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異世界×英雄 ~剣と魔法と変身ヒーロー~  作者: シノミヤ
第一部・シンクレル王国編

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最強の生物×残酷な対価

ドラゴン



 元の世界(現代)においてもあまりにも有名な伝説の生物。

当然影次のいた世界においてドラゴンとは創作の中の、架空の存在に過ぎない。

大きな翼を羽ばたかせ空を飛ぶクジラよりも大きなトカゲなど実在する訳が無い。口から火を吐く生き物などいる筈が無い。


だが、今まさしく自分たちの目の前にいるそれは、まぎれもなく本物のドラゴンだった。



「まさか……どうして、どうしてこんなところにドラゴンが……」


「と、トカゲ……っ! ばかでっかいトカゲ……っ!」



 突然のドラゴンの襲来に完全に委縮してしまうアズレアとマシロ。本当なら影次も思い切り驚きたかったのだがその前に他の二人の慌てふためきぶりを目の当たりにしたせいで気が落ち着いてしまった。



『ケモノばかりと思っていたが、ヒトもいたのだな、この森には』



 耳の奥から響く声。ドラゴンの言葉が音を介さず直接頭の中に響いてくる。まるでテレパシーのような奇妙な感覚だったがそれ以上に驚いたのは、ドラゴンが当たり前のように人間の言葉を操っている事だった。



「喋れるのか、ドラゴンって」


『ヒトの言葉など悠久の時を生きる(ワレ)にとっては容易いものよ』



 そう言ってフン、と鼻を鳴らすドラゴン。その際に生じた鼻息の風圧だけでも影次たちは吹き飛ばされそうになる。あと蛇臭い。



「偉大なる竜よ、私はこの森に生きるエルフの一族が一人、アズレアと申します」


『エルフに、ニンゲンか。(ワレ)の寝床に一体何の用だ』



 ジロリと大きな瞳で影次たちを見下ろすドラゴン。それだけでアズレアだけでなく、マシロまで見えない何かに上から抑え込まれるかのように地面に膝をついてしまう。

ドラゴンの全身から滲み出る膨大な魔力が眼光に、言葉に含まれ発せられる。たったそれだけの事にも関わらず、他の生物にとっては凄まじい圧力(プレッシャー)となって身に伸し掛かってくる。


この世界の者では無いからだろうか、ドラゴンの圧の影響を受けずにいる影次がアズレアに変わり自分たちがここに来た経緯を説明する。



「最近この森の生態系が滅茶苦茶になってしまっていてエルフの人たちが大変困っているんです。俺たちはてっきり森の奥にいるキラースネークが原因だと思ってここまでやって来たんですが……」


『なるほど。実際来てみれば(ワレ)がいた、と。確かに、ここ数日蛇どもの姿が少なくなったと思っていたが……』


 巨大な爪で顎下をボリボリと掻きながら意外(?)と素直に影次の話に耳を傾けてくれるドラゴン。言葉も通じる事だし案外話せば分かってくれるのではないか、と思い切って聞いてみる。



「ドラゴン、森の異変が起こり始めたのが最近という事はあなたも別の場所からこの森にやってきたのではありませんか?」


『うむ、この森は霊脈が活発でな。特にここは殊更大地に草木に魔力が漲っておる。その証拠がこの花々だ。これは潤沢で純度の高い自然界の魔力が満ち満ちている場所にしか咲かない花だ。ヒトの世にも貴重なものなのだろう?』


「りゅ、竜よ! 恐れながらお願いがございます!我々エルフの里は今縄張りを追いやられた獣たちによって危機に瀕しております。狩りに出るのはおろか、このままで多くの同胞が暮らす地を野獣に襲われてしまうのも時間の問題……」


(ワレ)がこの地にいる事で、お前たちを苦しめてしまっているという訳か。……ふむ、つまりお前たちは(ワレ)にこの地を去れと言いたいのだな?』



 アズレアの懇願にドラゴンもこちらの事情を察したようだ。だが、どうにもその反応の、口振りの雲行きが怪しい。何となくだが嫌な予感がする。



『ならば問おう。何故、万物の頂点たるドラゴンの(ワレ)が矮小な者の都合を汲まねばならぬ』


「で、ですがこのままでは我々の里が……」


(ワレ)の知ったところでは無い』



 嫌な予感的中だ。言葉が通じれば分かり合えるのであれば世界中から争いなど起こりはしない。確かにドラゴンがエルフの里を助ける理由は無いが、里が危機に瀕しているのは間違いなくこのドラゴンのせいなのだ。



「ドラゴン、あなたがこの地に降り立った結果この森の秩序が壊れてしまいました。だというのにその言い草は流石に無責任では?」


「え、エイジ……!相手は竜っ! ドラゴンなんですよ!? そんな言い方は……」



 この世界におけるドラゴンという生き物が一体どういった存在なのかは知らないがマシロが真っ青な顔で諫めてくる事から察すると、まぁ、とんでもない相手なのだろう。

マシロの心配通りドラゴンはその大きな瞳を細め、鋭く輝く牙を見せる。どうやら影次の言い方が実際気に入らなかったようだ。



『ニンゲン。貴様、何が言いたい?』


「あなたにはあなたの都合があるように、この森に生きるもの達にも都合があります。万物の頂点たるドラゴン様、あなたは矮小なるもの達を虐げる事に悦を見出すようなご趣味がお在りなのですか?」


『言ったであろう。(ワレ)の知ったところではない、と。生意気にも(ワレ)を挑発するその度胸は褒めてやるが……』



ドラゴンが、その太い首をしならせて大きく頭を振りかぶる。次の瞬間、広大な森を丸ごと震わせるほどの凄まじい轟音が、振動が影次たちに襲い掛かる。


ゲッコウユリの花が飛び散り木々が軋む。ドラゴンの咆哮によって生じる音の衝撃と風圧はまるで台風のような激しさで小柄なマシロや華奢な体格のアズレアは簡単に吹き飛ばされてしまい花畑の中を二転三転と転がってしまう。



『言葉は選ぶがいい。ニンゲンよ』


「……っ、失礼……非礼をご容赦頂きたい」


「お、お願いです偉大なる竜よ! どうか、どうか寛大なるご慈悲を頂けないでしょうか!われらはこの森を追われては生きてはいけません。どうか、どうか……!」



 ドラゴンの雄叫びに吹き飛ばされたせいで全身土や花びらにまみれたアズレアがドラゴンの前で膝と手をつき、深く深く首を垂れて懇願する。

自身の足の指にも満たない小さな生物のそんな必死な姿にドラゴンも流石に感じるものがあったのだろうか。顎の下を掻きながらしばらく黙って己に慈悲を乞うアズレアを見下ろしながら何か考えているようだ。



『して、そなたらに慈悲を与えたとしてお前たち如きが(ワレ)への見返りに何をもたらすというのだ?』


「それは……我々(エルフ)あなた様(ドラゴン)に差し出せるものなど……」


『ならばお前は(ワレ)に対し無償の奉仕を求めるというのだな?何とも都合の良い話よ』



 口の端を吊り上げてドラゴンが笑う。里を、同胞を守ろうと必死に救いを求めるアズレアを、滑稽だと、嘲笑う。



『だが、そうだな。(ワレ)もここに来て蛇を狩るばかりでいささか退屈していたところだ。いいだろう、望み通りこの地を去ってやろうではないか」


「ほ、本当ですか!?」


『ただし、だ』



 その言葉にアズレアが安堵しかけたところでドラゴンはある条件を提示してきた。

ドラゴンが要求してきたその対価(・・)にアズレアは勿論、影次もマシロも言葉を失ってしまう。



『明日の朝まで待とう。(ワレ)はいつでもここにいる。お前たちがどのような返答を持って再び(ワレ)の前に現れるのか、楽しみに待っていよう』










 エルフの里への帰路の道中、影次もマシロも、アズレアも無言で森の中を歩いていた。


森の異変の元凶と思われていたキラースネークの巣は見つけることが出来たが、そのキラースネークでさえ圧倒的捕食者に縄張りを追われ逃げていただけに過ぎなかった。


ドラゴン。人間より遥かに長い年月を生きるエルフたちでさえその姿を見たものはほとんどいないと言われている伝説の生物。


曰く世界最強の生物、曰く万物の頂点。

その存在は様々に言葉を変えて世界各地に広く知れ渡っている。


 よりにもよってそんな存在がこの森の生態系を狂わせてしまっている原因だったとは。これではキラースネークの方がずっとマシだ。ドラゴンに比べればギガントオックスやキラースネークなど愛玩動物のようなものだろう。

実際、あれだけ脅威だった巨大蛇(キラースネーク)もドラゴンにとってはオヤツ感覚だ。話のスケールが違いすぎる。



「アズレアさん、あの……これからどうするんですか?」


「……とにかく話は里長に報告してからです。それから、今夜のうちに決めなければ」


「ですが! 本当にあんな条件を呑む気なんですか!?」


「ならあなたは我々にドラゴンと戦えと仰るんですか」



 前を歩くアズレアはマシロの方を振り向こうとしない。マシロは納得できないといった様子だったがここでアズレアを責めるのはお門違いだ。



「落ち着けマシロ。彼女の言う通りまずは里長さんやサトラたちにも知らせないといけないだろう?」


「エイジは納得できるんですか、あんな……」


「エルフにはエルフの価値観や文化があるんだ。俺たち外野がとやかく言う筋合いは無いだろ」


「……っ! そんな事は、私だってわかっています。わかってますけど……」


「マシロさん」



 理屈では分かっていても心がそんな理屈に納得できないでいるマシロの様子を見かねたアズレアが足を止め、後ろの二人に振り返る。



「心配してくださるのは嬉しく思いますがこれはエイジさんの仰る通り我々エルフに課せられた問題です。あなた方が気に病む必要はありません」



 当事者であるアズレアにそう言われてしまってはマシロもこれ以上何も言えなくなってしまう。



「俺だってこんなふざけた話を納得なんてしてないさ」



 悔しそうに顔を俯かせるマシロに、アズレアには聞こえないように影次は小さな声でそう呟いた。



-一人、贄を捧げよ。さすれば万物の頂点たる(ワレ)を煩わせる対価としては安いものだろう?-



「本当、ふざけた話だよな」


「あ、あの、エイジ……怖いです、顔が怖いです」











「酷い……これは一体……」


「な、何が起きたというのですか……!?」



 エルフの里に戻ってきた影次たち三人が目にしたのは、荒れ果てた里の惨状だった。



 家屋は何軒か倒壊しており柵や畑なども滅茶苦茶になってしまっている。あちこちで傷を負ったエルフの姿も見え、里の者たちは怪我人の治療や建物の修理などに慌ただしく走り回っていた。

そんな光景に呆然としていると影次たちが戻ってきたことに気付いたサトラたちが駆け寄ってくる。



「エイジ、マシロ! 二人ともよく無事で……」


「そっちは全然無事じゃないじゃないですか! 一体何があったんですか?」


「エイジたちが里を出ていってからしばらくして、ギガントオックスの群れがこの里の中にまで侵入してきたんだ。あまりにも突然の事だったので大分被害が出てしまったが……幸い死者は出ていない」


「いやはや驚きましたぞ。私やサトラ殿がここに残っていて正解でしたな」



 サトラとジャンでギガントオックスを撃退してくれたようだ。よく見ると二人とも大きな怪我はしていないがあちこちボロボロになっている。



「エルフの皆さんと協力して何とか追い出しましたが、獣避けを施されている里の中にまで突っ込んでくるとは……まるで何かから必死に逃げようとしているかのようにも見えましたな」


「……あのドラゴンか」



 恐らく、ドラゴンに食われまいと更に森の外側へと移動してきたキラースネークから逃げようとしたギガントオックスの群れの行動範囲が、とうとうこのエルフの里にまで達してしまったのだろう。


獣避けも興奮状態で暴走するギガントオックスには効果が無かったのだろう。あの巨牛の群れに襲われて死人が出なかったのは本当に運がよかったのだろう。



「ドラゴン? 何の話だ?」


「ええ、実は……」



 サトラたちはマシロと影次からキラースネークもまた住処を追われてしまった側だった事を、森の奥で遭遇したドラゴンの事を、そしてドラゴンが提示した要求の内容を聞かされ、思わず頭を抱えてしまった。



「状況は益々悪化の一途だな。しかし……よりにもよってドラゴンとは」


「一応聞いておくけど、ドラゴンって倒したらいけなかったりするのか?」


「人間の社会ではそのような話は無かったと思いますがエルフにとってはどうでしょうなあ。獣人族の中にも一部ではドラゴンは神の使いだの世界の守り神だのと敬い信仰の対象としている者たちもおりますしな」



 やはりあの時、その場の感情に任せて変身して倒そうとしなくて正解だったようだ。

するとそこにアズレアから同じように森の奥での経緯を聞いた里長アキギリとアズレア当人もやってきた。



「話は娘から聞きました。エイジさんマシロさん、ご無事で何よりです。……それにしてもドラゴンとは」


「ドラゴンは森を出ていく対価に生贄を要求してきました。どうするおつもりなのですか?」


「それでこの森の秩序が元に戻るというのなら……やむを得ないのやもしれませんな」



 今の里の悲惨な状態を目の当たりにしてしまった手前、マシロも里長を非難する事は出来ずにいた。

一人の犠牲でこの里が、森が救われるのならば安いものなのかもしれない。少なくともエルフたちに「力を合わせてみんなでドラゴンと戦おう」などと言うよりはよほど現実的だろう。


これから里のエルフたちを集めて話し合いをするという里長たちと別れて部屋に戻ってきた影次たち。エルフの話し合いの内容というのは……

あまり考えたくはないが、恐らくは生贄の選定、といったようなものなのだろう。



「どうにかできないんでしょうか……。こんなの、あまりにも理不尽じゃないですか……」


「難しいな。ドラゴンを罰する法などある筈もない、騎士団とて介入は出来んさ」



 サトラたち第四部隊ならいざ知らず、王都の騎士団に知らせたところで「エルフの一匹で済むならそれでいいだろう」とでも言って知らぬ存ぜぬ、というのが関の山だろう。


そしてエルフたちもドラゴンに逆らうつもりも戦う気も無いらしい。ジャンの言っていた通り、彼らにとってドラゴンは害してはならない神のようなものなのだろうか。それとも単純に勝ち目のない相手だからだろうか。



「どちらにせよ決めるのはエルフの人たちだ。所詮私たちは余所者だ。口出しする筋合いは無いだろう」


「で、本音は?」


「このような暴挙を見過ごせる筈が無いだろう!」



 納得できないのはやはりサトラも同じだったらしい。騎士団の一部隊の副隊長という立場上今まで平静を装っていたサトラだったが本心は見ての通りだ。憤りを堪えて冷静な判断を下せるその自制心は本当に尊敬する。

ただ今は騎士団の部下も居らず極一部の内輪という状況なので珍しく激しく憤っており……そんなサトラをマシロが必死に宥めている。



「出来る事ならば今すぐ大部隊を編成し討伐に向かいたいところだ。突然やってきておきながらそれまで森で暮らしていた者たちの平穏を踏み躙り、あまつさえ生贄を寄こせとは……何が伝説のドラゴンだ。ただの侵略者ではないか!」


「お、落ち着いて。落ち着いてくださいサトラ様、気持ちはみんな同じですからっ」


「して、エイジ殿。どうなさるおつもりですかな?」


「どうするも何も……どうにか出来るもんならどうにかしたいに決まってるだろ」



 言いようのないもどかしさを胸中に抱きながら天を見上げる。日は傾き始め、空は青から茜色へと移り変わり始めている。


もうじき日が落ち夜になる。ドラゴンが提示した刻限まで残された時間はあまりにも短かすぎた。

踏んだり蹴ったりなエルフの里ですね……彼らが一体何をしたと言うんだ酷い


あ、ドラゴンの名前考えないとだ……どうしよう

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