友人は欲しいけど何か違う。
「アマリリス様、ご機嫌よう」
「アマリリス様おはよう御座います」
…何これ、何なのこれ?
1日は完全なる病欠をし、念の為と休みを2日で合計3日間の休暇を経ての登校。もちろんアーノルドの馬車で…って、どうしてよ。結局、お兄様にハンカチ返せてないもの、返したいのにタイミング逃しちゃったじゃない。
しかもアーノルドにはめちゃくちゃ謝られてしまった。どうしてアーノルドに謝られるのか分からない。
久しぶりの学園を目の前に、前回のトラブルを思い出して身体がすくむ。基本的に人前に立つというのは苦手で友人だっていない。少なからず注目されていたので思い出すだけで憂鬱だが、勝手に馬車は進む。
そうして学園についたが、予想とは反して周りが私に話しかけてくる。それも1人や2人ではなく、かなり多く。
てっきり陰口でも言われるかと覚悟していたものの、まさかの積極的なアピール。もとい、攻撃にしか私には見えません。人見知り発動してしまいます。
「貴方、私がいない間ここで何があったのか知ってるのよね?教えて」
「んー、アマリリスが僕の願いを聞いてくれたらいいよ」
「…例えば?」
「僕にキス」
…聞くんじゃなかった。無視しよう。
アーノルドに踵を返すと、冗談だと慌てて訂正をしてきた。冗談に聞こえないから怖いのよ。
「アマリリスのランチでの騒動を見て、アマリリスに対しての見方が変わった、というのが大方の意見としてあるんだよ。今まで掴みどころのない、無口で大人しい変な公爵令嬢として見られていたからね。だいたいは権力を振りかざしたり、派手に振る舞うから。まぁ、無口は兎も角、大人しいなんてアマリリスを知る人が聞いたら笑っちゃうよ」
「だからって笑いを堪えそうにしないで下さる?だいたい、アーノルドだって私のこと知らないでしょう?偽婚約者様」
「…偽って、僕にとっては本当の婚約者でしかないし、世間的にもそうだよ」
だいたい、私は喋る時は喋る。ただ、家では聞き役が多く、人見知りも相まって友人もいないから話す機会がないだけだ。大人しいとは家族が聞けば笑うか引くかのどちらかだ。
「まるで人が変わったかのようだった、とみんな口を揃えて言ってるんだ。それこそ、能ある鷹は爪を隠すってね」
「それは褒められている気がしないのだけれど?」
「十分に褒めてるさ。」
何も嬉しく無い。私は目立たず穏やかで地味な学園生活を望んでいる。初端からアーノルドのせいで叶わなくなって来ている気がしていたが気の所為だと誤魔化してきたのに。
「とにかく、学園内では話しかけないで!」
「今日はアマリリスから話しかけて来てくれたじゃないか」
「…明日以降で」
「いやいや、僕にとってそれは不利だからね。君を振り向かせる為には必要なことだ」
私にとっては不要なんですけどね。
こう話してる間にも周囲の人がヒソヒソと私たちを見て会話をしている。先日までと同様な嫉妬の視線も感じられるが、それ以上に生暖かい視線が多く感じられるのは私が自意識過剰だから?
…『お似合いね』って聞こえたのは気の所為?気の所為よね!?誰か気の所為って言って!!
「…講義が始まるわ。それではご機嫌よう」
とりあえず退散しましょう。
こういう時、同じ教室じゃなくて良かったと心から思う。
講義が終えて昼食の時間を迎えたけれども、やはり食堂では視線を感じる。学園生活を平穏無事に過ごしたいというのに、前途多難。
「…少しいいかしら?」
既視感を感じた光景。見覚えがあるが夢ではなく現実で身に起こったことでの既視感。ナスター様が以前と同じように目の前に立っている。以前より覇気のなさが感じられるのは負い目があるからなのだろうか。
「もちろん、どうぞお座りになって」
「ありがとう」
どういう風の吹き回しなのだろうと、ナスター様を失礼の無い程度にじっくりと見回す。綺麗な赤い髪は健在だが、やはり覇気がない。強気なナスター様、素敵だったのだけれども。
「ナスター様、それ…!」
「な、何よ。良いじゃない別に」
ポタージュにパン、前回の時に食べていたものと同じメニューを食している。正直言って質素な食事だ。公爵令嬢ともある人が食べる昼食ではない。
頬が少し赤くなるあたり照れているのだろう。
「…貴女に水をかけて、悪い事をしたわ。謝るわ」
「気にしていません。あれは事故だもの。」
「ねぇ」
ナスター様は意を決したような顔をして、緊張した瞳でこちらを見ています。何故か私まで緊張が移ってしまいそうです。
「わ、私の師匠となって下さらない?」
「…ししょう?」
「アーノルド様を射落とすのは諦めました。貴女には勝てませんもの。器も足りない事はわかったの。だから次の素敵な殿方に巡り合った時のためにも、と…」
「そのための師匠?」
「そうですわ。だって、アマリリス様かっこよくて…」
「無理です!師匠なんて!」
「そんな…」
ナスター様の目が潤む。何故こんなことに?あんなに気が強そうだったナスター様はどこに消えたの。私を見る目が、顔が、うっとりと惚けているように見えるのは気の所為だと思いたい。私に攻撃してくる人を相手にするのは兎も角、今にも泣きそうな顔をされてしまうと、私はどうしたら良いのか分からない。
それに、殿方と巡り合った時のためって、私は恋愛なんて知りません。自分には縁遠いものだと思っているのに、私が役に立つとでも…!?
「お、お友達からでどうでしょう!?
師匠なんて私には向きませんわ!」
「アマリリス様のお友達?そんな恐れ多いこと!」
以前の強気な彼女から、今の彼女へのギャップで落ちる殿方山の如し。私なんて全くもって役に立たない。
…アーノルドもこのギャップに射止められてくれないかしら?そのまま婚約破棄に出来れば…。
余計な事を考えず、まずは目の前の彼女をどうするか。彼女が恥を忍んでこんなお願いをしてきたのだ。私も恥を晒そう。
「ナスター様、これは私からのお願いですわ。
私、友と言える方がいなくて…出来れば貴方にその第一号になって頂きたいの。ずっと屋敷に引きこもって社交なんてしてこなかったものだから…」
「アマリリス様の第一号の友人、私が?」
「お願いしますわ」
彼女が震え出した。面白いのだろうか、この年で友人がいない事が。
「そんな記念すべき第一号を私に下さるのですか?私の第一号は他の方にあげてしまいました。アマリリス様にお返しできるものがありません…!」
予想外の斜め上の回答。
…ナスター様って、面白い人ね。
「是非、第一号になってください。
…それに、貴方の秘密が知りたいの」
「何でしょうか?」
「その胸の膨らみ、どう育てるの!?」
「………」
憐れみの目で見ないでください。
「そんな事なさらなくても、アーノルド様ならきっと…」
「?」
「いえ、何でもありませんわ」
こうして私は友人第一号を手に入れた。
…手に入れられた、のかしら?




