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異世界×英雄 ~剣と魔法と変身ヒーロー~  作者: シノミヤ
第一部・シンクレル王国編
57/338

第三部隊隊長レイヴン×再会と出会い

side-サトラ-




 芸術都市パーボ・レアルで奇しくも王立騎士団第三部隊の隊長レイヴンと再会したサトラは彼に半ば強引に連れ去られるような形で繁華街のとあるレストランにいた。



「思わぬところで出会えた偶然に乾杯、といきたいところではあるけど、お互い職務中だもんな」


「レイヴン隊長、それでお話とは」


「まぁまぁそう急ぐなって。お、この店レザノフ産の葡萄酒(ワイン)扱ってるのか。仕事じゃなきゃあなぁ……」



 レイヴンは部下の騎士たちを店の外に待機させ店内を貸し切り、今ここにいるのはサトラとレイヴン二人だけという状態だ。

基本的に性善説思想で目に見える悪人でも無ければ他者への好き嫌いは無い彼女ではあったが、それでもこのレイヴン・スケアロウという人物に対しては若干の苦手意識を抱いていた。


 ウェイターに適当に注文するとレイヴンはまた世間話や昔話をし始めたのでサトラは切りのいいところで本題を早く話してくれるようにと催促する。

……そう言えば影次たちは大丈夫だろうか。自分だけこうしてランチに来てしまっているがお腹を空かせてしまってはいないだろうか。



「せっかちなやつだなあ。まぁいい、さっきも言ったがこの街の貴族ピーフォール卿に怪盗から予告状が届いた。これまでの手口と同様な点、予告状の筆跡や材質も同一。間違いなく本物と見ていいだろう」


「ピーフォール家と言えば芸術都市(パーボ・レアル)の代表を務める大貴族でしたね」


「ああ、しかも卿は国営美術館の館長をシンクレル王陛下から任されている程の方だ。ただでさえ我々騎士団は怪盗と名乗るコソ泥相手に醜態を見せちまってる。これでもし今回も怪盗にまんまとしてやられてみろ。王立騎士団の名誉は地に落ちるってもんだ」



 怪盗リリアック


 約一年ほど前から度々世間を賑わせている神出鬼没の泥棒だ。主な標的は絵画や宝石、陶芸等の美術品。姿を現す地域もこれといった法則性が無く男なのか女なのか、単独犯なのか集団なのか、未だにその素性に関しては何一つわかっていない。


現在判明しているのは犯行前に予告状を出すという事、盗んだ品はしばらくするといつの間にか元の場所に返却されるという事。


盗んだものを結局返すという謎の行動から金銭目的の盗賊というより愉快犯に近い。それでも街の平和を守る騎士団にとっては許し難い犯罪者には違いないのだが……。



「明日、美術館にピーフォール卿が展示する予定の品が搬送されてくる。サトラ、お前が力を貸してくれるのなら心強い。第三部隊としても俺としても」



 直属の上司であるバーナードの許可も無く引き受けてしまったがレイヴンの方から後で話をつけてくれると言っているのだし、多分大丈夫だろう。バーナードの事だからどうせ事前に連絡したところで「たっぷり恩を売っておくといい」とでも言って引き留めはしないだろう。



「しかし、昔はこうしてお前に協力を求めるような事になるとは思わなかったな」


「レイヴン隊長の中の私は今でもあの頃のままのようですしね」



 別に皮肉のつもりで言った訳では無かったがレイヴンはサトラの言葉に苦笑を浮かべる。

確かに、レイヴンにとってサトラという女性の印象は初めて出会った時のまま変わっていない。煌びやかな舞踏会でドレスに身を包む王家の血縁として紹介された、あの頃の令嬢と。



「そりゃあ確かに入団した頃は世間知らずのお嬢様とは思ったけど、今やお前も立派な騎士……いや、剣の腕だけなら第一部隊隊長にも匹敵するだろうよ」


「それはいくら何でも過大評価というものです。私などまだまだ……守りたいものを守れるだけの力も無い体たらくというのが現状です」


「それこそ自分を過小評価してるってもんだ。……なぁサトラ。お前さえ良ければいつでも俺のところ(第三部隊)に戻ってきてもいいんだぜ? お前はいつまでもあんな田舎にいる女じゃないだろ」


「お心遣いは有難いのですが、私は今第四部隊の副隊長を務めている身。それに、私はあの街をとても気に入っていますから。少なくとも王都にいた頃よりずっと充実した毎日を過ごさせて頂いています」



 サトラにそう断られ、食事を終え彼女が店を出た後もしばらくレイヴンは席を立たず身の窓からサトラの後姿を眺め続けていた。

王都から、自分から離れていった、かつての部下。第四部隊に異動すると聞いた時は半ば本気でどうにかしてやろうかとさえ思ったものだ。勿論サトラでは無く、騎士団に恥ずかしげも無く居座り続けているあの犬野郎(バーナード)の事をだ。



「充実した毎日、ねぇ……」



 そう語るサトラの表情は実際レイヴンの目から見てもそんな風に見えた。余程アルムゲートの暮らしが性に合っているのか、仲間に恵まれているのか、もしかすると……。

何にせよ自分にとってはあまり楽しくない話だ。


 カップの中の冷め切った紅茶を一気に煽り、仕事に戻るレイヴン。

この胸の中のざらつきは、あのふざけた怪盗相手に発散させて貰うことにするとしようじゃあないか。








side-影次-




「元婚約者ぁ!?」



 サトラと別れた後、商店街で昼食を取っていた影次たち。何気ない談笑の最中ふとした事で話題はサトラを連れて行った王立騎士団第三部隊の隊長レイヴンの事になり、マシロからサトラとの関係を聞いた影次は思わず大きな声を上げてしまった。



「エイジ殿、お声が大きいですぞ」


「あ、ごめん……すいません、すいません何でもないです」



 ジャンに窘められ驚かせてしまった事を他の客たちに謝る。それにしても婚約者とは。思えばサトラは影次と同い年、22歳だ。こちらの世界ではどうかは知らないが影次のいた世界なら別に結婚していても、子供がいても不思議ではない年齢なので不思議では無いのかもしれないが、何となくサトラからはそう言った類の話を全然感じなかったせいかとても驚いた。



「キヒヒッ、元カレってアタシの予想ほとんど正解だったねぇ」


「とは言ってもサトラ様が第四部隊に配属された事で有耶無耶になってしまったようですが。そもそもレイヴン隊長のご両親や周囲が勝手に決めた政略的なものだったようですし」



 レイヴン・スケアロウ第三部隊隊長は王都貴族スケアロウ家の出自で王家との繋がり(パイプ)を作る事を狙い遠縁とは言え王家の血筋であるサトラと息子を結婚させようとしていたらしい。



(なるほど、元婚約者ねえ……道理で何だか様子がおかしかった訳だ)


「えー? でも少なくてもあの若い隊長さんの方はサトちゃんに本気でお熱って感じだったけどねぇ」


「サトラ殿は美人ですからなぁ。それに加えてあの人格者ぶり。放っておく男性の方が少なくありますまい」



 昼食をとりながら話題はすっかりサトラの事で持ち切りだ。そう言えばサトラだけでなくこの面々には誰一人としてそう言った浮いた話を聞かない。かと言ってこちらからそんな話題を振るのも藪蛇なので黙っておくが。



「おーっ! やっぱりそうっス!」



 突然後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返ると、案の定見覚えのある人物の姿があった。

身の丈以上のリュックを背負った影次と同じくらいの年頃の青年。港湾都市シーガルで出会った若き露天商だ。



「あれ、確か……オフロとかいう露天商の人!」


「オボロっス! お見知りおきを!」


「お久しぶりです。シーガルではお世話になりました」


「あ、いやいやこちらこそ。お陰でシーガルの街でも安心して商売出来るようになりましたし冒険者ギルドからもたっぷり謝礼を貰ったしお礼を言いたいのはこっちっス」


「オボロ君、こちらの方たちは?」



 そこで初めて影次たちはオボロの横にいる連れの存在に気が付く。すらりとした細身の長身、冒険者の旅装束と貴族服を混ぜ合わせたような独特の服装。灰色の髪と深紅の瞳のコントラストが印象的な美丈夫だ。



「ああ、こちらの方々は……えーっと、言っちゃっていいんスか?」



 マシロが頷くとオボロは連れの男性に影次たちの事を簡単に紹介する。すると途端に表情を変えて詰め寄ってきた。主にマシロに。



「アルムゲートの第四部隊! これはこれは何と僥倖。一度お会いしたいと以前から常々思っておりました!」


「は、はぁ……」


「ああ申し訳ありません。僕とした事が自己紹介もせずにご無礼を……。僕の名はライラ。一応記者のはしくれです。以後お見知りおきを」


「ど、どうも」



 マシロに(かしず)き、その手を取りながらライラと名乗る青年。芝居がかった所作だったが歌劇の登場人物のような端正な顔立ち、ルックスとあってそんな仕草も全く違和感を覚えない。



「記者? って、新聞作ってる人たちだよねぇ。アタシ初めて見たよー」


「おおっ、こちらの女性(レディ)もまた…!」


「わわっ! こ、今度はアタシっ?」


「あー、すいませんっス。こういうところが玉に傷なんスけど、これでも優秀な記者さんなんスよ」



 今度はシャーペイに絡み始めたライラの事を溜息交じりにフォローするオボロ。ライラをひっぺがしてきたシャーペイは影次の後ろに回り込み隠れてしまった。



「俺は黒野影次と言います。よろしく」


「ん? ああ、よろしく」



 マシロやシャーペイとは比べ物にならない素っ気ない態度のライラ。ここまで露骨に男と女で切り替えられると逆に清々しい。



「皆さんがパーボ・レアルにいるって事は、やっぱり例の怪盗絡みっスか?」


「露天商というのは耳が早いんですね。確か今回の件に関しては公にはされていない筈ですが」


「と、言う事は怪盗の正体ってもしかして……」



「違うっス違うっス! ライラさんから聞いただけっスだから構えないで凍らせようとしないで!」



 両手と首を必死に横に振るオボロを他所にいつの間にか当たり前のように影次たちと同じテーブルに座っているライラが前髪をかき上げながら不敵に笑う。



「美術館や騎士団は隠したがっているようだが、人の口に戸は建てられないと言う事さ。世間を賑わせている怪盗がついに国営美術館に現れる、記者としてはこんな絶好の機会を逃す手は無いさ」


「この街でしばらく商売しようと色々準備してた時に取材中だったライラさんと知り合ったんスけど、この人一見アレですけど本当に優秀っスよ? ほら、この前の王都での怪盗事件の記事もこの人が書いたんスから」


「はっはっ、大した事じゃあないよ」



 サトラが読んでいた例の記事だ。この世界のジャーナリストという事になるのだろうか。見た目には記者というより白いスーツとシャンパンが似合いそうだが……。



「あの記事を? 凄いですね」


「はっはっはっ! 見目麗しい女性(レディ)にお褒めに預かり光栄だよ」


「優秀な記者なのですなぁ」


「あ、男は別にノーサンキューだよ」


「清々しいですな」



 同感だ。言ってる傍から注文を取りに来た女性店員を口説き始めている。…あ、逃げられてやんの。



「あ、話を戻すっスけど、皆さんも怪盗を捕まえに来たんスよね?」


「いや、パーボ・レアルには別の目的で来たんだよ。……ただまぁ、成り行き上怪盗の件にも関わる事になりそうなんだけど」


「やっぱりそうっスか! じゃあまた何か手伝える事は無いっスか? 出来る範囲でなら何でもお手伝いするっスよ! 金銭面では無理っスけど!」



 シーガルでの盗賊団の一件に関与した事で思った以上に利益を得たので味を占めたのだろう。息巻くオボロには取り合えず「じゃあ、何かあったらまた相談する」とだけ言っておいた。



「俺はしばらく中央通りあたりで露店出してるんでいつでも顔出してくださいっス!」


「お別れしてしまうのは名残惜しいですが僕もこれから所用がありまして。またの出会いを心待ちにしていますよ、お嬢様方」



 思わぬところで再会したオボロと記者ライラ。特にライラのインパクトは影次たちの中に深い爪痕として残されていた。



「…何か、どっと疲れたな」


「悪い人では無いんでしょうけどね……」


「アタシああいうの苦手だなぁー」


「中々ユニークな方でしたなぁ」



 あれをユニークの一言で済ませてしまうジャンの器の大きさには本当に感服する。






「皆すまなかった。随分待たせてしまって」



 しばらく街中をフラフラと当てもなく探索していた影次たちだったが運良く偶然サトラと合流する事が出来た。半ば街で宿を取るのを諦めようかと話し合っていたところだ。



「いえ、サトラ様こそお疲れさまでした。……その、色々と大変だったでしょう?」


「そんな事は無いさ。彼も別に悪い人間という訳では無いからな。明日、第三部隊に同行して私たちも国営美術館の警備に当たる事になった。事後承諾になってしまったが、力を貸してくれないだろうか」



 特に断る理由も無いので構わない、と頷く影次。ジャンも影次がそう言うならばと二つ返事で引き受ける。シャーペイは……興味無さそうな様子だ。もしもの時はリザのところ(竜の宮殿)に放り込んでおけばいいだろう。



「ありがとう。エイジの善意に甘えてばかりだな、私は」


「第四の人たちには日頃から世話になってるし出来る範囲でなら勿論手伝うさ。……で、これからどうするんだ?」


「美術館の館長を兼任しているこの街の代表ピーフォール卿とは明日レイヴン隊長たちと共に会う事になっている。今日は宿を探して……いや、その前にまずは我々の本来の目的を果たす事にしよう」



 思いがけず第三部隊に遭遇し、怪盗事件に協力する事になりドタバタしていたせいでサトラだけでなく影次もすっかり忘れていた。元々自分たちはどうしてこのパーボ・レアルの街にやって来たのか、その目的を。



「バーナード隊長へのお土産探しだな」


「氷の彫刻にして街の景観の一部にしましょうか?」



 この街にやってきた目的、竜の鱗の買取を頼めるというバーナード隊長の知り合いを訪ね再び貴族街へとやってきた影次たち。

昼間は向こうの屋敷の前で余り楽しいとは言えない光景を見てしまったものだ。


あからさまに下劣そうな豚獣人(ブーボルト)貴族と、それに連れて行ってしまった若い女性。彼女は今頃どうなってしまっているのだろう。第三部隊がいる手前軽率な行動は出来ないのだが、それでもやはり見殺しにしてしまったという負い目をどうしても感じてしまう。



「サトラ様、それでその貴族の方の屋敷というのは一体どこなんですか?」


「ああ、ちょっと待ってくれ。確かバーナード隊長が地図を描いてくれていてな……あったあった」



 懐から取り出した紙切れを広げ、描かれている貴族街の大まかな地図と実際の街を照らし合わせて印が付けられている目的の貴族の屋敷を探す。



「えーっと、この道があそこだから……あ、あれじゃない?あの無駄に煙突だらけの面白屋敷の隣の」


「……おや? あそこは確か……」



 いち早く目当ての場所を見つけたシャーペイが指差す先にある屋敷を見て訝しむジャン。影次たちも印されている屋敷を見て思わず唖然とする。



「……この屋敷って」


「ああ、どうやらここのようだ」



 地図と何度も見比べてみるが、どうやらこの屋敷で間違いないらしい。


そこは件の豚獣人(ブーボルト)貴族が女性を引きずり込んでいった、例の屋敷だった。

新キャラ登場&再登場キャラ数名。あまりゴチャゴチャしないようにしなければ…

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