表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマリリスは夢を見る。  作者: 真中ユウ
アマリリス12歳
8/30

俺の仕える主人② ※アレク視点





「あら、アレクじゃない」

「おはようございます。奥様」


ローレンス様に仕えて暫く経った後、偶然奥様にお会いした。奥様は中々外には出られない。というのも奥様の側には末娘のアマリリス様がいるかららしい。



この頃まで俺はアマリリス様にお会いした事は一度も無かった。存在は聞くが見たことの無い幻。アマリリス様はとても小さく生まれてしまった為、体が弱く、部屋から出られることが稀だったことも原因の1つであったらしい。




…将来的には病気と無縁になるほど頑丈になられましたが。寧ろもう少し大人しくしてて欲しいほどなんですが。それとこれはさて置き。




「アマリリスに会うのは初めてよね?最近元気なのよ、この子。ほら、アマリリスご挨拶は?」


奥様に抱かれている小さな女の子。

お嬢様に初めて会った日。



奥様に似た綺麗な黄金の髪に、 くりっとした大きな瞳から溢れ落ちそうなエメラルドグリーンがこちらを見ていた。

まるでお人形のような可愛らしい顔立ち。



「アレクと言います。はじめまして」

「アリク?」


少し舌足らずだけれど、それがまた可愛らしさを増長していた。



「アレクよ、アレク。くすくすっ…言えてないわね」


奥様はとても可愛らしい人。旦那様の遺伝子は何処にあるのかと言わんばかりに奥様に似ているアマリリス様はきっと、将来は奥様にそっくりに育つのだろう。



「そうそう、アレクはローレンスの事で迷惑を掛けられてない?あの子はちょっと神経質というか、頑張り屋さんなんだけれど、あの子の親としては心配なのよ」

「ローレンス様は頑張ってます」



そう、頑張っている。

頑張ってはいるのだ。人一倍の努力をしている。



「そう…。アレクが側であの子が無理しないように見ていてあげて欲しい。支えるなんて大層な事は言わないから、せめて見守るぐらいで良いのよ」

「僕に出来ることを精一杯します」



アマリリス様は奥様に抱かれて眠たそうにこちらを見ている。この子が将来、俺が仕える事になる主人に変わるなんて、この時は全く気づいてなかった。



ただ純粋に俺を見つめてくる瞳が綺麗に輝いていて、俺の心を掴んでいた。





***



ずっと危惧していたことが起きてしまう。



ローレンス様に仕えて1、2年ほどが経ったある日のことだった。ローレンス様はその日も勉学に励んでいた。俺は側にいて見守るだけ。たまにローレンス様から質問が飛ぶとそれに答える。その繰り返し。


子供ながらにローレンス様は必死だったのだ。兄のクロード様は天才だが、ローレンス様は努力の人。文字の読み書きや礼儀作法、言葉遣い…それらを習得しようと朝から晩まで勉強づくしの日々。兄に追いつきたい。その気持ちはよくわかる。



執事見習いとしてローレンス様に仕え始めて、この仕事も奥が深くやりがいがある仕事なんだと感じていた。同時に歳の離れた兄に嫉妬する気持ちもローレンス様の気持ちがよく分かった。



また、執事としての心得についても理解し始め、叔父や父がよく言っていた"主人の幸せを願うのが執事だが、主人の間違いを指摘し正すのも側にいる執事だからこそ"という言葉を自身に問いただして悟る。



…ローレンス様は、張り詰めすぎている。

心が擦り切れるほどに小さな身体に溜め込んでいる。



「ローレンス様、休憩したらどうですか?」

ローレンス様が好きな紅茶を注ぎ、休憩を促す。



「僕にそんな暇は惜しい。そんな事を言うぐらいなら、調べてきて欲しい物がある」

「…しかし」


口答えしたのが行けなかったのだろうか。

ローレンス様は初めての形相を見せた。



「煩い煩い!アレクには分からないんだよ!僕は追いつかなきゃ行かないんだ!アレクには僕の気持ちなんて分かりっこない!」

「ロ、ローレンス様っ…」

「じゃないと僕はっ…認められないっ…」



ローレンス様は精一杯の力で僕に殴りかかってきて馬乗りになった。頬を殴られてヒリヒリと痛みが走る。


「やめてください!」

椅子が勢いよく倒れ、その音に気付いたらしいメイドとメイドの側にいたアマリリス様が部屋の戸を開け、制止を促した。



「け、ケンカはダメなの!」

アマリリス様が僕たちの所に駆けて来ようとする。メイドがアマリリスを制止すると同時に俺も叫んだ。

「来てはいけません!」


涙をポロポロと零してローレンス様と僕を見るアマリリス様。悲しそうな表情をしていて、見ていられなくなった。そして、それ以上に馬乗りになり俺を見下げるローレンス様の表情が今にも泣き出しそうな悲しい顔をしていた。


殴られた頬よりも胸が痛かった。



「…私もローレンス様と同じように、兄に嫉妬する気持ちは分かります。ですから…」

「アレクにはそれでも分からない!僕はっ…」


ポロポロと涙が伝い俺の頬に落ちる。

ローレンスは堪え切れない涙を流し、僕を見下ろす。



「アレクには絶対、分からない!」



頭に血が上ったローレンス様は先程俺が注いだ紅茶を俺にかけようとティーカップを掴んで振りかざす。




「アマリリス様っ…!」

「兄様!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ