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探偵の異世界生活  作者: わふ
第三部 帝王戦役編
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百二十三話 リブリーラ城攻略戦 六

 

「そんな話はどうでもいいんだよ。君達は彼を助けに来たんでしょ? だったら――」


 ウィルバートの言葉を断ち切ったアシェルは、一本の剣を取り出す。


「やる事は一つだ。掛かって来なよ」


 戦わずしてレジーの解放は不可能と言う事か。


「僕はエリカとラルフの相手をするから、他は任せても良いよね、帝国軍の大将さん?」

「無論だ。引き受けよう」


 オーウェンは地に刺していた大剣を引き抜く。

 そんな彼の行動に背中を押される様に、俺達も戦闘態勢に入る。


「んじゃ、行こうか二人共」


 アシェルの言葉と共に、俺とラルフの足元に魔法陣が浮かび上がる。そして、彼の足元にも。

 それは、あの時屋上で見た同じ魔法陣だった。


「……転移魔法か」

「悪いけど、ここじゃあ分が悪いから場所を変えさせてもらうよ。拒否したら、分かってるよね……?」


 アシェルはにっこりと笑いながら、レジーの喉元に剣を突き付ける。

 大人しく従う他無いか……。

 次第に魔法陣が強く光出し、アシェルが人質であるレジーを、雑にオーウェンへと投げ渡したと同時に、俺達は別の場所へと転移されられた。

 行先は――リブリーラ城の玄関ホール。


「うん。ここなら充分な広さがあるし、問題無いよね。じゃあ、始めようか……!」


 アシェルがパチンと指を鳴らすと、瞬く間に再び魔法陣が現れた。


「おいで――デウス・エクス・マキナ!」


 そう言い放つと、魔法陣からある物がゆっくりと顕現する。

 それは、女体を象った鉄の塊だった。

 白銀に光る鉄の体。手の代わりに両腕から生えた鋭い刃。

 言わばこれは――。


「――傀儡(かいらい)


 俺の代わりにラルフがそれを声にした。

 そう、だ。

 傀儡とは、各地の遺跡で見つかっている人工遺物(アーティファクト)に部類される物。

 人伝や授業で見聞きはしていたが、実物を見るのは初めてだ。


「結構、新しい物のようだ。今まで見てきた人工遺物(アーティファクト)よりも年季が入っていない」


 ラルフはそれを観察しながらそう言った。

 どうやらこいつは数え切れない程の人工遺物(アーティファクト)を見てきているようだ。


「――ラルフ・ハワード。やり合う前に一つ聞かせなよ」


 アシェルは剣を取り出しながら、静かな視線をラルフに向ける。


「何、ちょっとした確認さ。君がそこに居るって事は、僕達を裏切った――敵って事で良いんだよね?」

「いや、違うな。元からお前達の仲間になった覚えは無い」

「はは、そうだったね。じゃあ手加減は要らないか――デウス・エクス・マキナ!」


 アシェルの言葉と共に、機械仕掛けの体がギギギ……と音を立てながらゆっくりと動き出す。


「俺はあの傀儡の相手をする。エリカ、お前はアシェルの相手をしろ」

「……分かった。そっちは任せる……!」


 俺は刀を引き抜き、アシェルを標的に定める。


「僕の相手は君なんだね、エリカ。まぁ僕は戦闘が得意な方では無いから、手加減してくれると嬉しいかな」

「――手加減、すると思う?」


 タンッ、と踏み出しアシェルへと駆ける。


「おっと――」


 そして戦闘の火蓋を切るように振り下ろされる俺の刀を、アシェルは軽々と躱した。


「へぇ……? 中々速いじゃん。()()()()()()()()()()事と何か関係があるのかな?」


 アシェルは余裕そうにニヤリと笑い、手招きをして挑発してくる。

 ……その挑発、乗ってやろう。


「夏初月っ!」


 素早い斬撃。しかし放った先で、彼の剣がそれを受け止めていた。


「速い……!」


 刀を引いて構えを変える。

 素早い雀の構えは先制攻撃向き。だが失敗した今はそれは適切では無い。変えるべき構えは、火力に特化した虎の構え。


「秋水!」


 頭部を狙った刀を下から上へと振り上げる。


「甘いね」


 アシェルは顔を後ろに逸らして躱す。

 それは想定済みだ。天井を向いていた刃を床に向け直して追撃に移る。


「『秋風(しゅうふう)』!」


 虎の構えの剣技、秋風。秋水から最速で移行出来る技だ。

 両手で力を込めて、上から下に振り下ろす剣技だ。シンプル故に使い勝手が良い。


「はっ……!」


 しかしこれも剣で弾き返される。それも余裕そうに微笑む顔を一ミリも崩さずに。


「もっと打ってきなよ。そんな物なの、君の実力ってやつは」


 再び安い挑発を吐くアシェル。本当は乗りたくは無いが、自分の実力を省みれば、そうも言ってられない。

 待つだけでは駄目だ。攻撃して相手の隙を作らなければ。

 俺は刀を振り続けた。何度も何度も――。

 しかし攻撃は当たる事は当然、隙を作る事すら出来ない。ただひたすらに、刀を振り続ける俺の体力だけが減っていったり


「……強い……」


 このまま攻撃をしていても無駄だと思い、攻撃の手を止めて距離を取る。

 その際に横目でラルフを見ると、傀儡との激しい戦闘を繰り広げていた。

 彼もまた苦戦を強いられているようだ。


「あれ? もう疲れちゃったの?」


 息が上がり始めていた俺を嘲笑いながらアシェルは言う。

 一方アシェルは、幾度の攻撃を対処したのにも関わらず、少しも息を荒らげていない。


『あの男、相当な手慣れね。闇雲に攻撃しているだけじゃ勝てないわ』


 この状況を見兼ねたヴァレが語り掛けてくる。

 ああ、奴が息を荒らげていないのは、回避や防御に無駄な動きが無いからだろう。

 戦闘が苦手とか言っていたが、普通に強いじゃないかこいつ……。


『それにしても、自分からは一度も攻撃してこないわね、あいつ』


 恐らく体力を温存しているんだろう。こちらの体力を一方的に削らせ、バテたところを一気に叩く算段だと思う。


『なるほどね。じゃあその前に勝負を決めなきゃいけないわ。久遠、ここは魔法を織り交ぜて攻めるべきよ』


 ああ、言われなくてもそうするつもりだ。

 再び距離を詰め、攻撃を仕掛ける。


「ふ、ワンパターンだね」


 当然アシェルはそれを躱した。

 だがこれで良い。俺の目的はこいつに近付く事にあった。


「――闇よ、彼の者(かのもの)の光を奪え『ブラインド』!」


 闇属性の中位魔法ブラインドを唱え、アシェルにその魔法を掛ける。


「う……なるほど、考えたね……」


 ブラインドはその名の通り相手の視界を奪う魔法。掛かった相手は少しの間、視界が闇に閉ざされ何も見えない状態になる。

 俺の姿が見えないのなら攻撃を当てるチャンスはある筈だ。

 でもただの攻撃では駄目だ。

 連撃――素早い連撃で無ければ駄目だ。まだ完全には習得してないが、あれをやるしかない。


「雀の構え――驟雨っ!」


 カミラのような速さ、正確さは無い。しかし、今の俺に出来る最大連撃の剣技はこれだ。

 一発だ。一発でもかすりさえすれば好機は見える――。

 ――だが、無駄だった。


「……でも、やっぱりまだまだだね」

「はぁ……はぁ……な……んで……」


 全て、いなされていた。剣で受け止められていたのだ、全ての連撃を。一撃残らず。

 確かにまだ拙い技だが、それなりの速さはあったと思う。

 それを暗闇の中で全て受け止めたの言うのか……信じられない。


『いえ、貴方の今の攻撃は中途半端な物じゃ無かった。さっき言っていたように彼女には届かなくとも、視界を奪われた相手を仕留めるには充分な熟練度だったわ』


 じゃあ、やはりこいつが化け物並の手慣れって事か。


『そう考えるのが正しい……と思うけど……私にはあいつがそこまでとは思えないの』


 どう言う事だ?


『雰囲気よ。確かにこいつは強いけど、ただそれだけなのよ……えーと、何て言えば良いのかしら……そう、あの

 浮遊城で戦った双槍(そうそう)の奴が放ってた圧倒的強者感ってのが無いのよ』


 圧倒的的強者感……何だその抽象的なのは。


『仕方ないじゃない。それ以外の言葉が見つからないのよ。と言うか、貴方は私の考えてる事が分かるんだから、理解出来るでしょう?』


 まぁ何となくだが理解は出来る。言うに、視界が閉ざされた中で、あれ程の連撃を完璧に受け止めれるとは思えないって事だろ?


『そう、そう言う事よ』


 ……それには同意だ。

 こんな威厳の欠片も無く、言動がふざけた奴が本当にそこまで強いのか。疑問はあった。


「いや、良い線行ってたよ。暗闇からの連撃。普通だったら対応は難しいんじゃないかな」


 暗闇から復帰したであろうアシェルは、再び嘲笑いながらそう言った。

 とにかくこの手はもう使えないだろう。次はどう攻めるか……。


『さっきの話は置いといて、今までの攻撃は全て見切られているわね、完全に。まるでそこに攻撃が来るのが分かっているかのように、剣を置いたり躱したりしてね』


 ――今、何か引っ掛かった気がする。

 …………まさか。


『有り得るわね。最初の二連続の攻撃、今思えば有り得ないくらいに()()()していたわ。貴方の刀が振り上がる前にもう躱す動作をしていたように見える』


 俺の考えを読んだヴァレが同意した。

 そうだとすれば、ヴァレが気付いた感覚に説明がつく。

 だがまだ憶測の域を出ない。これを正しいと言う事を裏付けなければ。

 問題はどうやってそれをするかだが。


『私に考えがあるわ』


 ――俺はヴァレの作戦に乗った。


「……創世の騎士団、こんなに強い連中が他にも居るんだ……」

「僕はその中でも弱い方だよ? こんなもので根を上げてちゃ、この先戦えないよ? この道を行くなら他の団員達が立ち塞がるだろうし。それとももう降伏する? 僕は別にそれでも良いけど、何だか拍子抜けだなぁ」

「……すると思う?」

「する訳無いか。だよねー」


 俺は魔法を詠唱する。


「雷よ、雷槍となり敵を穿て――」

「へぇ、次は魔法で攻める気か。良いね、そう来なくちゃ」


 もう一つだ。


「水よ、我に集いて敵を撃ち流せ――」

「お、ダブル詠唱! ふーん、そこまで出来るんだ」


 アシェルはそれを対処する為に、こちらに視線を集中する。

 ――よし、今だヴァレ。


『行くわ。しっかり目に焼き付けるのよ』


 そして魔法は放たれた。


「サンダーランス!」


 雷属性の中位魔法、サンダーランスを放つ。雷を槍の形にして攻撃する魔法だ。

 しかしそれは正面からでは無く――アシェルの背後からだ。

 魔法は通常、術者が立つ方向からでしか発動出来ない。

 これはヴァレの力を借りて出来た発動方法、彼女曰く転移発動と言うらしい。


「転移発動か! まさかそんなのまで出来るとは驚いたよ。でも残念だね、それも想定内だ」


 アシェルは()()それを剣を背後に回して弾いた。それも、何の焦りも無く、背後も見ずに。

 これでやっと合点がいった。


「……いや、残念なんかじゃない」

「ん?」


 不思議そうな表示をするアシェルにニヤリと笑って言い放つ。


「そのままそっくり返す。想定内だよ」


 これはヴァレが提案した作戦。

 まずアシェルの注意を引き、通常では他方向の攻撃を反応出来ない状態に持ち込む。実際は魔法を一つしか発動する気しか無いのに、二つ同時に発動すると見せ掛けたのもそれの一環だ。

 そしてヴァレの力を借りて、背後から転移発動で魔法を放つ。防がれる想定でだ。

 何故そんな事をしたのか。それは一つ確かめたい事があったからだ。

 そしてこれで確認が持てた。


「……どうやら、何かを探っていたようだね」


 アシェルはこちらの考えを読んだように言った。


「アシェル……貴方は今、完全にこちら側に意識が向いていた」

「うん、そうだね」

「言い方はちょっと悪いけど、戦って分かった。貴方は今の攻撃、絶対に反応は出来ないだろうって。そこまでの手馴れじゃ無いだろうって」

「悪いも何もその通りだ。続けて?」

「でも反応出来た。それはそう攻撃する事を分かっていたから。最初から。あの事前に。予測不可能な攻撃を」


 これはこいつの能力を暴く作戦だった。


「アシェル。貴方は『未来が視える』んじゃないの?」


 ――少しの沈黙の後、アシェルは大笑いして答えた。


「あははっ! 流石だ、エリカ。こんな短時間でそれを暴くなんてね!」


 ……やはりこいつには視えているんだ、未来が。


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