百十二話 背後
『――収穫無しね……』
街を暫く歩き回ったが、特にこれと言った情報は得られなかった。
やはり、情報が集まる場所に行くのが得策だろうか。
『例えば?』
そうだな……酒場とかどうだ? 人が集まりそうだ。
『良いわね、確か街の東出口辺りにそれらしき建物があったわね』
じゃあそこに行ってみるか。
『ええ……それはさておき、私達、誰かに尾行されているわよ』
……ああ、何となくだが、気付いている。
先程から何者かが、こそこそ物陰や人影に隠れてついてきている気配がある。
『どうするの?』
直ぐに何かしてこないと言う事は、反乱軍である可能性は低いだろう。もう少し泳がしておこう。
『そうね、ここで問い詰めてもとぼけられるだけだろうし。決定的な場面を押さえた方が良いわね』
俺達はその酒場へと向かった。
「いらっしゃい!」
酒場に入ると、扉の開閉音とベルと共に店主の陽気な声が響く。
扉を閉めて、一番奥のカウンター席へと歩く。
「いらっしゃい!」
と、また店主の声がする。今回は俺達に言った訳では無い。声と共に先程と同様、開閉音とベルが聴こえた。
『店内まで入ってきたわね』
後ろを振り向かずに顔を伏せて、淡々とカウンター席に着く。
『……来るわ』
そんなに騒がしくない店内に、足音が鳴る。こちらに向かってくる。
「――珍しいですなぁ、あんさんみたいな若い子がこんな所に来るなんて」
ゆったりとした口調の落ち着いた女性の声が飛んでくる。
顔を上げて、その姿を見る。
「可愛い顔してはるやないの」
その女性は髪型は薄ピンク色のロング髪を姫カット。服装は桜柄の着物に紺色の袴、ブラウン色のロングブーツ。まるで明治時代の洋風寄りの和服の格好だった。
和服……もしかして……。
「ここはあんさんみたいな若い子が来る所ちゃいますで?」
ニコニコと笑顔を張り付かせながら言ってくる。
「貴方もあまり変わらないと思う思いますが?」
「あらま、煽て上手やね」
そう言って、俺の隣の席に座る。
「座っていいって言っていませんが」
「まぁまぁ、そんな警戒せんでも怪しいものじゃ無いですえ?」
警戒するなと言われても、その話し方に和服。明らかにこの国では異国人。それも東方の。
「うちはオウカ・シノノメ。よろしゅうな」
名前まで……。
『確かこういうのって、貴方の居た元の世界では、和風って言うのよね?』
ああ、この世界でもな。流石に話し方の方は、変わった言葉遣いとか呼ばれたりするけどな。
「あんさんの名前は?」
「……答える義理は無いです」
「ふふ、そんな警戒せんでもええのに」
だから無理だろ……後をつけてきた奴を警戒せずにはいられない。
しかしこの人物……。
「あのもしかして、メルディアシエの方ですか?」
「よう知っとるなぁ、その通りや」
やはりか……聞く話によると、メルディアシエは和国らしい。それともっと東の国、ハーデア教国も、そう言う和の文化が浸透しているらしい。
「それで、あんさんは何でここに?」
適当に誤魔化そう。
「いえ、特には。旅の途中でこの街に寄って、この酒場に寄っただけです」
「ふーん……内戦真っ只中の帝国で……ま、根掘り葉掘り聞かれたくなさそうやし、詳しくは聞かんといてあげますえ」
「何の事ですかね?」
必死にとぼけるが、絶対に勘付かれているだろう……。
「――何にせよ、この街に長居するなら、気を付けた方がええで? 最近物騒な話ばかり。反乱軍を殺し回っとるって言う殺人鬼はんの話、それに――第三陸軍の関係者が反逆罪で捕まったちゅう話もあるしな」
……反逆罪で……捕まった?
「その話……どう言う事ですか?」
反射的に訊いていた。思い当たる節があり、何か嫌な予感がした。
「何や第三陸軍の大佐はんの息子が軍の意向に背いて、拘束されたらしいで? 良く分かりまへんが」
大佐の息子……ウィルバートの事だ……!
まさか彼が……いや、充分有り得る。
ウィルバートはユリウスを慕っていた。それだけで反乱軍の意向に背く理由になる。
兎に角、一刻も早くアルベールに伝えて、何とかしなくては。
俺は無言で席を立ち、店を出ようとする。
「あら、もう行ってしまいますの?」
後ろからあの女性、オウカが訊いてきた。
「ええ」
「そうですか……では最後に一つ……言われるまでもないと思いますが、ほんまに気を付けた方がいいですえ――エリカ・ライトはん?」
「――!?」
こいつ、俺の名前を知って……!
『やっぱり何か裏があるわね……今は放っておきましょう。危害を加える様子は無いみたいだし』
……ああ。
不気味に微笑む彼女を残し、店内から出る。
じゃあ早速、宿屋に――。
「――動くな」
一瞬だった。店を出て、歩き出した瞬間、身動きが取れなくなった。
「動いたら分かっているな? あの時と一緒だ、大人しくしろ」
目まぐるしい人通りの中、俺は一人の男の声で、身動きが取れなかった。
『ちっ……いつの間に……』
くそ……またこいつに背後を取られた――3ヶ月前、あの人物に、あの剣で。
「死にたくなかったら大人しく従え、エリカ・ライト――」
今、俺の背中に剣を突き立てているのは――3ヶ月前のあの時、あのフードの男だ。




