第2話 親切な人に助けられ
降り立った世界は想像していたとおりの中世ヨーロッパ風の石畳と石造りの建物が立ち並び、猫耳のような獣人から、ずんぐりむっくりのドワーフらしき人、耳のとんがったエルフらしき人もいる『サ・異世界』なのだ。だから、まあ、当然と言えば当然だけど、彼らと言葉が一切通じなかった。
普通、そこはデフォじゃねえのかよ!!
それに女神はスキルとか言っていたのに、何もできないのだ。
「ステータスオープン」
などと、よくあるキーワードを口にしてみても反応はない。使用方法は完全放置という残念仕様。
「あー、もう、どうすりゃいいんだよ」
近くにあったゴミ箱を蹴飛ばして鬱憤を晴らす。すると、ゴミ箱の向こう側には小さな猫が眠っていて、ビックリした拍子に商人がござの上に広げていた薬草をぐちゃぐちゃにして走り去っていった。
やべぇ!
ぎちぎちと音を立てながら、首を後ろに向けると茹蛸のように真っ赤になった店主が叫んだ。
「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」
言葉の意味が分からずとも、店主がぶち切れているのは確認するまでもない。
こんな化けものみたいなの相手できるかよ。と脱兎のごとく逃げ出すが、商人というより冒険者といった方がいいんじゃないかという筋骨隆々とした店主に数十メートル走ったところでつかまった。
死ぬ!
首根っこを掴まれて、鬼の形相で睨まれたところで、誰かの手がぬっと商人の腕を掴み取った。
「※※※※※※※※※※※」
「※※※※※※※※※※※※※」
「※※※※※※※」
何語かもわからない言葉で、店主と誰かが言い合うと、完全に切れていた店主は徐々に冷静さを取り戻していった。そして、最後に仲裁に入ってくれた男が何かを商人に渡したところで天童は解放された。
「大丈夫か?」
日本語で語り掛けられたところで俺は驚愕して一瞬言葉を詰まらせる。
「…あ、あの。ありがとうございました」
「いやなに、困っていたみたいだからね」
やさしい笑顔を見せられて俺はどきりとする。女にしか興味がない俺だが、びっくりするほどの美形である。困っている人に手を差し伸べるところも含めて男前だ。連れがいるようだが、そちらも作り物のようにきれいな顔立ちをしている。
「あの、日本人なんですか?」
「元ね。俺はシバという。見たところ、この世界についたばかりなんだろう。ここじゃああれだから、俺の家に来ないか。いろいろと説明してやるよ」
「ありがとうございます。俺は天童といいます。よろしくお願いします」
ようやくまともな異世界生活が始まるのだと心を躍らせて俺はシバについていった。