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第1話:桜咲く入学式で

初ラブコメということで今見返すと修正したくなる部分が多々あるのですが

あえてこのまま残そうと思います^^


オススメ1:ナレーションはサラリとお読みくださいませ。じっくりはNGです。



 H県S市にある私立桜花学園。日本で最初の私立高校であるそこで今日、俺は入学式を迎えるのである。最寄の”立山駅”は快速も準急もたまに普通電車も素通りする多少いらないこな駅で、同じくいらないこの扱いを受ける俺の地元の駅から普通電車に乗って7駅というところだ。途中何度も特急の通過待ちをさせられてわりとアンニュイな気分になっていたが、目的の駅に到着してホっとした。 

 改札を抜ければ桜花学園は目と鼻の先にあって、レンガで出来たドッシリとした正門の下をゾロゾロと新一年生が潜っていた。その先はなるほど、桜陵校と呼ばれるにふさわしい満開の桜が空に交差してトンネルを作っている。4月8日、入学式にピッタリではないか。

 季節相応に桜が舞い散る中、急な坂道を登っていくと左手側にテニスコート、右手側には食堂があった。その先は道が二股に分かれていて左手側に中等学の校舎が二つ、右手側は高等学の校舎が一つ建っている。二つある中等校舎のうち一つは文化遺産に指定されている年代物で、創設者の小野寺伝吉なるえらい人がわざわざイギリスから名建築家を呼び寄せて造らせた拘りの一棟らしい。そういった話を先に耳に挟んでおけば上品、気品あるいは伝統みたいな言葉が似合うような気がしなくもなかった。中高一貫教育を行っているこの学園では中学1年生のみがこの校舎を学び舎として利用できるらしいが、新高校一年生な俺は残念ながらその恩恵に預かることは出来ない。

 俺がお世話になるのは右手に見える”ありがち”という表現がピッタリのベージュ色をしたコンクリートの校舎である。ちなみに俺がこの学園を選んだ理由は、平均より小さじ一杯上っていう成績にマッチしていたっていうのがメインであり……まぁそれが全てだ。高校生活の目標はごく普通に3年間を過ごして身の丈にあったそこそこの大学に入ることだ。ついでに親友とまではいかなくても適当に見たドラマの結末なんかを気軽に話せるような友人を3,4人作ったり、食堂にお気に入りメニューを一つ二つ見つけて午後の楽しみになってくれたら言うことはない。仮にもし、もし彼女なんかが出来てしまった日には日没まで断食を行い、メッカに向かって5度の祈りをアラーに捧げようではないか。部活をやるにしても甲子園の砂を袋に詰めて”来年また来ようぜ!”と青春するようなものではなく、たっぷり睡眠学習を行った授業後の気晴らしに、一汗かいて気分転換をはかるというようなものが理想だ。さっきから自分で言っていてダメ人間全開なようであるが、これが俺という人間なのである。御清聴恐悦至極。

「よう、キョウ」

短く言って俺の肩を叩いてきたのは腐れ縁のヒロシである。腐れ縁といっても半端ではない。小学校、幼稚園、保育園はおろか生まれた日時分まで同じっていう大腐れ。多少奇跡だ。そのくせに二人が並ぶとまるで体格が違うのだ。まずは俺は背が170cmくらいと平均的なのに対してこいつは”北極から漂着したシロクマのヒロシです”と言われても突っ込むのが条件反射よりやや遅れるくらいでかい。190cmくらいだろうか。入学試験の帰りに柔道部からやたら勧誘を受けていたツキノワグマがいると聞いていたのだが、こいつでファイナルアンサーだ。俺は適当に頷いて挨拶を返しておいた。ヒロシは周りの新入生を見ながら、

「知ってるか? ここ数年前まで男子校だったらしいな」

と何か嬉しそうに聞いてきた。

「あ〜、そんな雰囲気だな」

残念ながら俺の不安は的中した。学園の案内パンフレットやホームページにはこれ見よがしに”男女共学(はぁと)”とデカデカと書かれていたのだがそのクセ行きの電車内でパラパラと見ていた生徒手帳には校訓として”質実剛健”とか”勤勉刻苦”とか言ったやや軍隊めいたものが並んでいたし”卒業生の主な進路先”にも”脳味噌筋肉大学”とか”防国体育大学”など体育系(?)な大学が多かった。男子校フラグが立っていたのはそういうことだったのかと納得。

「どうりで入学試験の時に女の子見かけないと思ったわけだよ。また俺らの青春は灰色なわけか」

俺とヒロシはやはり神に祝福された腐れ縁で中学も同じ男子校だった。思春期の俺たちは中学三年間を色気の無い野郎共、あっても困るが、と溢れるパトスを抑えながら悶々と過ごし、登下校でたまにすれ違った同い年の女子の甘い匂いにときめいたものだった。そんな悪夢の再来が迫っているのかも知れないのにこのシロクマは嬉しそうだ。死ぬが良い。

「いやいやキョウタロウ君違うんだよ。ほれ、ここ見ろ」

とヒロシが俺の前に差し出したのはどこから手に入れてきたのか学園生の名簿だ。チラっとウチのクラスをみたら名前でおおよそ女子と思われるものが40名中、23名。

「……ガセじゃないだろうな?」

ヒロシは親指を立てている。いや待て待て冷静になってみろ。入学試験の時に女の子なんて一人もいなかったじゃないか。この疑問にヒロシは

「いやいや、実はな」

と俺が握り締めていた名簿を剥がして、

「試験日がどうも男女別々だったらしいんだ」

と言った。いや意味が分からない。

「なんでそんなことしたんだよ?」

問いを予測していたように二枚目を突き出してくる。問題用紙だ。しかしちょっと待って。

「こんな問題出たか?」

明らかにグレードが高い。ていうかこれどう考えても高校受験のレベルじゃないぞ? しかし何となく見覚えがある。首を傾げているとヒロシが耳打ちをしてきた。

「それな、今年のセンター試験と同じ内容らしいぜ」

そうだ新聞で見たんだ。スッキリって。

「マジで!? それじゃ大学レベルじゃねーか!」

声がデカイってっとデカイ手に口を塞がれる。

「今言った内容は極秘な。実はさ、俺の親父がここで教師やってんだよ」

「マジか!? 親父ってあの……むが」

そっちの方がよっぽどショックだ。抑えられた手を除けて、

「それじゃぁ、その、ここには”親っさん”がいるってわけだな?」

「ああ」

寒気がした。

「教科は犯罪ですか?」

「そんなわけあるか!」

信じがたい話だ。ともかくこいつの親父については後々触れることにして、

「しかしなんで男子と女子で試験に格差つけたんだ?」

それなんだけどなぁ、とヒロシがニヤニヤしながら。

「男は学力の代わりに体力を要求するらしいぜ、これま、男子校の名残だそうだ」

だから何が嬉しくて笑っているのだこのヒグマ。とにかく俺は入学願書と同時に健康診断書を提出したのを思い出した。あれはそういうことか。確かに見回せば新入生のみんなはそれなりに頑丈そうだ。かく言う俺も部活にこそ打ち込んではいなかったのだが、親父の仕事の関係で体力には少しばかり自信がある。


「新入生の皆さんはグランドに集まってください」


放送が流れてきた。俺とヒロシは駆け足で坂道を登っていった。

 坂を上りきると目の前には大きなグランドが広がっていて新入生と思われる集団がガヤガヤと人ごみを組んでいた。人ごみの先には金属の朝礼台が置かれており、その上には牧師のような真っ黒なローブを纏った年配の男がマイクに向かって

「あっあー、ジーザス応答願います」

とデンパなフレーズで音量チェックしている。大丈夫かこの学園。

「俺もお前も2組だからこのあたりか」

とヒロシが指指す先には上級生が組名を書いたプラカードを手にして立っている。俺たちは”2組”と書かれたところへ走って行った。並び順は背の順で男女2列、平均的な身長を持つ俺は真ん中あたりに誘導された。もちろんヒロシは最後尾。男子の制服はモスグリーンのブレザーだから、女子の制服もブレザーかと思っていたのだが純白のセーラーだった。胸元のオレンジのスカーフがアクセントになっている。校長の拘りだろうか? だとしたら仲良くなれるかもしれない。したくないけど。チラっと見た限り女の子のルックスはみんなレベルが高い。一部例外もいるがほぼ全員が合格点。ああ天にまします我らの父よ、京太郎は生まれて初めてここで感謝します。これより俺の青春はその色を無機質な灰から薔薇も恥らう赤へと変えることでしょう。アーメン。感謝の祈りを捧げていると肩にボコっと何かがにぶつかった。

「あ、すみません」

見れば女子学生の一人が誘導されて俺の隣に来たらしい。黒く流れるような髪を大きな黄色のリボンで結んでポニーテールにしている。細く優しい弧を描いた眉、長いマツゲに大きな目には栗色の瞳、筋の通った小鼻に桜色の唇から除く白く小さな歯。小柄ではあるけど出るとこはしっかり出てる。直球ど真ん中ストライクの美少女だ。

「100点!」

(はじめまして)

「え?」

いかんいかん! 脳内セリフとリアルのセリフが逆転していた。

「い、いやいや、初めまして。俺は後宮京太郎って言います(彼女いません)」

つくろうように頭をかいた。いや危なかった。

「こちらこそ。私は園田美月と申します」

向日葵のような笑顔で両手をキチンと前に組んでお辞儀。サラリと揺れたポニーテールからは甘い香りがしてクラクラきそうになった。身長の関係で向かい合うと必然的に上目遣いになる。なんとなく小動物系のような雰囲気があってたまらない。この子がアルカ○ダのビンラ○ィンならば俺は聖戦士となってジャンボジェットを奪取し、大統領官邸に突入するフリだけして一人脱出後アラーの加護による奇跡の生還を演じてみせるぞ。アッシュアラー。そんな信心深いことを考えていると牧師と見間違えた校長が挨拶を始めた。ぶっちゃけどうでもいい。

「新入生諸君。入学おめでとう。本当に今日は雲ひとつない素晴らしい天気に恵まれました」

といった他愛のない挨拶から始まって、創設者の小野寺先生の偉人伝や、保険金詐欺集の香り豊かな宗教の宣伝もあったりした、が、最後は

「それでは生徒諸君に担任の先生を紹介しようと思います」

という運びとなった。

「まずは1組担当の河野先生です」

といってマイクを渡された相手は黒のレザーコートにエッジの聞いたサングラス。そして顎鬚を生やしてロックロール!……でも失敗しました。みたいな中年男が何故かエレキギターを手に持って朝礼台に上った。その出で立ちにザワつく新入生達。振り返ってヒロシの方を見てみたがヒロシは両手を挙げてを首を横に振っている。彼にもやはり分からない。

「俺の1(ファン)は41名ってことでいいんだな?」

まさかの第一声。凍てつくグランドの空気。

「俺は河野だ。皆からはなぜかマフィアだとかデンパだとか言われてるが」

至極全うな意見です。

「まぁ呼び方は適当に各自決めてくれて構わねぇ」

ギュイーンとノイジーにギターを弾く。みんなドン引きだ。かわいそうに。担任がマフィアかロックンローラーか気違いか微妙なラインのど真ん中に立っている男に決まって早くも花の高校生活終了のお知らせに涙目になってる子がいる。

「ヒャッハー!」

ギャギャギャギャギャギャイーン! ああ、泣いちゃったよ。

「続きまして2組担当の紅枝(クレエダ)先生です」

サラリと流す校長。なかなかの猛者だ。

いよいようちの担任だと思った瞬間、凄まじいエンジン音がグランドに響き渡った。もちろん全員が振り向いた。そこには金髪を真っ逆さまに立て、ドでかいバイクに跨って”友情不滅支離滅裂”を背負う真っ白な特攻服を着た……


ヒロシの親父さんがいた。


帰っていいですか?


言い遅れたがヒロシのフルネームは紅枝博だ。でかい体格は父親譲りで、能天気な性格は母親譲りだ。何度もこいつの家にお邪魔しているのだがこの親父さんとは何度会っても生きた心地がしない。別段俺が嫌われてるわけでもないしむしろ好かれているのだが、瓶ビールと釘バットを手にして歓迎するのはいい加減やめて欲しい。前に一度、訪問セールスマンがオバさん相手に玄関でゴネてるときに問答無用で握った得物でフルスウィング。その威力たるや中年セールスマンをライナー性の当たりでブっ飛ばして隣家の植え込みと化す程だ。奇怪な盆栽の出来上がり。聞いた分にはベタなギャク話みたいなものだ。残念ながらこれがリアル話だから笑えない。HAHAHA。乾いてるよな俺の笑い。あとその後に親っさんの発した一言を俺は生涯忘れない。

”間違えて瓶でやってもたわ”

バットならしんでるって親っさん。オバさん曰くは

”あれでもだいぶ丸くなったのよ? 最近は名神行っても逆走してパトカーをまくくらいなんだから。フフフ”

どのくらいが”くらい”なんだ。”フフフ”ってなんだよ。あと一度でいいから道路交通法というありがたい単語を辞書で引いてもらいたい。

 言い遅れたという意味では俺もそうか。俺は後宮(ウシロミヤ)京太郎。ごく普通の高校一年生だ。そういえばヒロシのオバさん曰くは

”あなたのお父さんだって昔はヤンチャだったんだから”

って言うのだがそれはないだろう。確かに見た目はもう極道顔負けなのだが、なんていうかそれだけ。見た目に慣れたらただの無口な酒飲みだ。一升瓶片手に毎晩飲んでるが、それでセールスマンを本塁打したとかいう武勇伝は今のところ無い。

 飛ばしすぎだよ親父さん。ヒロシは”あちゃ〜”と顔に手を当てて俯いている。心中察するに余る。

「俺が2組担当の紅枝じゃワレ! ボケ!!」

とかドスの効いた声で叫びながら頭上で釘バットをヴォンヴォンと回している。ボケってなんですか。うちの女子生徒の何人かが涙目になっている。可哀そうに可哀そうに免疫ある俺でもけっこうきついのに。チラっと美月ちゃんを見ると泣いてはいないもののキュっと胸の前で拳を握って困惑している。ああ可愛い。とにかくここで一番青ざめてるのはヒロシだろう。アレが父親だってバレた日にゃ俺なら登校拒……

「なお紅枝先生は新入生2組の紅枝博君の父君です」

鬼か校長。

「続きまして3組の担当は」

冷ややかな視線が一斉にヒロシに集中する。ああヒロシ、ヒグマのヒロシよお前の骨は俺が拾ってやるからな。グッバイヒロシの青春。

「園田先生です」

「あ、お父さんだ」

なに!? 俺は美月ちゃんの一言を聞き逃さなかった。そうかお義父様はここで教師をされていらっしゃるのか。さてそれでは拝見しようではないか。朝礼台にあがる中年の男性。中肉中背、剥げた頭に黒ふちのメガネ。第一印象は厳格、理知的、禿げ、剥げ、ハゲという感じ。マトモだ。前二人が”終わってた”分だけ余計にそう見えた。おもむろにマイクを握る。しかし常識人で羨ましいな3組。

「お前ら全員ハゲリンコ」

前言撤回。

「男はボウズ頭。ハゲリンコ。これが常識や」

どこの世界の常識だ。ざわつく新入生達。教師陣の中でヒロシの親っさんだけ浮いているとか予想していたのだがもう抜群のフィット感ではないか。豪華教師連、明後日の方向に並んだ粒ぞろい。

「もう、お父さんったらお茶目なんだから」

そこはにかむところじゃないぞ美月ちゃん。ワールドスタンダードを”ハゲリンコ”という余りに斬新なものにされた3組男子諸君は後のホームルームで栄えある”ボウズ頭”を約束された。どうか髪型と担任に負けない強い高校生となってほしい。

「最後に4組の担当は……」

おいおい父親だって紹介するのはヒロシだけなのか!? 

「裏山先生です」

言われて朝礼台にあがった教師。一言で言おう。和製フランシスコザビエルだ。

「我が教団へ入信していただくことになった4組の皆さんおはようございます」

何かおかしな前提が含まれていないかこの挨拶まがいに。

「我がルエビザ教信者になっていただくにあたって」

どこの宗教だ! しかも逆さ読みでザビエルとかどれだけ安易な命名なのだ。

「実印と生命保険の用意をお願いします」

宗教詐欺全開だ! 新興宗教にありがち過ぎて突っ込めない!

「それでは以上です同志よ」

ダメだ一番怪しいぞ大丈夫か4組のみんな!

「それではこれで入学式を終了します。後は各自教室で担任の指示を仰ぐように。一同礼!」

終わっていいのか校長!? 俺の声無き叫び声もむなしく入学式は幕を閉じた。


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