姉様のドレスを探せ③
「…お嬢様」
「お嬢様はやめて。私はただのリリで通ってるから。アレクも執事言葉は辞めて私をリリと呼んで。これは命令よ」
「…わかりました。」
はぁ、と大きなため息を聴きながらも、私は視線をぐるりと見渡す。
「おぉ、リリちゃん。久しぶりだね。最近顔を出さないじゃないか!食っていくかい?」
「ダリおじさん!お久しぶりね。今日はもうお腹一杯なの。ごめんなさい」
「ダリお兄さんと呼んでほしいね!お、今日は兄貴連れかい?」
「そうなの。兄さん出かけるの嫌いらしいから無理矢理連れてきちゃった」
じとりと私を見て、怒り浸透しているアレクの姿を横目に私は街を歩く。王都のすぐ近くにあるこの街はキャンベル家の領地であり治安も良い。私も大好きな街である。
「…リリ」
「なぜ怒ってるのかしら。アレク兄さん。無理矢理連れ出して怒ってるのかしら?」
「どういうことですか。そんな格好までして。」
深めの帽子に髪を詰め込み、ヨレヨレの絹のボロにパンツ姿。到底貴族とは思えない格好。街へお出かけ平民スタイル、である。
郷に入れば郷に従え。
特にこの長い髪は平民ではあまりない。手入れなどの観点から伸ばせないのが実情ではある。隠さなければならない。
「…屋敷に帰ったら覚えておいて下さいよ」
「いいじゃない、減るもんじゃないんだから。」
「俺が旦那様に叱られて精神が削られます」
「それより今日はこっちが大事よ。貴方が怒られないようお父様には掛け合っておくから」
キャンベル家の仮にも息女が1人気ままに街へ出るということが、いけないことらしい。護衛をつけろと以前にバレた時に叱られた。
私からしたら安心安全な市民が住む素敵な街だからこそ、護衛なんて以ての外だと言いたい。
「だいたい、昔ばれて大目玉喰らったのはリリ、貴女自身です」
「だから敬語はやめて。…屋敷も楽しいけど外は私の知らない世界ばかりよ。もっと楽しいわ。それに私は彼らの働きを頂いて暮らしているのよ。それをしっかり見ないでどうするの。彼らの不満を改善する所はしていかないと領民は他所に行ってしまうわ」
ー…全くこの令嬢は、何故こんなに聡いのか。
アマリリスを見ながらアレクは思う。
世間の令嬢は世間を知らない。知らなくても生きて行ける。領地を収めるのはあくまで領主の仕事でありワガママ放題だと耳にする。領地を継ぐ嫡男でも考え方が甘いものも多い。俗に言う胡座をかく状態だ。
そもそも、アマリリスの姉であるリリア様やシンディー様も基本的にはワガママを言う令嬢ではない。
…アマリリスほどの聡明さはないが、それでも民を思う心を持っている。それ故に領地は平和で安全に、領民からも慕われているのだ。
「今日は私がメインじゃなくてお姉様がメインなのだから、アレク兄さん、早くして!」
「わかってる。…邸に戻ったらその格好を整えさせていただきますからね。」
目指すはリリア姉様のドレスを依頼した仕立て屋だ。
ドレスの仕立ては領土内でのお店にて依頼している。そうすることにより領民への仕事を作っている。他所の所で依頼してしまえばお金は領地で落ちない。
特に綿や絹などが管轄する領土の特産でもあるからだ。
そして、依頼した仕立て屋を見張るように私とアレクは目を光らす。
本日この店からキャンベル家にドレスが届けられる。
「まさか、乗り込む気ではないですよね?」
「犯人は誰かと考えていたんだけど、なかなか思いつかないの。そこまでが夢で出てきた訳でもないもの」
「ドレスはどこでなくなったのですか?」
「…多分、お屋敷の中」
だったら、とアレクは口を開く。
屋敷の中で守れば良いと言うのはあくまでも過程の話でしかない。もし、相手が先回りしていれば同じ結果にしかなり得ない。
結婚破棄という最悪な結末だ。
「…そんなこと、させない。」
私にはまだわからないけれど、リリア姉様はとても嬉しそうだった。結婚というのを楽しみにしていた。それを壊そうとするのは許せない。させない。
「もし、ここでドレスが奪われるような事になれば私が出ます。…リリは出ないで」
「流石だわ、アレク兄さん」
店はオーダーメイドから既製品まで作っている。オーダーメイドは富裕層や貴族に、既製品は市民に愛用されている確かな物である。店がキャンベル家を裏切るとは考えたくないが、裏切った所でメリットが考えられない。
自分の店の名を汚すなんてことはしないだろう。それであれば個人的な怨恨などだろうか。
「違います。こういう時こそ命令をするべきです。そのために私がいる」
「頼もしいわ。じゃあアレク兄さん、いつになったらタメ口になってくれるのかしら?」
「…善処します」
「冗談よ。…命令よ、怪我したら承知しないわ」
「御意」
しかし待てども待てども仕立て屋が出てくる様子はない。アレクと私は首を傾げ、仕方ないから中に入ってみようという話になった。
よく市民の格好をして店に入ることも多い。変装中のため私に気づかれない。それはいつもの事で良い事なのだけれど、今回は違う。
姉様のドレスを確認しないといけない。
「メンリーさんはいるかしら?」
「…メンリー、ですか?」
「パタンナーのメンリーさんよ」
店員は怪しげに私を見る。私の格好をジロリと頭のてっぺんからつま先までを見る。パタンナーが必要なのはオーダーメイドで作る富裕層や貴族であり、私は今そんな格好ではない。
「…メンリーさんなら、しばらく前に出て行きました。色々回る予定があるとしか聞いてません」
メンリーさんがいない。と言うことはドレスを持って屋敷へと向かったのだろう。ドレスが無くなるというのは果たしてどこで?色々回ると言うことは行き先は一つではないと言うこと。
「…どこに行ったか、知らない?」
「行き先は聞いてますが、順番までは分からないので…」
「そんな…、何も言ってなかったの?」
姉様のドレス、結婚式がかかっている。
だめだと知りながらも縋る思い。
「すみません。リリが我儘を言いました。リリ、行こう」
「アレク…」
アレクに手を引かれる。暖かい手の温もりがやけに身にしみる。
「あっ…待ってください!多分ですが、一番最初にキャンベル家に向かったと思います。私の憶測ですが、荷物が一番大きくて運ぶのが大変なので」
…キャンベル家?
つまりそれは、もう我が家に向かっていると言うこと?
「ありがとうございます!」
店員に礼を告げ足早に掛ける。
キャンベル家へ一分一秒でも早く着く為に掛ける。
「お嬢様、その体力どこから来るんですか?」
「アレクこそ、息切れてないのね!流石だわ」
伊達に屋敷内で自由気ままにしてるわけじゃないわ。
中庭の花の手入れの為に土運びとかしてるんだから。




