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一話 発源


 8月8日、大都A市にて。

 俺の名前は最上新太。

 A市の医師になる為に大学生をしている。

 公園のベンチで1歳年下の後輩の成川と昼飯タイムをとっている真っ最中だ。


「あっついなぁ、今日も……」

「そうっすよねぇ……最近雨さえ降らないし……」


 ミンミンと耳がキリキリと震えるように蝉が鳴く声が響く。

 今後は30度を超える猛暑日となるだろうという予報があったばかりで、辺りには忙しなく汗をかいて歩く社会人、仲睦まじく歩く老夫婦が暑そうにしている。


「8月はそりゃ暑くなるわなぁ……」


 俺は独り言のように呟いていた。

 勉強疲れか最近独り言が増えている気がする。

 そんな俺はいつものコンビニの袋に手を掛けて、中身を確認しようとする。


 えーっと、おにぎり2個に惣菜……。

 あれ?なんか足りないような……。


 無いぞ、俺の飯が。

 まさか成川の奴俺が見てない隙に……。

 いやいや、野良猫か何かか?

 そう言おうとした瞬間、成川から話しかけられた。


「先輩!あれ……なんですか?」

「うるせーな、今は唐揚げさん探してるんだよ!どこ行った……?」


「い、いやあれ、見てくださいよ!」


 そう言いながら指を指す成川。

 おちょくるのもいい加減にしてくれ。

 探すので俺は忙しいんだ。


 だが優しい俺は後輩の言う通り、指し示す方向へ顔を向ける。その瞬間周りにいた小鳥達はさえずり、一斉に大空へ飛び立つ。


 「んだよ、何だよ。一発屋芸人でも見かけた…か?」


──そこにはありえない“モノ”が俺の目に映っていた。

 周りを見渡すと先程から忙しなく歩いていた社会人も楽しそうに練り歩く老夫婦も血を流して倒れ込んでいるではないか。

 その辺りには血の海と称してもいいほどの血肉の量がざっくばらんに散りばめられている。


 その”モノ”は異様な存在感を放った大きなツノを持つ化け物で、明らかにこちらに敵意を持って眼と思しき箇所を歪ませる。

 

 「あ、あれ……こっちに向かってません?」

 「……は?」


 確かにこちらに向きジリジリと近づいてくる。


「……なんだあれ……ありえない大きさだな……」


 何かに例えるなら甲虫のような形をしているが、小さな一軒家が立つ程の大きさ。現代社会にそぐわない異形そのものであった。

 そしてその化け物は大きな角を上に掲げ、こちらへ威嚇してる様にも見える。


「せ、先輩、腰砕けました……。」


 成川は怖気づき腰を下ろしてしまう。

 その目から恐怖感を安易に感じ取れた。俺もそうだ。

 しかし、怖じ気づき戸惑うとそれが命取りになることくらい分かってる。まずは成川をどうにかしなくては。


 「おい!立てよ!」


 とりあえず声を荒げ、立たせることに専念しようとした。

 だが成川はその俺の声が聞こえていないのか、悲鳴を上げる。


 「うわぁぁぁ!こっちに来た!」


 俺らの心など知らないと言うばかりにあの甲虫が猛突進で距離を詰めてきた。

 その巨体に見合わない速さだ。

 その怪物は直進し跳躍する。完全に俺らを殺るつもりだろう。


 「くッ……!」


 まぶたを閉じ、視界を遮る。

 耳を塞ぎ、聴覚を遮断する。

 最後の最後くらい何も見たくなかった。聞きたくなかった。

 どうでもよくなった。

 昔からそうだ、不運続きだ。でももう不運続きの日々に終止符を打たれようとしている。いい最後じゃないか。


 俺は何故か、こんな最期を易々と受け入れた。

 普通こんな非日常が突然現れたら成川みたいになるだろ?


 なんだろうな。死ぬんだったらもっとマシな死に方を選びたかったんだけど、上手くいかないんだな、人生って。


「─────リミットブレイク」


 だが、その直後に俺らの後方からその一言が聞こえた。

 誰かが俺の後ろから攻撃したのだろうか、甲虫の化け物はその一撃を受けて血のような緑の液体が飛び散った。


 一撃はまさに獲物を捉える獣の様だった。


 「市民二名を発見、残り三匹居るぞ」


 その言葉の主は赤髪で切れ目の男で、左眼が髪で隠れており頬には緑色の液体が付いている。どうやら誰かと通信してるようだ。

 そしてその男は人を殺すような真顔で片手に鉄製の刀を持ち、俺らにこう言い放った。


「...退け。仕事の邪魔だ」


 ───その刹那、沈黙が走った。



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