離れる。
代わりにサリルが大鎌を構えて、ガラスカプセルに向けて大振りする。
大鎌はガラスを突き破り、中の液体と共にフラガラッハが地面に零れ落ちる。
「成功デス」
事を終えたサリルを確認したSはフラガラッハを拾う。
Sが剣を眺めるが、色が真っ黒という以外特に変わった所は無い。
「特に変わった所は無い様ですね…あんなに頑丈に守られていたのに…」
Kが剣を舐めるように見て、そう言った。
「外見はな。だが、能力は使ってみないと分からない。それが人工遺物だ」
アイテムボックスにフラガラッハをしまい、振り向いて歩いていく。
「撤収するぞ。この遺跡にもう用は無い」
3人もSに続き、歩いていく。
S達は何事も無く、遺跡の外に出た。
「遅かったね。防衛システムにでも引っかかったかい?」
遺跡の外でS達を待ち構えていたのは、青髪の青年だった。
「別用とやらはもう済んだのか?」
Sがそう聞いた。
「あーあれね、あれ実は嘘。そいつの実力を試す為に、俺は手を出さなかったって訳」
青年は半笑いでそう答える
「お前はいつも手を出していないが?」
Sがそう返す。
「そうやって揚げ足取るのやめてくれない? 性格悪いよお前」
Sは青年の無視して、通り過ぎようとする。
「待ってよ。今日の戦利品、見せて貰えるかな?」
「……」
Sは無言で立ち止まり、フラガラッハを取り出す。
「これが戦利品?なんか地味だね。何か特別な力とかあるの?」
青年はフラガラッハを見ながら、聞いた。
「まだ使用していない。分かり次第報告する」
Sの返答に「ふーん」と言って口を開く。
「じゃあさ……十二番、鎌貸して」
青年が近くにいたサリルにそう言った。
「分かりマシタ、どうぞ」
サリルは大鎌を取り出し、すんなりと青年に差し出す。
青年は大鎌を左手で握る。
「……何のつもりだ」
青年はふっ、と鼻で笑う。
「どういうつもりだって? そりゃもちろん…」
青年がSに向けて大鎌を振る。
「こういう事さ!」
「……っ!」
Sがフラガラッハで攻撃を受け止める。
「防御面は変化無し、と……」
青年はSから距離をとる。
「S様!」
Kが短剣を抜こうとする。
「じっとしててよ」
「……!」
青年がそう言うと、Kは1歩も動けなくなった。
「大丈夫、心配しないで。その剣の力を見たら終わりにするからさ」
「さぁ、次はお前の番だよ。その剣の力を見たいから、全力で攻撃してね。俺はこれ以上攻撃しないからさ」
青年はそう言うと、大鎌を持ちながら肩に乗せる。
「……」
Sは青年の元まで走って行き、フラガラッハを振る。
青年はその攻撃に合わせ、大鎌で防御しようとする。
「そうそう、それで……なっ!?」
「……!?」
フラガラッハの攻撃は大鎌をすり抜け、青年の体を切り裂く。
「アハハ……アハハハハハハ!まさかそんな能力があるなんて!」
青年は血が出ているのにも関わらず、大鎌を放り投げて高笑いをする。
「いいね! 最高だよ、その剣!」
青年の傷口は徐々に治っていく。
「いいもの見せてもらったお礼だ、その剣はお前にあげるよ!その代わりこれからも頑張って、アレを見つけ出してね。」
「帰るよ十二番。じゃあね、S君とその奴隷達」
青年は森の方に歩いて行き、消えていった。
「それでは、新生…いえ、今は”まだ”ラグナロクの使徒、とお呼びした方がいいデスね。また機会があれば、よろしくお願いシマス」
サリルはそう言い残し、大鎌を拾い上げてから青年と同じように消えていった。
「S様! 何処もお怪我は…」
Kがそう言いながら、Sの元に駆け寄ってくる。
「大丈夫だ、それより我々も帰還する」
フラガラッハを仕舞い、森の中を歩いていく。
「私達も行きましょう」
Bの言葉にKが頷き、二人は先に行っているSの後を追う。




