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生徒会、ないしょの欠員2  作者: キュー山はちお
1章 勝負しようとしてやられるだけの最高(でもない)な日々
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1章の3 ボクが聞いたとき生徒会室にいる人の中で、誰が化身かを当ててください

「いま開封して、声に出して読んでみて。わたしも何が書いてあるか知らないから」

「えーっ!」

 手紙が果たし状と聞いて、スシは当惑した。数秒してから果たし状に向き直り、ふうっと息を吐いた。声に出して読みたくはなかったが、キラに言われた通りにした。

「なになに『スシくんこんにちは、お元気ですか。こちらも元気です』。何これ、果たし状ってこんなだっけ?」

「まあ、いいから」

「なになに『スシくんがキラちゃんに上からな言葉を吐いたので、やっつけてやります。スシくん、わたしたちと勝負しなさい。お願いします』・・・って、『やっつける』と高圧的かと思えば『お願いします』と低姿勢」

「まあ、みんなで寄ってたかって書いてたからね」

「書いたの誰?」

「クロハちゃんとオロネちゃんとマヤちゃん。ほら、続きをどうぞ」

「なになに『スシくん対、役員女子チーム。闇のゲームの始まりだぜ。スシくんのいとしのマヤも、こっちチームです。女子の結束は固いのです。いざとなったら、彼氏より女子同士のきずなを優先するのです」

 スシは「何を大げさな」と思った。

「なになに『わたしらが勝ったら、スシくんにわたしらの要求に応えてもらいます。スシくんが勝ったら、黒糖緑茶のど飴1個プレゼント』」

 キラは手紙を読むスシを見て、ニコニコしていた。

「ねえ、キラさん、オレが勝つとのど飴1個って、何このいちじるしい不公平さ。要求っていうのは、僕の心に何かヤバイこと要求されるの?」

「まあ、いいから。続きをどうぞ」

「なになに『一般生徒の耳目じもくに触れにくいところでやりたいので、勝負の場所は生徒会室です。でも準備の都合があるので、スシくんは午後4時より前には生徒会室に絶対来ないでね。絶対よ。かしこ』」

 キラは、「どう応じる? スシくん」とワクワクした目でスシを見てきた。

「ねえ、キラさん。これ、オレが受けること前提なの?」

「マヤちゃんも女子チームの一員だよ? マヤちゃんとの勝負から逃げたいんだったら、逃げてもいいよ」

「オレが勝負を放棄すると、これを企画した女子のみんなが盛り下がるよね。そんなことするとマヤさんを女子の中で微妙な立場に追い込みかねないよね」

「スシくん、わかってるじゃん。マヤちゃんの恋敵こいがたきを自称するあたしとしては、スシくんがマヤちゃんを大事にしている様子が垣間かいま見えて、複雑だけど」

「わかったよ、やるよ」

「そうこなくっちゃ」

「じゃあオレ、午後4時に生徒会室に行けばいいんだね。それでキラさん、勝負っていったい何をやるの? 照れたら負けの、勝負を挑んでやられるだけの、最高でもない日々?」

「勝負は上手でないキラさん。スシくんがやられ続けることは、ないと思うけどね。勝負はね、役員女子の誰かが○○○するの」

「○○○!」

「ここは一般生徒もいる教室だから○○○と言っているだけで、別にやらしくないの。○の中に入る字は、最初が『け』で次が『し』で最後が『ん』ね」

「『んけし』の反対か」

「『んしけ』の反対でしょ」

「そうでした」

「生徒会室で、女子役員がスシくんの前で1人だけ○○○するの。部屋には本物3人もいるから、スシくんはその中から誰が○○○か当てるの」

 スシは、考え込む素振りを見せた。

(女子のうち誰かが化身かを当てればいいわけか。クロハさん、オロネさん、そしてマヤさんが相互に化身するとなると、化身の実力からしてオレでも見抜くのは難しい、あるいは不可能かもしれない。でも化身していない人の動きや様子も合わせて考えれば、わりかしカンタンに正解にたどり着けるんじゃないか?)

 生徒会執行部にとって、本人と化身が重なって、同一人物が同時に2人となってしまうのは最高レベルの重大事態であり、が非でも避けなければならないことなのだ。役員Aさんが役員Bさんに化身しようとすると、化身対象人物のBさんの方は

・ほかの役員Cさんなりに化身する

・入れ替わりにAさんに化身する

・他県くらいまで離れてAさんとBさんの行動圏を外れる

といった行動で、「Bさんへの化身枠」を空けなくてはならない。スシは「化身そのものを見抜けなくても、化身と本物の重なり回避の制約の方がよっぽど大きいので、そこを突けばいい、楽勝」と考えたフシがあった。

「キラだけど、じゃあスシくんが勝負を受けたこと、みんなに伝えるね。まあスシくんが受けても受けなくても、どのみち勝負はやるんだけど」

「何それ」

 スシは、自分が女子にとてもなめられていると思った。

 キラは去った。入れ替わるようにマヤが現れた。

「スシくん、ちょっといいですか?」

「はい、何でもどうぞ」

「実は今日、泥縄第一の生徒会長さんが、こちらに来られることになったんです」

「は。それはまた急な。でもすみません、本来ならそういう情報は会長が先に知って、副会長へ伝えるべきですよね。逆ですね。オレ職務怠慢(たいまん)みたいですね」

「あ、いえいえ。クロハのところに向こうから直接連絡がきたものですから。そこはスシくんが気にするところではありません」

「そうなんですか、で、泥縄第一の生徒会長は何しに来るんですか?」

「それはあとでわかります。とにかくよろしくお願いします」

 マヤはスシのもとを去った。

 スシは首をひねった。

「どうしたんだろマヤさん。ヒントだけくれて詳細は話してくれない。RPGに出てくる村人にでもなってしまったのだろうか」

 スシはマヤに対して疑問がいたが、そのまま放置した。スシという人間は、多少わからないことがあってもその場で根掘り葉掘り聞こうとはせず、ある程度情報が増えてから対応しようとする傾向があった。そうするうちに時間がなくなって首が回らなくなる危険もあるが、準備をほどほどとすることで精神的に過度に疲れないように心がけていた。

 詳細に情報を集めて人に先んずるのがもてはやされる現代においては、あまり勧められない方法かもしれないが、スシなりの処世術だった。

(あれ? でもオレ、午後4時まで生徒会室に行っちゃいけなかったんだ。その間に泥縄第一の生徒会長に来られたらどうしよう?)


 放課後になった。スシは果たし状の言いつけを守り、午後4時まで図書室で時間をつぶすことにした。泥縄第一の生徒会長が来たら、マヤかクロハから連絡がもらえるだろうと考えた。

 スシは本棚から適当に本を見つくろって、席についた。

 スシから見えない本棚の向こうの席で、女子2人が話しているのが聞こえた。

「それで、そこまで話が進んだら、先輩が『向こうからこっちへお願いがあるんだって』と話を振ってください。そしたらわたしが用件を切り出します」

「わかったわ」

「でも正直、いきなりこんな無理めのお願いをして、受けてもらえますかね?」

「こっちの組織として受けなくても、いざとなればわたしと彼でなんとでもするから、そこは安心してもらっていいわ」

「もし『彼』がいやがったら?」

「わたしが彼を説得してみせる」

「『彼』と言いつつ、実は先輩の彼じゃないのに。すごい自信ですね」

 スシは「女子の誰かの恋バナかな?」と思った。向こうの2人はここにスシがいることを知らない。それなのに聞き耳を立てるのもどうかと思って、スシはスッと席を立って本を棚に戻し、図書室を出た。

 スシがいなくなったあとも、2人の会話は続いた。

「なあに、いざとなったらわたしがマヤ副会長に化身して、スシくんに『いつものやつ』をやればイチコロだから」

「まあ、そこまでしなくてもスシ先輩は、やってくれそうですけどね」


 スシは屋上に向かおうと廊下を歩いていたが、ふと「あれ、さっきの声、片方はクロハさんだったのでは」という思いにとらわれた。

(もう1人の声も、聞いたことがあるような気がするけど。誰だったかな?)

 スシは10秒くらい立ち止まったあと、「ま、いいか」と再び屋上へ向かって歩いた。

 スシが、屋上へ出られる階段を昇ってドアを開けると、風が気持ちよかった。

(さあ、ここで時間をつぶすか)

 スシが屋上をうろうろしようとドアから出たところ、反対側のさくの前にカップルがいるのが目に入った。

 スシは下手に動けなくなった。カップルの方も屋上への新たな侵入者に気付いている。カップルはかなり顔と顔を近づけてタイミングを図ったまま、固まってしまっている。

「スシですけど、ごめんなさい」

 生徒会長が見ていたのではカップルもやりにくかろう。スシは遠慮して屋上をあとにした。

 スシは廊下を歩きながらブツブツつぶやいた。

「キスって、ああやってやるんだね」


 スシは頑張ってあちこちで時間をつぶし、午後4時近くになって生徒会室の前まで来た。そこで腕時計をじーっと見て、午後4時になると同時にドアを開けて中に入った。

「スシ来ましたよ?」

 部屋にはカニとオロネ、クロハがいた。マヤとキラはいないように見えた。

 生徒会室は、ドアから入ると正面が窓になっている。

 窓際の長机ながづくえにオロネが腰掛けていた。クロハは、スシから見てオロネの陰になる位置の椅子いすに座り、カニは窓とは反対側、扉側の壁のすみにいた。

 スシが立っている場所からは、オロネの後ろのクロハは部分的にしか見えないが、クロハはいつも通り、変装用と見まがう黒い大きなプラスチックフレームのメガネをかけている。それに加えて、なぜか冬服のブレザーのジャケットを着ている。夏服から冬服への衣替えはまだ5日も先なのだが。

 生徒会室にはベニヤ板の壁で区切られた別区画の小部屋がある。別区画秘密化身室と呼ばれる簡易更衣室だ。前期執行部時代には校内6カ所の秘密化身室の中でもっとも多く使われた。前期も化身に参加していたスシは、その別区画秘密化身室にクロハが化身用備品として寄贈したジャケットと、それと同等のスペアのジャケットが配置されているのを知っている。スシは、クロハがそれを出して着ているのか、それともわざわざ家から持って来て着ているのか、考えた。

 オロネは机に座り、クロハをスシの視線から隠すようにしながら、スシに向けて美脚を投げ出し、体を盛んに斜めにくねらせていた。妖艶ようえんなムード満載だが、生徒会室でやるとちょっと浮いている。

 クロハの右隣の床に、人間が1人入れるくらい大きい段ボール箱が置いてあった。

 カニは、なぜかシャツのボタンを全て外しアンダーウエアも着ずに胸板を露出していた。1970年代の男性アイドル歌手のレコードジャケット写真や、アイドル雑誌のグラビアのノリである。

「うわっ! スシびっくり。どうしたカニくん、おかしなものでも食べたの? それとも女性読者向けのサービスのつもり?」

「いや、そうじゃないよ。これは女子が誰もカニ非正規役員(中身クロハ/マヤ/オロネ/キラ)に化身していないことを証明しようと、バストの偽装をしていないことを示しているわけ」

「そう聞かないと、変態なのかと思うよ」

「変態呼ばわりはひどい。今回はボク、審判です。対戦メンバーではない」

 スシは甘えたような目で、カニを見た。

「カニくんはオレの仲間になってくれないの? 女子がチームだから、男子もチームでもいいと思うけど」

「これはスシくんの性根しょうねたたき直すための勝負だそうだから、ボクに頼らずにやんなさい」

「オレは1人で女子4人と戦わなくてはならないんだね? 孤独な戦い」

「カニとしては、スシくんがなんかうれしそうに見えるんだけど」

「そんなことないですう」

 スシは否定したが、顔は実際ニヤけていた。

(あ、いけない。マヤさんと戦いたくないのに戦わなくてはいけない、という顔をしないと)

 スシは、いきなり神妙な顔になった。

「オロネから見て、スシくんは余裕たっぷりだけど、いざ戦いが始まってもそんなでいられるかな?」

 オロネに挑発されたスシだが、このとき勝負のことだけを考えているわけではなかった。

「スシだけど、あのうクロハさん。泥縄第一の生徒会長って、いつこっちに来るの?」

「クロハだけど、それについてはのちほど。いまは勝負に集中してね」

「カニが勝負のルールを説明します。女子チームの中で1人だけ化身している人をスシくんが見破ったら勝ち。見破れなかったり、化身していない人を間違えて化身と言ったら女子チームの勝ち」

(スシ思うに、キラさんがいないようだ。女子は総力戦なのかな? 総力戦ゆえに化身ができないキラさんを躊躇ちゅうちょなく外したのかな? もともとキラさんの涙がきっかけの勝負だろうに、外したとしたらいささか冷酷とも思えるが)

 スシには「全力で臨む女子チームの覚悟に応えて、こっちも全力で、カッコよく化身が誰か当ててやろう」という思いと「まもなく泥縄第一の生徒会長が来るというのに、こんなことしてていいのかな?」という思いが交錯こうさくしていた。

「カニのルール説明の続き。スシくんには、まず女子チームを観察してもらいます。そのあとスシくんが質問を3問できます。女性チームは必ず1人だけは真実を語り、残りは必ず虚偽きょぎを答えます。『真実はいつも一つ』というわけです。最後にボクがスシくんに聞きます。スシくんは、ボクが聞いたとき生徒会室にいる人の中で、誰が化身かを当ててください。女子チームが勝った場合は、スシくんには果たし状にあった通り、女子の要求をのんでもらいます」

「ちょっと待って、どんな要求かまだ聞いてないんだけど」

「時間も押しているので、スムーズな進行にご協力ください」

「ちょっと怖いところもあるけど、まあわかったよ」

「ここまでで質問は?」

 スシはそう積極的に質問するタイプでもないが、さすがに今後の戦いの情報が少ないので、ハーイと手を挙げた。


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