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イマギカ・クロニクル  作者: EDA


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IMAGICA.5-01 眠りの宮殿

2017.12/1 更新分 1/1

 アイソレーション・タンクに身を横たえてから、およそ十分後。

 ネムリは、ようやく《イマギカ》にログインすることができた。


 場所は、『眠りの宮殿』の前庭である。

 パーソナル・スペースで眠ったままログアウトした際などでも、翌晩にログインすると、この場所に出現する仕様になっているのだ。三日間、ずっとこの場所に留まっていたネムリには、もはや見慣れた光景であった。


 目の前には、象牙色の巨大な宮殿が変わらぬ姿で立ちはだかっている。

 アラビア風、とでも表現するべきだろうか。屋根の天辺がタマネギのような形状をした、巨大な宮殿である。

 この宮殿の中に、『イマギカ武闘会』で優勝したプレイヤーたちのための個室――パーソナル・スペースが準備されているのだ。


 あたりは静まりかえっており、誰の姿も見当たらない。

 この空間には、武闘会の優勝者とそのパーティメンバーしか足を踏み入れることができないのだ。

 どうしよう、と考えていると、数メートル離れた場所に白い輝きが発生して、やがてそれが赤ずくめの魔法戦士の姿を形づくった。


「ようやくログインしたか。ずいぶん時間がかかったね」


「ああ、ロギ。そっちはすぐにログインできたのかい?」


「まあ、五分少々はかかったかな。今でも現実世界にうっすら意識が残っているんで、絶好調とは言い難い状態だ」


「《イマギカ》にログインしながら意識が残っているって、想像もつかないなあ。それじゃあ、現実世界のほうでも好きに身体を動かせるの?」


「慣れれば可能かもしれないけど、今は無理だね。たぶん、部分的にでも脳が眠っていないと、《イマギカ》にログインすることはできないんだろう。アイソレーション・タンクの中でぷかぷか浮かんでいる感覚はあるけれど、下手にあちらで動こうとしたら、おそらくそれだけで意識が冴えて、ログアウトしてしまうよ」


 そのように述べてから、ロギが長身を屈めて顔を寄せてきた。


「さあ、そんな雑談をしている場合じゃないだろう。あと二十分もすれば、ボクたちは現実世界に引き戻されてしまうんだ。まずは他のセーフティゾーンに移動できるかどうか、試してみなよ」


「え? どうして?」


「どうしてって、その謎のモンスターが『眠りの宮殿』にしか現れないとしたら、それが一番の安全策だろう? 今後、この場所に近づかなければ、それで当面の危険は回避できるんだからさ」


 ネムリは納得して、ウィンドウに「『第二の町』に移動」と呼びかけてみた。

 が、しばらく待っても、場所移動のコマンドは達成されない。


 それを見届けてから、ロギは「パーティ『ロギとネムリ』、『第二の町』に移動」というコマンドを口にした。

 すると、ロギの身体だけが光に包まれて、そこから消失してしまう。

 ネムリがたとえようもない不安感の中で立ちつくしていると、数秒後にロギは戻ってきた。


「いちおう確認しておくけど、今、ボクからのアクセス要求の通信は届いたかな?」


「え? いや、何の反応もなかったけど……」


「ふむ。別のセーフティゾーンからのアクセスは遮断されてしまうのか。それがもともとの仕様なのか、今だけの不具合なのか……こんなことなら、昨日や一昨日にも試しておくべきだったね」


「うん、そうだね……あ、それじゃあロギはこの三日間、一度も僕に通話アクセスしてなかったの?」


「ああ。べつだん用事もなかったからね」と述べながら、ロギの声はとても不機嫌そうだった。

 きっと、ネムリの側からのアクセスをずっと待ち続けていたのだろう。彼は、そういう気性であるのだ。


「ごめんよ。僕が『眠りの宮殿』で眠ったりせずに、これまで通りにプレイを続けていれば、こんなことにはならなかったのに……」


「今さらそんな話をしたって、何も解決しないよ。コハクタクは、呼び出せるのかい?」


「うん、試してみる。……コハクタク」


 コハクタクは、現れなかった。

 ロギは、自分のウィンドウに「コハクタク」と呼びかける。

 すると、そちらのコハクタクは何事もなかったかのように出現した。


『ロギさま、わたくしにご用事でしょうか?』


「ああ。ボクのパーティメンバーが、このエリアから移動できなくなってしまったんだ。これはいったい、どういうことなんだろう?」


『申し訳ありませんが、他プレイヤーさまの情報についてはご説明できない仕様となっております』


「でも、そのプレイヤーは自分のコハクタクを呼び出すこともできなくなってしまったんだよ。これでは困るから、何とかしてほしい」


『申し訳ありません。わたくしにはその権限が与えられておりません』


「だったら、その権限を持っている人物を呼び出してもらえないかな?」


『申し訳ありません。わたくしにはその権限が与えられておりません』


「それなら、ハクタクを呼び出すことは?」


『申し訳ありません。わたくしにはその権限が与えられておりません』


 ロギは「役立たずめ」と言い捨ててから、コハクタクを消した。


「さあ、いよいよ手詰まりだね。これが本来の仕様であろうとバグであろうと、キミはもはや《イマギカ》を正常にプレイできない状態に陥ってしまっているようだ」


「ど、どうしよう。僕はずっとこの場所で、あのモンスターに怯えてなきゃいけないのかな?」


「そんなこと、ボクに聞かれたってわからないよ。……そういえば、露出狂と女騎士のログイン情報は? キミは彼女たちとフレンズ登録しあっていただろう?」


 ネムリは慌ただしくウィンドウを操作した。

 フレンズ帳には、その両名の名前しか記載されていない。イーブの名は白く光っており、コンスタンツェの名は灰色に陰っていた。


「イーブはログインしているよ。通話アクセスしてみよう」


「いや、外部エリアからのアクセスが不可なら、こちらから呼びかけるのも不可なんじゃないかな」


 それでもネムリは、通話のコマンドを入力した。

 しかし、結果はロギの予見した通りだった。


「やっぱり駄目だ。僕は完全に孤立してしまっているんだね……」


「でも、向こうにだってキミのログイン情報は表示されているはずだ。それに気づけば、向こうからやってくることも――」


 ロギがそのように言いかけたとき、少し離れた場所に白い光が出現した。

 その光が、褐色の肌をした妖艶なる少女の姿を形成する。


「あ、イーブ! 来てくれたんだね!」


「馬鹿! なんでこんな昼間っから、あんたがログインしてるのさ?」


 イーブは駆け足で近づいてくると、頭ごなしに怒鳴りつけてきた。


「いいから、とっとと別の場所に移動しな! 『第一の町』でも『第二の町』でも、なんでもいいから!」


「そ、それが、ここから移動できなくなってしまったんだよ。コハクタクを呼び出すことすら、できなくなってしまったんだ」


「何だって……?」と、イーブが形のいい眉をひそめる。

 それを横目でねめつけながら、ロギが発言した。


「キミは昨晩からずっとログインしっぱなしであったのかい? いつもボクたちより早い時間からログインしているのに、ずいぶん長々と眠っていられるものだね」


「はあ? そんな話、どうでもいいでしょ!」


「そうだな。その話は後回しでもいい。今は、キミたちを襲ったというおかしなモンスターについて聞かせてもらおうか。そのモンスターは、いったい何なんだ?」


 ロギとイーブが会話らしい会話をするのは、これがほとんど初めてのことである。

 イーブは険悪に眉を吊り上げながら、「ふん!」とロギの長身をにらみあげた。


「そんなの、あたしにだってわかんないよ! だけど、あいつは危険なんだ! あいつだけは、《イマギカ》の中でプレイヤーを殺すことができるんだよ!」


「キミは、どこでそんな情報をつかんだんだ? 実際に、プレイヤーが殺されるところを、その目で見たのか?」


 ロギの容赦のない言葉に、イーブはぎゅっと唇を噛みしめた。

 その金色の目は、まるで敵をにらみすえるようにロギを見つめている。


「……そんな話を、あんたたちなんかにしてやる筋合いはないね」


「そうか。だったら、キミはどうしてボクの相棒を助けたんだ? 一度助けたのなら、最後まで面倒を見てほしいものだ」


「ちょっと! 助けを求めてるほうが、どうしてそんな偉そうな態度なんだよ!」


 ネムリは慌てて、両者の間に割って入ることになった。


「ご、ごめんよ、イーブ。キミが助けに来てくれたことには、本当に感謝している。でも、このままだと僕はまたあのモンスターに襲われてしまうかもしれないんだ。何か知ってるなら、どうか僕たちにも教えてほしい」


 イーブは、迷うようにネムリを見つめてきた。

 そのとき、ロギが「おい」と鋭く声をあげた。


「何だい、そのウィンドウは? キミは何も命じていないのに、表示が変更されてるぞ」


「え?」


 ネムリは、出したままであったウィンドウのほうに目を向ける。

 さきほどまで、ネムリはフレンズ帳のページを開いていた。それが何故か、装備品リストのページに動いていたのだ。

 そして、そこに表示されたアイテム名のひとつが、ピコピコと点滅している。

 そのアイテムは、『宮殿の鍵』であった。


「な、何だろう? 僕は『宮殿の鍵』なんて使ってないのに……」


「それは、パーソナル・スペースに入室するためのアイテムだね? それが使用されたということは、今、キミのパーソナル・スペースの扉が開いたということじゃないか?」


 そう言われても、ネムリにはさっぱり理解できなかった。

 ロギは、素早くイーブを振り返る。


「おい! キミはボクの相棒を助けた後、どうやって『眠りの宮殿』から脱出したんだ?」


「え? あたしは……あたしもそいつの後、すぐにログアウトしたんだよ」


「なるほど。それじゃあ、パーソナル・スペースに出現したモンスターがその後どうなったのかは、誰も見届けていないわけか」


 そのように述べてから、ロギはおもむろに『炎の剣』を腰から抜き放った。


「セーフティゾーンは、たとえ開放的な場所に見えても、四方を透明の壁に囲まれている。脱出口を探すという選択肢は最初から除外しても問題ないだろうね」


「ロ、ロギ、君はいったい何を――」


「キミたちを襲ったモンスターは、ずっとパーソナル・スペースで待ち伏せしていたんだよ。しかし、いつまでたってもキミが入室してこないから、自分で『宮殿の鍵』を操作して出てきたんだ」


「そんなまさか」と答えようとしたネムリの舌が、途中で凍りついた。

 宮殿の入り口から、おぞましいモンスターの異形がにゅうっと現れたのである。

 ほとんど反射的に、ネムリは武器と防具を装備していた。

『巨神の鉄槌』を握りしめながら、膝ががくがくと震えるのを感じる。


「ロ、ロギ、僕たちはどうしたら――」


「とりあえず、身を守るしかないだろう。もう十五分もすれば、ログアウトすることはできるんだ」


 すると、イーブが金色に光る目でネムリたちをにらみつけてきた。


「それ、本当? あんたたち、目覚ましでもかけてきたの?」


「うん、まあ、そんなところかな」


「わかった。十五分間だね。それまで、あの化け物を食い止めてやる」


 そう言って、イーブは両目を火のように燃やした。


「ただし、弱点でも見つけたら、この手でぶち殺してやるよ……あいつだけは、絶対に許さない!」


 イーブがそのように叫んだとき、目を持たないモンスターの顔が、はっきりとこちらに向けられた。

 そしてそのモンスターは、ムカデのような足をわさわさと動かして、ネムリたちのほうに突進してきたのだった。

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