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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
11/127

十話 兄妹

 

 エリカとリディアの二人は保健室から出た後、教室から鞄を持ってから寮に戻った。

 リディアの部屋は四階なので、エリカとは三階で別れてから部屋に戻った。


「あ、おかえり、リディア」


 リディアが部屋の扉を開けると、先に部屋に戻り、木製のインベントデスクに向かって木製の椅子に座っていたクロウが、リディアを出迎えた。


「クロウさん、先に戻っていたのですわね」


 リディアはそう言いながら、クロウがいた右側の机とは、左側の(つい)となる場所に設備されている机に、鞄を置いた。


「オレットは大丈夫だった?」

「ええ、イアン教官も命に別状は無いだろうって仰ってましたわ」


 リディアは振り返りクロウの方を向いて言った。


「そっか、一安心だね」

「はい……」


 クロウの言葉に安心した表情でリディアが相槌を打った。


「それでその……あれからアリッサさんはどうなったんですの?」


 今度は少し不安そうな顔で、クロウに聞いた。


「あの後は僕と一緒に、あの時の事を詳しくカミラ教官に聞かれた後、僕と同じ様にアリッサも寮に帰されたんだ」


 リディアは再び、少しだけ安心した表情をした。


「そうですのね……ちゃんとアリッサさんとも話し合わないといけませんね……」


 リディアがそう言った後に、クロウが何かを思い出したように口を開く。


「あ、そうだ。リディア、これ」


 そう言って差し出したのは、リディアが使う槍だった。


「あの時、グラウンドに忘れて行ったよね」


 リディアは槍を受け取り「クロウさん、ありがとうございます」と礼を言った。


「僕、アッシュの武器も届けてくるね」


 アッシュもグラウンドに武器を忘れていたので、クロウが回収していた。


「ええ、多分アッシュさんも部屋に戻っていると思いますわ」


 アッシュは頷き、右側にあるベッドと窓の間に立て掛けられていた双刃薙刀を持って部屋から出て行った。


「……少し、外の風に当たりたいですわね……」


 そう言うと、リディアも部屋から出て行った。

 当然だがリディアは、オレットやアッシュの事について気持ちの整理が出来ていなかった。

 リディアは寮を出て直ぐにあるベンチに座った。

 他の生徒達はもうこの時間は誰一人見当たらず、考え事をするにはピッタリの場所だった。


「……はぁ……」


 本当に昔みたいな関係に戻ってもいいのか、戻れるのかとリディアは考えていた。


「アリッサさんはどう思ってるのでしょうか…………」


 リディアはそう小さく呟きながら、ベンチ傍に生えている、花弁が散っていく桜の木を見上げた。


「? あれは……」


 桜の木からふと目を逸らすと、礼拝堂から出でくるオレットが目に入った。


「オレットさん……?」


 リディアはベンチから腰を上げ、礼拝堂へと歩いて行く。


「オレットさーん!」


 オレットは、歩きながら自分の名前を呼ぶリディアに気付く。


「リディア! アリッサを見なかったか!?」


 走りながらリディアの元に来たオレットが、息を切らして慌ててそう言った。


「部屋に戻っているんじゃありませんの?」


 オレットは首を横に振る。


「それが居ねぇんだ! カミラ教官にも聞いたんだが、もうとっくに部屋に戻ったって言って……」


 その時、寮側から走りながら近付いて来るカミラの姿が見えた。


「オレット君、アリッサさんは見つかりましたか!?」


 カミラも、オレットにアリッサの捜索を頼まれ、学校中を走り回り、探していた。


「カミラ教官の方は……」


 カミラは首を横に振る。

 それを見たオレットは項垂れる。


「……だとしたら、不味いですね。もうあの場所しか……」


 カミラは下唇を噛む。


「あの場所……?」


 リディアがカミラに聞く。


「あらリディアさん、居たんですか?」


 カミラはアリッサの捜索に必死になり過ぎて、リディアの存在に気付いてなかった。


「カミラ教官、あの場所って?」


 そんな事はどうでもいいかのように、オレットも聞く。


「寮の裏にある、今は使われていない廃寮の事です。しかし、あの場所は老朽化が激しく立ち入り禁止なんですが……」


 この学校には、二十年程前に使われなくなった廃寮がある。

 老朽化が激しく、修復して再利用する事は不可能な段階まで来ていたので仕方なく建て直した。

 そんな建物を取り壊さない理由は、学園長の一存にある。


「それなら早く連れ戻さねぇと!」


 オレットがカミラの横を通って廃寮に向かおうとする。


「待ってください」


 カミラが呼び止める。


「貴方達二人は寮に戻っていて下さい。私一人で行きます」


 カミラはオレットの先を歩き出す。


「あそこは危険です。貴方達生徒を危険に晒す訳にはいきません」


 カミラは教官の義務を果たす為に、一人で廃寮に行こうとしている。

 もうこれ以上生徒を危険に晒したくは無い。その一心で。

 だがしかし、その想いは二人には届かなかった。


「私も連れて行ってください!」

「俺も連れて行ってくれ!」


 二人の声が同時に轟く。


「ここで行かなかったら(わたくし)、一生後悔する思いますの。だから、お願いです! 私も連れて行ってください!」


 もう自分を恨みたくない、そうも思っているリディアはこれを張り上げて言った。


「俺はあいつの兄だ。妹が危険に晒されているなら、助けに行くのは当然だ」


 二人の想いとカミラの想いがぶつかり合う。

 カミラはこの時どうすればいいか、必死に悩んでいた。

 二人の意志を尊称したい、生徒を危険に晒したくは無いという二つの想いが。


「……分かりました。但し、私から離れずについてきてください」

『ありがとうございます!』


 二人は同時に礼を述べる。


「行きますよ! アリッサさんを連れ戻しに!」


 カミラは走って廃寮に向かう。

 二人はカミラの言葉に頷き、ついて行く。


「鍵が壊されています……やはりここにアリッサさんがいるかと」


 三人は、廃寮の出入口に着いた。

 廃寮の扉には普段、南京錠が掛かっているが、刃物類でバッサリと斬られていた。


「行きましょう……もう一度言いますが、私から離れないで下さい」


 二人は再び頷き、それを確認したカミラは扉を開けて中に入っていく。

 二人もそれに続く――。




 ◇◇◇




 俺はリディアと別れ、部屋に戻って来た。


「ん?」


 扉を開けようとするが鍵が掛かっていた。

 アッシュはまだ帰って来ていないのか。

 俺はスカートのポケットから部屋の鍵を取り出し、鍵を開け部屋に入り、装備していた刀と二丁拳銃を左の机に置いた。


「やはり、アッシュは帰ってないか……」


 ユリウスと会った時のアッシュの様子が変だったから、話したかったんだが仕方ないか。

 ……何故、会って一日やそこらの奴を俺は気にかけているんだ?

 ……そんな事を考えている時、部屋の扉がノックされる。

 扉を開けるとそこには、クロウの姿が会った。


「あ、エリカ、アッシュ居る?」


 クロウの手にはアッシュの双刃薙刀が握られていた。


「もしかして、それを届けに来てくれたの?」


 俺がそう言うとそれを差し出してくる。


「グラウンドに忘れていたからね」


 アッシュの双刃薙刀を受け取る。


「わざわざありがとうね。アッシュに伝えておくね」


 俺がそう言うと「うん、それじゃ」とクロウがそう言い、扉を閉めて帰って行った。

 また再び扉が開き、クロウと入れ替わりでアッシュが部屋に帰ってくる。


「おかえり、アッシュ」

「ああ……」


 アッシュは静かに返事して、制服のままベッドに倒れ込んだ。


「廊下でクロウと会わなかった?」

「会った」


 アッシュの返事は何処か上の空だった。


「それを届けに来てくれたんだろ?」


 アッシュは寝転びながら、俺が持っている双刃薙刀を指さした。


「そうだよ、それにしてもこれ結構重いんだね。持ってみてびっくりしたよ」

「ああ」


 俺がたわいも無い会話をしようとするも、アッシュは無気力な返事しかしない。


「なぁエリー、姉ってどんな気持ちなんだ?」


 突然なんの話だ?


「え?」


 アッシュは起き上がり、裏の老朽化が進んだ木造建築が見える窓を見る。


「あの時アリッサはなんであんな行動を取ったんだ?」


 クロウはつまり、兄弟や姉妹、はたまた兄妹や姉弟の関係について知りたいのか?


「多分、オレットを傷付けたリディアが許せなかったんじゃないかな?」


 俺はアッシュの隣に立つ。


「許せなかった、か」


 アッシュが夕日を見ながら呟いた。


「お前さんも妹が傷付けられたら、あんな風に怒るのか?」


 アッシュはこちらを向いて、聞いてくる。


「当然だよ、妹だからね」


 兄弟や姉妹等はそういう関係の筈だ。


「血が繋がってなくてもか?」


 血の繋がりか……。


「血の繋がりってそんなに重要なものなのかな?」


 俺はこの世界に来てそう思えるようになった。

 あちらの世界では血の繋がりが絶対だと思っていたのだが、シフィーやアメリアにそんな些細な事は関係ないと教わった。

 恐らく、重要なものは……。


「もっと重要なものは、その人と一緒に過ごした時間、なんじゃないかな?」


 そう、アメリアは赤の他人だった筈なのに、俺は別れの時涙を流していた。

 時間の流れで出来た絆だと俺は思う。


「時間か……」


 アッシュは再び、窓の外を見る。


「うん、血の繋がりが無くても、紡いだ絆の方が重要だと私は思うよ」


 アッシュの方を向いて話していた俺は、その時微笑んでいた。


「……そうか」


 その時の夕日を見るアッシュの目はどこか悲しく、寂しそうだった。


「あ……あれって……カミラ教官? それに……」


 俺はふと、老朽化が進んだ建物を見ると、カミラとリディアとオレットの姿が目に入った。


「なんであんな所に……」


 俺が言い終わる前にアッシュが上げ下げ窓を開け、外に出る。


「アッシュ!?」


 アッシュは下の部屋の窓庇に飛び降り、生えている木の枝に飛び移ったりして地面に降りた。

 アッシュが地面に降りる頃には、三人は建物の中に消えて行った。

 取り敢えず追いかけるか……。

 俺はそう思い、廊下に出て階段に向かった。


「あ、エリカ!」


 四階から降りてきたクロウと鉢合わせた。


「アッシュが凄い身のこなしで、降りて行ったけど何かあったの?」


 どうやらクロウもあの光景を見ていた様だ。


「それが、あの建物に入って行くカミラ教官を見た後、急に窓から飛び出して……」


 それにあのアッシュの表情、焦っていた様に見えた。


「そうなんだ……とにかく追いかけよう!」


 俺はクロウの言葉に頷き、寮裏の建物に向かった。




 ◇◇◇




 リディア達三人は廃寮の中を進んでいた。


「足元気を付けてください。老朽化が激しいので」


 廃寮の床は穴だらけだった。


「こんな危険な所にアリッサさんが……」


 リディアが床の穴を見ながら、身震いする。


「この穴、深そうだな……カミラ教官、この建物に地下は?」


 オレットは穴を覗きながらそう言った。


「地下階層は無い筈ですけど……確かに妙ですね、こんなに穴が深いなんて……」


 カミラも穴を覗く――。


『――きゃああああ!』


 穴の底から――では無い。一階の奥の部屋から女子生徒の叫び声が聞こえてきた。


「……! 今のは!?」


 カミラが声のする方向を見る。


「今の声……アリッサだ!」

「オレットさん、行きましょう!」


 二人は声のする方向に向かって行く。


「待ってください!私から離れな――」


 その時、二人とカミラの離れた空間の床を突き破り、高さ二メートルはある鉄兵が現れた。


「これは……傀儡(かいらい)!? なんでこんな所に……」


 カミラが傀儡と呼んだものが通路を塞ぐ。


「カミラ教官!」


 リディアが足を止めて、振り返る。


「……仕方ないですね、二人は先に行ってください! 後で追いつきます!」


 カミラは何も無い空間から、右手で刀を取り出す。

 空間属性の下位魔法、アイテムボックス。小さな物であれば、手に持たずとも持ち歩ける魔法だ。


「分かりました!」


 オレットがそう言い、二人は走り出す。

 二人が行った事を確認したカミラは刀を鞘から抜き、構える。


「何故こんな物があるのかは知りませんが、私の邪魔をするというのなら……」


 カミラは刀の刃を上に向けて、柄の部分を顔に、鋒の部分を足元に向く様に、斜めに構える。


「四方一刀流……虎の構え……秋水!」


 カミラは迷うこと無く、傀儡の懐に飛び込んで行き、刃を下から上へと斬り上げる。


「――!」


 傀儡が言葉に表せない声を上げる。


「これでも倒れませんか……なら……!」


 体勢を低くして刀を持ったままの右手を左腰下に回す。


「雀の構え……夏初月!」


 低くした体勢を一気に上げ、刀で傀儡の顎あたりを斬る。


「――――!」


 またしても、言葉として聞き取れない声を上げる。


「……!」


 だか、今回は直ぐに傀儡が体勢を立て直し、鉄の拳でカミラを攻撃する。


「……」


 カミラは刀を左腰に添えて持っている鞘にしまい、柄を握る。


「武の構え……冬隠(ふゆごもり)!」


 傀儡の攻撃が当たる瞬間に刀を引き抜き、鉄の拳を弾いた勢いで傀儡の拳を切り落とす。


「―――――――ッ!」


 傀儡が声を上げている間に、カミラは一歩後ろに下がる。


「終わりです!」


 カミラは刀の柄を両手で握り、胴の前に持ってくる。


「龍の構え、春嵐!」


 カミラは一歩踏み出し、傀儡を目に見えない程の速度の縦斬りで、真っ二つに叩き斬った。


「……」


 カミラは無言で刀を鞘に仕舞い、穴があいている床を飛び越しながら、廊下を駆け抜けていく。


(皆さん、無事でいてください……!)


 一方、リディア達は。


「アリッサ!」


 オレットが奥の部屋の扉を開けた。


「あ、あぁぁ……」


 そこには、カミラが戦った同じ姿の傀儡がアリッサに殴りかかろうとしていた。

 アリッサは壁際まで追い込まれており、逃げ場が無い状態に陥っている。


「こ、これは、先程カミラ教官が戦っていた……」


 傀儡の注意が二人に向く。


「来るぞ!構えろ!」


 オレットは空間魔法アイテムボックスで、両手斧を取り出す。


「リディア、何をしている! 早く槍を持て!」


 オレットはオドオドしているリディアに、そう叫ぶ。


「す、すみません……私、その魔法はまだ……」


 リディアは武器を持っていなかった。


「……お前は下がってろ! 俺一人で戦う!」


 オレットは斧で傀儡に攻撃する。


「なっ……!」


 だがオレットの攻撃は全く効いていない。


「――ッ!」


 傀儡が雄叫びを上げ、拳を振り下げる。


「ぐっ……!」


 オレットはそれを斧の端と端を両手で支え、防御する。


「オレットさん!」


 オレットが力で押され、一歩分後ろに下がる。


「っ……うおぉぉぉ!」


 しかし何とか傀儡の攻撃を弾き飛ばし、それの体勢を崩す。


「貰った!」


 オレットが飛び上がり、傀儡に向けて斧を振り下げるが……その攻撃は軽々と鉄の掌で受け止められ、そのまま体ごと投げ飛ばされる。


「ぐはぁ!」

「オレットさん!!!」


 投げ飛ばされたオレットは床に叩きつけられ、暫く立てない状態になった。

 傀儡の注意が再び、アリッサに向けられる。


「あ、あぁ……」


 アリッサは腰が抜けて、立てないでいる。

 そんなアリッサに傀儡は少しづつ擦り寄っていく。


「だ、誰か……」


 アリッサは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


(もうこれ以上は……!)


 もうこれ以上、後悔したくはないと再び決心したリディアが、回り込んでアリッサの前に立つ。


「え……なんで……?」


 アリッサは何故、リディアが庇ってくれているのか分からなかった。

 アリッサにとってリディアは兄のオレットを裏切った憎い存在。

 それとあの練習試合の後、殺す気で魔法を撃った相手なのに何故……とアリッサは思っていた。


「そんなの決まっていますわ! 私は貴方を助けたいのですわ!」


 アリッサの考えを読んだように、そう答えた。


「な、何を……今更……」


 アリッサは小さく声を漏らす。


「――ッ!」


 傀儡の攻撃がリディアを襲う。


「――させません! 龍の構え、春嵐!」


 筈だったが、後ろから走り込んできたカミラによって、傀儡は真っ二つに斬られた。


「大丈夫ですか!?」


 カミラは刀を鞘に仕舞い、腰の抜けたリディアの元に来た。


「わ、私は大丈夫ですわ。それよりオレットさんを!」


 リディアは直ぐに立ち上がり、オレットの元に向かった。


「……俺も大丈夫だ……それより、アリッサ」


 オレットは武器をしまってから、アリッサの元に歩く。


「お、おにぃ……」

「どうしてこんな危ない場所に来たんだ!」


 オレットの怒鳴り声に、アリッサは後退る。


「俺達がどれだけ心配したか分かっているのか!?」


 アリッサは恐る恐る声を出す。


「だって……あたし……おにぃにあんな酷い事を……」


 アリッサが俯いて、涙を浮かべる。


「……確かにお前がやった事は許されないかもしれない」


 オレットはそう言いながら、更にアリッサに近付いて行く。


「……たが、それを悔やんでいるのなら良い。それに、怪我をしたのは俺だけだったからな」


 アリッサの前で立ち止まったオレットがそう言った。


「う、嘘よ! 本当はおにぃだって、こんな妹いらないんでしょ! こんな……」


 アリッサは涙を浮かべたまま、顔を上げてオレットを見る。


「そんな訳無いだろ。お前は俺の大事な妹だ。あんな事で嫌いになったりはしない」

「ほ、ほんとう……?」


 オレットは、アリッサの頭を撫でる。


「ああ。だからこれ以上俺を心配させるな」

「っ……!」


 アリッサはオレットに勢い良く抱きつく。


「ごめんおにぃ! あたし……」


 アリッサが抱きつきながら、涙を流す。


(アリッサさん……良かったですね)


 二人を見ていたリディアが、そう心の中で呟いていた。


「……アリッサさん、一つ聞きたいのですが、何故これは貴方を襲っていたんですか?」


 膝をついて真っ二つにした傀儡を調べていたカミラが立ち上がり、そう訊いた。


「わ、分からないわよそんなの……この部屋に入ったら、そいつが急に動き出して…………」


 アリッサはオレットから離れてから、カミラを見てそう言った。


「……分かりました、とにかくここから出ましょう。それとさっき見たものは他言無用です。誰にも言わないでください。再びここに立ち入るのも許しません」


 カミラも刀をしまいながら、三人に言った。


「学校側には私が話します。貴方達は他の生徒を不安にさせないよう、黙っていてください」


 三人は少し疑問を抱きつつも、カミラの言葉に頷いた。




 ◇◇◇




「アッシュ、いきなりどうしたの?」


 アッシュが窓から飛び出して行った後、エリカとクロウは寮の階段を降りて廃寮に向かい、何とかアッシュに追いついた。


「……いやあの三人、なんでこんな老朽化した廃寮に何の用があるのかと思ってな」

「確かに……何かあったのかな?」


 廃寮の入口前で立ち止まるアッシュの言葉に、首をうねりながらクロウが更なる疑問を口にした。


「ん? 君達、廃寮に何か用かな?」


 そう言いながら、寮の方面から現れた人物は学園長のダリオスだった。


「あ、学園長」


 真っ先にクロウがダリオスの声で振り向き、他の二人もダリオスの方を振り向いた。


「ここは立ち入り禁止だ……何故扉が開いているのかね?」


 ダリオスは三人の背後の扉を見ながら、苦い顔をしてそう言った。

 エリカが扉が開いている理由、自分達がここにいる理由を説明した。


「なるほど……フローレンス君が……」


 ダリオスが右手を顎に当てて、考える様にそう言った。


「学園長はなんでここに来たんですか?」


 クロウがそう聞いた。


「ん? 僕かい? 僕は頻繁に、廃寮の鍵が壊されていないか確認してるんだよ。この建物って老朽化してて、中が穴だらけで危険だからね」


 ダリオスは入口まで歩いていき、廊下を覗き「ほら」と言うり

 それに釣られて三人も廊下を見る。


「でも今日は鍵が壊されているね。そうじゃ無かったら、フローレンス君達がこの中に入れる筈がないから」


 エリカがダリオスの言葉に疑問を持ち「どうしてですか?」と聞いた。


「これだよ。寮の鍵は、僕が持つ一本しか無いからね」


 ダリオスがスーツのズボンの右ポケットから取り出した鍵をまじまじと見る。


「……なるほど、これが真っ二つに斬られている南京錠の鍵なんですね」


 エリカはそう言い、入口付近に落ちてる南京錠の残骸を見る。


「しかし困ったなぁ、こういう悪戯をされると新しいのを買わないといけなくなる」


 鍵をズボンのポケットにしまい、頭を掻きながらそう愚痴をこぼしたダリオスを横目に、エリカが膝をついて南京錠の残骸を調べる。


「あら?皆さんどうして……それに学園長も…………」


 エリカは、廃寮から出てきたカミラ達に気付き、スカート右ポケットから白いハンカチを取り出す。

 その南京錠の残骸をハンカチで包んでからどさくさに紛れ、それを右ポケットに入れた。


「フローレンス君、ここは立ち入り禁止だと言ったはずだ。説明して貰えるか?」


 カミラは傀儡の事以外を話した。

 傀儡の事はダリオスに問うつもりだが、ここではエリカ達の耳に入ってしまう為、後程話すつもりでいた。


「ふむ、大体話は分かった。取り敢えず今日の所は部屋に戻りなさい」


 ダリオスの言葉にエリカ以外の生徒が頷き、寮の方へ向かって行く。


「フローレンス君、あの生徒についてはちゃんと言っておくように」

「分かっています」

「それとこの鍵、処分しておいてくれ」


 壊れた南京錠の鍵をポケットから取り出し、カミラに渡す。


「分かりました……ダリオス学園長、明日お話があります」


 ダリオスは何も反応も示さず、立ち去っていった。


「……」


 カミラはそんなダリオスの姿が見えなくなるまで、見つめていた。


「? エリカさん、帰りますよ?」


 カミラの説明が終わってから、ずっと入口付近をしゃがんで調べていたエリカに気付き、声を掛けた。

 エリカは「そうですね」と言い、カミラの方を向きながら立ち上がった。


「……ところで、さっき受け取った鍵、私が処分しておきますよ?」


 エリカの要求はあからさまだった。

 壊れた南京錠だけで無く、鍵も調べたいと思ったエリカは、カミラが先程受け取った鍵を手に入れようとそう提案した。


「……駄目です、これは私が処分しますので」


 もちろん、カミラは鍵を渡すつもりは無かった。

 自ら危険な事に、首を突っ込もうとしている生徒を見過ごす訳がない。


「分かりました。だったら、廃寮で起こった()()の事を教えてください」


 カミラは眉を小さく動かす。


「オレットの制服が汚れていました。ただ、廃寮に忍び込んだアリッサを連れて帰っただけなのに、あれだけ酷くは汚れません」


 エリカは訊かれてもいないのに、何故カミラの説明が嘘と気付いたのかを説明した。


「……分かりました。但し、ちゃんと()()したら伝えてください。それが条件です」


 カミラは鍵を差し出す。


「はい、()()したら伝えますよ」


 エリカは鍵を受け取る。

 二人の間で処分という意味は、何か分かり次第伝えろと言う意味を持っている。


「それでは、また明日」


 エリカは背を向けて、去って行く。


「……壊された南京錠も()()しておいて下さいね」


 エリカは少し首で振り向こうとするが、返事をせずに歩いていった。

 カミラは「はぁ……」と溜息をつきながら、廃寮の扉を閉じる。


「……今年は問題児が多いですね……」


 静かにそう呟き、カミラも廃寮前を去って行った。




 ◇◇◇




 ギギギ、と重い鉄の扉の開く音が響く。


「オレットさん、話って……」


 次の日の昼休み、リディアはオレットに呼び出され、校舎の屋上にやって来た。

 だか、そこに居たのはアリッサだった。


「アリッサさん……」


 アリッサはリディアに言いたい事があるが、恥ずかしいのでオレットに呼び出して貰った。


「言いたい事があるの」


 リディアは、無言で屋上の鉄柵近くに立っているアリッサに近付いていく。


「何でしょうか?」


 硬い表情でアリッサに返事をする。


「その……悪かったわ。昨日、あんたに向けて……魔法を撃って……」


 アリッサは顔を背けながら、照れくさそうにそう言った。


「え……」


 リディアは謝られるとは思っていなく、目を見開く。


「……おにぃから、あの日の事情は聞いたわ……でもまだあたしは許した訳じゃないから……でもあたしがやった事はケジメをつけておきたかったの……それだけ。じゃ」


 アリッサはぼーっとしているリディアを横目に、屋上の扉を開けて校舎内へと戻って行った。


「……ふふ、アリッサさん、意外に素直じゃないですか……」


 リディアは口に手を当て、優しい笑いをこぼす。


「私も戻りましょうか」


 屋上に来た時とは違い、明るい顔で校舎内に戻って行くリディアであった。


 同時刻に四階の学長室の扉がノックされる。


「入りたまえ」


 学長室の椅子に座っていたダリオスが入室を許可すると「失礼します」と扉越しで声がして、カミラが入って来る。


「それで、話とは何かね?」


 カミラが学長室の机の前に立つと、ダリオスがそう言った。


「……廃寮にいた傀儡についてです」


 強ばった表情でダリオスに問う。


「何のことかね?」


 その返答を聞いたカミラは更にダリオスに歩み寄り、机を挟んだ約四十センチ程の距離まで詰め寄り、身を乗り出し机を叩く。


「とぼけないで下さい! 何故学校の敷地内に、あんな危険な危険な物が存在しているんですかっ!!」


 カミラは声を張り上げて問うが、ダリオスは微動だにせず、黙ったままだ。


「……答えられない。そう捉えていいんですか?」


 少し冷静になったカミラは、身を引いて机から手を離す。


「……」


 ダリオスはまだ沈黙を貫いている。


「……分かりました。学園長にはあんな廃寮に人工遺物(アーティファクト)を配置するだけの理由があられるんですね。私には理解出来ない、嘸かし立派な理由が」


 それは皮肉めいた物言いだった。


「ならせめて、もう少し施錠を頑丈にしたら如何ですか? 生徒が間違って入っても怪我をしないように」


 カミラはそう言い残し「失礼しました」と冷たい声で言い放ち、学長室から出て行った。


「……出来れば話してあげたいよ。出来ればね……」


 ダリオスは回転椅子で窓の方を向き、そう言った。

 学長室を退出したカミラは、怒りの態度を顕にして廊下を歩いていた。


(学園長は何を考えている!? 何故隠そうとする!?)


 歩く歩幅が大きくなって行きながら、午後の授業の為に一階のAクラスの教室へと向かって行く。

 カミラは生徒を必要以上に危険に晒す事を最も嫌っている。

 これまでも、そしてこれからも……。




 ◇◇◇




「なぁ、エリー、どうしてオレットはあいつを許せるんだ?」


 グラウンドと校舎の間にある中庭のベンチに、隣に座っているアッシュが聞いてくる。


「あいつって?」

「アリッサの事だよ。流石にありゃねぇだろ」


 ああ、その事か。

 これは俺の主観だけど……。


「多分、兄妹だからじゃないのかな?」

「……そうか。そうだったな……」


 アッシュは悲しそうな声で、空を見上げてそう言った

 昼休みの賑やかな生徒達の声が響く中で、ただ一人悲しそうに……。


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