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イマギカ・クロニクル  作者: EDA


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IMAGICA.6-01 真相

2017.12/5 更新分 1/1

《イマギカ》にログインすると、そこは『第二の町』であった。

 あたりには、他のプレイヤーの姿もちらほらと見受けられる。

 問答無用で『眠りの宮殿』に出現させられたらどうしよう、と、ひそかに思い悩んでいたネムリは、ほっと息をつきながらウィンドウを表示させた。


 ロギとイーブ、どちらの名前も白く光っている。

 ネムリは一瞬迷ったが、まずはイーブにアクセスすることにした。

 自分の居場所を告げると、イーブはやがて白い光となってネムリの前に出現した。


「やあ、昼間はどうも」


「ふん! 死ぬような目にあったっていうのに、ずいぶんとぼけた挨拶だね!」


 イーブは、普段通りの威勢の良さを取り戻していた。

 しかしきっと、無理をしているのだろう。あるいは、ネムリに弱みは見せられない、と気を張っているのかもしれない。

 ともあれ、ネムリは御礼の言葉を述べておくことにした。


「あのさ、昼間はどうもありがとう。君とロギがいなかったら、僕もどうなっていたかわからないよ。自分の身だって危険だったのに、あそこまで力を貸してくれて、本当に感謝しているよ」


「うっさいなー。あたしはコンスタンツェの仇を討ちたかっただけだよ! あんたのために身体を張ったんじゃないんだからね!」


 イーブは豊満な胸の下で腕を組み、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 そこに、ロギから通話アクセスが入る。


「やあ、ロギはどこにいるんだい? こっちはもうイーブと合流したよ」


『そこは人通りが多いから、「第一の町」に移動したんだ。キミたちもこっちに来るといい』


「了解」と告げて、ネムリはその言葉をイーブにも伝えた。

 イーブは、頭をバリバリとかきむしる。


「……あのロギってやつは、あんたよりイライラさせられるんだよね。これ以上、あいつと話す意味なんてあるのかな?」


「うん。ロギはあれから色々と調べてくれたみたいだからね。ひょっとしたら、このおかしな世界の正体を教えてくれるかもしれないよ」


「ふん! そんな真似ができるんなら、あたしは全ゴールドをくれてやるよ!」


 そのように述べつつも、イーブは同行を承諾してくれた。

 二人で同時に『第一の町』に移動すると、ちょっと懐かしい噴水の広場に到着する。


 確かにこの『第一の町』は、閑散としていた。ステージ4までをクリアしたプレイヤーには、用無しの場所であるのだ。また、ゲーム開始から二週間が経過しようとしている現在、ステージ4まで攻略できていないプレイヤーはそうそう存在しないはずだった。


 その閑散とした広場の中で、噴水の前に五名のプレイヤーたちが立ちつくしている。そこに、ロギの赤い甲冑姿も見えた。


「ああ、あそこだね。他の人たちは、誰だろう?」


 首を傾げつつ近づいていくと、その内の一名が「よお」とネムリに笑いかけてくる。

 それはトカゲ人間の魔法戦士、リヴァイアであった。


「ああ、リヴァイア、おひさしぶりです。いったい今日はどうしたんですか?」


「どうしたもこうしたも、ロギに呼び出されてしまってね」


 ネムリが『眠りの宮殿』で眠りをむさぼっていた三日間、ロギはリヴァイアとそれなりの交友を深めて、フレンズ登録も済ませていたはずであった。『竜騎士リヴァイア』というマイナー誌の漫画作品が、両者を結びあわせたのだ。


「それじゃあ、そっちの人たちは誰なのかな?」


 残りの三名は、まったく見知らぬプレイヤーたちであった。

 一人は、立派な甲冑を纏った、老騎士である。《イマギカ》において、アバターで老人を選ぶ人間は珍しい。しかし、体格はがっしりとしており、とても貫禄のある面がまえであった。


 真ん中に立っているのは、ピンク色の髪をおさげにした、可愛らしい幼女である。身長はネムリと同じぐらいで、設定年齢は十歳ぐらいだろう。白い法衣を纏っているので、職業は僧侶と思われる。幼女であるのにとても沈着な眼差しをしているのが、印象的であった。


 最後の一人は、猫人間だ。

 こちらは黒いマントを羽織っており、その下には紫色の長衣を纏っている。きっと、魔法使いなのだろう。猫の顔はとてもリアルな造形であるのに、すらりと背が高く、なおかつ女性である。


「右から順番に、ジェラード、ペスカ、カーミラだ。彼らのことは、おいおい説明させていただくよ」


 そう言って、ロギはネムリとイーブの姿を見比べてきた。


「まず、最初に言っておく。キミの発言はあらかた真実なのであろうという裏が取れたよ。とりあえず、石崎ハルカという人物の死亡を確認することはできた」


「……あっそ」と、イーブはそっぽを向いた。

「ああ、そうだ」と、ロギはうなずく。


「そして、その人物の素性を確認すると同時に、ボクはひとつの仮説を立てるに至った。なかなか突拍子もない話だけれども、たぶん間違ってはいないと思うので、そのつもりで聞いてほしい」


「ふん! ずいぶんもったいぶった前置きだね! この忌々しい世界の正体がわかったとでも言うつもり?」


「おや、キミにとって、《イマギカ》というものは忌々しい存在であったのかい?」


「当たり前だろ! こんな世界に連れてこられてなかったら、コンスタンツェは死ぬことにもならなかったんだからね!」


 そっぽを向いたまま、イーブは地面を蹴りつけた。

「なるほど」とロギは腕を組む。


「残念ながら、まだこの《イマギカ》の正体はわからない。あの得体の知れない怪物についても、謎のままだ」


「だったら、何がわかったってのさ?」


「わかったのは、プレイヤーたちの素性についてだよ」


 そう言って、ロギはかたわらに立ち並んだプレイヤーたちを見回していった。


「ボクたちは全員、桜ヶ原の住人だ」


「……は? あんた、なに言ってんの?」


「とぼけるなよ。キミだってそうなんだろう? 千葉県千葉市若葉区の桜ヶ原。とりたてて特徴もない地方都市の一区域だけど、この《イマギカ》にログインさせられたのは、そのちっぽけな区域の住人たちなんだ」


 イーブはそっぽを向いたまま、凍りついていた。

 いっぽう、ネムリは困惑の極みである。


「お、おい、ロギ、それはどういう話なんだい? いくら何でも、脈絡がなさすぎるよ」


「そうだね。ボクもなかなか確信は持てなかった。でも、さまざまな方向から検討した結果、まずは間違いないと思う」


 そのように述べながら、ロギは視線をリヴァイアのほうに差し向けた。


「最初のきっかけは、彼だね。彼の正体は、漫画家の真田星児だったんだ」


「え? だ、誰だって?」


「真田星児。『竜騎士リヴァイア』の作者だよ。彼もまた、桜ヶ原の住民だったのさ」


「いやあ、お恥ずかしい」と、リヴァイアは兜に包まれた頭を撫でた。


「今日の昼間、いきなりロギから俺のSNSに、『あなたは《イマギカ》のプレイヤーですね?』っていうメッセージが届いてね。最初は白ばっくれてたんだけど、この先もロギとは仲良くしたかったから、あきらめて正体を明かすことにしたのさ」


「ど、どうしてロギには、そのことがわかったんだい?」


「どうしてもこうしても、《イマギカ》の中で会話をしている内に見当がついたのさ。『竜騎士リヴァイア』について語るとき、彼はたびたび作者目線になっていたからね」


 ロギは、面白くもなさそうに肩をすくめている。


「そんなことは、出会って二日目ぐらいには、もう見当がついていた。でも、そんなことを暴きたてるのはマナー違反だろうから、こんな異常事態にでも陥っていなければ、ずっと黙っているつもりだった。……だけど、ボクはもともと真田星児が桜ヶ原の在住者だということも知っていたから、自説を固めるために確認を取らせていただいたのさ」


「よく俺の出身まで知っていたよね。プロフィールとかには千葉在住としか載せてなかったのに」


「余所の人間にはわからなくても、同じ桜ヶ原の住民だったら丸分かりだよ。あなたは桜ヶ原の町並みをトレースして背景に使ったり、桜ヶ原をもじった地名とかも作品に出したりしていたしね。あとがきだとかSNSだとかの発言なども加味して、まずは間違いないだろうと思っていた」


「いやあ、そこまで俺のことなんかを追いかけてくれていたのは、感激だね」


 リヴァイアは嬉しそうに笑い、ロギは「ふん」と鼻を鳴らす。

 たとえ愛読する漫画作品の作者と出会っても、態度を変えたりはしないロギなのである。


「そうしてお次は、石崎ハルカだ。彼女もまた桜ヶ原の住人であり、桜ヶ原総合病院で息を引き取ったという事実が確認できた。その瞬間、ボクの中にモヤモヤとわだかまっていた疑問が、ようやく形になったんだ」


「モヤモヤとわだかまっていた疑問?」


「ああ。ボクとキミとリヴァイアの、3人までもが桜ヶ原の住人だった。15000名の中の3名というのは、それほど高い数値ではないけれど……でも、日本の人口を考えたら、それなりの割合だろう? そうして、石崎ハルカという4人目の素性が知れたことによって、ボクの仮説が完成された」


 いまだ気持ちの整理が追いつかないネムリの前で、ロギは淡々と言葉を重ねていく。


「調べたところ、桜ヶ原の人口というのも、およそ15000名だったんだよ。その中には乳幼児や老人も含まれているから、いまだにプレイを開始していない連中の大半は、そういう素性だったんだろう。もちろん、10代から40代までのボリュームゾーンでも、プレイを拒絶している人間は少なからず存在するだろうけどね」


「いや、だけど……それでも、15000名中の4名なんだろう? それだけで、プレイヤーが全員、桜ヶ原の住民だと決めつけるわけには――」


「ボクもそう思ったからこそ、彼らに声をかけてみたんだよ」


 ロギは組んでいた腕をほどいて、黙然と立ちつくしている三名のプレイヤーたちを指し示した。


「あれは、ボクの両親と妹だ。現実世界で声をかけて、この『第一の町』に集まってもらった。これでもまだ15000名中の7名だけど、信憑性はうんと増したんじゃないのかな?」

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