姉様のドレスを探せ①
屋敷は本日慌ただしくしている。騒々しいがこれについては致し方のないことであり、私はアレクの入れてくれた紅茶を啜りながら横目であれでもないこれでもないと頭を悩ませているリリア姉様を見る。
「シンディ、これはどうかしら?お母様の案も捨て難いけれど、流行にも合わせたいのよね」
「あら、母の案は古いかしら?」
「伝統的なイメージが強いわ」
私の姉、リリア姉様には婚約者のシーヴァー様がいる。シーヴァー様は綺麗なオパールの瞳をした優しげな方であり、グレーゲル公爵家の跡取り。リリア姉様は結婚してグレーゲル家に嫁ぐ予定だ。
そんなお姉様の婚儀に向けてのドレス選び。お母様とリリア姉様、シンディ姉様と私、そして仕立て屋のパタンナーのメンリーである。場所は私の部屋。…何故私の部屋で行うのですか。私の部屋なので漏れなくアレクも同席している。
「アマリリスも選ぶの手伝って」
「リリア姉様…悩み始めてどのぐらい経ってると思ってますか?」
「3時間?4時間?」
…ずっとこの調子だ。
「最初にメンリーさんが持って来てくださった案で既に15ほどの案があったのですよね?今はどれぐらいに絞れたのですか?」
「んー10ぐらい?」
「ほぼ絞れてないじゃないですか…。当日は一着だけですよね?」
「そうだけど、一生に一度だと思えば悩むの」
いつもは姉様に強く言ったりはしないが、流石に終わりが見えないので敢えて強く言わないといけない。心を鬼にしましょう。
「それは勿論です。しかし、婚儀のドレスなのであれば余りにも奇抜なものはどうかと思いますわ。…そのリリア姉様の真ん前にあるのはやめたほうがいいと思います。」
「セクシー路線で残しておいたの」
「ダメです。婚儀は神聖なものですよね。神に誓うのであればもう少しお淑やかな方がいいでしょ」
アマリリス風の断捨離タイムだ。
容赦なく省いていこう。
「私的には3番、8番、13番あたりがいいと思います。流行にとのことですが、流行よりもお姉様に似合いそうなのはこの辺りです。」
リリア姉様と私は似ても似つかない。私がお母様似でお父様の遺伝子が見当たらないのと同様に、リリア姉様はお父様にそっくりでお母様にはちっとも似ていない。
お父様に似たお姉様は髪は綺麗な銀色に瞳はパープル。そんなお姉様に今年の流行であるレースたっぷりのフリフリドレスは似合わなさそうだと感じていた。
「うーん、そうねぇ…」
「ここで決められるよりも、旦那様となられるシーヴァー様の意見も求めてみては?お二人な結婚式なら是非そうするべきです」
「そ、そうね!」
納得行かなさそうな顔から一転、パァと花が咲いたように笑うお姉様。シーヴァー様とお姉様は互いが想いあっているのが伝わるほどに仲睦まじい。
シーヴァー様のことを思い浮かべたのか、うっとりとするリリア姉様は‥とても色っぽい。もともと色気がダダ漏れな人だ。羨ましい。
…私も色気欲しい。いや、まだまだ12歳だ。これからこれから。
結局、シーヴァー様に聞いたドレスは8番でトントン拍子に話が進んだ。あの3時間、4時間はなんだったのだろう。
アレクに言わすと悩むというのが楽しいのだという事だったけれど、ふと私自身が結婚すると考えた時に仮婚約者のアーノルドの顔が浮かんできて、ないなと思ってしまった。
きっと彼のことだから強引に決めてくるに違いない。…婚約については一切承知してませんが。
「結婚式が楽しみだわ」
姉様の婚礼の儀は秋に催される。
式から一カ月前に姉様は花嫁修業の為にシーヴァー様の生家であるグレーゲル公爵家へ行く事になっている。貴族の娘は嫁ぐ先での花嫁修業が伝統となっていて、姉も例外ではない。
リリア姉様が結婚するまであと数ヶ月。生まれてからずっと近くにいた姉様が家から姿を消すということに実感がなかったけれども、ドレスを選ぶ姉様を見て少し実感が湧いて寂しくなる。
「リリア姉様、嬉しそうね」
「アマリリスにもきっといつか、わかる時が来るわ」
…それは、誰との未来の話でしょうか。




