百十四話 救出作戦
俺とカミラの話が終わったのを見計らって、アルベールが口を開いた。
「さて、これからどう動くかだが……先ずは街で集めた情報を出し合ってみよう」
アルベールの提案で、それぞれ街で聞いた情報を話した。
「成程……集めた情報はどちらもほぼ一緒か」
めぼしい情報は二つ。
一つは馬車の馭者も言っていた、反乱軍を殺害していると言う謎の人物。
もう一つは、ウィルバートの件。
「反乱軍の殺害の件は一旦置いてきましょう。そちらの方は考えても仕方ないと思います」
カミラの言う通り、その件は気に止めるくらいで良いと思う。
それについて、今俺達が出来る事は無い。
「考えるべきは第三陸軍大佐の息子……ウィルバート・フォーミュラの件、カミラさんはそう言いたいんですか?」
「そうではありません。ウィルバート君の件にも同じ事が言えます。恐らく彼が捕まっているのは、この街で最も警備が固い場所……領主であるシンクレア家が住まうリブリーラ城。助けに行くとして、この戦力じゃどうにもなりません。アルベール君も同意見ですよね?」
「ええ、それは確かに――でも、エリカはどうでしょうか」
二人の視線が俺に集まる。
「お前、今にも助けに行きたいって顔しているぞ?」
そんな顔してる覚えなんて無いんだが。
『あら、助けに行きたいのは本当でしょ?』
まあ、そうだな……。
「うん、助けに行きたい。危険なのは分かってるけど、その覚悟の上で」
彼はシフィーの友人だ。ここで助けに行かなかったら、あいつに会わせる顔が無い。
それに、反乱軍に好き勝手されるのはいい加減嫌だ。
「カミラさん、貴方の意見は筋が通ってます。しかし、俺はエリカと同じで助けたいと思ってしまっています。危険だと分かっているのに」
俺とアルベールは、カミラに答えを問う。
後は彼女が頷いてくれたら、ウィルバートを助けに行ける。
「……全く、若い子は怖い物無しですね。良いでしょう、彼を助けましょう」
「カミラ教官……!」
「私も教え子の危機をみすみす見過ごせる程、出来た人間ではありませんからね」
そうだ。カミラにとっても、ウィルバートは大事な教え子。
ああは言っていたが、彼女がそれを我慢出来る筈が無かったんだ。
「ただし、私の指示に従って貰います。何せ、向かう場所は敵地ですからね」
「もちろんです。この中ではカミラさんが一番その役に適していると思います」
「ありがとうございます。では早速、作戦を立てましょう」
こうして話は纏まった――かに思えた。
『その作戦、俺にもお聞かせ願おうか』
空いた窓から声が聞こえた。つい最近聞いた声が。
「はっ――!」
声の主が窓から部屋の中に入ってくる。
「お前は、さっきの……!」
その人物は、街中で俺を襲ったあのフードの男だった。
「何!? こいつがエリカ達が言っていた奴か?」
「先の今で、性懲りも無く何をしに来たんですか?」
「屋根の上で大体の事情は把握した。その奪還作戦、俺にも協力させてくれ」
警戒するアルベールと刀に手を掛けるカミラを気にも止めずに、男は突拍子の無い事を言う。
「何だと?」
「巫山戯るのも大概にしてください。なぜ貴方が? 私達がそれを静かに頷くとでも?」
二人は真っ当な意見をぶつける。
『訳が分からないわね。あいつは敵なんでしょ?』
ああ、敵の筈だ。校舎の屋上で俺達を襲い、宮殿のあの場所にも居た。
でも……。
『でも?』
今のこいつからは敵意が感じられない。
『……確かに。武器を取り出す素振りすら無いわね』
恐らく彼はかなり強い。殺気立ったカミラを前にして、棒立ちって言うのは有り得ないと思う。
もしかして、あの時言っていた事は本心なんじゃないかと、今はそう思ってる。
『あの時? 手を組めってやつ?』
そうだ。ヴァレはどう思う?
『さあ? 私には分からないわ。貴方が信用出来るって言うなら、話くらいは聞いても良いんじゃないかしら?』
そうだな。俺もそれに賛成だ。
「……聞かせて。手を組めって言う言葉の真意について。それは、貴方達反乱軍に協力しろって事なの?」
「いいや、違う。お前に協力すると言う意味だ」
「ほざかないでください。あの時、エリカさんに剣を向けていたのは、脅して貴方達の計画に無理矢理、協力させる腹積もりで居た証拠では?」
「それも誤解だ。お前達も知っての通り、俺は彼女からは敵だと認識されていた。だからあれは、ああしなくては話も出来ないと思っての事だ。まあ結果的にこうして悪手になったが。ついでに言っておくが、断られた時点で剣を引く気だった。こうなった以上信じて貰えないと思う……だから」
男は得物である二本の剣を、投げてこちらに寄越した。
「敵意は無いと言う事だけ示しておく」
武器を手放して……話の筋もちゃんと通っている……。
あの時俺が反撃したのは咄嗟の事だった。あれが無ければ、本当に手を引いていたんじゃないか?
彼は本当にただ、協力したいだけなのかもしれない。
「分かった。信じるよ、貴方の言葉」
「エリカさん!」
「俺も信じて良いかと」
「アルベール君まで!」
「大丈夫です、カミラ教官。彼に敵意はありません」
認めないと言いたげなカミラに目で訴え掛ける。
「それは……そうですが……」
カミラの言いたい事は分かる。
彼の行動原理が理解出来なくて、信じたいのに信じ切れないんだ。そこは俺も気掛かりだ。
「私達に協力するって事は、貴方は反乱軍を裏切るって事なの? どうして? そして、貴方は何者なの?」
気になる事を一気に問う。
「裏切るか。そう捉えて貰って良い。理由は、悪いがまだ明かす事は出来ない」
「それは虫が良すぎませんか?」
「だから悪いと言っただろう。口止めされているんだ」
「誰にですか?」
「それも悪いが口に出せない。ただ、その人物はお前達が言う正規軍に属している人だ。もちろん、それだけで信用しろとも言わない」
……ふむ。やっぱりでまかせを言っている様には思えない。
『こうなると賭けね。信じるか否かの』
まだ明かせない、その言葉に賭けても良いと思う。何れ話す気があると言う意味で捉えて。
「……分かりました。もう良いです。最後にそのフードを取ってください」
「ああ、そのつもりだ」
カミラに言われ、男はローブのフードを取って姿を明かす。
フードが擦れ、揺れる赤色の髪。
顔にはやはり、その半分を占めるくらい大きな火傷の跡があった。
容姿と声から考えて若い男。
「――ラルフ・ハワードだ。悪いが例の如く、詳しい素性は明かせない」
男はそう名乗った。
「……確かに、エリカさんの言う通り、敵意は無さそうですね」
カミラは何とか納得してくれた様だ。
「信用……は出来ませんが、取り敢えずは協力と言う形で」
「それで良い。そんな事より、救出作戦についてだ。何か案はあるのか?」
ラルフが俺達に訊くが、誰も口を開かない。
当たり前だ。それを今から話し合うつもりでいたから。
「そうか。ならこう言うのはどうだ?」
……ラルフはそれを提案した。




