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探偵の異世界生活  作者: わふ
第三部 帝王戦役編
110/127

百九話 刻印

 

 ――光が眩しい。


『――ふふ、本当貴方は寝てばかりね』


 寝て、ばかり……。


「――!」


 勢い良く体を起こす。


「……朝……」


 そこは何処かの森の中で、とっくに日は昇っていた。

 あの城、審判の槍から脱出してからどうなったんだ……?

 それに……。


「これは……」


 近くに焚き火の後があった。どうやら、ここで野宿して夜を過ごした様だ。


『あら、覚えてないの?』


 頭の中で声が響く。ヴァレ、一体あれからどうなって――。


「――エリカ! 気が付いたのか!」

「え? アル?」


 アルベールが森の奥から現れた。


「心配したぞ。急に倒れて、もう動いて大丈夫なのか?」

「? どういう事?」

「覚えてないのか? 実は――」


 どうやらアルベールが言うには、地上に降り立った直後、俺は気を失って倒れ、その俺を帝都近郊の西にある森へと運んでくれたらしい。


「そうだったんだ……ありがとう、もう大丈夫だよ」

「そうか……」


 そんな事が……全く記憶に無いな……。


『そこまで深く気にする必要は無いわ。その記憶の欠損は疲労とあの覚醒によるものだから』


 ヴァレが思考を遮って、脳内に直接語り掛けてくる。

 疲労か……確かに具体的な期間は分からないが、それなりの長さを監禁されていたからな――だが、それよりも気になる事がある。

 ヴァレ、あれは一体――。


「エリカ、あれは一体何なんだ?」


 ヴァレに問おうとしたと同時に、アルベールもまた俺に疑問を投げてきた。


「あの時の――ジャックス卿との戦いで見せた、髪の色が変わったあれの事だ。今はもう元の黒髪に戻っているが……」


 アルベールの言う通り、髪の色は元に戻っていた。


「何かこう……普通では無い力を感じた。説明してくれエリカ、あの力を」


 ……困った、どう説明するか。恐らくは、いや十中八九ヴァレの力なんだろうが、如何せん説明が難しい……。


『良いんじゃない? 全部説明しても』


 え?


『勿論、貴方が他の世界から転生してきたって話以外をね』


 いや、それを抜きにしてもかなり不味いんじゃないだろうか。


『そんな事無いと思うわ。だって彼も、よく分からない力を持ってるんだし』


 そう言えば。確か『刻印』とか言ったか。


『多分今の彼なら大丈夫よ。信じて貰えるわ、きっと』


 ……そうだな、分かった。説明手伝ってくれるか?


『ええ、一度外へ出るわ』


 俺の中から何かがスっと抜ける感覚を味わう。


「!? な、何だ! いきなり人が!?」


 驚くアルベールの視線の先、俺の隣を見るとヴァレの姿がある。

 ヴァレは俺の周囲だったら、こうやって現実世界に実体化出来る様だ。


「初めましてね、私はヴァレリア、ヴァレって呼んで頂戴」

「あ、ああ……ってそう言う事じゃ無い! 今、エリカから彼女が出てきた様に見えたが、一体これは……」


 混乱するアルベールに、今までの経緯を伝えた。


「――なるほど、要所要所は理解した……お前、魔核を抜かれて死ぬ直前だったのか……しかし、それであの城が浮いているとは……」

「……信じて、くれるの?」

「まぁ、俺も訳分からん力を受け継いだからな。タルタロスとか言う存在も、彼から聞いていた。それに幼馴染の……エリカの言葉だ、信じるさ」


 アルベール……ありがとう……。


「それで、あの力は? 脱出する時に浮遊したのも、彼女のお陰か?」

「うん、多分……」


 ヴァレに視線を送る。


「ええ、そう。脱出の時のは浮遊魔法。で、王の間での戦いの技はオーダー 零式よ」

「オーダー……零式?」

「名前はどうでも良いの。私が勝手につけた技名だから。あれは私とエリカが深く融合した状態ね。さっきも説明した通り、今のエリカの体には二人分の身体が宿っているわ。普段はエリカのそれ等が表に出ている訳だけれど、そこに私の外見を少し混ぜ合わせたの」


 外見……そうか、あの白のメッシュはヴァレの髪……。


「……何となく分かったが、それに何の意味が?」

「私の魔力を最大限にまで引き出す為。普段は魔力を抑えて、彼女の体に供給しているわ。それは、私の人格や精神、身体がエリカを侵食しない為。魔力を無制限に運用すれば、エリカが消えてしまうわ」


 俺が……消える……。


「そうしない為に、必要な分だけの魔力を体に流しているの。でもそうしたら、最大限の力が引き出せない。だから、力を引き出す為に、害の無い程度に身体に干渉する必要があった。試行錯誤して、この程度なら大丈夫と判断した結果が……」

「あのメッシュか……」

「ええ、元あった魔力があれば、もっと上の段階に踏めるのだけれど……何にせよ、あれだけなら何の影響も無いわ。任意に解除も出来るわ。ただ、一つだけ注意点が」

「注意点って?」

「それは、まだ魔力自体が体に馴染み切ってないから。維持出来る時間が限られている事よ。魔力って人それぞれで、ほんの少し因子が違うのは知ってるわよね?」

「ああ、遺伝子レベルだが」

「それでも私の魔力とエリカの魔力は別もの。元の魔力とは異なるから体は受け入れてくれて無い。だから、エリカの意思で魔法は上手く扱えないし、零式も長時間維持出来ない。使った後は暫くインターバルが必要になる。でも心配はいらないわ。こっちはそのうち馴染んでいくだろうし、少しの辛抱ね」


 魔法が咄嗟に時に使えないのは厄介だな……暫くはヴァレを介して発動して貰うしか無いか……。


「私達の話は一旦終わり。次はそっちの力について話して貰えるかしら、アルベール?」

「俺もアルで良い……俺が彼から受け継いだ力は刻印と言う力だ」


 刻印……あの力もまたイレギュラーな存在だと感じた。

 それに受け継いだって……。


「アル、さっきから度々出てる彼って言うのは……」

「察しの通り、ジャックス卿だ。ジャックス卿から刻印を受け継いだ。刻印は千年前の戦争が終戦した直後、かの七星神エンイアから初代スリーナイト達が一人一つ賜った力だ」


 刻印が七星神エンイアから賜った力……だと?


「そんな話、聞いた事ない、けど……」

「見た通り人智を超えた力。当時の皇帝は無駄な争いを起こさんべく、公表しなかったらしい。刻印は隠されたまま密かに、現代まで引き継がれ、こうして俺の体に受け継がれた……」

「受け継がれた?」

「ああ、刻印は歴代のスリーナイトへと受け継がれてきた。そして、今も」


 歴代のスリーナイトへと……。


「じゃあ、アルは――」

「ジャックス卿の刻印――意志を継ぐ、次期スリーナイトの候補だった。何れ彼と入れ代わる形で。きっかけはお前も知ってる、あの社交界での出来事だ。彼はそろそろ引退しようと考えていたらしい。その間際に俺を見つけ、刻印を継承させてスリーナイトの一人へと鍛え上げるつもりだったらしい。あの日――内戦が始まった日に、俺があちら側に居たのはジャックス卿に連れられての事だ……まさか彼が反乱軍側に付いてる等と微塵も思わなかったがな……」


 自身を見てくれた人が裏切っていたのは、相当ショックだろう……。


「水を差すようで悪いんだけれど、さっき言ってた刻印の継承は、そんな簡単に出来るものなの?」


 ヴァレがアルベールに訊いた。


「……ああ、保持者が意図的に行う分には驚く程簡単に出来る。ただ、保持者が意図しない場合……渡す気の無い場合はその保持者から――命ごと奪うしかない」

「……命ごと……つまり、殺して奪うって、そういう事?」


 アルベールは静かに頷く。


「詳しくは分からないが保持者を殺すと、殺した者へと刻印は受け継がれる仕組みらしい。そうジャックス卿が言っていた……俺は勿論、ジャックス卿の意志で刻印を受け継いだ側だ」


 至極当たり前の事を言って、アルベールは話を締めた。

 ……刻印、か……色々言いたい事はあるが、それよりも――。


「――はくしゅ! うぅ、寒い……」


 話を終えて気が緩んだのか、急に寒さを感じてくしゃみをしてしまった。

 そう言えば今は何月何日だ? あれから結構な時間が経った筈だが。


「はは、もう冬だと言うのにその薄着だ。無理も無い」


 俺の服装は学校の夏服だった。それも、魔核を奪われた時に出来た損傷や、その他諸々の擦れで服はボロボロだった。


「大丈夫か?」


 アルベールが軍服の上着を被せてくれる。


「ありがとう……真冬って言ったけど、今の日付って……?」

「ああ、そうか、ずっと眠っていたんだったか。今日は十一月二十四日だ。あれから三ヶ月近くも経った」

「さ、三ヶ月……」


 そんなに経っていたのか……。


「取り敢えず、ここにいつ兵士がやってくるか分からない。近くに村がある。これからの準備も兼ねてそこへ行こうと思っているが、どうだろうか?」

「うん、大丈夫。ヴァレもそれでいいよね?」

「ええ問題無いわ」


 アルベールの提案に異を唱えるつもりは無く、快く了承した。


「その村に反乱軍はあまり居ない。安心してくれ」


 ああ、先程何処かへ行っていたのはそれだったのか。


「じゃあ私はエリカの中に戻るわね」


 そう言って、ヴァレは俺の中へと入っていった。


「よし行こう。こっちだ」


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