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アマリリスは夢を見る。  作者: 真中ユウ
アマリリス12歳
4/30

夢を現実にしないようにするには。②




目の前に出されたダージリン。紅茶のいい匂いが鼻腔を擽る。一口飲んでほっと一息。紅茶に一欠片の砂糖とミルク。



「お嬢様、もう少し優雅に飲んでください。音を立てないように。」

「マナーレッスンをこんなアフタヌーンティーの時にまで持ってこないで!」



本当に抜かりない。アレクは私を素敵な素敵なお嬢様に仕上げる魂胆なんだろう。人前に出るときはきっちりとするから、出来れば自室内にいる時ぐらい気を抜いて過ごさせて欲しいものだ。



「お嬢様が立派なレディでいらっしゃるのはわかっております。」

「それなら、もっと気を抜かせてもらっても良いんじゃなくて?」

「だめです。」



アレクは元々三男のローレンス兄様の執事だったのだけれど、ローレンス兄様はあまり人が側に常に居るのは好まない。少し神経質な性格なのだ。また学業の専念も相まって学園に入り浸る事も多く、ローレンス兄様は早々に私に執事を譲った。かれこれ7年ほどは経つと聞く。私も覚えていない頃から。




私からしたらアレクは最高の執事だと思っているけれど、きっとアレクは本来仕える筈だったローレンス兄様から格下げの次期家の後継にすらなれない女主人の私に仕える事になり、尚更躍起になっているのだろうと思う。



「…あぁ、暇よ。中庭に行きたかったわ」

「断固お止め致します」

「だって、もうすぐ中庭の薔薇が花咲くの。出来れば摘んでお部屋に飾りたい」

「…お嬢様、手が荒れるからやめて下さい。というか、既に傷だらけじゃないですか!?何してるんですか!?」

「え?薔薇の手入れをしに?」



綺麗な薔薇に棘があるとは良く言ったもので、中庭の見事な薔薇にも棘が溢れている。令嬢の手とは思えないような生傷が沢山の手は下手したら給仕しているアレクよりもボロボロである。



「花を愛でるのは良い事ですが、傷を作るのは言語道断です。して欲しい事があるなら、私や庭師にお伝え頂ければ何なりと行います」

「自分でしなくちゃ意味が無いから良いの。」


傷によく効く軟膏を丁寧に私の手の傷に塗って行くアレク。そんなに心配しなくて良いのにと思う反面、心配してくれているのが嬉しいとも思う。


「お嬢様のそのような自分を軽んじている所は直して欲しいですが、 長所でもありますからね。出来れば私の目の届く範囲でのみにして下さい。」

「大丈夫よ。社交界デビューもまだだから自由にできるわけじゃ無いもの」

「…社交界デビューしたら今の比じゃないって事ですね」



リリア姉様やシンディ姉様と比べたら私は大人しい方だと思う。彼女達の方がお喋り好きで兄様達とよく言い合っている。私をじゃじゃ馬と言うのであれば、他はどうなのだろうか。



「…私は知らないって顔しないでください。お嬢様の事はお嬢様以外に把握してるつもりです」

「例えば?」

「内緒です」


悪い笑みを浮かべている。これは深追いしたら私がしっぺ返しを喰らうものだと分かるので早々に退散する。


「お嬢様の成長を隣で見てきたのです。良く知ってますよ」

「ど、どこ見てるのよ!?」


主に私の成長し始めた胸囲辺りでアレクの視線が止まる。確かに気にしてるけれど!お姉様みたいに大きくなりたいとは思っているけれども!


居た堪れない空気を濁すように紅茶に手を伸ばす。しかし、中身はもう飲みきってしまったようだ。



「紅茶のお代わりを取って来ましょう。すぐ戻って来ます」

アレクはそう言って部屋を後にした。







「…遅いわ」


しばらくしてもアレクは戻ってこない。数分経っても気にはしていなかったものの、数十分経てば気になり出す。そもそも、あんな夢を見たばかりなのに軽薄過ぎた。アレクを一人で行かせた事を後悔する。


アレクには出て行く前に重々な注意を受けた。アレクが帰ってくるまで部屋からは出ないと言う指示。でも、アレクが帰ってこないのは私にとっては一大事だ。


だって。



「…お花を摘みに行きたくなったんだもん。仕方ないよね?」


つまりは生理的欲求である。流石にお手洗いは私室にはない。部屋を出る以外に方法は無いのだ。それにアレクも心配だ。



ドアノブを回すとすんなりと扉が開いた。左右をキョロキョロと見回す。誰もいない。もちろんアレクも。


こんな所をアレクに見られた暁には数時間のお説教コースだろう。それだけは避けたい。

数分で戻って来られる距離だし大丈夫だろう。



ではお花を摘みに行ってまいります。



スッキリ気分は爽快。人間の生理的欲求は我慢してはならない物なのだと痛感。心に余裕が出来てふと気付くのはいつもと違う屋敷の雰囲気。


「…使用人が誰もいない?」


ここへ来るまで誰一人とも使用人とは出会わなかった。いつもは必ず何処かにいて、私達家族からいつ呼ばれても良いようにスタンバイしている優秀な使用人の方々。それなのに今日はやけに人の気配を感じない。



「…早く戻りましょう。アレクも戻って来ているかもしれないもの」


ブルリ、と少し怖くなってしまう。

アレクのお説教は私の大嫌いなものだもん!

あれだけは頂けない。

早足で廊下を進む。走ったら走ったで危険で怒られるから可能な限りの早歩きで。







…結果だけを言えば、私は自室には戻る事が出来なかった。大きな手が私の口元を掴み、意識はそこで途絶えた。


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