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第7.5話:鬼退治

 むかし、むかしあるところ、時代も場所も分からない設定上都合良さそうな場所に建てられた3DKのほったて小屋にお爺さんとお婆さんが暮らしていました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

 お婆さんが流行の歌を口ずさみながら川で洗濯をしていると、川上の方からドンブラコドンブラコと


お爺さんが流れてきました。


「……」


お婆さんはうつ伏せになって漂流してくる同居人をしばらく目で追っていましたが


「……パラメータ〜♪ いじり過ぎな〜いで♪ だけ〜ど手抜きも」


と何事もなかったかのように洗濯を再開しました。

 そうしてジャブジャブと仕事に励んでいると、今度は川上の方から1立方メートルくらいの大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。これはすごい。ジジイのモモヒキなんか洗ってる場合ではありません。

 

「うまそうな桃だにゃぁ、お爺さん喜ぶべ!」


そのお爺さんはたったいま滝壺に落ちて行きました。

 お婆さんが持ち帰った大きな桃を台所で洗っていると

「アイムバック! ん? うまそうな桃だにゃぁ」

落ち武者のようになったお爺さんが帰って来ました。

 さっそく二人は桃をガッツリ食うことにして包丁を桃に当てました。すると桃は一人でにパカっと割れて中から元気な男の子が……ズビ……ぎゃぁああ! 生まれました。なのにこのジジババは俺をそっちのけ、失敬、二人は男の子には気付かず、ヨダレを堪えようともせず、

「すっぱいすっぱい」

とか言いながら貪り食っていました。ダンプにはねられて死ねばいいと思う。

 二人はこの気品に満ち溢れた男の子に

「デルモンテじゃ」

キョウタロウという実にハイソな名前をつけました。

 キョウタロウは一杯食べれば一杯分、二杯食べれば二杯分大きくなりました。定比例の法則ですね。調子に乗ったお爺さんがカマごと与える日もありました。そうして高校1年生のように大きくなったキョウタロウはお約束通り鬼退治に行くことになりました。

 腰には美味しいキビ団子、鍛え抜かれた日本刀、そして背中にハタめく旗には


”レッドキャベツ”


書き直せジジイ。


 鬼ヶ島に向かって山道を歩いていると、桜色の振袖を着て、イエローの大きなリボンで髪を束ねたポニーテールのそれはもう超絶に可愛い「キジ」さんがおしとやかに歩いて来て

「こんにちわキョウくん。私はキジの美月と言います、お腰につけたキビ団子を下さいな」

とありえないくらい可愛い笑顔を向けて来るではありませんか。キョウタロウは自らの主義に基づいて

「もちろんさ美月ちゃん! 遠慮なくもらってくれ! 俺ごと!」

と持っていたキビ団子の半分をガッツリあげました。お礼に手作りクッキーもらいました。なんか変な汗が出るな。

 そうして二人が話に花を咲かせていると、今度は向こう側から尻尾を生やし、青の着物に袖を通した切れ長の瞳と弓なりの眉が超セクシーな「オサル」さんが歩いて来て

「お兄ちゃん。ヨードー、キビ団子欲しいな?」

と上目づかい。

「98点!」

キョウタロウは自らの主義に基づいて持っていた残り半分のキビダンゴをみんなあげました。

「最近山之内君もあなどれないかな」

と何かキジさんが呟いてました。

 両手に花の状態でキョウタロウは鬼が島を目指していると、今度は青い瞳と長いツインテールと貧……ゴス……麗しくも神々しくてしかも可愛いマリサという「お犬」様がいらっしゃいました。

「ごきげんようキョウタロウさん。(ワタクシ)にもキビダンゴを頂けるかしら」

と100万ドルの笑顔を向けました。キョウタロウは自らの主義に基づいて

「猫かぶりツインテールにくれてやる団子などないわとっと帰ってボンチ揚げのお徳用パックでも」

ドゴ! ガス! ベキ! ドグシャ! ビキ! ガス!…………。

キョウタロウは自分のオニギリと実印と婚姻届をマリサに捧げてお供になりました。戦う前から満身創痍(吐血)。

 あやうくラスボスが鬼ではなく脱衣ババになりかけたキョウタロウは一行と共に浜辺に到着、ここからは船が必要になります。まさに渡りに船というべきか、

「やっ」

と手を振るメガネをかけたショートヘアのグラマーで美人な船頭さんが居たので交渉を始めました。

「そうね〜。アタシも商売があるから渡り賃に6文もらってるんだけど」

なんか嫌な金額ですね。あとキョウタロウ達はお金持っていないので実に困ったのですが

「キャー!! なにこの可愛いお猿さん!」

とがっちりヨードーちゃんを捕まえたお姉さん。

「こ、この子ちょうだい! 船ならモータボートだろうと大和だろうとイージス艦だろうと何でもあげるから!」

商談成立。許せヨードー、大義のためだ。

「あ、あの船頭さん。ワシは鬼退治に……」

「お姉様っていいなさいヨードーちゃん! あ、そうだ。一人抜けるから応援呼んであげようか?」

「どんな方がいるんですか?」

「シロクマのヒロシ君とか」

「かさばるからいいです。あと彼にこのクッキーあげてください」

「じゃぁ、彼のお父さんどうかな? 釘バットが武器ですっごく強い赤鬼さんよ」

「むしろ打倒目標な気がします」

というわけで三人は黒船を借りて鬼ヶ島を目指すことになりました。

「さぁさぁヨードーちゃんお姉さんとあっちのお部屋行きましょうね! とっても可愛いくて萌え萌えな衣装揃えてあるんだからウフフフフ」

あ〜なんかすっごい惜しいものを見過ごしてるような!

 三人は時折

”カイコクシーテクダサーイ”

と謎の汽笛を鳴らす黒船に揺られてアッサリ鬼ヶ島に到着。でっかいでっかい黒い鉄の門が立ちふさがります。さてまずは戦の準備です。隣でマリサが

「よいっせ」

と肩に担いだ巨大なものは……

「ドイツ製対航空用高射砲88(アハトアハト)を個人携行用にカスタムをしたものですわ。

仰角などつけず直接砲火ダイレクトショットで焼け野原にして差し上げましょう。フフフ」

ガシャコンっと砲弾を装填するお犬様。どっから持って来たのかとか知る由もありません。しかし戦に火器など無粋にも程があります。

「やっぱり戦はこれに限るな」

とキョウタロウは腰に差した業物をマリサにこれみよがしに抜きはらいました。


もうすっごいタケミツ!


「なにその竹刀バンブー?」

「ハッハッハ。なぁに君達の緊張を解いてやろうと思ってクールなギャグをかましたのさ」

ジジイまじで殺す。

 ともかくマリサのあの馬鹿げた殺戮兵器ならいくらあの巨大な門も一撃で

”ピンポーン”

「こんにちわ美月といいます」

インターフォンとかあったの美月ちゃん!? ゴゴゴゴと門が開きました。さぁ始まりです。キョウタロウ達は各々の武器を構えます。なんなりと出てくるが良いわ。

「お前たち、鬼ヶ島の入場許可書は持っているんだろうな?」

朱塗りの鞘から抜かれたのはキョウタロウがさっきヘシ折った夏休みの工作で作られたような竹刀バンブーではなくガチで真剣。それを手にしているのは真っ白な着物に袖を通したスーパーロングで紫の艶がある髪の美人なミユ……勝てるか!!!!

「許可証持ってます」

持ってるの美月ちゃん!? 美月ちゃんから真っ白なチケットを受け取った白鬼様はウンと頷くと

「入ってくれ。出来る限り歓迎しよう」

と招き入れてくれました。

 中にいる鬼たちは学ランにモヒカンという頭悪そうな連中ばかりで、ミユキさんという鬼の女王様だけ明らかに浮いてました。キョウタロウは平和的解決を求め、日本の誇る最終兵器”対話”を発動し、鬼たちの働く悪事に”遺憾の意”を表明しました。

「わかった。私の方から部下たちに厳しい制裁を加えておくとしよう」

とあっさり受理。ついで鬼たちが盗んできたものも洗いざらい返してくれました。空き缶、生ゴミ、紙クズ、古新聞、ペットボトル、破れた衣類などお宝ザックザク。

”悪事じゃなくてむしろ清掃活動してたんじゃなかろうか”

とキョウタロウは帰りの黒船の中で疑問に思いつつ、自らの家を宝の山で固め、ゴミ屋敷としたのだとさ。めでたしめでたし。なわけあるか。

 目が覚めるとツインテールが俺の顔を覗き込んでいて

「も〜、いつまで寝てるつもりだったわけ?」

とホっと安堵したような溜息をもらした。

「ん? 何だ犬か」

ゴス!

こうして俺は再び夢の世界へと誘われ、2限目を欠席することとなったのである。ミユキ先輩が保健室にお見舞いに来てくれるのはこれより少し後のお話。君達、寝起きの第一声は気をつけようね。

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