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IMAGICA.3-03 竜騎士リヴァイア

2017.11/26 更新分 1/1

 試合を終えると、ネムリはすみやかに客席へと移送させられた。

 それと同時に、リンゴーンというチャイムの音色が頭に響く。

 ウィンドウを開くと、そこにはロギの名前が表示されていた。


『どうして返事をしないんだよ。ボクが何回アクセスを求めたと思っているんだ?』


「ごめんごめん。今まで試合をしてたんだよ。試合中は、他プレイヤーと通話できないみたいだね」


 ネムリはプレイヤーの姿の少ない最上段の席に移送されていたので、苦もなくロギと通話することができた。

『なるほどね』とロギの不機嫌そうな声が響く。


『キミは第一試合だったのか。もちろん負けたりはしていないだろうね?』


「うん、けっこう危なかったけど、なんとか勝てたよ。相手はレベル76の僧侶だった」


『レベル76か。でも、どうせFPはキミのほうが高かったんだろう?』


「そうだね。相手のFPは70000ぐらいだったかな。だけど、思ったよりもダメージを与えられなくってさ。こっちは魔法攻撃の一撃で1000以上もくらったのに、スキルを使っても三回は殴る必要があったんだ」


『ふん。キミは魔法防御がからきしだからね。それで相手は、きっと立派な装備で防御を固めていたんだろう。そもそもキミは素早さに特化して、攻撃力は並なんだから、攻撃回数でダメージを重ねるしかないだろうさ』


 戦士というのはもともと『ちから』に秀でている職業であるが、ネムリはこれまでのボーナスポイントをすべて『すばやさ』につぎ込んでしまっている。

 なおかつ、攻撃を的確に当てる『きようさ』などはさして高くもないのだから、一撃における破壊力にはどうしたって限界が生じてしまうのだった。


『こちらの第一試合も戦士対魔法使いだったけど、魔法使いが勝利していたね。プレイヤー同士だと、物理攻撃よりも魔法攻撃のほうがダメージを与えやすい仕様なのかもしれない。ま、戦士や武闘家なんてのは、魔法防御をパーティメンバーに頼りがちだろうから、それも当然の結果かもしれないけどね』


「うーん、僕も普段はロギに頼りきりだから、返す言葉もないよ。僧侶相手にこれだけ苦戦すると、先行きが不安だなあ」


『泣き言を言うな。僧侶だろうが魔法使いだろうが、キミほどスピードに特化しようと考えるプレイヤーは多くないはずだ。相手が呪文を唱える前に、何発でも殴ってやればいいんだよ』


「うん、まあ、今回もそれで何とか勝てたようなもんなんだけどね」


 そういえば、ネムリはあまり戦う心がまえができていなかったので、相手の先制を許してしまったのである。

 素早さにおいては確実にネムリがまさっていたのだから、同時に動けばネムリが先制できたはずだ。二回戦以降は、その点を注意するべきだと、ネムリは心に刻みつけておいた。


「そういえば、ロギはどこの会場にいるのかな? 僕は、第四試合場だったんだけど」


『ボクは、第九試合場だったよ。……ハクタクというのは、聞きしにまさる化け物だったね』


 ロギは初日のログインが遅かったため、ハクタクとは顔をあわせておらず、すべての説明をコハクタクから受けていたのだった。


『あいつも、ゲーム内に設置された進行役にすぎないのかな。それとも、運営者に操作されているキャラなのかな。……ま、どちらにせよ、プレイヤーが直接対話することはできなそうだけどね』


「そうだね」と答えつつ、ネムリはいくぶん驚かされることになった。

『イマギカ武闘会』のさなかにあって、ロギがそのようなことにまで思いを馳せているとは考えもしていなかったのである。


『ちなみに、こちらの会場にはあの女騎士も選出されていたよ』


「あ、そうなんだ? こっちには、イーブがいたよ」


『ふん。あのやかましい露出狂を黙らせるいいチャンスじゃないか。自慢のハンマーで殴りまくってやるといい』


「どうだろうね。彼女はレベルが高い上に魔法使いだから、ちょっと太刀打ちできないかもしれないよ」


『そんなことはない。あらためて思ったけど、この世界において重要なのはFPなんだよ。ボクが思うに、どれだけレベルを上げたとしても、FPが足りていないプレイヤーはその能力を使いこなすことができないんだ。キミは自分が人並み外れた素早さを有しているということをもっと強く自覚して、それを使いこなすことに集中するべきだと思うよ』


 ロギの助言は、ネムリに大きな安心を与えてくれた。

 やっぱりネムリにとって、ロギの存在はかけがえのない支えなのである。


『それじゃあね。いつ出番が回ってくるかわからないから、そろそろ通話を打ち切るよ』


「あ、うん。ロギも頑張ってね!」


 返事もないままに、ロギの表示は消えてしまった。

 しかたなく、ネムリは試合会場のほうに視線を移す。


 広場では、戦士と戦士が真正面から斬り合っていた。

 ダメージを受ければ回復アイテムを使い、なかなか勝負が決まらない。けっきょくその試合は時間切れとなり、より多くのダメージを与えたほうの勝利となった。


 その後も、粛々と試合は続けられていく。

 やはり、魔法使いや僧侶の戦いというのが、ネムリには興味深かった。

 ネムリの相棒たるロギは魔法戦士であるが、やはり魔法の専門家たる魔法使いや僧侶に比べれば、習得できる魔法に限りはあるし、威力もケタ違いである。

 それに、さきほどのツクヨミは攻撃一辺倒であったが、相手の能力値に干渉する状態変化の魔法も、なかなかあなどれない気がした。


 そして、第一回戦の最終試合には、満を持してイーブが登場した。

 相手は、イーブと同じ魔法使いである。

 試合は、数秒で決着がついた。相手の魔法攻撃を回避したイーブが、強力な魔法を連続で叩き込み、あっけなく勝利をつかみ取ってしまったのである。


(相手だって魔法防御力は高いはずなのに、たったの二発で仕留められるのか。イーブはやっぱり強敵だな)


 しかし、イーブの出番は最後であったので、第一試合のネムリと当たるとしたら、決勝戦だ。

 それまでに、もう少しは魔法を使うプレイヤー相手の戦闘に慣れておきたいところであった。

 が、第二回戦におけるネムリの対戦相手は、自分と同じ戦士であった。


『東、ID,6894、ナイトメアさま。レベル79、FP62830。職業は、戦士』


 身長はおそらく200センチ、横幅も厚みも尋常でない、大男である。

 甲冑は黒ずくめで、その手には巨大な戦斧を携えている。両手用の武器であるらしく、盾は無しだ。


(見た目は鈍重そうだけど、実際のところはわからないからな)


 何にせよ、ネムリは先手必勝のかまえであった。

 コハクタクが試合の開始を告げると同時に、頭から突進する。


 ナイトメアは、戦斧を振りかぶった。

 しかし、その動きはあまりに緩慢であった。

 さきほどのツクヨミとは比べ物にならないほどの、スローモーな動きである。


(もしかしたら、『すばやさ』にまったくボーナスポイントを割り振っていないのかな?)


 戦士の初期値において、『すばやさ』と『きようさ』は同じ数値である。そして、ボーナスポイントをいっさい割り振っていないネムリの『きようさ』は、179であった。

 然して、ボーナスポイントのすべてを注ぎ込んだ『すばやさ』は、アイテムの増強分も含めて641である。仮にナイトメアの『すばやさ』が179前後であるとすると、三倍以上の開きが生じることになる。


(まあいいや。撃ち込めるだけの攻撃を撃ち込んでおこう)


 ネムリはまず、『覇王撃砕』のスキルを発動させた。

 さすがにツクヨミよりは頑丈で、『387pt』のダメージしか与えられない。


 さらに、『巨神の鉄槌』をぶんぶんと振り回す。

『184pt』『172pt』『175pt』の数字を撒き散らしつつ、ナイトメアの巨体は右に左にと翻弄された。


「おのれ!」と怒声を振り上げて、ついにナイトメアが戦斧を振りかざす。

 そのゆるやかなる一撃を回避してから、ネムリは再度、攻勢に転じた。

『163pt』『174pt』『189pt』のダメージポイントが、血しぶきのように跳ね上がる。

 そうして最後に横合いからこめかみのあたりを打ちのめすと、『187pt』の数字が浮かんで、ファンファーレが鳴った。


『ナイトメアさまのHPが0となりました。西、ネムリさまの勝利です』


「何だお前、戦士でその素早さは反則だろう!」とわめきながら、ナイトメアの巨体は消滅していった。

 観客たちの歓声をあびながら、ネムリはまたもや謝罪したい気持ちであった。


(こう考えると、ツクヨミってのはけっこう『すばやさ』を上げてたんだな。体感としては、ロギと同じぐらいのスピードだった気がするし)


 ともあれ、二回戦目は危なげなく勝ち進むことができた。

 通話機能で確認したところ、ロギもコンスタンツェも勝ち進んでいる様子である。こちらの会場のイーブも、レベル77の僧侶を火だるまにして圧勝であった。


(やっぱり、コンスタンツェやイーブほどレベルを上げてるプレイヤーってのはいないもんだな)


 少なくとも、この第四試合場においてレベル80を突破しているのは、イーブの他に一名しかいなかった。

 そして、ネムリの第三回戦の相手が、そのレベル80を突破しているもう一人のプレイヤーであった。


『東、ID.14896、りゅうきしリヴァイアさま。レベル81、FP89540。職業は、魔法戦士』


 それは、試合が始まる前からネムリの興味を引いていたプレイヤーであった。

 その名前とその姿に、ネムリははっきりと見覚えがあったのである。


 ただし、《イマギカ》の世界においてのことではない。現実世界においてのことだ。

 現実世界には『竜騎士リヴァイア』という漫画作品が存在して、そのアバターはその作品に登場する主人公とそっくりの姿をしていたのだった。


(すごいなあ。漫画のキャラに似せるために、わざわざトカゲ人間のアバターを選んだのか)


 作品内における竜騎士リヴァイアというのは、竜頭の戦士であったのだ。

 しかし、《イマギカ》のアバターに竜人間というものは存在しない。よって、トカゲ人間に角の生えた兜をかぶらせることによって、作中のデザインを再現しているのである。


 むろん、武器や防具は色彩しか操作できないので、そこまで忠実に再現できているわけではない。しかし、トカゲの顔は作品内の竜騎士リヴァイアにそっくりであったし、頭身だとか体格だとかも、かなり気合を込めて似せているのだろうなと感じられた。


『試合を開始いたします』


 コハクタクの宣言を聞くと同時に、ネムリは再び突進する。

 さきほどのナイトメアほどではないが、やはりリヴァイアの動きも緩慢に感じられた。


 まずは『覇王撃砕』を発動させて、その後も二回連続で攻撃を当てる。

 さらにもう一撃、とネムリが『巨神の鉄槌』を振りかざしたとき、リヴァイアが『地精霊の抱擁』の呪文を唱えた。


 地面から生えのびた何本もの腕がネムリの身体にからみつき、また消えていく。

 相手の素早さを一時的にダウンさせる、状態変化の魔法である。


 リヴァイアは後方に飛びすさると、続いて治癒魔法『癒しの光』を発動させた。

 それでネムリの与えたダメージは、ほとんど相殺されてしまう。レベルが高いだけあって、魔法の効果も強力であった。


(僕の素早さは、どれぐらい削られてしまったんだろう)


 それを確認するために、ネムリは再び突進した。

『巨神の鉄槌』でリヴァイアの頭を打ち、肩を打ち、もう一撃、と考えたところで、嫌な気配が背筋を走り抜ける。


 ネムリは本能に従って、横合いに飛びすさった。

 それと同時に、炎をおびた長剣の斬撃が胸もとをかすめていく。

 リヴァイアが魔法戦士のスキル『緋色の太刀』を発動させたのだ。

 通常攻撃に炎系魔法の効果も加算されて、ネムリは『313pt』のHPを失った。


(こっちの連続攻撃は、二回が限界か。魔法戦士は近距離の戦闘にも慣れてるから厄介だな)


 そんなことを考えている間に、今度は『炎の槍』の呪文が詠唱される。

 どうやらこのリヴァイアも、ロギと同じく炎系の魔法やスキルがお好みであるらしかった。


(そういえば、漫画のリヴァイアも炎系の必殺技とか使ってたもんな)


 とりあえず、その攻撃魔法は回避することができた。

 七、八メートルほどの距離をはさんで、両者は対峙する。

 相手が治癒魔法を発動させるようであれば、その隙を狙って飛び込もうかと考えていたが、リヴァイアのほうも用心深くネムリの様子をうかがっていた。


(距離が遠い分には、あっちのほうが有利だもんな。でも、素早さ減退の効果が切れる前には仕掛けてくるはずだ)


 ならばと、ネムリは奇をてらうことにした。

 まずはスキル『地雷震』で、遠距離から攻撃を叩きつける。

 そして、大地を走るその衝撃波を追いかけるようにして、ネムリも地を蹴った。


 リヴァイアは衝撃波を回避しつつ、刀を繰り出すモーションを取っている。

 この間合いで、現在の状態なら、相討ちに持ち込めると踏んだのだろう。なおかつ、ネムリはすでにスキル『覇王撃砕』を使用済みであり、それ以上の大技は残されていないはず、という考えもあったかもしれない。


(非力な僕は攻撃回数でダメージを重ねるしかない、だよな)


 ロギのアドバイスを胸に、ネムリは地を駆けた。

 そして、リヴァイアとの距離が半分にまで詰まったところで、そのコマンドを口にした。


「装備、『巨神の鉄槌』を『土蜘蛛殺し』に変更!」


 ネムリの身体よりも巨大な鉄槌がかき消えて、その代わりに小さな木槌が具現化される。

 攻撃力は『巨神の鉄槌』の半分であるが、『すばやさ』と『きようさ』が30ずつ加算される、ステージ6の隠しアイテムである。


 ネムリは、ふわりと身体が軽くなるのを感じた。

 長剣をかまえたリヴァイアの横合いに回り込み、盾の裏側から左肩を殴打する。

 慌てて振り返ろうとするリヴァイアよりも素早く動き、今度は背後から連続でその背中を殴打する。


 ダメージは一撃につき、せいぜい『80pt』ていどである。

 それでもネムリは、根気よく木槌を振り回し続けた。


 いきなりのスピードアップに面食らったのか、リヴァイアは防戦一方である。

 そして――リヴァイアがついに治癒魔法『癒しの光』を唱えたとき、ネムリの身体がさらに軽くなった。

『地精神の抱擁』による素早さ減退の効果が切れたのだ。


 その瞬間、ネムリは再び『巨神の鉄槌』に装備を戻して、スキル『五月雨突き』を発動させた。

『五月雨突き』は、相手の動きを数秒だけ鈍らせる足止めのスキルである。それでスキルゲージを綺麗に使いきったネムリは、思うさま鉄槌を振り回した。

『五月雨突き』の効果と、あとはリヴァイア自身の混乱もあったのだろう。ネムリは、六回連続で攻撃を叩き込むことができた。


「くそっ!」とわめいて、ようやくリヴァイアが長剣を突き出してくる。

 しかしこれは、反撃する前にHPを回復するべきであった。

 その攻撃を回避してから、ネムリは渾身の一撃をリヴァイアの頭に叩き込んだ。

 それでついに、リヴァイアのHPは底をついた。


『りゅうきしリヴァイアさまのHPが0となりました。ネムリさまの勝利です』


 コハクタクの宣言とともに、リヴァイアの姿は消え始めた。


「あの、『竜騎士リヴァイア』って面白いですよね」


 最後にネムリが声をかけると、リヴァイアはトカゲの顔でできる限りの笑みを浮かべたようだった。


「君、『竜騎士リヴァイア』を知ってるの? よかったら後で話でも――」


 そんな言葉を最後に、リヴァイアの姿は消失した。

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