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アマリリスは夢を見る。  作者: 真中ユウ
アマリリス12歳
21/30

姉様のドレスを探せ⑦




息が荒い。人は激しい運動をした時に息が切れるものである。勿論、それ以外にも息が切れる場合がある。


極度の緊張状態の時、人は呼吸が乱れる。

緊張からか嫌な汗が額から流れて顔の輪郭に沿い落ちるのを見て、私は緩む方を抑えるのに必死だ。





「…ふふ」


アマリリスは我慢できずに艶やかな唇に弧を描く。

たまらないと言ったように微笑む彼女の妖艶な笑みは12歳だとは思えないほどのもので、アレクは大きなため息をついた。


「…お嬢様…」

「アレクは待ってなさい」


この主人はやはり目が離せない。

アレクの静止も虚しくアマリリスは飛び出す。





「…誰だ!?」

「犯人は戻ってくるって本当なのね。もちろん分かってて待っていたのだけれど。…リリア姉様のウエディングドレスを盗んだのは貴方でしょう?…ディラン様」

「…何故僕がそのような事をするのです?」



彼はシーヴァー様のご兄弟でシーヴァー様に良く似た顔立ちだが、少し幼くしたような顔立ちのディラン様は私をじっくりと見定めている。シーヴァー様もディラン様も母親譲りの美しい顔をしている。



…歳は私の3つほど上か。

次女である姉様と同じ年頃でもある。



私を頭の先から爪先までじっくりと観察し、そして鼻を鳴らして見下すような視線を私に絡ませる。


「アマリリス様、憶測で発言するのは如何かと思われますが?僕が犯人だと言うのなら証拠があるのでしょうね?」

「……」



完全に舐められた。年下のましてや女の言う事だとタカを括られた。しかし、それは全てが悪いことではない。相手も油断をしボロを出す恐れが高い。



「ふふっ…」

唇の端を上げ笑うアマリリス。美しい顔だが何故かぞくりと背中に悪寒を感じる。びくりと先ほどまでの高慢な態度から少し焦りを出すディラン。



「この数日とても楽しかったですわ。ディラン様のおかげ。…でも、お姉さまを巻き込むのは許せないわ。」


遠巻きに見るアレクはため息が止まらない。スイッチの入ったアマリリスは人格が変わるに近いものだと知っている。多重人格ではないが、彼女の二面性は把握している。俗に言う怒らせたら怖いという部分である。




笑顔がとても怖いものになる。


彼女の怒りのバロメーターを計るには笑顔を判断するのが一番である。




「…お嬢様には淑女然として頂きたいといけないのですが。」


頭の切れる主人であり怒らせると怖い。人を使うことを普段はしない代わりにここぞと言う時に発揮する力は正しく、人の上に立つ力を持つ。女としておくには勿体ない方である。齢12歳の令嬢だとはまるで思えない。



蝶や花よと大人しく籠の中の鳥でいてくれたらどれほど良かっただろうか。


「…だから私はお嬢様から離れられないんでしょうね」

それは主人には聞こえない独白であった。








ディランは焦りを目に映している。さっきまでの余裕の態度はどこへ行ったのか。私はただ微笑んだだけなのに、それでそんなに額に汗して小心者なのかもしれない。


「ディラン様の気にしている証拠はあります。…貴方が盗んだドレスは、お姉さまのものじゃない。私が差し替えた偽物。それに私は細工をしたわ。是非貴方自身を確かめてみたら?」


「…これは!?」




私がドレスに施したのは色水香。最近うちの領地で商品開発が行われた液体に匂いがついたもの。本来ならいい匂いがするのだけれど、商品開発の最中にできた副産物でとても言葉に表せない匂いがする。



その独特の匂いが彼から匂ってくる。非売品であり、決していい匂いでないそれを付けている彼が犯人である。


「っ…こんな、匂いだけで犯人にする気ですか!?」

「それだけじゃないわ。あのドレスにはもう一つ仕掛けをしておきました」



こちらにくるように手招きをするとディランはおとなしく付いてきた。招くは誰もいない部屋まで。


「…こんなところに呼び出してどうする気ですか?」

「よく見ていて下さい」



部屋の照明を落とす。

真っ暗闇になった空間に彼の服についた粉が光る。



「こ、これは!?」

「ドレスに蝶の鱗粉をかけておきました。夜光蝶が我が領地に生息してるので、それを採取して利用したの」



夜光蝶はめったに生息できない。自然豊かな場所を好むため、キャンベル家の領地のごく一部に生息が確認されているだけだ。

以前、たまたま採取した鱗粉を使用する機会が来るなんて思ってはいなかったけれども。





「…何故、王都では生息が確認されていない夜光蝶の鱗粉が貴方についているの?そんな匂いまでさせて。まさか、鱗粉がついたまま洗濯していない衣装で来られた訳ではないでしょう?」


「そ、それはっ…」


「姉様の婚姻を妨害するような行為は家同士の争いに発展することは想像つかないのかしら?」


「っ…」



公爵家同士が争った場合、相打ちにしかならない。優劣は多少着いたとしても互いに醜聞は良くない。他の醜聞は蜜の味がするそうで、そうなれば格好の噂の的になる。良い噂は回るのも時間がかかるが、悪い噂は一瞬で回る。互いに良いことは一切ない。




「…ねぇ、ディラン様。貴方は()()指示されてこのようなことをしたの?」

「そ、れは…」

「言い方を変えましょうか。()()この計画を知っているのかしら?」




青ざめるディラン様。なんて表情の出やすい人なのでしょう。可愛らしい方ね。



「っ…くそ!」

「きゃあっ…」

「お嬢様!」



突き飛ばされ尻餅をつく。流石に年上の男性相手に力で対抗は無謀であるのは、私でもわかる。…ただ、相手方の力で対抗するという何とも考えなしの行動に呆れてしまう。




アレクが飛び出し、アマリリスとディランの間に立つ。アレクから飛び出したのは、未だかつて聞いたことのないドスの効いた低い声。



「お嬢様に何をするんでしょうか。お嬢様に仇なす者は誰であろうと私が許しません」

「アレク…」



アレクの威圧感に気圧されたのか、ディランは腰が抜けた様に床に座り込む。




「…こんなつもりじゃなかったんだ。

あいつが、僕を唆して…」

「あいつとは?」



ディランの口から語られた人物を聞いて、アマリリスはやはりか、と思う。

口元が緩むのを抑えるのに必死であった。





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