夜中のティータイム
ふうわりと湯気とほのかな花の香りが香ってくる。綺麗な琥珀色の紅茶を喉に通す。ほっと一息つくと、今日の出来事が頭の中を駆け巡る。
「本日はお疲れ様でございました」
「…アレク」
晩餐会自体も大変体力の必要なものであるが、それに加えてドレスの件もある。疲労はいつもの倍以上。更に明日は無事、姉様の結婚式を迎えることができゆっくりしてられそうもない。
「…まぁ、まさか犯人が身内だとは思わなかったですけど」
「そうかしら?ドレスを盗むと言うことは屋敷の間取りをよく知らないと出来ないわ。内通者、もしくは知らずに利用されている可能性は考えられたわ」
実行犯はディランだったが黒幕は別にいた。ディランから語られた黒幕の名は私のアマリリスの父の兄の子であるアーサーだ。
「ディラン様としては、狂言が狂言で無くなった、と言うことね」
ディラン様がドレスを盗んだのは単に姉であるリリア姉様を驚かすのが目的だったのだろう。悪質ではあるが悪意はない。
…驚かして何の利益があるのかはさて置き。
ただ共犯の人間は悪意があった。二人の結婚を妨害して自身の方の希望を叶えるため、前者の人間をうまく利用しようと考えた陳腐な計画である。
「お嬢様はどうされるるつもりですか?」
「お父様に全て委ねるわ。…空っぽの当主の座に価値なんてあるのかしらね。」
このキャンベル家は栄えて来た。
アーサーの父上であるグルード叔父様は当主の座に興味のない人で早々に父にキャンベル家の当主の座を譲ったと聞いたことがあると言うのが建前だ。
事実は少し違う。父が叔父よりも優れていたからと言う方が正しい。この国の貴族階級内の暗黙のルールでは長男が家督を継ぐ事になっているがキャンベル家では世襲制は問わない。
兄様達は長男が優秀な為元来の世襲制として機能しているし、次男や三男に家督を継ぐ気持ちもない。より優秀なものを当主にするのは理に叶うもので、だからこそキャンベル家は栄えて来た。長子という立場に胡座をかいて失脚した歴史上の王は数多い。
アーサーは野心家だ。父親が公爵の地位を継いでいたらアーサーが次期キャンベル家当主となる可能性が大きかった。もちろんその器があればの話である。離れて行った権威を取り戻さんがばかりに、キャンベル公爵家の力を削ぐ"汚点"を探しているのだろう。
その汚点として目を付けたのが今回の婚姻破棄だと私は考える。キャンベル家の落ち度で結婚式が破談となるのは、対外的にもあまり良いものではない。
勿論、こんなことでキャンベル家が取り潰されるとかは無いだろうけれども、こんな事が続けば現公爵の立場が揺らぎ失脚する場合も考えられる。
「私やアレクに犯人だと知られてしまった時点で、アーサーに当主となる資格はないわね」
「お嬢様は勘が良いですから、気付かれないほうが変だと思いますよ?」
「バカね。自分で言うのも可笑しいけれど、たかが小娘の私に気付かれる方がおかしいのよ。…それよりアレク、座りなさい」
本日の功労者が立ち仕事を続けて、私が優雅に紅茶を嗜むのは違うでしょ!
主従を気にするのなら逆とまでは言わないけれど、せめて席について欲しい。
「何でしょうか?」
「アレクが上手く動いてくれたお陰で助かったわ、ありがとう。ドレスの仕込みも思いつくのがもう少し早ければ自分でしたのだけれど」
「お嬢様が私にお礼を?どうしたんです?槍でも降って来るんですか?」
「待って、私そんなに普段からお礼言ってない?え?」
「嘘ですよ。お嬢様はいつも私を気遣って下さってます」
今回のこの策についてはでどうしても自身の力不足を感じる課題点。ドレスの差し替えなど初歩の対応術だったのに、ドレスを盗まれないことに必死で見れていなかった。
…もっと冷静に周りを見る力を養わないといけないわね。
アレクにも紅茶を注ぎ2人で夜中の祝杯をあげる。紅茶には眠くなくなる成分が入っているらしい。明日はリリア姉様の結婚式だと言うのにも関わらず、夜は更けていく。
「そう言えばお嬢様、黒子の件はどう言う事だったのですか?ディラン様の右腕には黒子なんて無かったように見受けられましたが」
「私もうっかりしていたのよ。あそこが衣装部屋だってことに。」
「…なるほど」
衣装部屋には必ずある物。
それに映った左手首が私の夢に現れただけのこと。
ただ、それだけだ。




