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イマギカ・クロニクル  作者: EDA


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IMAGICA.6-03 対策

2017.12/7 更新分 1/1

「ね、姉ちゃん? 本当に姉ちゃんなの?」


「あー、やっぱそうだったか。おう、アタシはアンタのおねーさまだよ」


 細い腰に手をあてて、オレンジ色の髪をかき回しながら、瑞穂はそのように言葉を連ねた。


「何だこの声? アタシの声と全然ちげーじゃん」


「こ、声はアバターの造形で構成されるらしいからね。……それより、どうして僕のことがわかったの?」


「だってそのカッコ、アンタがガキの頃に好きだった絵本のバクそのまんまじゃん。そんで、さっき家でも《イマギカ》がどーしたこーした言ってたから、アンタもこのふざけた世界にいるのかなーって考えてたんだよ」


「い、家で? それって、何の話?」


「電話で、なんか話してたろ。すっげー深刻そうな感じでさ」


 確かにネムリは――いや、現実世界の恒平は、千明と電話で《イマギカ》について語らっていた。その直後に、瑞穂は部屋にやってきたのだ。


「そ、それじゃあ盗み聞きしてたってこと? 部屋のドアは閉めてたはずだよね?」


「ミュージシャンの耳、なめんなよ。こうやってドアに張りついてれば、楽勝よ」


「ぬ、盗み聞きする気まんまんじゃないか!」


「盗み聞きされたくなかったら、家族に心配かけんなよ」


 恒平が夕食の際に沈んだ姿を見せていたので、盗み聞きに及んだ、ということなのだろうか。

 ネムリは、深々と溜息をつくことになった。


「もういいや。そんな話をしている場合じゃないし……ロギ、どうしよう?」


「そうだな。今は猫の手も借りたいところだ。彼女がキミの姉であるならば、協力を要請したいところだね」


 そう言って、ロギは瑞穂を見下ろした。

 きっと瑞穂は現実世界の身長、174センチに設定したのだろう。190センチ近くもあるロギよりは、さすがに頭半分以上は小さかった。


「だけど、この『はじまりの町』から移動できなければお話にならない。パーティメンバーに加わってもらって、それで一緒に移動できるかどうか試してみよう」


 パーティ『ロギとネムリ』にはまだ一名分の空きがあったので、そこに瑞穂を招待した。

 瑞穂のプレイヤー名は、そのものずばり『ミズホ』である。ミズホを加えて『第一の町』に移動すると、レベル1で戦闘未経験の彼女も、無事に同行させることができた。


「すっげーな。夢の中とはいえ、無茶苦茶だね。アンタなんかは、こーゆーの好きそうだけど」


「う、うん、まあね」


《イマギカ》において家族と接するのがどれほど奇妙な心地になるものか、ネムリは身をもって知ることになった。

 そんなネムリとミズホの姿を見比べながら、ロギが説明を開始する。


「まず、現在の状況を説明させてもらおう。それを聞いた上で、協力するかどうか決めてもらいたい。みんなも、再確認の意味でボクの話を聞いてくれ」


 そうしてロギは、理路整然と現在の状況を述べ始めた。

 ネムリ、イーブ、リヴァイア、ペスカ、ジェラード、カーミラ――六名にまでふくれあがった他のプレイヤーも、余計な言葉をさしはさんだりはせずに、その言葉を聞いている。ネムリたちにしてみても、状況と気持ちを整理するのに、この時間はうってつけであった。


「なるほどねー。想像以上にややこしいことになってんじゃん」


 すべてを聞き終えた後、ミズホはキツネのような目でネムリをにらみつけてきた。


「だから、悩みがあるなら相談しろって言ったろ? 死ぬような目にあったのにダンマリってどういう了見だよコラ」


「ご、ごめんよ。あのときはまだ、姉ちゃんが《イマギカ》のプレイヤーだなんて思いもしてなかったし……」


「ふん」と腕を組みながら、ミズホはロギのほうに視線を転じた。


「事情はだいたい把握できたよ。そんで、これから何をどうしようっての?」


「ボクが考えているのは、この《イマギカ》の危険性を周知させることだ。現実世界と《イマギカ》の双方から、それを働きかけるべきだと思う」


「具体的には、どうやって?」


「《イマギカ》においては、この場にいる全員がそれぞれの知人に呼びかけるしかないだろう。しかし、その多くはバトルフィールドでモンスター討伐に励んでいるだろうから、なかなかゆっくり会話をする時間を取ることも難しい。だから、現実世界のほうにその場所を構築するんだ」


「ふーん。公民館で集会でも開こうっての?」


「それでは手間がかかりすぎるし、どれだけの人数を集められるかもわからない。だから、《イマギカ》についてのウェブサイトを作成しようと考えている。そのサイトに、これまでに起きた事態を克明に書き記して、プレイヤーたちにそれを閲覧するように呼びかけるのさ」


 それはなかなか、驚くべき発想であった。

 なおかつ、いかにも千明らしい発想とも言える。


「死亡したプレイヤーの本名などを書き記してしまったら、プロバイダーに削除されてしまうかもしれないからね。そういうデリケートな部分だけは、伏字にする。詳細を求める人間には、メールで教えてやればいい。あとは、昔なつかしい質問掲示板でも設置しておけば、より手厚くケアできるだろう」


「で、でも、それって誰でも閲覧できるんだよね? あの怪物をけしかけてきた連中に見つかっちゃったら、まずくない?」


「そんな、正体もわからない連中のことを考えていたら、何もできやしないよ。この作戦が潰されたら、次の作戦を考案するまでだ」


 そのように述べてから、ロギは作りものめいた空を見上げた。


「それに、そこまで気を張る必要はないと思うんだよね。どこの誰だかわからないけど、あのカマキリみたいな怪物をけしかけたやつは、大雑把で、適当だ。こうしてボクたちが怪物を撃退しても、何の手も打ってはこようとしないし、そもそもやり口からして穴だらけじゃないか」


「穴だらけ? どのあたりが?」


「……あの怪物は、たった三名のプレイヤーで撃退できるていどの存在でしかなかった。反撃のパターンも、いかにもプログラム通りという単調なものだったしね。明らかにこちらよりも高次元の存在であるのに、肝心な部分が大雑把だから、ちょっと手ごわいフィールドモンスターていどの存在にしか成り得なかったんだ」


「で、でも、あれが危険な存在だってことは確かだろう? 下手をしたら、こっちは生命を奪われていたんだろうし……」


「ああ。だからたぶん、あれは複数名のプレイヤーを相手にすることを想定していない存在だったんだと思うよ。一対一なら、二本の大鎌と尻尾の針で相手を追い詰めることが可能なのだろう。相手の寝込みを襲うなら、なおさらね」


 その場にいる全員が、真剣な眼差しでロギの言葉を聞いていた。

 ロギは、普段通りのぶっきらぼうな口調で言葉を重ねていく。


「まあ、他のプレイヤーが救助に駆けつける、というのが、そもそも想定外だったのかもしれない。それに、キミがログアウトで難を逃れたのも、たまたまの偶然だったんだろう? それで怪物の特性を把握した上で再戦できたから、ボクたちは返り討ちにすることができたんだ。そこの不機嫌そうな顔をした娘さんと、現実世界の幼馴染とやらに、せいいっぱい感謝することだね」


「いや、もちろん感謝はしているけれど……」


 そこでネムリは、今まで失念していた事実に思い当たった。

 幼馴染の蓮田結花もまた桜ヶ原の住民であるのだから、この《イマギカ》にログインしていることになるのである。

 あの、生きることが楽しくてたまらない、といった様子の結花が、こんなわけのわからない世界に引きずり込まれたら、いったいどのように振る舞うのか。ネムリには、ちょっと想像がつかなかった。


(案外、木偶人形のままなのか……それとも、コンスタンツェばりに大活躍したりしているのかな)


 何にせよ、ネムリを除く優勝者の九名は、すでに死亡してしまっているのである。

 その九名には申し訳なかったが、そこに結花が含まれていなかったことに、ネムリは心から安堵した。


「では、とりあえず、私たちはパーティメンバーやフレンズプレイヤーに、そのウェブサイトを閲覧するように呼びかければいいのだな?」


 ペスカの言葉に、ロギは「そうだね」と返した。

 この幼女と魔法戦士が父親と息子であるなどとは、やはりなかなか信じ難い。


「その際には、『プレイヤーを死に至らしめる危険なモンスターが存在する』という話に重点を置くといい。嘘だと思うなら、そのウェブサイトを閲覧してみろ、という風にけしかけてやれば、きっと無視したりはできないだろうさ」


「プレイヤーがみんな桜ヶ原の住民だということは、そちらのウェブサイトで明かすのかしら?」


 これは、猫人間のカーミラである。

 そちらにも、ロギは「そうだね」と返した。


「《イマギカ》の中で現実世界の話題に触れると、それだけでプレイヤーの多くは耳を閉ざしてしまうかもしれない。誰だって、自分の正体は知られたくないと願っているだろうからさ」


「それで、みんなに事情が知れ渡った後は、どうするのじゃ?」


 老騎士ディラームが、そう呼びかける。

 なんとも奇妙な家族会議である。


「周知が済んだら、次は糾弾だ。ボクは、次の『イマギカ武闘会』の当日が、勝負の日だと考えている」


「『イマギカ武闘会』? その日に、何をするのじゃ?」


「だから、こちらの疑問を運営に叩きつけてやるのさ。その窓口であろうと思われる、ハクタクにね。今のところ、ハクタクが姿を現すのはその日ぐらいしか思いあたらないから、そこで勝負をかけようと思う」


「ああ、なるほど……前回の優勝者たちが謎の怪物に生命を奪われた、これはいったいどういうことなんだ、と糾弾するわけだね」


 リヴァイアの言葉に、ロギはうなずく。


「多くのプレイヤーが一丸になって問い詰めれば、さすがにハクタクも何らかの答えを出さざるを得なくなるだろう。今回の騒ぎに運営は噛んでいるのか、あるいは本当に不測の事態であったのか、それをつまびらかにさせるんだ」


「でも、何も答えずに消えちまったらどうする?」


「そのときは、なるべく多くのプレイヤーが武闘会をボイコットするしかないね。時間内に両者とも一切ダメージがなかったら、両者とも失格、というルールだっただろう? そのルールを逆手に取れば、参加者の全員が失格負けで優勝者なし、という状況を作りあげることができる」


「なるほど。アンタ、頭が回るんだね」


 そう言ったのは、ミズホであった。


「で、アタシはどーしたらいいのかな? この夢の中には他に知り合いもいないから、なんの役にも立てそうにないんだけど」


「キミには、レベリングに励んでもらいたい。ボクたちとパーティを組んで、最初から高レベルのモンスターを相手にしていれば、効率よく経験値を稼ぐことができるだろうからね。いわゆる、パワーレベリングというやつだ」


「は? この期に及んで、どーしてこんなアホみたいなゲームに参加しなくちゃいけねーの?」


「それはもちろん、有事に備えるためさ」


 面頬で隠されたロギの目が、その場に集まった全員の姿を見回していく。


「今回の黒幕が誰であれ、ハクタクを糾弾した時点できわめて危険な展開を迎える可能性が高い。運営者が黒幕であった場合は言わずもがなだし、それと敵対する第三者が黒幕だったとしても、やぶれかぶれで急襲してくるかもしれない。とにかく、プレイヤーの全員があの怪物を相手取るぐらいの覚悟を固めておくべきだろうね」


「プレイヤーの全員が、あの怪物と? そんなことになったら、大惨事じゃないか!」


「もちろん現実世界で立ち上げるウェブサイトには、あの怪物の攻略法も記載しておくよ。そうすれば、危険度も格段に軽減できるはずだ」


「でも……」と不安げな声をあげたのは、カーミラであった。


「そうだとしても、今さらレベル上げに励む意味はあるのかしら? その怪物というのは、通常のモンスターとは異なる存在なのでしょう?」


「でも、その怪物を倒したのは、ボクたちの魔法やスキルだったんだ。それにあの怪物は、大鎌で捕らえたプレイヤーの装備を強制解除する、というスキルを備え持っていた。それはすなわち、プレイヤーの装備が向こうにとっても無視できない存在である、という証拠だろう。あの怪物の攻撃をくらってもHPが減ったりはしないけど、それでも防具の効果を含む守備力によって、受けるダメージは軽減されるのだと思うよ。それなら、攻撃力に関してだって、また然りのはずだ」


「ふむ……その怪物を作ったのが何者であれ、ずいぶん中途半端な存在に仕立てあげたものだな。そこまで《イマギカ》のシステムに干渉できるなら、こちらがいっさい手出しできないように設定することもできそうなものだが」


 ペスカの言葉に、ロギはまた「そうだね」とうなずく。


「技術不足か、ただ大雑把なのか、それとも他に事情があるのか。理由はわからないけれど、とにかくあの怪物はそういう仕様なんだ。そうじゃなかったら、こっちは反撃のしようもなかったけどね」


 ぶっきらぼうに言ってから、ロギはネムリに視線を向けてきた。


「さしあたって、ボクとキミは他にフレンズプレイヤーのあてもないから、《イマギカ》の中ではやることもない。せいぜい姉君のレベルアップに協力してやろうじゃないか」


「ああ、うん、そうだね……姉ちゃんと一緒にプレイするなんて、すごく奇妙な気分だけど」


「おー、せいぜい守ってくれや」


 したたかな姉は、こんな際でも平気な顔をしている。

 その姿を見届けてから、ロギはイーブへと視線を転じた。


「キミは《イマギカ》で顔が広そうだから、いったん離脱して周知の役を受け持ってもらいたい。……その前に、ひとつ聞かせてほしいんだけど」


「……なんだよ。また何か厄介なことを言いだすんじゃないだろうね?」


「キミがそこまでレベルを上げることのできた秘訣を知りたいんだ。武闘会に選出されたプレイヤーの中でも、キミと女騎士のレベルは飛び抜けていた。それは、何故なんだ?」


「…………」


「女騎士のほうは、おおよその見当がつくんだよ。大手術の後、彼女の容態は安定していたという話だったけど、それでも痛み止めの麻酔薬を投与されている状態にあった。だから、日中でも夢うつつで、《イマギカ》にログインすることができたのだろう。それで他者よりも長いプレイ時間を確保できて、自然にレベルを上げることもかなったわけだ」


「…………」


「キミは彼女に比べれば一段下がるけれども、それでもやっぱり尋常なレベルではない。それはいったいどのような手段で成し得たことであるのかな?」


 イーブは頭痛をこらえるように額を押さえてから、やがて元気のない声で言った。


「……確かにあたしも、他の人よりは長い時間、プレイできてるんだと思うよ。でも、次の武闘会は六日後でしょ? たったそれだけの期間じゃあ、あたしの真似はできないと思う」


「ふん。試しに教えてもらうことはできないのかな?」


「……うん、嫌だね。教えたくない」


「そうか」と、ロギはあっさり引き下がった。


「それじゃあ、しかたない。とりあえず、パーティメンバーからは外れてもらおう。用事が済んだ後、別のパーティを組むあてはあるのかな?」


「……そうだね。優勝者の抜けたパーティに入れてもらうことはできると思うよ。そのほうが、レベリングの効率もいいだろうしね」


「了解した。それじゃあこの場にいる全員はフレンズ登録して、また明日連絡を取り合おう。ボクは明日の日中にウェブサイトを完成させてみせるから、そのつもりで周知に励んでもらいたい。そうして周知が完了したら、あとは各自レベリングに励んでくれ」


 そうして、ネムリとロギとミズホを除くプレイヤーは、フレンズ登録を済ませたのちに、各自の居場所へと帰っていった。

 ネムリはひとつ息をついてから、ロギの長身を見上げやる。


「ほとんどロギの独壇場だったね。もう、最初から最後まで驚きっぱなしだったよ」


「ふん。大変なのは、これからだぞ。何せ、ゲームのキャラクターが運営にたてつこうっていうんだからな」


 そう言って、ロギは丸めた拳で面頬を掻いた。


「もしも運営が《イマギカ》を閉鎖したら、ボクたちの魂だか精神だかは無事に済むのかな。この愉快な世界と一緒に桜ヶ原の人間すべてが死に絶えることになったら、世間ではどんな騒ぎになるのだろうね。……さ、それじゃあキミの姉君のためにゴールドをはたいて、装備を購入することにしようか」

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