TIPS1:抜刀娘の独り言
常日頃無一文です^^
以前に光栄ながら”ミユキの視点で1話”というようなリクエストを
読者様より頂きましたので、TIPSという形でこちらに1時掲載させて頂きます。
舞台は入学編の生徒会役員会議です。
ご期待に添えるか分かりませんが精一杯執筆させて頂きました!
なお今後もリクエストは随時受け付けていますので
宜しければメッセージ、感想版などで御依頼下さいませ。
TIPSという形で執筆させて頂きます!
なお御依頼頂いて執筆したTIPS集を
のちのち外伝のように別投稿する予定です。
今回の見所は初めて
”キョウタロウの外観”に触れることでしょうか。
それではお楽しみ下さいませ!
これが本当に名門男子校桜花学園と言われていた学び舎なのだろうか。だとしたら創設者の小野寺先生もさぞ嘆いているだろうな、気骨はないくせに口説くことだけは一人前な男ばかりが増えたものだ。実際にこうして2年になって初めての生徒会役員会議に向かう今ですら、
”なぜ私はこうも毎日金魚のフンの処理をせねばならないのだ”
と呆れているのだ。まぁわざわざ振り返って断りの口上を述べずとも
「お前、私は忙しいんだ。これ以上余分なことを言わせると学園規則に則って」
と愛刀の鍔を起こすだけで
「ヒ〜! すいません園田さん!」
と追っ払えるのだがな。しかし生徒手帳の1ページに書いてある規則くらいは目を通しておけ。これでは演劇の練習削ってまで文章練っていたアヤが報われないじゃないか。この分だと月下美人を抜くのにどれだけの制約があるのかなんて知りもしないんだろうな。溜息ばかりが出てくる。
「捕ま〜えた。今日もモテモテねユキたん」
と飛びついて私の背中に小鳥みたいな重さを与えてるのは
「アヤか」
私の右肩からリスのように顔を出してニコニコしているこのメガネ美人は私の数少ない親友の一人だ。
「ここの廊下はたまに1年生がやってくるんだぞ。演劇部部長がそんな姿してるの見られて良いのか?」
と背中にピッタリと捕まっているアヤを横目で見れば
「何か困るのそれって?」
といつも通りの答えで苦笑い。そして変わらない日常への安堵。
「いいや、アヤが気にしないなら私は構わないさ。それより早く行こう」
「そうだね。初日から上級生のアタシたちが遅れたら示しつかないもんね!」
”よっし”と拳を握るアヤ。
「そういうのはおぶられて言うセリフじゃないだろ」
「アハハハハ」
よっと私は幼児化したアヤを持ち上げて生徒会室に向かった。
高等学校舎2階、生徒会役員会議室にはまだ誰も来ていない。まぁ当然だ。開始時刻から半時間も前に来て教室の掃き掃除や雑巾掛けなんてするおバカは私とアヤで充分だ。ガラっと窓を開けてひとまず空気の入れ替え、次に机を全て押し下げ、黒板のチョークを整頓して黒板消しを清掃機で吸引。2年目になればこの慈善事業の準備も5分とかからなくなる。
黙々と教室の美化に励んでいたのだが
「そういえば」
と途中で気になっていたことを切り出した。アヤは窓ガラスにスプレーをかけては拭き取る、スプレーをかけては拭き取る、という作業のリズムを崩すことなく
「ああ、はいはい。美月ちゃんが気にしてる子でしょ?」
部活紹介のときにある新入生に探りを入れてもらう約束をしていたのだが
「背は平均的で170前後くらい。体型は細身だけど鍛えてるかな、武術の心得があると思う。手を握ったときに分かったわ」
さすがに演劇部の観察眼だ。そこでクスクスと笑って
「どうしたんだアヤ?」
ついモップの手を止めてしまう。アヤは振り返って
「んんん。美月ちゃんが気になるのも分かるかなって。だってすごく格好良かったもん後宮君って」
少し気になるな。
「例えば?」
促せば
「そうね〜。目鼻立ちも整っててクッキリ二重でちょっと可愛い系なんだけど、優男君かって言われたらキュっと引き結んだ口なんかは男らしいのよね〜。素面でもうちの部で男優させたいくらいだし、メイクしたら女役でもいけちゃうんじゃないかな?」
アヤがそこまでベタ褒めするのは珍しいな。ザブザブと水の入ったバケツにモップを突っ込んで汚れを落とす。今日は比較的綺麗な方だ。
「噂をすれば影がさすってね……ってほらあの子」
どれどれと窓の外に顔を出せばアヤが指差してる先は下足箱。夕暮れ時、長い髪を二つに結わえた女子生徒に何か小言を言われて頭を掻いている男子生徒が一人。
「ユキたんの8.5っていう超絶視力ならここからでも顔分かるんじゃないかな」
確かに私の目は人より良く見えるし耳も人より良く聞こえる。今は後頭部しか見えないが……。
「でも彼、きっと自分がどう思われてるか気付いてないと思うな。よいしょ」
とアヤが机を元に戻し始めた。私も手伝おうか。しかし
「美月も年相応に色気がついてきたということか。姉としては何だか少々複雑だな」
「なにお母さんくさいこと言ってるのよ。ユキたんだって花の17歳じゃない。気になる子くらいいないの……って一度に机2脚運ぶってやっぱりすごいわね」
「ああ。本当なら5,6脚までいけるが見かけが少々ハシたなくなるからな。そういうアヤこそどうなんだ?」
ガタンと机の半分の移動が終わったところで、私はモップとバケツを廊下に出す。
「そうそう! それなんだけどね! 今日とっても可愛い子がうちの部に入ったのよ!」
バンバンと机を叩いて一人テンションあげているアヤ。セーラー汚す前にティッシュ出しておくか。
「ヨードーちゃんって言ってもうありえないくらい萌え萌えでキュートでもうお姉ちゃん興奮し」
「ほ〜らアヤ少し上向いて口で息しろ」
私は苦笑いしながらアヤの小鼻にそっとティッシュを当てるのだった。
所定の席に座って談笑しながら役員達が集まってくるのを待つ私とアヤ。何でも例の男子生徒、後宮京太郎のルックスはアヤのお墨付きなのだが本人はそのことを自覚していない上に女子に対する免疫も全くないそうだ。というか
「アヤの神懸かった演技力でお弁当なんか渡されたら、後宮でなくても女の私でさえドキドキすると思うぞ」
「もう〜ユキたんそんな煽てて」
と笑っているが私はお世辞やウソが大の苦手だ。つまりこれは事実であって、それには去年の文化祭でうちのクラスの出し物だったお化け屋敷が大きく関係している。クラスの総指揮、美術、演出、音響、そしてメインの幽霊、まぁほとんどか。それらを担当したのがアヤだったのだが、その出来栄えがあまりに見事で入場者の6割が失神するという騒ぎがあった。ここだけの話、アヤと同じ幽霊役をしていた私ですら
”1枚……、2枚……”
と精巧な井戸のセットの隣で正座して皿を数えるアヤの後姿に背筋を凍らせていたのだからな。ハハハ。以来、私は幽霊が苦手になってしまったというのはアヤにも秘密だ。
「……なんだけど後宮君ね、実はもう狙われてるみたいよ。ん? どうしたのユキたん幽霊でも見たみたいに額に青線入れて」
ビク!
「な、なんでもない。それより、狙われてるって?」
「うん。八雲マリサっていう長い髪のハーフの女の子。さっきの子よ」
ああ。下足箱で後宮と一緒にいた女子生徒か。さっそくライバルが登場してしまったな美月。
「すいません遅くなりました」
「あ〜遅れてすいません」
と背後で扉の開く音。時計を見れば開始時刻を10分過ぎていた。少し話し込んでいたようだな。アヤは知り合いでもいたのか十八番の女神スマイルで”やっ”と後ろの誰かに挨拶をしている。そして私に小声で
「ユキたん。来たよ例の子とマリサちゃん」
私は頷いて席を立ち、少し乱れている髪を払ってから壇上に立った。そして間違いなく投票で選ばれているはずの妹を見つけようとしたのだが
「ミヅキはいないようだな」
小さいとは言え自分自身で声に出してしまうほど意外だった。美月を押しのけて役員に選ばれたのは……八雲という女子生徒と隣の……!? なるほど、あの恋愛に無関心だった美月がまだ少しとはいえ興味を持つわけだな。それにアヤがベタ褒めする理由も納得だ。
「今日集まってもらったのは特に用事があるわけじゃなくて、ちょっとした顔合わせをしてもらおうと思ってな」
ひとまず区切りをつけて簡単な行事の説明をしようとしていると
「遅れてごめんなさいなのです!」
そそっかしい末っ子が扉を勢い良く開けて来た。良かったなアヤ、さっきのうちに今日の分の鼻血出し切って、と机に突っ伏して極楽浄土にいる親友へ苦笑い。私はまだ状況が理解できていないミカに説明して中等学の役員会議室に向かわせた。初日からこれでは先行き不安だな。頭痛のする頭を軽く揺すっていると
「「あ〜なるほど」」
と息をピッタリ合わせて笑っている後宮と八雲。どれ、少しカマをかけてみようか?
「はい、そこのカップル。悪いけど惚気るのは後にしてくれ」
とワザと大きな声を出して見ると後宮が慌てて立ち上がって
「いやいやカップルとかあり得ないですってマリサはただの幼馴染」
と否定のジェスチャーをしているところに八雲の制定カバンが顔面を直撃。
「すみませんうちの京太郎が無礼を致しまして」
机に爪立てて悶絶している後宮とは対照的に涼しげな笑顔でおじぎする八雲。面白そうな二人だ。
「いや、分かってくれたら良い」
八雲はただ者じゃないな。もしかしたら”また来年も私が生活指導担当か”と溜息を吐くことがなくなるかもしれない。
そのまま予定通りに自己紹介が進み、順番が巡って後宮の番が来た。では拝見させてもらおうか、と私は知らない間に少し身を乗り出していた。ガタリと席を立って柔らかそうな髪を掻きながら
「え〜っと皆さんコンニチワ。予想と期待に反して選ばれてしまいました凡人の後宮京太郎です。ほんとすいません申し訳ないです」
「こらキョウ! 先に”初めまして”でしょなんでいきなり謝ってるのよ!」
出だしから隣の八雲に突っ込まれて役員達に笑われている。狙っているのなら大したものなのだが
「地雷踏んだのか俺?」
顔が赤い。どうやら天然のようだな。
「と、とにかく精一杯頑張りますので、宜しくお願いします」
頭を下げて着席。そして机にグッタリして
「神よあなたはどうしていつもこういう場で試練をお与えになるのですか改宗してくれるわ」
と良く分からないことを呪うように呟いていた。面白そうだな、後宮京太郎……か。自分でも気付かないうちに私は笑っていた。