百二十二話 リブリーラ城攻略戦 五
「――ふふ、待っていたよ」
三階、大広間には辿り着くと、あの時の中性的な声が聞こえてきた。
「色々あった様だけど、無事に辿り着けてなによりだ」
不敵な笑みを見せるその人物は、声に反しない中性的な容姿で、神父服を着ている事から性別が分かる青年だ。
そして、その隣には拘束されたレジー・シンクレアが居た。
「……! シンクレア公……! ――貴方がこの城に結界を張った人物なの?」
「へえ……そこまでお見通しなんだ、やるね。母親譲りの知識なのか、それとも――君の中のそれが導き出した答えなのかな?」
こいつ……ヴァレの存在を……!
「……エリカさんの中……?」
カミラが追い討ちの様に、それについて言及してくる。
その通りだ。昨日カミラに説明した事は、敵に捕まり、間一髪の所で皇城から脱出したと言うものだ。肝心なヴァレの存在には触れていない。
「――いいえ。それよりも、貴方は一体何者なんですか?」
その話は後だと言う様に、彼女は首を横に振る。
「あれ? まだ聞かされて無かったんだ――なーんて。全部視ていたから知ってるんだけどね。それじゃあ都合も悪いし、そろそろ教えてあげたら?」
そう言って、彼はラルフへと首を向ける。
「……あいつは、アシェル・クルム。俺と同じ組織に居た人物だ」
「ふーん……同じ組織、ね……そこもまだ話してないんだ。まあいいや、それも時間の問題だしね」
アシェルは小さく笑う。
「でもそれってさ、どっちの組織を指してるんだろうねー?」
「どっちの組織……ラルフが元から居た組織か、スパイとして潜入していた組織か……だよね?」
「ああ……答えは無論、元から居た組織の方だ。お前が今まで、そっち側に居るなんて知りもしなかったからな。スパイが聞いて呆れるが」
つまり、アシェルはラルフ達の組織を裏切って、寝返った訳だ。
「そっち側か……それもまだ話してないんだ。じゃあ、改まった自己紹介が必要だね――創世の騎士団 序列十位。指揮者 アシェル・クルム。よろしくね?」
「創世の騎士団……?」
聞いた事が無い名前だ。
「んー、まあ簡単に言えば、秘密組織だね。この世界の裏に暗躍する組織の名前。詳しい事は省くけど、君なら他の構成員にあった事があるんじゃないかな? ほら、半年前――いや、三ヶ月前か」
半年前……それに三ヶ月前……そうか、あいつか。
「あの鎌を持った少女の事……?」
「そうそう! 十二番のサリル。創世の騎士団が十二位、死神サリルだ」
「やっぱり……彼女だけ統一性が無かったし、あの怪盗Aとの意味深な会話……つまり貴方達、創世の騎士団はラグナロクの使徒――アリッサ達に協力している、そう言う事?」
「うん、そうだよ。理由は明かせないけどね。そんな分かりきっている事より、他に聞きたい事があるんじゃない? 例えば……」
アシェルはそう言いながら、ゆっくりとラルフへと視線を向ける。
「彼の組織内での立場とかさ。まだ言ってなかったよね? 彼は十一位、炎剣 ラルフ・ハワード――とは言っても、彼は末端の人間だ、何も知らないだろう。組織の目的も、が創世の騎士団の構成員だった事も。何せ、僕がラルフが敵だと情報を流していたからね。要するに、スパイだと分かった上で泳がせていた訳だ」
そうなると、ラルフから情報を引き出すのは難しいか……。
『だったら、目の前のそいつを捕まえて、それを聞き出すまでね』
俺達のやる事は変わらない。この場に居るこいつ等を倒して、レジー・シンクレアを解放する。
「――その話は置いといて、だ。さっきから気になっていたんだが、アシェルとか言う奴の隣に居る人物は誰だ?」
アルベールの一言で、俺達の視線はもう一人の人物に集まる。
実は、この場には俺達やアシェル、レジーだけでは無かった。もう一人居たのだ。最初からずっと。
静かにアシェルの隣に佇み、目を瞑っている人物。 屈強で、年季の入った大剣を携え、まるで歴戦の戦士の様な風貌の老けた男。
「――話は済んだか」
頃合を見計らった様に、そのタイミングで男は目を開ける。
「うん、ごめんね待たせちゃって」
「構わん。どんな思惑があろうとも、私は敵対する者を排除するのみだ」
男に敵意の眼差しを向けられる。
「……帝国第三陸軍大将、オーウェン・オースティン」
ウィルバートが小さく呟いた。その男を見て。
「大佐の息子か。久しいな」
男は名前を呼ばれたかの様に受け答えする。
「何……? まさか、この人が……」
「ああ。正真正銘、その方だ。そして、このクーデターを指揮した、それだ……」




