百二話 始動
「――全員、集まったな?」
自分はリビングに集まった、ゼノ、ステラ、アリス、ルカ、ヒスイ、ティアを確認する。
「どうしたのだ、そんな怖い顔をして」
ステラがそう聞いてくる。
怖い顔にでもなる。何せ今から、王国連続殺人事件の犯人の名を口にしようとしているのだから。
「……犯人が分かったんだ、この一連の殺人事件のな」
「何!? 本当なのか!?」
「ああ」
ゼノに頷き返す。
「誰なのだ、 その犯人とやらは?」
「まだ憶測だが――――」
自分はその名を告げた。
「……何だと? そいつが本当に犯人なのか? 事件の事は良く知らないが、そいつは――」
「恐らく本当よ。それについて私も考えてみたんだけど、そいつしか、犯行が可能な人物が居ないのよ」
「確かに、彼が犯人なら、全ての謎に説明がつく。あんたの推理、あながち間違ってないのかもしれない……」
「……! そう言う事ですか! だから、アグレさんが指名手配を!」
「そう考えて良いだろう。あの時、アグレを犯人と真っ先に決め付けるのは流石に早急過ぎると思っていた。普通ならば、重要参考人として同行を求めるだろう……それで、これからどうするのだ?」
どうするか、そんなの決まっている。
「さっきも言ったが、これは憶測だ。証拠は何も無い。だから――こっちから敵陣に乗り込んで、犯行を自白させる。こうなっては、もうその手しか無い」
「なっ!? 何を言っているんだ! 外はまだ騎士団がうようよ居るんだぞ!? そいつがいる場所に着く前に、捕まってしまう!」
「ゼノの意見は最もだ。だが、こうしていても何も変わらない。逆に新たな手を打たれ、詰みに追い込まれるかもしれない。その前に、この硬直状態を打破したいんだ」
「っ……はぁ……何を言っても無駄みたいだな……仕方ない、腹を括るしか無いか……」
決まりだ。
「よし、決行は一時間後。今は外は夜だ。奇襲には打って付けの時間だろう」
自分はそう言って席を立つ。
「ゼノ、ステラ、ここで不毛な戦いにケリをつけたい。最後よろしく頼む」
「何故ここまで来たのか自分でも分からないが……任せておけ」
「うむ、元からそのつもりだ。スリーナイトの名を背負う者として、道を外れた行いを正してやる」
……これで終わりにしよう、捻れ曲がった憎しみの因果を――悲しい復讐劇を!
「おいおい、まさか俺達は蚊帳の外、と言う訳じゃないだろうな? ここまで来たなら最後まで付き合わせろ」
そう名乗りを上げたはルカだった。
……正直ルカには来て欲しくない。
「良いのか? 手を貸せば、きっと面倒な事になるぞ」
「ああ、覚悟の上だ。そんな事よりも、困っている友人を放っておく方が我慢ならない」
ルカ……。
「そう言う事なら私も付き合うわ。今はこの怪盗擬きが主だし、死なれたら困るのよ」
続け様にヒスイが言った。
「私も勿論行くのです!」
当然の如くアリスにも来て欲しくない。
だがこう言い出したら、何を言っても聞かないしょうが無い連中だ。
「分かった、頼む」
自分はこいつらの同行を認める事にした。
「ア、アグレさん! あ、あたしも――」
「駄目だ」
その発言をバッサリと切った。ティアの発言を。
「お前はここに残って、クラリッサの傍に居てくれ。あいつを一人にするのは心配だからな。これは今お前にしか任せれない」
「あ……分かりました……私、クラリッサさんを守ります!」
何とかティアを言いくるめれた様だ。
こいつはエレナの娘、エリカの幼馴染だ。何かあったら申し訳がつかない。
それに見たところ、まともに戦えるとも思えないしな。敵陣に乗り込みに行くんだ、絶対足でまといになる。
「決まりだな。さっきも言った通り決行は一時間後。それまでに準備をしてくれ。良いな?」
『ああ!』
自分達は決心を決めた。
そして――。
千五十八年、八月二十七日。午後十時十四分。
「全員揃ってるな?」
自分達は転移魔法陣の上に立っていた。決行の時刻だ。
「頼む、アリス」
ゼノ、ステラ、ルカ、ヒスイの四人を見渡してから、アリスに転移の準備をする様に促す。
「はいです!」
アリスが準備を始め、そのほんの少しの間に彼女、ステラに耳打ちする。
「……本当に良いのか、あいつと戦う事になるかもしれない」
あいつ、それは海都オラシオンで自分の命を狙ってきた人物だ。
「奴とはもうとうの昔に決別した。心配は要らぬ」
顔色一つ変えずに答えたステラに自分は「そうか」と頷く。
「行きますです! あの地へ導け、メタスタシス!」
アリスはあの腕輪を使用せずに唱えると、自分達はあの裏路地へ転移した。
「よし、無事に転移出来たな。皆、このまま中央通りへ――」
ゼノがそう言いかけた時。
「ふふ、待っていたよ」
「誰だ!」
その声を聞いた瞬間、自分は太刀を引き抜いた。それに続いて、全員が武器を構える。
「おおっと、物騒だなぁ。僕は戦う気は無いんだよ――そっちが大人しくしてくれたらねぇ」
暗い路地裏に脳天気な女声が響き渡る。なのに姿が見えない、気配も感じとれない。
「……この声は……」
「ゼノ、聞き覚えがあるのか?」
ステラがゼノに聞く。
「……まさか貴方は……!?」
アリスも知っている様だ。
「何でもいいからいい加減姿を顕しなさい。死にたくなければね」
「はぁ、全く。どうやら、一戦やり合いたいみたいだね」
また声が聞こえ、続け様にパチンと指を鳴らす音が聞こえた瞬間、少し離れた位置の地面に魔法陣、その上に火から煙が立つ様に数人の人影が顕れた。
「久しぶりだね、探偵君、それと序列二位のアリス・ガルシアさん?」
声の主は女の様な見た目をした神父だった。
「お前は、アシェル・クルム!? テッサさんの代わりに来たあの……!」
テッサの代わりに来た……じゃあこいつはパンドラの箱の構成員……。
「ご明察。一つ目の顔を明かしてくれてありがとう」
「は? あんた、何言ってる?」
「うんうん、じゃあさアリス、もう一つの顔、明かしてくれるかな?」
……まさかこいつも。
「……お久しぶりなのです。創世の騎士団 序列十位、指揮者 アシェル・クルム!」
「なっ!? こ、この神父が創世の騎士団!? あんた、冗談を言ってるんじゃないだろうな?」
「本当なのです! こんな場面で冗談なんて言わないのです!」
こいつも裏切り者だったって訳か……!
「ま、僕の事なんてどーでも良いんだよ。悪いけど僕達にちょっとの間付き合ってもらうよ?」
僕達。そう自分達の前に立ち塞がったのは数人。
一人は。
「おいおい、まさかこんな懐かしい顔を見るなんて聞いてねぇぞ……久しぶりだなぁ、ステラ?」
「アルストロ・ロペス……久しいな……」
ステラにニヤリと笑いかけるアルストロ。
「ふ、どうやら骨のある連中ばかりの様だ」
次に口を開いたのは王国騎士団の軍服を着たスキンヘッドの男。
「エドガー・レイブンクロー……」
ゼノがまた反応する。
やはり王国騎士団は創世の騎士団と繋がりがあったか……。
その三人に加え、もう一人。
「ほーん、懐かしい顔が居るじゃねぇか。こりゃ久々に楽しめそうだ」
豪快に話す人物。自分はその人物を知っていた。いや、自分だけじゃない。恐らくヒスイ以外は全員見た事くらいはあるだろう。
右目を覆う眼帯を付け、顎下まである乱れた銀の髪。右手の無い片腕の強靭な肉体に、大剣。
その大剣を慣れないであろう左手で軽々と持つ老け顔の男。
それは正しく闘神――。
「んじゃ、いっちょ相手してくれや――行くぞぉぉおおお!!!」
彼は魔力を纏った大剣を振りかさず。
「お前ら! 避けろ!」
全員が危険を察知し、避けようとするが――。
「遅せぇ! 覇王剣!」
地を割る威力の斬撃の衝撃波が、とてつもない速さで自分達を追う。
「させぬぞ! 闘神よ!」
――俺達の間に割って入り、そこに現れた光景は意外なものだった。
小さな体に金色の美しい髪。
緋色の宝石の飾りが施された杖を構えて、あの衝撃波を魔法障壁で打ち消していた――。
「エレナ!」
「待たせたのう! お主達!」
エレナは長い髪を靡かせて振り向く。
「も、もしかして、この人が……」
「うむ、エレナ卿だ。しかし何故ここに?」
ゼノ、ステラと続々に反応を示し、驚きの声を上げていた。
自分も驚いていた。しかし、他の思いが勝る。
あの時と一緒だ。あの時、あのドラゴンから、あの攻撃から自分を守ってくれた時と……!
「ふふ、魔女の勘と言うやつじゃ。アグレの話を聞いて何か嫌な予感がしたからのう。まぁ禁じ手を使って来た甲斐があったわい」
余韻に浸っている間にエレナは話を進める。
「じゃが、まさかお主が出張ってくるとは思ってなかったのう……闘神よ?」
闘神は黙ったまま、エレナを見つめる。
「それはこちらのセリフだなぁ」
「……お主の事は前々からマークさせて貰っていた。度々怪しい動きをしているとは思っておったが……」
「僕があの港街から消えたのを気付いて飛んで来たって事かな? いやはや、まさか魔女殿自身が出てくるなんて――好都合にも程かあるんじゃないかなあ!?」
アシェルは声高く笑う。
「お前何をするつもりだ!?」
「こうするんだよ! 魔術師殿、準備は良いかなぁ!?」
魔術師!? 不味い、止めなければ!
「やめろ!」
だが遅かった。
「ふふふ、この時を待っていた!」
上空にあの人物、自分達をどん底に突き落とした張本人――トリスメギス・アニマ。
「さあ! 刮目せよ! これが創世への第一歩だ!」
あいつが天に両手を掲げると、そのまた上にとてつもなく大きな魔法陣が形成される。
「デスペレイション・スフィア!」
魔法が発動され、魔法陣から膨大な魔力が放出される。
「! 不味いぞ、これは!」
「エレナ、何か知ってるのか!?」
「う、うむ……これは――」
「王国空域全体に檻を張るんだよ! 誰も出れない檻をね!」
誰も出れない檻……まさか狙いは!?
「――トリスメギス、貴様まさか!?」
狙いに気付いた時には遅かった。奴の魔法が発動し、王国を世界から切り離した――。
「ふふ――ふははははははは! これで第一段階は終了だ! さあ諸君! ゲームを始めようではないか! 世界創世の幕を開けるゲームを!!」
第二部 創世始動編 完




