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第11話:3度目の朝礼で

 月日が流れるのは早いもので、俺がこの学園に通い始めて早1ヶ月が経とうとしていた。最初はインパクトの大きかった教師陣のお陰で、高校生活終了フラグが日章旗に負けじと颯爽とはためいていたのであるが、慣れてみればどうということはなくほぼ当初の希望通りの学園生活を送っている。

 最近はこれといった事件も起きていないのだが、ほどよくめでたいことがあった。身内ネタで恐縮なのだが親父の就職先が決まったのだ。別に今までもプータロウをしていたわけではなく、むしろ大工の棟梁という割と男前な仕事をしていたのだが、何を思っていたかここ一ヶ月前から”E−仕事”なる転職情報誌とにらめっこを続けており、そしてつい先日、納得のいく仕事にありつけたらしく昨晩から随分と機嫌が良いのだ。別に顔にそれが出ているわけではないのだが、その辺はさすが親子と言うべきか、たとえば今、朝食の席で向かいに座っている親父のネジリ鉢巻きがいつもより食い込んでるな〜とかそういう微妙な変化で分かってしまう俺がいるのだ。しかしぶっちゃけ前の仕事で充分だったんじゃなかろうか。この年で安定している仕事を放棄してまで転職するとか冒険もいいとこだ。今親父が受け持ってる建設中のマンションはどうするんだろう。俺はそんなことを考えながら味噌汁をズズズっとすすっている。

”ピンポーン”

とインターフォンがなった。そういえばこれも変化の一つと言って良いかもしれないな。

「あ、マリサちゃんおはよう。いつもすまないねこんなバカのために」

と上機嫌なお袋の声が聞こえてきた。一言余計だ。あの一件以来朝になるとマリサが迎えに来てくれるようになったのだ。おかげで立山駅からグランドに向けてダッシュするという習慣はなくなって実に有難いのだが、お袋とマリサの交わすこのインターホン越しの2,3言のやりとりが日に日にエスカレートしていくのが気になって仕方ない。

「もう、あんなバカいつ引き取りに来てくれてもいいのよ? そう、じゃぁ高校卒業したらすぐね。え? 今朝? 確か青のトランクスだったかしら」

味噌汁を吹きそうになった。これ以上個人情報を漏洩されたり妙な人身売買をされても困る。俺はさっさとブレザーに袖を通して玄関に出た。

 「おはようございますわ京太郎さん」

ツインテールがバッサリ猫を被っているということはお袋の目がある証拠だ。親にストークされるほど箱入りな扱いは受けていないのにな。俺は

「ウィース」

と挨拶してから並んで最寄り駅まで歩いていった。

 「あーっあーテス、テス、ルエビザ教典第二巻は680円」

というニシカド校長のマイクテストを俺とマリサは校門を潜ったところで聞いた。今日は金曜日なのだが朝礼があるようだ。しかし創刊号より安くなるシリーズものとか企画倒れのレベルじゃないか。このまま680円で続けるのか等比数列のように暴落していくのかは知らないが、校則でバイトもできない学生に教材ではなくエセ宗教本(断定)を売り付けるのはいかがなものか。純情なシキなどは発売日に創刊号を買い、我慢強いシキなどは最後の一行まで読み切り、優しいシキなどは

”ちょっと僕には難しかったかな、アハハ”

と笑うのであった。これはつまり買う価値0なわけで。そういえば図書委員をしている彼から帰り道にこんなことを聞いた。

”図書館の取り寄せ依頼にルエビザ教典のリクエストが30件もあったんだ。すごい人気なんだね”

これに加えてニシカド校長と裏山先生が最近、図書館の新着図書コーナーをうろうろしているとか、リクエスト受付用紙をゴッソリに鞄に入れていたとかいう不特定多数の証言を照らし併せて見れば、おのずと一つの結論にいきつくのではないかと思うのだが、純真無垢なシキなどは

”先生は執筆活動だけじゃなくてちゃんと新刊図書のチェックもしてるみたいだよ。仕事に熱入ってるね”

とニコニコしているのだ。仕事に熱が入ってるというのは俺の見解と一致するのだが、熱の入れ方についてはきっと大きく違うのだろう。

「キョウ。さっきから何をブツブツ言ってるのよ?」

とツインテールが顔を覗き込んできた。

「ああ、いやいや大したことじゃないさ。自演乙、みたいな売れない作家の話」

と生徒会役員所定の位置、即ち朝礼台の隣へ並ぶのだった。

 朝礼が始まり、ニシカド校長の眠気を誘う電波攻撃に耐えるため、”美月ちゃんを探せ”というゲームに興じている俺。しかしクラスメイトの中を探せど探せどあの可愛いく揺れるポニーテールを見つけることができないでいるのだ。風邪でも引いたのかなと心配してると、さっきからやたらと可愛いセミロングの女の子が小さく”ヤッホー”と手を振っているのだ。その可愛さたるや美月ちゃんに引けを取らず、言うなればそれはまるで美月ちゃんのように可愛く純真で、例えるなら美月ちゃんのように目鼻立ちの整っ……って美月ちゃん!? この驚きは露骨に顔に出てたようで美月ちゃん、口元に手を当ててクスリと笑っている。美月ちゃんを見てからポニー最強と思っていたのだがここでまた考えを改めなくてはならない。やはりポニーは風や動作の影響を受ける、つまり躍動感のあるヘアスタイルであるためどうしてもスポーティーな印象を与えてしまうのだ。そういう意味では美月ちゃんの属性ではないのだが、あの驚異的なフィット感はまさしく美月ちゃんという素材の勝利だったのだろう。そして今現在、可愛くおしとやかな女の子にピッタリなややなだらかなウェーブのかかったセミロングのヘアスタイルは美月ちゃんの属性にドンピシャであり例えるならエクスカリバーを手にしたアーサー王か、3cm鼻の高くなったクレオパトラといっても過言ではない。

(120点!)

「結婚しよう」

いかん! 日に日に脳内のセリフが過激になっていくではないか! ていうかマリサなんで赤面してるの!? そんなスゲー可愛い顔してコクンとか困るよ!それから前列にいるセーラーのヨードーちゃん! 何でお前残念そうな顔してるんだ! そんで肝心の美月ちゃん! 君に聞こえてないなんて! いや聞こえても困るけど!

「すまないがムリだな」

誤解です! 力いっぱい誤解です! でもなんかすっごい悲しいよミユキ先輩!

「え〜それではさっそく、新しい先生方を紹介したいと思います」

そこでようやく今が朝礼中だったことに気付いた。流れ的に教師陣に新たな奇人変人が加えられるようだ。もう大抵のことでは驚かんぞ。

”ッドッドッド”

っという大型バイク特有の排気音が徐々に大きくなってきたなと思っているとグランドに現れたのはでかいハーレーに跨り、”天下泰平宣戦布告”という平和主義をうたってるのか武力闘争をうたってるのか良く分からないスローガンを背負った真っ赤な特攻服をまとい、そしてネジリ鉢巻きをガッチリと締めた極道! というアホとしか言いようのない構図を体現した……


俺の親父だった。


転職失敗し過ぎだろ! 


カセドラのイエスのように石化していると続いて

”ヴォンヴォン!”

という聞きなれた派手な音をまき散らしながらあがってきたのはやっぱり親っさんで、勢いそのまま親父めがけて

「しねや!」

とすれ違いざまに釘バットを振り下ろした。親父はそのあまりに暴力的な一撃をどこに持っていたのか大きなドスでもってガッチリと受け止めた。耳をつんざく金属音。二人は火花の散る鍔迫り合いをしながら

「相変わらず馬鹿やっとるやないけ紅枝!」

「ほざけやお前みたいにチンタラ大工なんぞやっとれるか!」

謝れ! 親父以外の大工さんに謝れ! 二人はそのままバットとドスというミスマッチにも程がある得物で凄まじい剣劇を繰り広げた。

「…であり、また後宮先生は紅枝先生と親交が深く、お互いに切磋琢磨して友情を育んでおられました」

凶器で殴りあうのを親交が深いとは言いませんよ校長先生。

「なお後宮先生は1年2組後宮京太郎君の父君です(笑)」

どのタイミングで言うねん! あとカッコ笑いってどういうことや!

「ワイルドなお父様じゃない」

手を組んで目をキラキラさせてる隣のツインテール。眼科行ってこい。親父と親っさんはそのまま火花を散らしながらグランドの端へは端へと移動していった。そのまま帰ってこなくていいよ、二人とも。

「続きまして、クビにするハゲの園田先生に代わって空手部の顧問に就任されるラッセル先生です」

今さりげなく馬鹿にした上に解雇通告しなかったか? とか思うや否や黒い塊が上空から飛来して轟音と共に校長の立つ朝礼台に直撃。とっさにミユキ先輩が庇ってくれたようで伏せている俺とマリサの前で仁王立ち。構えて手にした刀は既に鞘を払っていた。スゲー。もうもうと立ち込める砂煙の中、現れたのはヒシャげた朝礼台とその上に立った身長190cmくらいで真っ黒な空手道着に赤帯を締めた外人。金髪のオールバックに大きなコバルトブルーの目。反り上がった鼻とアゴが特徴のこの男は

”石の上にも3年、ファミレスにも8時間”

という迷惑極まりないフレーズが書かれたハチマキをしている。

”せめてオーダー3回は入れろよ”

と突っ込みたいのは山々だが、しかしそれより校長大丈夫だろうか。いやだめだった。倒れた校長は口から自分形の白いエクトプラズムを吐いており、痙攣してる我が身を感慨深そうに見下ろして

「生まれ変わったら藍色のハイソックスになって履かれたい」

と割とどうでもいい転生願望を呟いていた。校長を三途リバーへ追いやったガイジンは絶句している生徒達を一通り見てから転がっているマイクを拾って

「皆サンこんにちわハジメマシテ。ツイツイ余所見をシテタラ階段ヲ踏み外しマシタ」

と聞き取りにくいことこの上無い日本語を語り出した。踏み外したら朝礼台に飛び降り自殺とかどこの階段だよ。

「コレガホントノ、階段の怪談。HAAAHAHAHAHAHAHA!」

ついていけない! ちっともついていけないよ! いったい誰だよこのガイジン!

「もうパパったらいつまでも子供なんだから」

お前の親父かツインテール! そこはハニカムとこじゃなくて石化するとこだろ! ラッセル先生はそのままサブすぎる親父ギャグを一人かまして

「HAHAHAHA↑↑」

と一人笑って自己完結したり

「ニッポンイチ高い山はフジヤマ! ソノツギは!? ケッコンにキマッテルじゃねーか!」

とか微妙に的を得たことを言ったりしながら目ざとくも激しく迷惑ながらも俺を見つけ、

「オーー! ヒッサシブリダナーキョウちゃん! ピロシキ食べるかー!?」

食べない! すっごい欲しくない! このガイジンはそのままマリサと併せて俺をガッチリとハグして

「キョウちゃんのパパもベリーベリーエクセレントな侍だゼー! HAHAHAHA! ピロシキ食えヤー!」

と親父を褒めつつ、日本文化をバカにしつつ、ピロシキを強要しつつ、将来の息子(サン)だと誤解しつつ、結局何が言いたいのか分からないまま

「ソレジャまた後でアオウゼ! このピロシキがー!」

と最後は俺をピロシキそのものにして校舎の中に入っていった。どうでもいいが道着のバックには虎の刺繍。黙ってたらそれなりにかっこいいのにな。あとハチマキとったら。

「やれやれ本当に信じられないことをする先生だな」

溜息を吐きつつ刀を鞘に納めているのはミユキ先輩。実にごもっともな意見だ、校長を勤務初日から瀕死に追いやるとか教師のすることとは思え……

「生徒がマネして朝礼台壊したらどうするつもりなんだ全く」

そっち!? そっちなの!?

「それではこれで本日の朝礼終わります。第2巻は歴史の期末考査問題付きで680円」

予備のマイクで豪華特典付きCMをしながら朝礼の終了を告げる裏山先生。

「大司教ニシカドが消えた今ルエビザ教団は私のものですな、ぐふふこれぞ神の思し召し!」

何か確執めいたこと言わなかったか? 入学式から数えて三回目の朝礼はこうして幕を閉じた。この学園、まだまだ慣れそうに無い。


第2章:日常編:完

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