百四話 反逆の狼煙
「マ、マジかよ……マジでアリッサが……」
「……正直、信じたくないです。あのアリッサさんが……でも……」
アッシュとシフィーが、この真実が偽りだったら良いと嘆く。
「何を言っている? 私が《S》だからこうやって追い詰めているのだろう」
しかし、真実は変わらない。《S》はアリッサだ……。
「……何処までがそちらの犯行なの?」
俺は何とか平然を装って問いかける。
「ほう、聞かないのか。何故こんな事をした、と。お前だったら真っ先にそう聞くと思っていたのだが」
そんなの言わなくても漠然とした理由があるだろう、お前には……!
「ふ、まあ良い……何処までが私達の犯行か……決まっている。一連の事件全てだ! カレン・フォン・デルヴィーニュ、そして皇帝殺害の両方だ。と言っても、私は実行犯では無く、首謀者だがな。本当はあの女も、皇帝も、この手で殺してやりたかったが、アリバイ作りの為に他に譲ってやった。それも、小さなミスで全部駄目になったが」
それを語るアリッサの表情は、悪気も無く悪魔の様に笑う犯罪者の顔だった。
「……一つ不可解な事があります、アリッサさん。確かに犯行の動機がそれなら、皇帝陛下の命を奪ったのは納得出来ます。しかし、カレン卿はあの事件には無関係では無いですか? あの、ブラウト家を失墜させた密輸事件に」
コルネの言う通り、そこがずっと引っかかっている。
「……ふむ……あの女の死はただの演出だ。見事だっただろう? 帝国を、この国を破壊する、私達ラグナロクの使徒の晴れ舞台。あの女の無惨な死があってこそ成り立ったのだよ。それに丁度、王族へと憎しみも一つ晴らせる、一石二鳥だ」
…………。
「そ、そんな理由で、人一人を……許しません――え? ユ、ユリウス君?」
シフィーが剣を引き抜こうとした時、それをサッと手を伸ばしてユリウスが止める。
「……シフィー君がこんな外道に剣を向ける必要は無いよ。未来のスリーナイトである君の剣技は勿体ない」
ユリウスはシフィーの代わりに、自分の剣を抜く。
「アリッサ君、私はここに来るまで君の事を級友、良き友人と思っていた、信じていた……だが、もう覚悟は決めた。この剣で、義姉と父の仇、討たせてもらう!」
「ユリウス……君……」
……俺もユリウスの様に覚悟を決めよう。ここでアリッサ、お前を止め――。
「ふ、茶番だな――サリル」
『ハイ』
「――え……?」
「な――」
誰が声を上げたか分からない刹那の時。
大きく揺れる金色の髪の隙間から、白い死神が姿を覗かせる。
「さらばデス――」
――彼の体から突き抜ける、赤き血に染まった大鎌の鋒。
「若き皇帝」
そして、大鎌が勢い良く引き抜かれる。
「――ガハッ……!」
「――――ユリウス君!」
その倒れる体をシフィーが支える。
――ユリウスが、あの大鎌の少女、サリルに、心臓を貫かれ、た――。
「――殿下!!」
俺はシフィーに抱かれたユリウスに駆け寄ろうとするが。
「駄目です! エリカさん! 敵の狙いにエリカさんも含まれてます!」
コルネに制されて踏み止まる。だが、それが仇となった。
「少し遅い様だ」
「いつの間に!?」
俺はいつの間にか背後を取られていた。
「エリー!」
「エリカさん!」
背後をちらりと伺うと、ローブ姿で二刀の剣を構える男性の姿が見えた。
二刀の剣のうち一本が俺の背中を隙もなくロックオンしている。
鋒の僅かな痛みが、少しでも妙な動きをしたら殺すと警告してくる。俺だけでは無い、この場にいる全員、誰一人もだ。
「――うぅ……ぐぅ……」
「ユリウス君! ユリウス君!」
痛みにも抱き苦しむユリウスを、シフィーが涙を流しながら必死に呼びかける。
「形勢逆転だ。サリル、良くやった。お前は見ない顔だが」
アリッサは俺の背後の男性を見る。
「安心しろ、味方だ。それよりどちらだ?」
どちら……。
「この際、どちらでも良い。二人も戻っているんだろう。B、エリカを拘束しろ」
「お任せを」
校舎の外壁を飛び越えて現れたBとK。その内のBの鉄線に俺は拘束された。
男性の剣は背中から、首へと標的を変える。
「……エリ、カ……君……」
「! 殿下!」
ユリウスの絞り出した声に、身を乗り出して応える。首元に突き付けられた刃が、一滴の血で汚れる事を構わずに。
「シ、フィー……君……アッシュ君……コルネ、君……どうか……私達の……仇、を……」
何を言っているんだ、と俺が言う前に。
「何言ってんだ! 皇帝がそんな簡単に諦めんのかよ! この国の次期皇帝が!」
そう真っ先に怒鳴っていたのはアッシュだった。
「ふふ……相変わらず……アッシュ君は、痛い所を突いてくる、良き友人だ……」
「っ!」
アッシュはユリウスの傍に駆け寄って、回復魔法を掛ける。
それに続いて、同じ様にコルネも。
「おい! 動くな!」
「好きにさせておけ。どうせ何も出来ない」
Kがそれを止めようと短剣を構えるが、アリッサの一言で大人しくなる。
「そうだよ! 諦めるなんてユリウス君らしくないよ!」
一番必死だったのは、言うまでも無くシフィーだ……。
ボロボロと涙を流しながら、治療に徹する……。
「すまない、皆……」
――全部、俺のせいだ。俺が……。
今だって死を怖がって、刃に屈している……俺にもっと力があれば……。
「S、お伝えしたいコトガ――」
サリルがアリッサの耳元で何か呟く。
「――そうか。そちらの準備も整ったか。ならば私達も始めよう」
「ハイ、先程連絡した通りアレの特定は完了。準備は彼ガ」
……何だ、何をするつもりだ?
「さて、皇帝の血筋はこれで途絶える。残す王族の血は分家のグレスティア家のみだ。そろそろ始めようでは無いか、同胞よ。ユスティア帝国への反逆の狼煙を! サリル、転移の準備を。K、エリカを連れて来い」
「……! エリカ姉さん!!」
俺はKに乱雑に髪を引っ張られて、アリッサの元へ連れていかれる。
「何を……するつもり……なの?」
髪を引っ張られる痛みに耐えながら、アリッサに問う。
「言っただろう、反逆の狼煙だ。私達はこれから、この国を我が手に治める」
「何!? 戦争でも起こすつもりか!?」
「さぁな、まぁ成り行きにそうなるだろう」
「ちょ、ちょっと待――」
「サリル、転移だ」
「ハイ」
アリッサを中心に、赤い魔法陣が足元に浮かび上がり、光を帯びる。
「エリー!」
アッシュが駆けて、俺に手を伸ばす。
「アッシュ!!」
髪の毛がちぎれそうなくらい、アッシュの方に身を伸ばす。
「おい! じっとしろ!」
「がはっ!」
Kの声と共に、後ろ首に激痛が走る。
しまった……意識が……。
「アッ……シュ……」
『エリ――』
意識が遠のく中、最後まで、アッシュの声が聞こえた――。




