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異世界×英雄 ~剣と魔法と変身ヒーロー~  作者: シノミヤ
第一部・シンクレル王国編
8/335

副隊長サトラ×手掛かりを求めて

「もうこんな時間か。エイジ、お腹は空いていないか?」



 宿舎へと戻る道中、サトラにそう尋ねられてそう言えば、と空腹感を自覚する。

応接室で紅茶とクッキーはご馳走になったがあれだけ沢山話したのも久しぶりだったので昼に食べたシチューの分のカロリーはすっかり消費してしまっていた。



「折角だ。夕食は宿舎でなく外でとらないか?いい店があるんだ。ああ、もちろん私がご馳走するから安心してくれ」


「じゃあ、お言葉に甘えて」



 女性に奢ってもらう。それも自分とほぼ同じ年頃の。正直気が引けたがこの世界の通貨など持ち合わせていないのでここは素直にサトラの好意に甘える事にする。


サトラに案内されて来たのはアルムゲートの街の繁華街エリアから少し外れた、人通りの少ない路地にある食堂だった。


 てっきり影次は繁華街に並ぶもっと大きな飲食店のどこかに入るものかと思っていたのでサトラの意外な店選びに驚いていた。もしかして以外と薄給だったりするのだろうか?など失礼な事を考えているとまるでそんな影次の心の内を見透かしたようにサトラが笑う。



「一部隊の副隊長が来るには似つかわしくない店とでも思っているんだろう?なに、味は保証するぞ」



 店に入るとサトラは店主や給仕の女性とは親しいらしく、挨拶と簡単な雑談を交わしてから隅のテーブルへと通された。店内は騎士団宿舎の食堂と同じか、少し小さいくらいだろうか。年季の入った木製の椅子とテーブル。椅子の上にはクッションが……と思って腰を下ろそうとしたら「ウニャッ」とクッションもとい猫が逃げた。ごめん。



「サトラ様がマシロ様以外とうちに来るなんて珍しいじゃありませんか」



恰幅のいいエプロン姿の給仕の中年女性は二人のテーブルに水の入ったコップを持ってきてサトラと、それから影次を見て



「何ですか何ですか。どういったご関係ですか?」


「昨日からうちの部隊に来ている客人ですよ。この街は初めてと言うのでね、私のお薦めの店に連れて来たんだ」


「あらやだ。いやですよぉ。こんなオンボロ店に足繁く通ってくださるのはサトラ様くらいなものですよぉ」



 給仕の女性はそう言いながらもやはり悪い気はしないらしくサトラが注文をすると「大盛りにしときますからね!」と言って何故か影次の方に向けてビッ、と親指を立てた。何やら妙な誤解をしているような気がしなくもないが……。



「常連なんですね、ここ」


「ああ、昔からな。おば様にもおじ様にも良くして貰っている」


「へぇ……」



 正直意外だった。

第四部隊の副隊長という身分がこの世界でどれほどのレベルにあるのかは影次は知らなかったが、サトラからは副隊長という肩書を抜きにしても何処となく育ちの良さというか気品のようなものが感じられていた。


高貴とさえ言っても過言では無い印象を抱かせるサトラの行きつけがこんな大衆食堂というのは何ともギャップがある。

……本当にただの薄給だったりしたら奢ってもらうのは心苦しいのだが。



「そんなに似合わないか?」


「まぁ、正直なところ。副隊長さんは……何ていうか良いところのお嬢さんって感じがするんで。もしかして貴族か何かとか?」


「ははっ、まさか。そんな上等な身分では無いよ」



貴族様だったら割と今まで失礼な言動だったかも、と思っていた影次はケラケラと笑って否定してくれたサトラに安堵し水の入ったコップに口をつける。



「一応はシンクレル王家の血縁にはなるが、遠縁も遠縁で王位継承権も無い。ただの田舎娘だよ」


「ぶっ」



危うく水が気道に入るところだった。しばらく咽て……慌ててタオルを持ってきてくれた給仕のおばさんに礼を言って顔を拭いてから改めて水を飲み……思い出してまた驚いた。



「お、王族!?」


「だから遠縁だよ。私の父が先々代国王の七番目の弟の六男……いや、五男だったっけか。まぁ、そんなところだ。王族関係者と名乗るのも烏滸がましいよ」


「友達の友達の友達の友達が有名人みたいな感覚かな」


「だから、と言う訳では無いがもっと気楽な喋り方で構わないよ。君は騎士団関係者という訳でも無いんだ」



テーブルの上に運ばれてきた料理を小皿に取り分け始めるサトラにそう言われ、影次は「それじゃあ」と一度咳払いして……野菜とソテーされた肉が乗った皿を受け取る。



「なら、サトラさん」


「サトラでいいよ。私もエイジと呼んでいるだろう?」


「サッちゃん」


「サッ……あ、いや、出来れば呼び捨てで頼む」



 軽いジョークのつもりだったのだが、あまりウケなかったようだ。皮目をパリッと香ばしく焼いたソテーは少しきつめの塩加減だったが一緒に焼いた香草の風味が食欲をそそる。この場に白飯があればなぁ……と仕方なく固いパンと一緒に頬張る。これはこれで美味い。



「エイジ、君はこれからどうするつもりだ?」


「どうするつもり、と言うよりそっちの……騎士団の方が俺をどうするつもりかって話だと思うけど」



 影次の話は当然信じて貰えなかった。だが影次の、騎甲ライザーの力はサトラも実際目の当たりにした紛れもない事実だ。当然、騎士団としてはその力を自分たちの戦力として引き込もうと思うだろう。

だからこそ、あえてライザーシステムが生み出された経緯も、『ブラッディフォース』の危険性も話したのだ。信用してもらえるとは思ってはいなかったが。



「隊長は……そうだな。おそらく君を何とかして騎士団に取り込もうとするだろうな」


「ご馳走になっておいてこういうのも何だけど、万が一にもこれ(・・)を自分たちで作り出そう、なんてする気なら……」



 飄々とした印象の影次の口調が一瞬固く、冷たくなる。テーブルを挟んで向かい合うサトラはぞくりと背筋に冷たいものを感じ慌てて首を横に振った。



「ご、誤解しないでくれ! 誓ってそんなつもりは無い!」


「サトラはそうかもしれないけど、あの隊長さんやマシロって娘はどうだろうな」


「……君は、本当はまるで私たちを信用していないんだな」


「それはお互い様だろ? けど少なくとも君の事は悪い奴だとは思ってないよ」



 素性もわからない相手に突然遭遇し警戒しているのは騎士団はもちろん影次も同じ事だ。むしろ影次の場合この世界の何もかもが未知なのだから警戒心はサトラやマシロ達よりもずっと強い。

もしもサトラのように、ある程度こちらの話を聞いてくれる相手がいなければ満足に睡眠も食事も取れなかっただろう。


サトラとこうして食事を共にし、心情を正直に吐露しているのは彼女だけがずっと自分を擁護する姿勢を取っていてくれた事に対する影次なりの礼儀のつもりだった。



「むしろ俺みたいなどう考えても怪しい胡散臭い危ない奴に良くしてくれるのか、サトラが何を考えてるのかサッパリ理解出来ないんだよ」



マシロのように警戒する訳でも無くパーナードのように利用出来ないかとする考える訳でも無く、思い返せばサトラだけは初めてあの森で出会った時から影次に対し常に誠実に接していた。



「何を考えるも何も、私たちを魔族から助けてくれたのは君じゃあないか」


「……は?」



サトラの口から出た言葉があまりにも単純なものだったので、思わず影次も間の抜けた声を上げてしまう。



「君が私たちを助けてくれた事は間違いない事実だろう?感謝し礼をするのは当然だ。それに命の恩人が困っているのなら助けになりたいと思うじゃないか」


「……そんな単純な話なのか?」


「そんな難しい話だったのか?」



はぁ、と思わず天井を仰ぎ溜息が漏れる。何と言うか…ずっと警戒していたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

副隊長サトラとはこういう人物なのだろう。相手を疑うよりもまず信じる。簡単で単純で、そして、高潔な人物なのだ。



「よくお人好しとか言われるだろ」


「そんな事はないぞ。ほら、遠慮せずもっと食べろ。ここは特に川エビが美味いんだ。近くに清流があってな……」



 右も左も分からない、何が真実で何が嘘か、誰が敵でだれが味方かも分からない異世界ではあったが、取り合えずこのお人好しの副隊長の事は信用してみよう。影次は勧められた川エビを齧りながら心の中でそう誓った。



「……これ、エビじゃなくてザニガニじゃないか?」








side-???-



「ふざけるなぁ!!」



 怒号が響く。荒れ狂う巨漢は怒りに身を任せて周囲の物に当たり散らし、暴れている。

丸太のような腕が振るわれる度に頑丈そうな棚が薙ぎ倒され、椅子が砕かれ、壁に大きく亀裂が走る。



「どうどう。使い捨てとは言えアタシのアジトが壊れちゃうよ~」



 この脳筋に映像を見せたのはやはり失敗だったなぁ、と暴れ続ける巨漢に呆れながら彼が落ち着くのを待つ若い女性。やれやれと飲みかけの紅茶の入ったカップに口をつけようとして…埃や瓦礫の欠片が入ってしまっていたので、そのまま床の上に中身を捨てた。



「いやぁ~、まさかあのガーンがねぇ。キヒヒッ、驚いた驚いた」


「呑気な事言ってる場合か!ガーンがやられたんだぞ! 人間如きに!」


「研究室にたまたま置きっぱなしにしてた記憶水晶があったのはホントにラッキーだったね~。それにしてもそれにしても……一体何なんだろうねぇこの黒い鎧は。調べてみたいなぁ~」



 女性が手にしている握り拳大の水晶塊から発せられる光が室内に魔族ガーンが騎甲ライザーによって倒される一部始終を映し出していた。



「何だっていい!シャーペイ、こいつは今どこにいる?」


「そんな事聞いてどうするつもりなのさ」


「決まっている、八つ裂きにしてやる……いや、それでも足りないな。ここに映っている連中全て、皆殺しにしてやらないと気が済まん」



 本当にこの脳筋は……。シャーペイと呼ばれた女性は再びやれやれと首を振ってお茶を飲もうとカップを手にして……さっき中身を捨てた事を思い出して今度はカップを放り捨てた。



主様(マスター)のお言葉を忘れた訳ではないだろ? それにアタシたちはまだ……」


「そんな事はもうどうでもいい!!」



 どうやら今この男にまともな理屈は通じないらしい。彼女としてはもう少し色々と調べてから接触したいと思っていたのだが……。

彼女、シャーペイは記憶水晶をしまうと男の八つ当たりが自分の方まで来る前に巨漢に「心配しなくても」と前置きを入れてから、続ける。



「すぐに会えると思うよ。あちらさんもまだあのダンジョンに用があるだろうしね。向こうで待ってればきっと向こうから来てくれるさ」









side-影次-



「あのダンジョンに?」



 サトラと一緒に夕食を取ってから宿舎に戻り一夜明け、再び騎士団本部の応接室にやってきた影次はバーナード隊長から思いもよらない話を持ち掛けられた。



「つい先ほど、君とサトラ達が魔族に遭遇したというダンジョンに改めて向かわせた調査隊からの報告なのだが」



 バーナードの話によると今朝、例のダンジョンに再調査に行った団員達が最深部の部屋、つまり影次がガーンと戦ったあの場所で妙なものを発見したと言う。


そういえば昨日はガーンを倒した後あの部屋はろくに調べもせずに街に戻ってきたんだっけ、と思い返す。


 ただの調査のつもりがツチノコ級のエンカウント率らしい魔族と突然鉢合わせた上に森で拾った不審者がこれまた突然変身してその魔族を倒したのだ。その場にいたサトラたちが調査を続行せず一度帰還すると判断したのも無理はない。



「それで、妙なものとは?」


「調査隊曰く、見たことも無いような魔法陣だったらしい。幸い現在は機能していないようだが実際に向かった団員達では詳しい事が分からないらしくてね。そこで」


「そこで私も再度あのダンジョンに行って直接それを調査しようという訳です」



 ソファに座るバーナードの後ろに立っていたマシロがバーナードの言葉に続くようにして話に加わる。相も変わらず影次に向ける視線は厳しいものではあったが……影次も流石にもう慣れたので気にせず出されたお茶を啜る。熱い。



「そこでだエイジ。マシロと一緒に君にもダンジョンに同行して欲しいんだ」


「熱っ……え、俺?」


「ああ、君にもだ」


「不本意ではありますが、もし万が一にもまた魔族に遭遇でもした場合、我々だけでは対処出来ませんので」



 マシロは本気で嫌そうだ。魔族相手では自分たちは歯が立たない、無力だから胡散臭くて仕方のない輩の力を嫌々借りざるをえない。不本意に決まっている。だがここで個人的な一時の感情で「誰がこんな奴の手など借りるもんか!」と意地を張らず分別をつけられるところが彼女の良いところである。



「確か君は気が付いたらあのダンジョンのすぐ近くにいたんだろう?なら、もしかしたらあのダンジョンに何か君にとって必要な手掛かりがあるかもしれない。そうは思わないか?」



バーナードの言う事も一理ある。この世界に飛ばされた際に自分がいた森、その近くにあったダンジョンで見つかった謎の魔法陣……。何の関連性も無いと思う方が不自然な話だ。



「確かに……」


「騎士団としてもしっかりと調査がしたい。だがよりにもよって魔族が現れたような場所だ、万一にも同じ事が起こらないとも限らない。どうかな?双方にとって悪い話では無い筈だ」

ザリガニです

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