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第15話:脱帰宅部

 結論から申し上げるとマリサ嬢が俺の布団にインしていました。これでひとまず

”俺って無意識の夜這い癖とかあるんじゃなかろうか”

と悩みながら親指のツメを噛み噛みして震える必要は無くなったのだがこれはこれで大問題、むしろ今は前者の方が良かったんじゃないかとさえ思っているのだ。というのはもし俺が寝ぼけつつも”ぐふふ”とマリサの布団に潜っていたのであれば今のうちに

”あ〜この年になるとトイレが近うなってかなわんわいハルンケア必須”

などと呟きながら純真無垢なキョウタロウを装ってマイポジションに戻ればミッションコンプ。しかしそうじゃなくて俺の布団の中でマリサ嬢が

「ムニャムニャもっと強く〜」

とか激しく気になる寝言を呟きながら俺のほっぺを引っ張っている今現在、

”アマゾン神社の朝は冷えるせいか便秘になってたまらんのうコーラック必須”

とか呟きながら純粋無垢なキョウタロウを装ってマリサ布団にインすれば右に美月ちゃん左にミユキ先輩というハーレム。とても生きて朝を迎えられる自信がない。こうして打つ手もなくガクガクブルブルと寝たふりをしてマリサ嬢と同じ布団のまま午前5時を迎えたキョウタロウ君。ツインテールの起床時間は神社の朝より早いようで”フアー”と可愛いアクビしながら起き上がって目を擦り、そのままサナギのように仮死って擬態してる俺を見下ろして

「Good mornig Kyo. You're in a good mood, aren't you ?」

寝惚けてる。

「日本語でOK。あと生きててもいいですか?」

「うん。生きててよし」

生存許可おりました。そこで俺もムクリと起き上がって周囲が寝静まってるのを確かめて

「もし脳が覚醒していたら解説求む」

まだ皆がスヤスヤしてるうちにな! と言えばこのツインテールは

「今さら何を言ってるのよ」

と眠気眼のままグジーと俺の鼻先を人差し指で押して今は懐かしすぎる幼稚園時代の思い出話を引っ張り出してきた。

「”お昼寝の時間”の時にさ、キョウって”や〜や〜まだネンネや〜”とか大声出して全然寝付かなかったの覚えてない?」

ブンブンブンと身振り手振りを交えつつ幼児声をクリアーに再現されて俺は枕に顔を埋めて悶死。記憶にあるからかなり死ねる。口からショウユ出ててるバッタのように痙攣してる俺を放置して続けるマリサ。ヘアブラシで器用にツインの寝癖を修正しつつ

「あの時にいつも俺が一緒に隣で寝てあげて、頭撫でながら”ねんねこ〜ねんねこ〜キョウは俺に絶対服従〜”って子守歌歌ったらね」

どんな母親が歌うんだその睡眠学習型調教ソング。

「いつの間にかテールの片方キュっと持ったままスヤスヤ寝てたんだから」

”可愛かったな〜”とか懐古ってるマリサ。死ぬほど恥ずかしいがまぁそう言えばそんなこともあったような……って!

「それで昨日お前が俺のとこに侵入してきモガ」

マリサの手がピタっと口を封印、声が大きすぎたかっていやいやお前年考えろ! 年を! 

”お陰で俺は安眠どころか休日の睡眠時間4時間未満とかいうハイスコアを更新しちまったじゃねーか!”

アイコンタクトで烈火のごとく猛抗議。それにただ

「えへー」

と小さな舌を出しているマリサがめちゃくちゃ可愛かったというのは脳内だけで言っておく。しかしそれでワザワザ寝る前にも関わらず髪結んでましたとかいうオチじゃないだろうな? 

「ムニャムニャ、私のポニーだって気持ちいいもん」

それ寝言だよね美月ちゃん? 

 まぁとにかくそういうことだ。昨晩については寝たのか失神したのか良く覚えてないが4時間弱睡眠でも割とスッキリしている。

 楽しいお泊りから一夜明けて今現在午前9時、俺達は学園の正門前。やれやれ日曜に高校ですか、と思う俺は発想が帰宅部なのか、今や陸上部の超ド級エースであるマリサは総重量100kgオーバーのスポーツバッグを背負ったまま体育館に向けてトコトコトコ。

「いったいその異次元ポケットの中に何が入ってるんだ」

とバッグに不釣合いもいいとこな華奢な背中へ問いかけた俺に

「ウェイトトレーニング用のダンベルよ。体育館のじゃ軽すぎて話にならないわ」

と答え、そこでツインテールを揺らしながら振り返って

「一緒に帰ってあげるから待ってなさいよ。今度すっぽかしたらタダじゃおかないから」

そう笑顔で呪いをかけてから軽快な足取りで坂を上って行った。昨晩のことなんかホント気にしてなさそうだ。

「それじゃぁアタシ達もいこっか」

「そうですね先輩」

「めー! お姉ちゃんでしょハ〜イやり直し!」

「う、うん行こっかお姉ちゃん」

役作りというの名の調教をアヤ先輩に受けつつ、制定カバンを体の前でキチンと両手で持ちながら歩いているセーラー服の美少女少年ヨードーちゃん。傍から見れば色っぽいことこの上ない女子高生である彼は今朝、園田邸での朝食後、

「せ、先輩大丈夫ですワシ一人で着れます!」

なかば懇願してるにも関わらず浴衣の帯をアヤ先輩にガッチリと掴まれて

「まだまだ着こなしが甘いわお姉さんがキチンと指導しないとダメねうふふふ」

と酒に酔った仕事帰りのパパが”お土産買って来たぞ〜”みたいに持ってる菓子箱のようにブラさげられて一室へ消えていった。

”あのパワーの発生源は何処に有りや”

と見送っていたら”カチャリ”という施錠音が聞こえてきて後はヨードーちゃんの断末魔。彼の冥福を祈っていると5分後、

「もうお婿にいけない」

とシクシク泣きながら可愛らしい妹系女子高生が姉とともに出てきた。少々残酷なようだがしかし、これはこれでありかも知れないなと頷いている俺がいたのだった。

 ヒロシはヒロシでバスケ部に、シキはシキで新着図書の整理に、美月ちゃんは”今日はクッキーかな”とテロ予告めいた独り言を呟きながら桜花ホールへ向かった。さてこうして余った俺はというと

「することがないなら私と一緒に汗を流すといい」

というミユキお姉様の発した色っぽいお誘いにありもしない幻想を頂いた結果、めっちゃ走っている。すっごい走ってる。言い忘れたがミユキ先輩は廃部寸前の柔道部に身をおく数少ない部員であり主将である。顧問はあの時代錯誤の藤堂先生。

 案内されるままにイグサの匂いが香ばしい柔道場に入るや

「部員がいないからたくさん余ってるぞ」

と半ば自慢げにパリっとした柔道着を押しつけられ、お断り申し上げる機会も与えられないまま

「そこの更衣室で着替えて来い。私は先に正門前で待っている」

と残してミユキ先輩は柔道場を後にしてしまわれた。”正門前?”とか思いつつもピカピカの柔道着を装備した俺が駆け足で坂を下れば校門の前で腕組みして待っているお姉様。黒Tシャツの上から柔道着を着ていて帯の色はツヤツヤの髪と一緒でもちろん黒色。二人そろうと校門前で仲良くラジオ体操第一。誰もいない日曜日で良かったほんと恥ずかしいもん。最後の深呼吸を終えて

”なんで柔道場じゃなくて正門前なんだいユキたん?”

とか考えてる俺に

「今日は軽く体を慣らすことから始めようか」

とステキな笑顔のお姉様。俺もあまりハードなのは勘弁願いたい。神社で万回の兎跳びとかな。

「入部初日だから軽く学園の外周でもするか?」

「入ってないです! 全然入ってないです!」

「心配するな藤堂先生の許可はとってある」

アヤ先輩といいどうしてここの先輩方は無駄に手際が良いんでしょうか。

「学園規則にも強制入部に関する禁止事項は載っていないしな、ハハハ」

法の抜け穴見つけたときの悪徳弁護士のセリフですそれ。

「体育会系だろ?」

何も関係ない!

「よ〜しそうと決まれば話も早いな」

置いてかれてる! 当事者なのにいっさいがっさい置いてかれてる!

「先輩無茶苦茶です! ノーです!」

俺はノーと言える日本男児です! パワハラ撲滅!

「お前、目上の者に対しての返事は全て”ハイ”だろ?」

目を細めるお姉様。迫力がやばい。マリサがリヴァイアサンならミユキ姉様はバハムート。やっぱり世の中縦社会。

「返事は?」

「はい……」

「声が小さい!!」

「ハイ!」

「もっと大きな声で!!」

「ハイ!!」

「入部希望者か?」

「ハイ!?」

「受理しよう」

後宮京太郎、名門桜花学園の柔道部廃部の危機を救う。

 「一周遅れになったら周回数を倍にするからな!」

「ハァハァ、つまり何回増えるんですか!」

既に声を張り上げないと届かない程、並木道を走るお姉様の背中は小さくなっている。

「20周だ」

心が折れそうだよ! ランニング開始して30分でまだ2周目。このプチ短距離走のピッチで走っても単純計算で5時間です。

 桜花学園を上から見下ろして反時計回り、つまり常に学園を左手側に見る方向で正門からヨーイドンすればまずお年寄りの早朝散歩に最適な長さの下り坂がある、が、あくまで最適なのは長さだけであって自転車であれば”最高にハイってやつだ”と言わんばかりの心地よいスピードが出るくらい急だからやっぱりお年寄りにはお勧めできない。ツネさんあたりに走らせたらゴールラインはきっと三途リバー。そんな下り坂を駆け抜けて平地に出れば秋には大きな黄金トンネルと化す銀杏の長い長い並木道に出る。今は青々としている銀杏の木々の下、道なりに進むとちょうど真ん中あたり、右手側に車道を挟んで美月ちゃんと過ごしたあの公園がある。

 銀杏の並木道を抜けるとT字路に出るので、学園に沿うように左手に折れたら学園所有の大きな来客兼教員用駐車場が整備されている。整備されているとは言っても砂利が引いてある敷地の要所要所に車止めと鎖の柵がしてある程度。どうでも良いが俺の親父もヒロシの親っさんもここにバイクを止めるの見たことがない。ちなみに反対側、つまりT字路を右手側に行けば大きな市民図書館があるのだが、そこは夏場、苦学生達の勉強会場や外回りのサラリーマンの方々の避暑地としてフル活用されているそうだ。つまりは血税を投入されていつのまにかキノコのようにポコポコ建設されている無駄な閑古鳥オブジェクトより遥かに役立っているということだ。この辺りは車線幅も広くなっていて横断歩道が二つ、歩道橋が一つあり、車の交通量も多い。道路の向かいには軽食堂や喫茶店などの飲食店が軒を連ねているのだが、美月ちゃんがよく園芸用品を買いに行っているホームセンターも一見自然でもよく見れば違和感バリバリにそこに並んでいる。

 話を戻して、駐車場を過ぎれば桜花学園の錆ついてギーギーうるさい裏門が見えてくるのでそこを潜ればお待ちかね、通称”心臓破りの坂”だ。実は今までの道は大なり小なり下り坂だったのだが裏門入口が最下層である。そこから学園のグランドまで”今まで下りてきた分返せ!”とばかりにひたすら続く上り坂。表門に対して裏門とは良く言ったものでグランドまで続くこの道は全く舗装されていない獣道。春と冬はまぁいいが、夏は草ぼうぼう、秋は落ち葉だらけという走るにしてはかなりの悪路と言える。散歩するぐらいなら道を挟むように生えてる桜とか綺麗で良いんだけどね。ちなみにこの坂のゴール付近に桜花学園付属図書館が建っている。年期を感じさせる焦げ茶色のこの木造建築をのぞけば、受付には額に青線入れつつもルエビザ教典を読んでるシキの健気な姿が見られるから良ければ励ましてやってほしい。

 必死に坂を上ってグランドに出て、食堂前の坂道を下ればスタート地点の正門だ。これがいわゆる外周と言われるルートである。

 5週目になり、お姉様の姿が視界から消えておよそ10分。ちょうど学園の駐車場に差しかかったところだ。酸欠で回らなくなっている頭でもやっぱり認識できてしまうのがモヒカン学ランという武装高校丸出しなスタイル。ザっと見て30人くらいだろうか、休日でガランとしている駐車場の真ん中でタムロしている。やることも服もないのかお前ら。まぁ触らぬバカに祟りなしというので往来行く人同様に華麗にスルーと行きたいのだが、やっぱり彼らのいるところにトラブルはつき物で、だいたいそれが女性絡みだから俺は避けて通れないのだ。鉄パイプ、角材、バット、などの物騒な得物を手にしたモヒカン共の群れに囲まれている美人を見て俺は

「逃げろ〜!」

の声にズラっと振り向くモヒカン集団。

「何だコラてめぇは!?」

「邪魔してんじゃねーぞコラ!」

「またお前かコラ!」

「やっぱりお前かコラ!」

「久しぶりかクラァ!」

「入部したのかコラァ!」

顔見知られて来てるのがなんか嫌だ。俺はとにかくその集団の前まで来て息も絶え絶え、なんだけどそれを隠して

「死にたくなかったらその囲みを解くがいい」

とクールに決めてみた。

「ゴイン」

あ〜!! ガムテープの補修後いっぱいついてる木刀で頭殴られた! 中途に痛い! てか金髪グラサンリーゼントまたいるのかよ! 木刀もいい加減買い換えたほうがいいぞ! それどう見てもガムテープの方が面積多いから! 俺以外の人が見て木刀って分からずに

”土星から飛来したOパーツかな?”

って夜眠れなくなったらどうするんだ! とうずくまりつつも酸欠を我慢していたから

「ハァ、ハァ、ハァ」

「な、なんだコイツ殴られて興奮してやがるぞ!?」

「なわけあるか! ていうかお前ら手出す前に聞く耳持て!」

頭摩りながら涙目抗議。

「ザケんなコラ!」

「スカしてんじゃね〜ぞクラァ!」

モヒカンが一斉にわめき出した。しかし今は絶対にひけない。

「いいから聞け! お前らケンカ売る相手くらいしっかり確認しろ!」

「お前何様のつもりだクラァ! 俺様を”木刀のリュウ”と知っててホザイてんのかコラア!」

「初耳もいいとこだこのリーゼントヘアが! はっきり言ってお前らなんかより大山君の方がずっと知名度高いわ!」

「「「「「「傷ついた〜!」」」」」」

新しい攻撃方法だ! ていうかそんな場合じゃない今は!

「死にたくなかったらさっさと帰れ! お前達が絡んでる相手はな!」

ミユキお姉様だよ! さっさと今のうちに……

「当学園生に対する暴行と傷害を現行犯で確認」

あああ〜死亡フラグ! この人生終了宣言フレーズに聞き覚えがあるのかモヒカン軍団の7割が血の気が引いてる! てか最初から気付けよ! お姉様どうか寛大な処置を!

「加えて凶器準備集合と女子生徒への暴行未遂か。フフフこれは第10条まで適用できるじゃないか」

可愛い笑顔で怖そうな事言ってる〜!!!! お姉様は朱塗りの鞘を払って……って

「それランニングの時に持ってませんでしたよ!?」

「なに乙女の(タシナ)みだ」

「理由が不適格過ぎて逆に間違い指摘できません!」

 

3分後。


「歯ごたえのない連中だな。これじゃコメディじゃないか」

パチンと愛刀を鞘に収めるお姉様の前に築かれたのはバベルじゃなくてモヒカンの塔。これコメディじゃなくてホラーです。ほのかにおぞましい即席の建造物を前にしてムンクの叫びのように細ってる俺に歩み寄って来たお姉様は

「大丈夫か? すまないな、後宮なら問題なくかわせると思ったのだが」

と仰りつつ背伸びして俺の頭を撫でり撫でり。

「コブはできてないな。あの程度なら内出血の心配もないと思う」

今までその存在の大きさでなかなか気付けなかったが、身長、ミユキ先輩より俺の方が高いようだ。まぁいくら強いとは言え先輩も女の子ということか、な〜んて余分なこと意識するから心拍急上昇!

「ん? お前風邪でも引いてるのか?」

と心配そうに覗き込んでくるお姉様。やっぱりお顔が火照ってたのね!

「い、い、いえそんな俺はいたって健康優良男児無農薬有機栽培です!」

”愛媛ミカンにも負けません!”とかテンパってると細い手で頭をそっと掴まれてオデコがぴったんこ。ってお姉様!?!?

「ん〜……すこし熱っぽいな。言葉も歯切れが良くないし意味も不明瞭だ。いずれにせよ具合は良くなさそうだな」

そりゃもう頭は熱暴走してるし心臓バクバクだし体だってさっきから8月の太陽のようにって、か、顔がこんなにも近いんですが……。目を閉じて俺の健康チェックをなさっている麗しのお姉様。ビューラなんて使ってないと思うけど見事なほどマツゲは長くて上にカーブ。端正な顔立ちも整った小鼻も、薄い桜色の唇も美月ちゃんソックリで。そりゃそうか実の姉妹だもんな。そっと目が開いた。吸い込まれそうな程綺麗な栗色の瞳が現れて体が固まる。ミユキ先輩は髪からフワリと甘い香りを残して離れ、

「いったん道場に戻ろうか。そこで様子を見よう」

クルリと向きを変えて歩き出した。我に返った俺の胸はしかし、さらに高鳴る一方だった。

 学園の坂をミユキ先輩と柔道着姿で登る最中、池周しているバスケユニを着たシロクマのヒロシに

”お前あの柔道部に入るって正気か”

というアンビリーバブルな目で見られ、桜花ホールへ向かう最中にグランドを走っているブルマのツインテールとすれ違った際には

”俺は何があっても見捨てないからね”

と可哀そうな子を見るような視線を送られ、ホール入口まで来ると演劇部部室の窓がガラリと開いて可愛いヨードーちゃんがニョキ。

「お兄ちゃん頭おかしくなっちゃったの?」

結論じみた発言を投げかけられたキョウタロウ君。隣でミユキ先輩が

「いや、確かにさっきも”俺は無農薬有機栽培です愛媛ミカン最高”とか意味不明なことを呟いていたがたぶん風邪だと思うぞ」

ズレた上に改竄(カイザン)されてるセリフ交えたフォローありがとうユキたんこれで俺アホ確定です。

”そいえば確かに具合も悪いな”

とトボトボと柔道場へ入っていくのだった。

 道場ついたら体温計を脇に差しこまれてしばらく、ピピピとなって取りだせば

「37.5度です」

「よかった平熱だな」

今の会話何かおかしいと思わないかね君?

「まずは基礎の受け身から行こうか。まずは手本を」

と恐らく後方受け身を取るであろうミユキ先輩をピタっと(テノヒラ)出して制止。

「いや〜たぶんですけど俺出来ますよ」

と謙遜気味に返せば”では見せてみろ”と首を軽く傾げる先輩。それではさっそくと親父から習った後方、側方、前方回転受け身を

「えい、やー、たー」

パンパンパンとリズム良く行った。かなりブランクがあったのだが意外と体は覚えているものだ。昔取った杵柄(キネヅカ)ってこういうことか。さりげなく(コトワザ)の勉強をしている俺を見ながら顎に手を当ててコウコク頷いているミユキ先輩、

「型は問題なさそうだが、実戦で使えるのか?」

と聞かれて

「たぶん大丈夫だと思い」

と答え終わる前にミユキ先輩がサっと俺の右裾を取って”払い腰か!?”とか思ったら襟も捕まれてまさかの背負い投げ。勢いよく腰をハネあげられて体がグルっと回っている最中に右裾を離されて、投げっぱなし!? 中空で体全身に遠心力を感じつつ不自然な位置に見えている道場の畳。この角度で落ちたら間違いなく頸椎をやられる。俺は畳に両手をつき、衝撃を吸収するように肘と体を同時に曲げ、丸めた背中で畳へ着地して勢いを殺さず前転、起立、そして向き直って構え。いや〜危なかったユキタンむちゃくちゃだよ、とか思ってたら

「何だ後宮、お前空手を使えるのか?」

お姉様のキラキラした興味津々な眼差しに”へ?”とか間抜けな声を出したら自分のとっている親父直伝の構えに気付いて

「いや無理っす!」

解除。でもこれがユキたんの乙女(?)のハートに火をつけてしまったのだと気付くのはもう少し後のお話。

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