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探偵の異世界生活  作者: わふ
第二部 創世始動編
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九十九話 条件

 

「……本当に、これで良いのか……?」


 外に出た自分は、誰と話す訳でも無くそう呟く。

 まだ迷いがあった。あいつに手を下さなくても良いのかと。

 ……いや、今は本来の目的殺人事件の事を考えよう。それからでも遅くはない。

 そんな逃げ道を見出し、考えに耽ける。

 そうだな、一度事件を振り返ってみよう。


 最初の殺人は、七月十五日早朝、港街ナカムで起きた殺人だ。

 被害者はシスターのテッサ・マクシーム、騎士団員のセス・ホーランの二人。どちらもパンドラの箱所属の構成員。

 死体発見場所は港の海岸。死因は首を切られての出血死。

 ゼノ・サンチェス、及びジゼル・ロヴァートが捜査した結果、犯人はネッド・パチルと言う結論に至ったが、自室に首を吊って死んでいた。殺人を悔いる遺書を残して。

 事件はそれで終わりかと思われたが、約一ヶ月後の事件で話は予期せぬ方向へと進む。


 八月十八日早朝、王都エルドラドで二つの死体が発見された。

 一人はシスターのエスメ・モハンマド。もう一人は騎士団員のマックス・バーニー。

 どちらもパンドラの箱所属の構成員。死因も前事件と同様。

 この殺人が起こった為、最初の殺人事件の犯人、ネッド・パチルは真犯人に操られ、捨て駒にされた。その線が浮かび上がった。

 あの状況じゃあ、ネッド・パチルが二人を殺した事実は揺るがないだろう。

 なので、ネッド・パチルは真犯人に自殺に見せ掛け、殺されたと考えるのがしっくりくる。

 死体発見場所は王都東の旧市街の廃家。死体は腐敗が進み、死後一週間以上は経過していると思われる。

 二人は死体発見日から約一ヶ月前、七月二十日に失踪が確認された。死亡時期はその日から、十八日の一週間前の八月十一日、そう推測出来る。

 問題なのは、ヶ月以上も警備が強化された旧市街の廃家に放置され、見つからなかった事。

 これは何処か別の場所で二人を殺した後、暫く経ってから、死体発見現場の廃家へと運んだと思われる。

 その推理を裏付ける根拠は、死体発見現場に血痕が無かった事だ。

 だが、それでまた新たな問題が浮き彫りになった。

 どうやって、そこに死体を運んだかだ。

 旧市街の警備は強化され、騎士団の目を盗んで死体を運び入れるのは、普通では無い魔法を使わないと不可能に近い……。

 結局犯人と思わしき人物が浮かび上がってくる事も無く、捜査は降り出しに戻る……。


 ……次は、犯人の可能性がある人物について考えていこう。

 先ずはこの事件に創世の騎士団が犯人か。

 それに関しては、可能性は薄いだろう。

 動機ももちろんそうだが、態々死体を見つかる場所に運ぶ、その行動は理解し難い。

 アリス・ガルシア達も容疑者からは排除だ。なるべく目立った行動はしたくない筈。

 他は……ああ、あの連中が居たか。血濡れの夕闇……アルストロ・ロペスだ。

 一件目だけ見れば可能性は大いにある。ネッド・パチルが血濡れの夕闇の一員で、犯行がバレそうになった為殺した……辻褄は合う。

 しかし、二件目の事件の手口については不可能だと思う。

 あいつは()()を知っている口ぶりだったが、それを使えるかと言われたら、使えないだろう。

 使えたとしたら、あの場で自分に対抗してきた筈。

 他に可能性があるのは……紺碧の月くらいだが……これは問答無用で弾いていいだろう。


 ……やはり犯人候補が上がってこない……。

 こんな調子で本当に、事件を解決出来るのか……?


「――難しい顔をしてどうしたんだ?」


 考え込んでいる時、背後から声を掛けられた。

 振り返るとそこにはルカ、いやアルセーヌが居た。

 ルカは仮面を着けていた……外に行くんだろうか。


「……ルカか、それと……」


 そしてもう一人、あの人形が居た。


「……ヒスイ、だったか。外へ行くのか?」

「様子を見にね」

「随分と考え込んでいる様子だったが……事件の事か?」


 ……ルカには見透かされるか……。


「ああ……事件について、考えていた」

「どうなんだ? 何か分かりそうなのか?」

「……いや、全く、手詰まりと言っていい」


 どうすりゃいいんだ……何に手をつければ、前に進める……。


「アルセーヌ」

「ん? 何だ?」


 葛藤の最中(さなか)、二人の声が耳に入ってくる。


「外へ様子を見には、あんた一人で行きなさい」

「これまた唐突だな?」

「私はちょっと用が出来たから」

「……ふ、そうか。ならばそちらは任せた」

「ええ、任せなさいな」


 アルセーヌはヒスイと別れ、魔法陣の方へと歩いていく。

 ヒスイはと言うと、自分を見つめ、立ち止まっている。


「……どうした、何か用があるんじゃないのか?」

「あるわよ? あんたと話すって用がね」


 ……何を言っているんだ、こいつは。


「む……何なのよ、その顔。さては、こいつ馬鹿か、何言ってんだ、とか思ってるんでしょ?」


 当たらずとも遠からずだな……そんな事はどうでもいい。


「はぁ……折角、知恵を貸してあげようと思ったのに」

「知恵を貸す?」

「一緒に事件について考えてあげるって言ってんの。どうする? 乗る?」


 どっちにしろ手詰まりだ。頼るだけ頼ってみよう。


「ああ、頼む」

「ふふ……あんたはどう考えてるの、この事件」


 自分はヒスイに、先程推理した内容を伝えた。


「なるほどねー、確かに手詰まりって言ったところかしら?」

「そう言っているだろう。それで、どう知恵を貸してくれるんだ?」

「そうねぇ……もう一度、事件を振り返ってみたら?」

「もう一度? これ以上収穫は得れないと思うが……」

「やって見なきゃ分からないでしょ。物事って言うのは、見る度に、違う視点で見れる物よ? 分からない物は考えても無駄って言うけど、それは同じ視点で見てるだけ」



 違う視点……やってみよう。


「……違う視点か……」

「イメージしにくいかしら? だったら、今度は関係の無い物に焦点を当ててみたら?」

「関係の無い物……」


 ………………そう言えば、あの時……。


「……サリル……」

「ん? ああ、あんたが昨日戦ってた奴ね?」

「ああ、あの時、あいつは変な事を言っていた。意外な所に敵が潜んでいると」

「意外な所に敵が潜んでいる、か……」


 一度は何か意味がある忠告かと思ったが、ただの戯れだと聞き流した。

 だが、良く考えれば不可解な発言だ。


「確かに気になる発言ね」

「もう一つある。あいつは自分を後一歩で殺せると言う所まで追い込んだ。だが、何故かそこで手を引いた。目的とは反した行動だ」


 不可解な発言、不可解な行動……気になるな……。


「うーん、だけど、どっちもあまり関係は無さそうね……」

「そうだな……他は……何故血濡れの夕闇が自分を狙ってるかだ……」

「そうね……そっちも結論は出なさそう……でも、その二つ、共通点はあるわね。あんたを狙ってるって言う」


 共通点……。


「共通点と言えば、二つの殺人事件にもあるわね、死因と被害者の素性が一緒と言う点が」


 それは犯人が同一人物だからだろう……いや、待て。


「……おかしいな」

「何が?」

「死因が一緒と言う事がだ」

「? そりゃあ犯人は同一人物なんだから、一緒になるでしょ」

「ああ。だが……普通は同じ手口は避けるんじゃないか? 終わった事件との関連性を悟らせない為に」

「あ……! 確かに……」

「それと、態々死体を見つかる場所に運ぶのも不自然。一ヶ月も見つからない場所に監禁、又は死体を隠せたのなら、そのまま隠し通せば良い」

「……こう言いたいのね? 犯人は、二つの殺人事件の関連を結び付け、尚且つ事を大きくしたい」

「そうだ」


 普通なら犯行を隠す筈。しかし、犯人はその真逆。


「じゃあ犯人の目的は、大体予想がつくわね」

「ああ……犯人は、パンドラの箱の存在を世間に公表するのが目的。それも、ただ公表するだけで無く、何かしらの恨みを晴らすと言う形で」

「そうね……公表するだけなら他にも目的はある。その中で殺人と言う手を取ったのなら、そう考える他無さそうね……あんた達が隠蔽した事件の観点から、犯人は絞れないの?」


 隠蔽した事件と言っても、数えきれない程ある。自分が知らない事件も。


「ある程度なら可能だ」

「それで良いわ」


 一連の犯行は王国で行われた……だったら、王国の事件を思い出してみるか。

 可能性が有るのは――。


「可能性が有るのは恨みを買う様な事件。政府の汚職なんかの水面下で、浮かんでいない事件は除外しても良いと思うわよ」

「そうだな……」


 それを踏まえて考えると、だいぶ絞られる……。

 …………あの事件か……?


「……その顔は、心当たりがあるみたいね」

「ああ、一つある……だが、この事件に恨みを持っている人物は数えきれない」

「その中から、犯行が可能な人物を考えるの。第二の殺人の犯人をね。きっと、魔法以外の方法がある筈よ」


 魔法以外の方法………。


「逆に考えるのよ、可能な理由では無く、不可能な理由を。犯行が不可能な理由は騎士団に認知される事。それさえクリアすれば、犯行は可能になる」


 ……………………まさか……!?

 いや、そんな筈は無い。信じられる訳……だが、あいつが犯人なら、全ての条件に当てはまる。

 騎士団の目を掻い潜る事も、パンドラの箱を恨む動機も、全て。

 あの突発的な行動の心理も全部……。


「……一人、思い当たる犯人候補がいる」

「本当?」

「少しばかり暴論だが、条件に当てはまるのはあいつしか居ない」

「そう……答えに辿り着いたのね」

「ああ、犯人は――」

「言わなくて良いわ、大体分かってるもの」


 ……こいつ、初めから犯人を知って……。


「ありがとう、ヒスイ」

「礼なんていらないわ」

「……何故、こんな事を?」

「あんたが思い詰めた様な顔をしてたからよ」

「は?」


 意外な答えだ。


()ね、さっきのあんたの様に思い詰めた顔をして、消えた奴がいるのよ」

「消えた?」

「死んだって事よ。まあそいつとあんたを重ねて、放っておけなかったの」


 ……本当に人間みたいだ。

 姿だけじゃ無く、行動原理も。


「その死んだって奴は――」


 そう言いかけた時、玄関の扉が開くのに気付いた。


「アグレ、ここに居たのか」


 扉を開けたのは、ゼノだった。


「……お邪魔だったか?」

「そんな事無いわ」

「問題無い。それで、自分を探していた様だが……」

「おっと、そうだった。アグレ、アリスが呼んでる。何やら、あんたの体について話したい事があるそうだ」


 自分の体について……?


「……分かった、あの地下にいるのか?」

「気が向くのなら行ってみろ」

「分かった」


 その時何故か、ヒスイに確認を取る様に目線を送った。


「行ってきなさい。大丈夫よ、あいつはもう、危害を加えるつもりは無いみたいだから」

「……ああ、分かった」


 自分は家の中に入り、地下へと向かった。


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