第16話:桜咲くここは桜花学園
「よし、一度簡単な乱取りでもやってみようか?」
と畳の上で手足首をグリグリと回しているミユキ先輩。乱取りというのは互いに自由に技を掛け合う柔道の練習法である。早い話が審判とか礼とか形式ばった物事をみんな省いて試合するものだと思ってくれればOKだ。実戦的でなかなか好きなのだが、これはお互いの技量が同程度でないとスキルアップが望めないのが欠点だ。俺とミユキ先輩ではアリとアリクイくらいの差があってとてもとても話にならない、が、俺の技量チェックをかねて敢えてチョイスしたのだろう。意地悪な言い方をすれば新入部員の可愛がりとも言う。しかしさっきの背負い投げからして受身を取り損ねたら大怪我だな。久しぶりに真剣になろうか。頬をパンと両手で叩いて闘魂注入! しゃーこら! 気合入れてフルボッコにされてくれるわ!
「私は兼定を使おうと思うがお前どうする?」
ヨっと背伸びして壁にかかってる見事な一振りを取ってるお姉様。柔道ですよね?
「桜花学園柔道部は実戦に重点を置いているから武器の使用が認められている」
黒塗りの鞘を帯にギュっと収納しているミユキ先輩。あっち向きに重点置き過ぎて柔道として傾いてると思わないか。お姉様はニッコリ笑って
「体育会系だろ?」
だから関係ない!
「この不景気だ。いつ帰り道で日本刀を持った輩が襲って来るか分からないからな」
「そこまで日本は荒んでないと思います。だから武器とかなしの方向で」
「それじゃぁお前が誰かに襲われているとき刀を見つけてだ、せっかく武器になるのに使い方を知らなかったら困るだろ?」
強過ぎて危機管理能力が麻痺ってるのではないのかユキたん。
「エクスカリバーが地面に落ちてるのは今の時代、RPGだけだと思いますカッコ笑い」
精一杯、丁寧に、敬いを忘れず、言葉を選んで、改変して、”ばか”と言ってみた。ユキたんは”ふ〜むカッコ笑いなぁ”と手に顎を当てて頷きながら俺の言った言葉を吟味し、やがて顔をあげて
「突撃小銃への対策も必要ということか?」
予想の斜め上を突いて来たか。結論としてはどうかと思うが時代が進んだ分だけ一歩前進だぞユキたん。
「しかし”帰り道にAK-47(カラシニコフ)で襲われた場合”というのを指摘されたのは初めてだな」
俺も柔道着着て対テロ対策を提言したのは初めてです。しかしあくまで帰り道なのな。
「考えておくとしよう」
「帰り道にスンニー派とかシーア派とかに遭遇したこと無いので考慮する必要ないと思います」
「交友関係狭いな後宮」
ほっとけ!
ともかくそれから15分ほど有意義な討論をしてようやくミユキ先輩との通常の乱取りが始まった。まぁ常識で考えて敵うはずもなく、ものの2分もしないうちに
バン! ドタン! ビタン! バタン! ダン! ビッタンビッタン! モジピッタン! ビッターン!
交通事故に8回も遭いました。数字は末広がりでもお先真っ暗。今クリアーに三途リバーが見える。
「こ〜ら練習中に甲殻類のマネなんかするな」
畳の上で脱皮中のエビのようにビクンビクンと体を痙攣させている俺にはそんな言葉がかけられた。誰が好き好んで柔道着でシーフードの成長ドラマなんか再現するか。
「ふふふ82点やろう」
笑いの沸点ひく! あと全然狙ってないから! ネタに命掛けるほど芸人魂ないよ!
「まぁこれからミッチリ鍛えていけば何とか様になるだろう。受身は完璧だし筋も悪くない。やや大技狙いの傾向があるが豪快な柔道は私も好きだ」
あの走馬灯を見ていた2分の間にいろいろチェックされていたようだ。さすが柔道部主将。
「それから刀を持つなら波紋は互の目だな」
謎の適正診断も行われていました。そんなことを仰りながら眼前に差し出されたミユキ先輩の決め細やかな手、いつかの美月ちゃんの姿に重なった。
そのまま練習は続いて基礎体力作りとしてまずベタに腕立て、腹筋、背筋と続き、次に壁の留め金に取り付けられた自転車のゴムチューブをギリギリと引っ張って行う袖取り強化のトレーニングや、木刀を畳の上に垂直に立てて足で刈り取るという足払いの練習など柔道独特のものが加えられた。一回こなすごとに
”踏み込みが足らない!””小指を意識しろ!”
といったミユキ先輩の檄が飛ぶ。なんだか楽しくなって来た。
「オ邪魔シマスメンソーレタム」
「オス!」
訪問者の声に袖で汗を拭って振り返るとそこには
「赤木先輩!?」
それから
「こんにちは八雲先生」
頭を下げるミユキ先輩。髪がサラサラサラーっと肩を滑っていく。入口には新生空手部のメンバー(全部で2名)がいた。一人はマリサの”まぐれ”により廃部となった旧空手部の主将である赤木先輩。丸坊主の頭に巻かれているハチマキには楷書体で
”餅には砂糖醤油”
ところで顧問だったハゲリンコ園田先生は立山駅付近でオデンの屋台引いてるのを俺含めたかなりの生徒に目撃されている。味はまぁまぁ、量そこそこということで評判も上々だ。いつかドイツのヌーディストビーチでトウモロコシ売りたいとか言ってたな。教師はいいのか。もう一人は勤務初日に校長を他界寸前まで追い込んだことで有名なマリサのパパである八雲ラッセル先生。今日も黒胴着に赤の帯がなかなかにカッコイイ。なかでも頭に巻かれたハチマキの
”石の上にも3年、ファミレスにも8時間”
という営業妨害スレスレのフレーズが全てを台無しにしているあたりが一番カッコイイ。日本バカにすんな。そんな街中で見かけたら携帯で110番より119番されそうな不幸な二人組が俺達の方に歩いて来て
「やぁ後宮君! 柔道部に入部したって聞いたから驚いたよ」
と爽やかな赤木先輩、たぶん俺が一番驚いてます。”どーも”と挨拶を返して
「赤木先輩もラッセル先生みたいなファミレスハチマキしてるんですね」
マジマジと見れば空手部主将は歯をキラリとさせるほどの爽やかスマイルで
「あ〜私のはまだまだだよ。先生のファマチを巻くには昇段試験をクリアしなければならないんだ」
「略しすぎて寿司ネタみたいになってますよ名前が」
あとクリア後の景品が残念すぎて試験内容聞く気になれない。
ともかく何をしに来たのだこの二人は、という話なのだが、お互い廃部寸前同士仲良く合同練習しながらピロシキ食わないか? ということらしい。ロシアの惣菜パンは丁重にお断りして合同練習は引き受けることになった。ラッセル先生は道場をキョロキョロと見渡して
「今日ワ、マスター藤堂ガ見当タラナイデスネー」
リスニングが極めて困難な日本語を口ずさみながら藤堂先生を探してるラッセル先生にお姉様が
「藤堂先生は一昨日からサムライ修行に出て行かれました。ドミニカ共和国に」
ロケーションおかしくないか。赤木先輩はそれに何か思い当たるのか腕組みして
「今朝のニュースでサント・ドミンゴの国際空港に一機の零式艦上戦闘機が墜落したってやっていたんですがね。操縦席では甲冑姿の老人が……」
「それ思いっきりうちの顧問じゃないですか?」
ミユキお姉様に振ってみると
「他人の空似だろ」
あんな日本人が二人もいてたまるか。
「デワ、キョウチャーン。パパガ持ッテルコノミットヲ”ケフィア”ダト思ッテ叩イテ下サイネー」
「乳製品にさほど恨みはないです」
あとパパとかいいです。俺の前にズイと出されているのは真っ赤なボクシングミット。柔道部入部初日の俺がなぜ外人相手にミット打ちなぞ要求されているのかと言えばさきほど訓練開始早々、俺の実力がメンバー4人の中で
「ザコデスネー! コノピロシキ!」
「話にならないなピロシキ」
「鍛える必要がありそうだねピロシキ」
と満場一致で最弱かつ惣菜パンであることが発覚し、そして
「キョウチャンノ眠ッテルチカラヲ呼ビサマシマス! コノパンナコッタ!」
「基礎体力はそこそこあるから打撃か斬撃から入ろうかパンナコッタ」
「頑張れば君もファマチ巻けるようになるよパンナコッタ」
と満場一致で最弱かつ惣菜パンかつイタリアンデザートであることが確定し、当然の如く斬撃ではなく打撃練習を選んだ俺は今、”サー来イ”と言わんばかりにミットを構えてるラッセル先生を前にしているのだ。
「チャントー気合入レテー声出シテー叩イテー下サイネー!?」
「おいっす!」
元気良く返事。赤木先輩とミユキ先輩が並んで腕組みして見守る中、俺は心を落ち着け、しかし柳のように力を右手に蓄え、向かって左側のミットに親父直伝の……
「せいあー!」
渾身の正拳突きを打ち込んだ! バシン! なかなかの手ごたえではないか。全盛期に比べればやや重さが足りないものの今の一撃ならばシロクマのヒロシでも昏倒は免れないだろう、股間にあたれば。フフフ先輩方そしてラッセル先生、あなた方には確かに及ばないが俺だって決して弱くもなければパンでもデザートでも……
「”カツサンド”ダロガ−!!!!!」
バチコーン! ブー! いきなりの外人ミットカウンター炸裂で花咲ジジイがまく灰のごとく鼻血を飛ばして吹っ飛ぶ後宮京太郎高校1年生彼女なし……って何すんねん外人お前はお爺ちゃんのウンコか意識飛び過ぎて最後無意味な自己紹介入ったじゃねーか! ブロリー戦で瀕死になりながらも”ヘヘヘ”とか言ってるゴクウのようにヨロヨロ起き上がると
「オ前ワKARATEヲ舐メテンノカー! 気合入レル時ハ食べ物ノ名前ヲ叫ブノガ国際標準ダロガー! クラナドヤッテコイヤー!」
お前こそ日本武道コケにしとんのか外人そんな電波世界のISOが日本で認知されてたまるか!
「ヤリ直シデスキョウチャン……」
お前は人生やりなおして来い! くそー……とにかくここは逆らったらまたヒドイめに会う。俺は構え直して恥を忍んで
「か、かつさんど!?」
「愛ガネーんだYO−!!!!!」
バチコーン! ブー! あかん無茶苦茶やこの外人! 鼻血を拭きつつヨロヨロ立ち上がって助けを求めようとチラっと二人の先輩方を見ればキョウタロウ君なぞそっちのけで道場の隅にある薄型液晶テレビ(ブルーレイ対応)の前でオムスビみたいに並んで体育座り。
「ほら今顔映りましたよ。やっぱり藤堂先……あっパトカーで見えなくなった」
「確かに言われて見ればそういう気もするな、念のために出張扱いにしておこう、拘留は今に始まったことじゃないしな」
「校長にはオブラートに包んで言っておきます」
黒いこと言ってます。
「サーキョウチャン、マダマダ練習ワ終ワラナイYOーHAHAHAHAHAHAH」
黒いのがなんか言ってます。
その後もラッセル先生のキチガイ染みたミット打ちが続き、不本意ながらも学習していった俺は斬新な掛け声と共に正拳突き! 前蹴り! 回し蹴り! かかと落し! 恥ずかしさで憤死しそうだったこの特訓も2時間もすれば気にならなくなってくる。いやむしろ不思議な高揚感さえ出てきた。食べ物の名前を力強く発しながら繰り出す技は徐々に勢いを増していく。これはいったい……。
「イイネー!! キョウチャンイイヨー! スッゴク輝イテルヨー!」
昨日食べたもの、今日食べたもの、自らの血肉となっているであろう者達の名を叫びながら眼前のミットに技を叩き込む! おお、キレが増してきたではないか!
「モットモット気合入レテイコーゼ!!」
「おいっさー!」
全神経が刃物の如く研ぎ澄まされる! 体の隅々に血が行き渡る! 俺のこの手が光って唸る! ミットを倒せと輝き叫ぶ!
「美月ちゃんクッキー!」
ビシ!
「ミクミクにしてやんよ!」
バス!
「ヨーグルト!」
バシン!
「”ケフィア”ダローガー!!!」
バチコーン! ブハ! たまにカウンターももらった! しかしそれでも俺は止まらない! 格闘技とグルメという決して相容れることのなかった至高の二つを奇跡の如く融合させて生まれたハイブリット格闘技ラッセル空手! 俺がその伝承者になってやろうではないか!
「イエーイ! 最高ダゼキョウチャーン!」
ラッセル先生とハイタッチ! おおこれが青春か! これが真の空手道か!
「オマエコソ! シンノSAMURAIダゼー! HAHAHAHAHAHA」
YEAH! ガシっとラッセル先生と抱擁! 熱く込み上げるものを抑えきれない俺の目には! 道場の入口で石化しているマリサ! ヒロシ! ヨードー! 美月ちゃん! そんでもシキ! イエーイ!
”キョウタロウからの応答がありません。再起動しますか。Alt + Ctrl +Delete、タスクマネージャを表示、キョウタロウタスクの終了”
「お〜い人生までシャットダウンするなよ〜」
NHK見ながらヒドイこと言わないでユキタン!
「ご、ごめんね私キョウがそんな追い詰められてたなんて気付けなかった」
一人称変わるくらい落ち込まないでマリサ!! 泣き崩れるのもやめて!!
「さっきのは先生に強制されて仕方なくやってたんですよねキョウさん?」
言えない! 後半ハイテンションだったなんて言えないよシキ君!
「こうしてお兄ちゃんは遠いところに行ってしまったのでした。END」
役作りで俺の人生バッドエンドにすんなヨードー!
「昔からキョウって少し変わってたからな。人が死に掛けてるのに黒ゴマオーレ買いに行けとか言ったり」
勝手に俺の過去捏造すんな! お前が一番タチ悪いぞアライグマ!
「ほ、本当なの紅枝君?」
美月ちゃん信じないで!! そんなアナグマの言うことに耳貸しちゃダメ!!
「だと思ってたんだよハッハッハッハ」
空手部なんか廃部になってしまえこの砂糖醤油!!
「HAHAHAHAHAヨーコソ皆サン、ピロシキ食ウカ〜!?!?」
星に帰れ異星人! お前の即席調教のお陰で俺のイメージが可哀そ過ぎることになっただろ!! わ〜ん!! 青畳の上で組み体操の土台役みたいなポーズで号泣。もうダメ今回無理すぎる。立ち直れないよキョウタロウ君。ベッド下に隠してた秘蔵の三冊を吸引力の変わらないただ一つの掃除機でお袋に吸引された時より立ち直れないよ。自販機で千円札崩してコーヒー買ってお釣り回収時に500円がマンホールインワした時より立ち直れないよ。”お腹空いたの? 僕の顔食べてよ”と善意でアンパン差し出してるのに”いるかクソが”とか言われた菓子パン男より立ち直れないよ。と”キョウタロウの立ち直れないシリーズ”脳内絶賛上映中の俺の目元には桜色のハンカチが添えられた。振り向けばオレンジ色のリボンがトレードマークのポニーテールの女神様がニッコリと微笑んで
「キョウ君。何があったのか知らないけどいつまでも落ち込んでちゃダメじゃない」
俺の前でキチンと正座している美月ちゃんはそっと涙を拭ってくれた。神よキョウタロウはここであなたに永遠の忠誠を誓います。一度は地獄絵図を見せつつも最後の最後には美月ちゃんハンカチゲットと言うあなたのツンデレの如き計らいにキョウタロウは強く心を打たれました。
「ううう、、ありがとう美月ちゃん」
そんな神展開にやっぱり涙を堪えられない俺に”そうだ”と可愛いピンクの包みをカバンから取り出して
「これを食べて元気出してキョウ君。一生懸命作ったの」
シュルっと水玉模様のリボンが解かれると包みの中には美月ちゃんの手作りクッキー1人前。
もう予想できすぎて覚悟してました。ちなみに神様あなた堕天してたりします?
選択肢だ。
1:「ありがとう美月ちゃん。さっそく頂きます!」キョウタロウは息絶えた。BADEND。
2:「ありがとう美月ちゃん。せっかくだから皆で食べよっかってあ〜!?」ヒロシが全部食べちゃった!
3:「ありがとう美月ちゃん。先輩達とラッセル先生も一緒にってあ〜!?」赤木先輩が全部食べちゃった!
消去法で2か3だな。
「お、うまそうじゃないか私ももらうぞ」
いきなり手が伸びてきたかと思えばクッキーが一つ摘まれて
「あ」
という間にミユキ先輩の口に消えました。”モッシモッシ”と頬を膨らませてるお姉様。
”そ、園田先輩それは!”とか声をあげようとしたが
「やはり運動の後の甘味は格別だな」
もう手遅れ。いまだ笑顔のミユキ先輩を見ながら俺とマリサがゴクンと喉を鳴らす。
「姉さんってほんと甘いものが好きなんだから」
口元に手を当てて可愛くクスクスしてるのは美月ちゃん。アハハハと乾いた笑い声をあげてるのはキョウタロウ君。ミユキ先輩にあの症状出たらどうなるかなんて想像つかないぞ帰り道に辻斬りとか宗教テロとか警戒するような人だ美月ちゃんクッキーの効能が出始めたら”誰か私に毒を盛ったな”とか言って学園規則第12条あたりまで発動しかねない。体育会系だから。この後起きる大惨事にどう備えたら良いんだ考えろキョウタロウ! カチカチと歯を鳴らしながら恐慌状態に陥っていると
「さすが私の妹だ。私の伝えた味をよく守ってるじゃないか」
まだ平静ださすが武神ユキタン何んとも無いぜ! ってなんですと?
「姉さんが教えてくれた唯一の手料理だもん。砂糖1gだって間違えないわ」
ユキタン謝れ! 美月ちゃんに謝れ! 命に関わる萌えポイント作ったことを謝れ!
「美味そうだね。私も失敬するよ」
爽やかスマイルの砂糖醤油先輩は豪快にムンズと4つも摘んでパク”モッシモッシ”。俺は即座にアイコンタクトでマリサに確認を取った。
”赤木先輩の状況を娯楽に例えると?”
ツインテールは100万ドルの笑顔で俺に
”ドラゴンボールの実写版”
致死量だ。
「ん〜いやはや園田さんって本当に料理お上手なんですねハハハハハは〜!?」
その場に崩れた赤木先輩は千の風になって三途リバーを吹き渡っています。眼下でビオレのように細かな泡を口から生成している空手部主将を見下ろしながらユキたんは5つ目のクッキーを掴み取ってモッシモシ。
「それはスベスベマンジュウ蟹だな赤木。努力は認めるがインド産では67点だふふふふ」
笑いの沸点ひく! あと産地特定基準と笑いのツボが分からないよ!
「体育会系だな?」
もっと分からない!
「お〜マダム久しぶりですね。今日も和服と厚化粧が麗しゅうございます」
おお脱衣ババと再会しているぞしかも紳士的に見せかけて実はかなりヒドイこと言ってるのではないか。
「何だショートコントか赤木?」
だからネタじゃないってユキたん! 同級生は今生死の境にいるんだよ!
「やっぱりうまいんだなぁ美月ちゃんのクッキー」
臨死体験してる赤木先輩を見つつつぶやくヒロシ。どんな思考回路したらそんな食欲出てくるんだアナグマ明らかに先輩の瞳孔開いてるだろ。ヨードーちゃんもシキも生存本能が警告してるのか”裸になって何が悪い”とかオンドゥル語を呟きながら痙攣してる赤木先輩を見て2歩後退。賢明だ。そこで最後の1枚のクッキーをミユキ先輩が取って……
「おっと園田先輩ばっかりずるいぜ!」
とシロクマがユキたんの手から
「あ」
という間に奪い取ってモッシモッシ。これだからこいつと居ても飽きないのだ。
「こら紅枝。いくら私がクッキーを独り占めしてるように見えたか知らないがな。上級生が既に手をつけたものを」
と説教始めたお姉様なぞ構わず
「甘いぜ先輩この世は弱肉強しょくはぁ」
バタン。夜空に浮かぶヒロシの笑顔に”無茶しやがって”と手を合わせる。
「何だお前も甲殻類のマネか、同じネタだからマイナス補正だふふふ58点」
やっぱり笑いの沸点ひくぅ!! だからこれネタとかじゃないから!!!
「おお紅枝君! 久しぶりだねこの川で会うのは!」
「そうですね先輩! 前はタダ乗りしてサーセン!」
ヒロシと赤木先輩が約束の地で再会。
「何だお前たち今度は二人でコントか?」
だから違うってユキたん! 砂糖醤油先輩は危ない笑顔を浮かべながら
「ん? 誰だい君は? ウスロ宮? いや知らないな」
君の行動範囲は異次元だよ大山君!!!!
「ああヒロシ君、紹介しよう。彼女が私のフィアンセの脱衣ババコさんだ。今日から苗字は赤木」
あんなのと永遠の愛誓ったのか先輩どれだけ自分の評価低いんだよ!
「うわ変態ババァ!!」
ヒロシひどい!! 赤木先輩かわいそう!! すっごい可哀そう!!
「オチがいまいち過ぎるぞ二人とも」
(先輩それネタじゃないですって)
「ユキたんいい加減コントじゃないって気付いた方がいいぞ体育会系カッコ笑い」
ピタっと静寂。最後の最後にやっちまったぜキョウタロウ君。もう神が降りてるとしか思えないな、逆さ向きに。耳まで顔が赤くて涙目のとっても可愛いミユキ先輩の手には既に月下美人。殺る気ですね? 分かります。さて選択肢だ。
1:制裁
選択肢とかなかったです。しかしまだだ! まだ終わってないぞ! ここで諦めたらお前はただのキョウタロウだ! 俺は良く訓練されたキョウタロウだ! 連邦のモビルスーツとの違い見せてやる! 俺は肩をワナワナと震わせてるミユキ先輩に超クールな笑顔を作って
「ユキたんってさりげなく貧乳だよね?」
反応がない屍のようだ。その日、私立桜花学園を震源地とした直下型地震が発生した。
夕暮れ、正門前で影を長く伸ばしているのは俺、ヒロシ、シキ、マリサ、ヨードー、美月ちゃん、そしてミユキ先輩にアヤ先輩。4月8日の入学式から今日までおおよそ一ヵ月半。風雨の影響なんかなくてとうに散っているのが桜というバラ科サクラ属の植物だろうに、桜陵校と呼ばれるこの桜花学園にはまだ未練がましくも花を残した桜たちが空に向けて枝を伸ばしているのだ。夕焼け空に季節不相応に舞い散っていく花びらを見るともなく見ていると
「せっかく集まったんだし。皆で楽しくお祝いしませんか?」
沈黙を破ったのは美月ちゃん。確かに平日含めてもこれだけの大人数で集まったのは初めてかもしれないな。とくにめでたい出来事があったわけではないが、この飽きの来ないメンバーで美味いものでも食うって意見には賛成だ。
「”祝! キョウの脱・帰宅部記念!” とかどうだ?」
「勝手にダシにするなヒグマ。騒ぐネタなら他のにしないか」
あまりのつまらなさに溜息を吐くと
「私も賛成だな。久しぶりに入部希望者が出てくれたんだ」
腕組みしながらニッコリしてるミユキ先輩。いや希望とかしませんでしたよ俺。
「そういうことなら久しぶりにワシが腕を振るってもいいんじゃがな」
セーラー服の美少女少年は両手でチョコンとお椀の形を作ってハラハラと舞い散る花びらをためている。
「ヨードーちゃん料理得意なんだ?」
とアヤ先輩。それに振り返ってニッコリ。
「はい。一応バイト先ではホールスタッフとして働く予定ですが、キッチンの方もOK出てるんですよ」
あの濃い喫茶店か、俺の頼んだオムライスは地雷だったか他は美味しそうだったよな。しかし可愛い上に料理上手が。これで女の子なら2秒で告ってるんだけどな。マジマジと見つめる。
「それじゃぁ私もお手伝いしますわ」
マリサの料理は一級品だ。加勢してくれたら豪勢になることは間違いない。ていうかもう猫被る必要ないと思うんだけどな。それからシキ君。こんなときまでルエビザ教典読まなくて良いと思うよ。隣で額に青線入れてるメガネ少年が不憫でならない。
「場所はどうしようかな?」
最もな質問がアヤ先輩の口から出たが
「宜しければ料理部の部室に来ませんか? キッチンとテーブルが近いし、それに設備も良いので熱々の料理が御馳走できます」
ポニーテールの女神様がアッサリと解決してくれた。というわけで
「よし! 派手に飲み食いするぞ!」
「ハメを外してアルコールに手を出すなよ紅枝」
「大丈夫です園田先輩。シロクマはハチミチかサーモンしか食いません」
俺たちは談笑しながら今しがた出たばかりの正門を潜るのだった。5月中旬の今日、それでも桜咲くここは桜花学園。
第3章:休日編:完
第1部:桜咲くここは桜花学園:完
第2部は新連載に続きます!
新連載開始です!
常日頃無一文です^^
当拙作がお陰さまで総アクセス数2万を突破致しました。
読者の皆様には心よりお礼申し上げます<(_ _)>
新連載開始のお知らせをさせて頂きます。
本拙作の続編・第2部にあたる「幼馴染は破壊神」を以下URLに掲載させて頂きました。
http://ncode.syosetu.com/n8067g/
リクエスト頂いたTIPSに関しましては恐縮ですが第2部で掲載させていただきます。
それでは新しくなった桜花学園を引き続き宜しくお願い致します<(_ _)>
常日頃無一文でした!
2010年2月11日追記:-------
キャラ絵をコッソリ描き始めました。。。
http://746.mitemin.net/
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