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アマリリスは夢を見る。  作者: 真中ユウ
アマリリス12歳
11/30

婚約者の条件②





「お嬢様」

「…私は体調が悪いわ」

「そんな血色の良い病人はおりません」



私の負った傷も全開になり、刺繍生活ともサヨナラの挨拶をして数日。今日の私は気持ちだけは病人の気分だった。あれから毎日のようにアーノルド様の夢を見る。甘い甘い言葉を囁く夢。


きっと世間一般のご令嬢ならば夢見憧れるシュチュエーションなのだろうけれど、私にとっては憧れないシュチュエーションである。




「流石にご用意されないと間に合いませんよ」

「…わかってるわ。お父様の顔に泥を塗りたいわけでは無いもの。…でもね。」

「夢のことでしょう?婚約さえしなければ何とでもなるとは思いますけど」



レイモンド家へのご招待状は私のお父様に送られていた物だったのだけれど、もれなく私も来て欲しいと書いていた。お父様に送られていた物とは別に私個人にアーノルド様から直筆のお手紙もあり、そこにも招待を促す文が綴られていた。



「でもお嬢様、良かったのでは無いでしょうか?お手紙の内容にはお嬢様が好きな庭園をお見せすると書いていたのでしょう?」

「確かに私は花とかが好きだけれど、それとこれは別じゃ無いかしら?私はこのお屋敷の庭園が好きよ」

「レイモンド家は領地に植物の栽培を特産としている場所があります。そこで得た他には無い物が沢山あると聞き存じております。」


ああ言えばこう言う。アレクは言葉巧みに誘導して私をレイモンド家に行かせようとする。婚約については賛成も反対もしていないみたいだけど。



「わかったわよ!用意するから!」

「承知いたしました。ではお姉様方が既に衣装部屋にてお待ちしているそうです」


リリアお姉様にシンディお姉様が両手に装飾品や手櫛、ドレスなどを持って待ち構えている姿を想像して…無心。



お姉様達に着せ替え人形とされ、姿鏡に映る自分の姿はいつも以上に綺麗に整えられている。と言っても、今回はただ屋敷に呼ばれているだけなので以前のパーティよりも落ち着いた雰囲気で仕上がっている。


髪はストレートのままだが、毛先には香油がつけられて揺れるたびいい匂いを放つ。ドレスは水色を基調としたシンプルなものであり、全体的には以前よりも好みの雰囲気だ。




「アマリリス、支度は出来たかい?」

「はい。お待たせして申し訳ありません。」



普段ならお父様は私と2人で出かけると言うことは無い。必ずお兄様やお姉様を連れて行く。このことから本格的に以前の婚約の話を先方と行うのだろうと考える。



馬車に乗り込み、お父様と2人きりになる。使用人も誰一人馬車内には居ない。



「…アマリリスが嫌なら、この婚約は断ってくれて構わない。どんな事になろうとも、私が何とかするよ。アマリリスが気に病むことはないからね」


「ありがとうございます」



お父様は本当に子供である私たちを大切に思ってくれている。それが伝わってくる。

だからこそ軽はずみな返事はしたくない。

それに父がここまで言うのだ、何か事情があるようにも感じる。



「到着しました」




目の前に大きな屋敷が広がる。白を基調とした大きな屋敷であり、装飾が1つ1つ凝っていて華美ながら過度すぎない辺りのバランスが丁度よく、流石公爵家だと感心する。


外観だけでなく通された応接室は大理石の床を基調としたとても豪華な仕上がり。自分が住まう屋敷とはまた違う雰囲気に興味が唆られる。思わずキョロキョロと目を動かし凝視してしまう。



「キャンベル公爵様並びにご息女のアマリリス様、ようこそレイモンド公爵家までお越し下さいました。今、主人をお呼びしておりますが今暫くお待ち頂きますようお願い致します。」


顔にシワが刻まれた貫禄のあるおじ様。胸元には家でも良く見る執事長のピン。この家の当主であるレイモンド公爵様の執事である事が伺える。所作がとても美しい。



言われるがまま父と共に椅子に座るように促されるので着席して相手を待つ。




「オリヴァー!待たせたね。アマリリスもご足労頂き感謝するよ」

「ローランドからの招待状にはびっくりしたさ。呼ばれればいつでも足を運ぶつもりではいるものの、驚いたよ」


父とレイモンド公爵様は旧友である。以前のパーティとはまた違う、畏まった雰囲気を一切排除した2人の姿をまじまじと見てしまう。



「ご招待ありがとうございます。」

「アーノルドももう直にここに来る。是非とも自慢の庭を見て行って欲しい」



…アーノルド様の姿がないから、会わなくていいものだと心の中で軽いガッツポーズをしたのが一瞬で崩れてしまった。

私には本日中に返答をする心算があるわけでないのだ。断りますと言うのは簡単だが、父の言った言葉もあり、簡単には決断しかねる。相手のことも知らない。


唯一知っているのは、レイモンド公爵家の子息で紺の髪と瞳を持つ美しい方であり、瞳が狩人のように熱を帯びていると言うことだけである。その瞳から、私は逃げたい衝動に駆られるのだ。



ノックが響く。戸から入ってきた紺の髪色の人物。私が思い当たるたった1人の人。



「遅れました。申し訳ありません。

キャンベル公爵様、ご足労頂きありがとうございます。」

「いやいや、大丈夫だよ。

アマリリスもせっかくだから庭を見せてもらいなさい」



席についている私の前まで来て膝をつくアーノルド様。驚いて勢いよく立ち上がろうとするが制される。


「来てくださってありがとうございます。

是非ともお庭に来て下さい。僕が案内します」


差し出された手。これを掴まない方法は、私には思いつかない。拒めば失礼だと分かっているのだ。恐る恐る手を伸ばし、重ね合わせる。席を立ち部屋を後にする。


父とレイモンド公爵様は談笑し、こちらをちらりと見てそれぞれの反応をした。お父様は気の毒そうな顔。対してレイモンド公爵様はキラキラと笑顔だ。多分、私とアーノルド様の気持ちの違いだろう。


「…何とかするって、嘘かしら」

「どうかされましたか?」

「いいえ、何も。空耳でしょう」



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