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異世界×英雄 ~剣と魔法と変身ヒーロー~  作者: シノミヤ
第一部・シンクレル王国編

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それぞれの居場所×謀略の影

 魔族アビスキマイラの襲撃による三月教会大聖堂の被害は決して小さなものでは無かったが、それでも一人の死者も出なかったのは本当に幸運としか言いようが無いだろう。


 無事とは言い難かったものの、ボロボロのトリアンタを何とか送り届け同じくボロボロのマシロを教会の治癒術師に預け、これまたボロボロの影次も流石に体力の限界だったので気が抜けた途端その場に座り込んでしまった。



「まさか魔族がここまで直接的な攻撃に出てくるとはな……。ありがとうエイジ。今回も君に助けられてしまった」


 へたり込んだままいつの間にか少し眠ってしまっていた影次の元に負傷者の治療に当たっていたサトラがやってくる。重症そうだったマグレガー大司教の容態を訪ねると傷は深かったが何とか一命は取り留めたとの事で、それを聞いて影次もほっと胸を撫で下ろす。



「今は医務室で安静に教皇様を叱ってらっしゃっているよ。あれだけ元気なら心配はいらないだろう」


(安静って何だ)


「マシロも治療は一通り済んで今はぐっすり眠っている。後で顔を出してあげてくれ。きっと喜ぶ」


「そっか、良かった……。これで魔族を取り逃がしたりしなければ何の憂いも無かったんだけどな」


「エイジが責任を感じる事は無いさ、君は十二分に頑張ってくれたじゃないか。……と、すまない。私はもう少し怪我人の治療を続けているよ」



 教会の修道士がまた新たな負傷者を運び込んで来たのを見てサトラが行ってしまい、特にやれる事の無い影次は邪魔にならないように場所を移す事にした。



(……マシロのお見舞いに行ってみるか)



 サトラの言葉を思い出しマシロが治療を受けている部屋を訪ねる影次。ぐっすり眠っているとサトラは言っていたが……起きてた。



「エイジ? どうしたんですか」


「どうしたも何もお見舞いだよ。具合はどうだ?」


「教皇様が応急手当をしてくださったお陰でもうすっかり。ただ出血が結構酷かったらしくて数日は安静にしていなければならないそうです。どのみち魔力も使い果たしてしまいましたからしばらく動けませんけどね」



 そう言いながら腕をぐるぐると回してみせるマシロ。百獣魔人(アビスキマイラ)にやられた傷は本人の言う通りすっかり良さそうだ。



「元気そうで何よりだけどちゃんと安静にしておいてくれよ? そうだ、栄養つけなきゃいけないよな。何か欲しいものはあるか?」


「急に言われてもプリンくらいしか思いつきませんよ」


「プリンは真っ先に思いつくのか」



 本当に元気そうで一安心だ。傷跡も残らないと聞いてほっとした顔をしたところでマシロに笑われてしまった。別に影次のせいで怪我をした訳でも無いし騎士団に属している以上多少の怪我くらいは覚悟しています、と。



「その……むしろ私の方こそエイジには謝らないと」


「えっ?」


「だって、ここ数日ずっとあなたを避けるような態度を取ってしまっていましたし……ごめんなさい」



 申し訳なさそうに頭を下げるマシロに影次は別に気にしていないと答えるが、マシロは「エイジが気にしなくても私がするんです」と首を横に振る。



「不安だったんです……エイジが教会に付いてしまうんじゃないかって。教皇様に随分気に入られていたみたいですし、三月教会なら第四部隊(私たち)よりもずっと厚遇して貰えるでしょうから」


「……ああ、そういう事か」



 思い返してみれば今回は影次自身マシロたちに相談もせず独断で行動してしまっていた訳だし、結果的にこうしてマシロを不安がらせてしまっていたのなら、非があるのはやはりこちら側だろう。



「トリアンタ……教皇様の護衛についたのはちょっとした事情があったってだけだよ。マシロやサトラ、アルムゲートの第四部隊の人たちには俺がこっちの世界に来てからずっと世話になってるんだ、今更そんな恩人に後ろ足で砂かけるような事はしないよ」


「……気に入られてるって事は否定しませんでしたね」


「そこを拘るのかよ!?」



 魔力も体力も消耗しているとは思えない謎の圧力がベッドの上のマシロからひしひしと伝わってくる。別に心当たりは無いのだが…何となく、後ろめたい気持ちになってしまうのは何故だろうか。



「大丈夫ですよマシロさん。私はもうフラれてますから」



 そんな時、くすくすと笑いながら室内に今度はトリアンタがやってきた。

手足には痛々しい包帯が巻かれているものの真新しいローブに身を包み目元をヴェールで隠した教皇モード(・・・・・)のトリアンタだ。



「エイジさん、それにマシロさん。改めて今回は本当にありがとうございました。あなた方のお陰でこの大聖堂は助かりました。もちろん、この私も」



 最高権力者として、教会を代表し今回の魔族襲撃から自分たちを救ってくれた功労者である影次たちに深い感謝の意を伝えるトリアンタ。

こうしている分には本当に清廉とした聖職者にしか見えないのだが……。



「いいえ私なんて結局ほとんどお役に立てず……フラれ……た?」



 教皇自らに頭を下げられ恐縮していたマシロだったが彼女の台詞を思い返すとギギ…とゆっくり首を影次の方に向け直し、またあの謎の威圧感が放たれる。



「違う、違う! お前が思ってるような事は一切無いから! …って言うか言い方!」


「アハハ、本当に仲が良いですねえ」



 トリアンタは楽しそうに笑っているが影次としては冗談抜きにマシロの目が怖いのであまり変な事は言わないで貰いたかった。怖い、本当に怖い。段々顔を近づけてくるのが猶更怖い。



「確かに教会で働きませんかとお誘いはしましたけど、もうきっぱりと断られてしまいました。エイジさんはマシロさんたちの方が大切なんだそうですよ?」


「……本当にそんな事言ったんですか?」


「嘘でも本当でもどっちみち俺が恥ずかしい思いをするだけじゃないか」


「うふ、あんまり長居してしまってはお邪魔でしょうし私はそろそろ失礼しますね。あとはお二人でどうぞごゆっくり」



 結局彼女はフォローしに来たのか余計ややこしくしに来たのか…。部屋を出ていく際にドアが閉まる寸前にトリアンタが小さく舌を出したのを影次は見逃さなかった。

成程、冷やかし目的だったらしい。あんにゃろめ。



「……教皇様が仰っていたのは本当なんですか?」


「そういうのは確認したりせず察してくれると有難いな」



 まだ不満そうな表情をしているマシロの頭にぽん、と手を置きながら気恥ずかしさを堪えて率直な自身の本心を伝える。



「マシロたちにはずっと感謝してるんだ。俺みたいな怪しい奴を信用してくれただけじゃなく化け物扱いもせずに普通に接してくれている事も含めて」


「そんなの……! エイジはエイジじゃないですか。化け物なんかじゃあ……」



 そう言ってくれるだけでどれだけ救われているだろうか。影次としてはそれだけで既に十分だったのだがマシロは何故かまだ酷く不服そうなままだ。

こんなにも気にかけてくれる彼女に対しいつまでも甘えたままでいるのは余りにも不義理だと改めて痛感してしまう。



「……ごめんな。いつの間にか俺はマシロたちの厚意に甘えるのが当たり前に思っていたのかもな……。自分の事もろくに話もせずにこんな怪しい奴を信じてくれたマシロたちの事を心のどこかでまだ信じきれてなかったのかもしれないな」



「無理もありませんよ。だってエイジはたった一人で見ず知らずの異世界に迷い込んでしまったんですから。それに私たちが今はもうエイジの事を信頼しているように、エイジもちゃんと私たちの事を信頼してくれているのは伝わっていますから。

大丈夫です、エイジは自分が思っているほど捻くれていませんよ。……時々意地が悪いですけど」


「……本当に、異世界(こっち)に来て一番最初に出会ったのがマシロたちで良かった」



 初めて会ったときはあれだけ敵意に満ちた目をしていたマシロが今はこんなにも全幅の信頼を寄せてくれている。そう考えると感慨深いものをがあり油断するとつい泣いてしまいそうだ。



「エイジが元の世界にいた時のお話や、向こうで何があったのかというのは確かに気になりますけど少なくとも今は無理に話して貰おうとは思っていません。ですから、あまり気にしないでください」


「ごめん、いつか……必ずちゃんと話す」


「あ、もしエイジさえ良ければなんですが、一つだけ教えてもらってもいいですか?」



 無理に話さなくてもいいとは言ったマシロだったがやはり気になるものは気になるようだ。

言った傍から前言を覆すような質問に思わず苦笑いを浮かべながらも今回は自分の軽率な行動の結果マシロを不安にさせてしまったので自分の個人情報を多少明かしてお詫びになるのなら、と思い頷く影次。


……まぁシャーペイじゃあるまいし、よほど変な事を聞かれたりしなければ大丈夫だろう。きっと。



「えっとですね……エイジって、もしかして元の世界で、こ……」


「こ?」


「こ、こい…………も、元の世界では一体何をしてたんですか!?」


「え、変身ヒーローだけど。……って今こい、って…」


「違いますお仕事です!」


「いや、今確かにこい……」


「違います言ってませんあんまりしつこいと氷漬けにしますよ」


「ひぇぇ……」



 君、確か今魔力消耗して安静にしてるんじゃなかったっけ?



「仕事、仕事かぁ……そこを聞かれるとは思って無かったなぁ」


「あ、すみません……もしかして」


「働いてたよ! やめろそんな可哀想な目で見るの!!」



 とは言え正直あまり大っぴらに人に教えるのも小恥ずかしいのだが答えると言ってしまったので……少し考えて、悩んで、躊躇してから……ベッドの上のマシロに身を寄せて小さな声で耳打ちする。


 一応「笑うなよ?」と前置きを入れたにも関わらず……。



 数秒後、部屋の中にはマシロの大きな笑い声が響き渡る事となった。












「これはまた随分派手にやられたね」



 辛うじて自分の元に戻ってきたアビスキマイラの満身創痍といった状態に深々と溜息をつくウォルフラム。

突然勝手に大聖堂に襲撃を仕掛けた時は流石にどうなってしまう事かと肝を冷やしたが、どうやらまた負けて帰ってきたようだ。



「グ、ウゥゥ……」



 損傷の激しいアビスキマイラの肉体が紫色の煙を吹き出して萎んでいく。魔獣の如き巨体は見る見るうちに小さくなっていき、土亜人(ドワーフ)であるウォルフラムともほとんど変わらない背丈の小さな少女の姿へと戻ってしまった。



「……お、おな、か……すい、た……」


「やれやれ、相も変わらず魔人体時の記憶の保持は出来ていないようだね。回復力の方は流石といったところだけど」


「ウォッ、フぅ……おなか、すいた……ぞぉー……」


「はいはい、けど食事の前にまずはお休み。流石にダメージが大き過ぎて治癒能力が追い付いてないんだ。起きた後でたっぷり食べさせて……って、もう寝てるし」


「すぅ……」



 レッキス山でのファングと戦いを繰り広げた魔人とは思えない穏やかな寝息を立てて床の上で無造作に熟睡してしまっているアビスキマイラ(ソマリ)

ウォルフラムは自分と同じくらいの背丈のソマリを何とかベッドの上に寝かせ、ソマリが懐に入れていた魔核を取り出す。



「下級魔獣の生成、筋力の増加、肉体変化速度の向上……、今出来る範囲での機能拡張は施したんだけど、それでも届かないか……。聞きしに勝る化け物ぶりだね、騎甲ライザーとは」



 ウォルフラムは魔核から抽出した戦闘データに目を通していくに連れ、改めて魔族の最大の敵、騎甲ライザーの恐ろしさを実感していた。



(なるほど……ダブルメイルやアッシュグレイが退けられる訳だ。悔しいが現状ボクの持ち得る技術ではこれ(・・)に太刀打ちできるものは作れそうにない……。けど、あくまでそれも現状の話だ。

ソマリは幼い分まだ能力拡張させられる余地が十分にある。後はあの(・・)データさえあれば今よりも更にもっと……!)


「キヒヒッ。へぇー、そんな小っちゃなお嬢ちゃんがあのケダモノ魔人だったなんてビックリだねー」


「……っ!?」



 わざわざ街外れのおんぼろ宿屋に部屋を取って人目につかないようにしていたと言うのに、いつからそこに居たのだろうか。

フードですっぽりと頭を隠した女がベッドですやすやと寝息を立てているソマリの顔を覗き込んでいた。考え事に没頭していたとは言え音も無く、まるで何もない空間から突然現れたかのように、だ。



「どちら様かな? 人の部屋に無断で入るなんて随分不作法じゃあないかい」


「キヒヒ、それは失礼。でも生憎と不作法なのは種族柄かなー? キミのお友達の魔族もそんな連中ばっかりじゃない?」


「魔族……? そうか、君が裏切り者(シャーペイ)か。ボクとした事がもっと早く気が付くべきだったよ」



 突然の来訪者はフードを脱いでその素性を明かす。数日前にソマリが世話になった一団の一人という事はウォルフラムも覚えていたが…まさか魔族を裏切りお尋ね者となっている人物が街の屋台で舌鼓を打っているとは思ってもいなかった。



「ふむふむ……魔核の素養は確かに凄く高いみたいだねぇ。しかも成長期の子供を使う事によって魔獣化…いやキミたちで言うところの魔人化かな?その際に後から手を加える余地が多く取れるっていう利点があるんだねぇ。ま、その反面どっかしらに弊害が生じてるんだろうけど……例えば知能、もしくは記憶あたりかな?」


「……ふん、流石は()魔族の技術屋。見ただけでよくまぁそこまで分かるものだね」


「この娘はキミが?」


「魔人にしたのはボクじゃないけどね。ボクの役目は調整や拡張強化といったところさ。見ての通り君の技術を元にさせてもらっているよ、シャーペイさん」


「みたいだねぇ。でも随分良く出来てるよ。まさか人間や獣人を魔族に変えちゃうなんてねぇ。あ、もしかしてダブルメイルとかも素体(ベース)は人間だったりするのかな?」



「さぁどうだろうね。流石にそこまで教える義理は無いよ。……で、どういった用件かな?自分がほかの魔族から追われているのも、ボクが魔族の一味なのも分かった上で来たみたいだけど」



 ソマリが眠っているベッドの縁に腰を掛けるシャーペイ。露骨に警戒しているウォルフラムとは対照的にまるで気まぐれに友人の家に遊びに来たかのような態度なのが何とも不気味さを感じさせる。



「キヒヒッ、そんな怖い顔しなくたってアタシはキミの言う通り単なる技術屋だよ? 戦ったりなんて出来ないんだからさぁ」


「よく言う。あなたが開発したのは魔核だけじゃないだろう?転移魔法に影魔法、いずれもあなたのオリジナルだ。それだけの力がありながら何故魔族を裏切った?」


「んー……まぁ色々あるんだよアタシにも。それよりもさ、ちょっとキミにいい話を持ってきたんだけど」



 ダブルメイルやアッシュグレイといった魔族たちと交流のあるウォルフラムだったがこのシャーペイという女魔族はそれらと比べても群を抜いて信用ならない胡散臭さを感じずにはいられなかった。

ソマリを無理やり起こして迎撃させようかと考えていたウォルフラムだったがシャーペイから持ち掛けられた取引(・・)内容に驚きの声を上げてしまった。



「……君は、一体何を企んでいるんだい?」



「キヒヒヒッ。さぁ? 何だろうねぇ」

「豊穣の都」編、これで一応完結です。教会の話というよりややマシロの話なってしまった気がしますが…まぁこういう事もあるでしょう。マシロの話はまた別にもう少しきちんと掘り下げるつもりです。一応、多分。


次回は今回書き切れなかったエピローグ話も半分ほど入れた後、また新章突入の予定です。是非お付き合いください



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