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序章:然る闇の剣士

どうもドラキュラです。


今回は先日投稿しました然る剣士の死を連載にした作品です。



 「え・・・・・・・・?」


 僕は目の前で静かな声で「ある事」を喋った老人を見た。

 

 近所に住んでいる老人は独り身で妻子は居ないけど人辺りは良くて武術の腕も強い事で周辺では有名なんだ。


 近所のおじさんなんかはサルバーナ王国の「宮廷剣術指南役」になれたと老人の腕を評しているけど実際・・・・その通りと僕は思う。

 

 僕の父も住んでいる天領に幾つかある流派の一門を預かっているから必然的に息子である僕も剣を握らされたんだ。

 

 でも決して悪い気持ちはしない。


 寧ろ国王様の直轄領である「天領」に暮らす者は何処でも武術が盛んで、そこには女子も混ざっている。


 それは時の3代目国王プログレズ陛下の遺言が関係しているんだ。


 『もし、王室の流血があると見られた際は武器を取り駆け付けよ。ただし、それは男子のみ。女子は女子の責任を全うせよ』


 この遺言を天領に住む者達は守っていて、僕も必然と剣を取るものだと思って今に至るけど・・・・老人の言葉に思わず木剣を落としそうになった。


 「おい、手を止めるなよ。そんなんじゃ敵に殺されるぞ?」


 老人の言葉に僕はハッとするけど老人の言葉が気になり尋ねた。


 「あ、あの御爺さん・・・・さっき、なんて言ったの?」


 「ん?ああ・・・・宮廷剣術指南役に抜擢される寸前で謎の変死を遂げた名剣士を殺したのは儂だと言ったのさ」


 「・・・・冗談でしょ?」


 僕は余りにもあっけらかんと言う老人を疑惑の眼で見て言葉を投げた。


 でも目の前の老人は剣の腕は強い。


 そして今も他流試合で「無敗」の冠名を頂いている剣士と同年代なのも僕から完全に疑惑を消し去る事が出来ない理由だった。


 「冗談と取るか、真実と取るかは坊主次第だ。ただ・・・・これは儂からの忠告として受け取れ」


 老人は鋭い目つきで僕を見た。


 それだけでなく言葉にも冷気と鋭さが加わり僕はビクリとした。


 今までは何でもなかったのに・・・・こんな風に怯えたのは初めてだった。


 気が付けば声すら出ないし木剣を握る手も・・・・震えている。


 「坊主・・・・儂の気に恐怖を感じたようだな?しかし真剣を持った戦いは・・・・それ以上の恐怖を与えるぞ」


 しかし木剣や竹刀を用いた試合とは違い・・・・ただの一撃で勝負は着くと老人は・・・・老剣士は語った。


 「そして人を斬れば自分が死ぬまで記憶に焼き付く。数年前に崩御されたアルフレット陛下もこう言ったぞ」


 『貴殿の言う通り・・・・死ぬまで人を斬った感触は消えないな』


 「あ、アルフレット陛下は人を殺した事は・・・・・・・・」


 やっとの思いで僕は声が出せた。


 そして直ぐ数年前に崩御されたアルフレット陛下の事を話した老剣士に言おうとした。


 アルフレット陛下と老剣士が如何なる関係かも気になったけど、それよりも先に否定しようとした。


 騎士王と謳われたアルフレット陛下は生涯ただ一人も殺していないと・・・・・・・・


 「確かに陛下は唯の一人も殺してはいないが・・・・人の手首を斬った事は何度もあるぞ」


 手首も血止めなどをしないと出血多量で死に至らしめる事が出来る急所の一つと老剣士は冷ややかに言った。


 「つまり・・・・人を斬った事に変わりはないんだよ」


 ただ、あくまで自衛などの正当な理由があり好き好んで自ら剣を抜いたりはしなかったと老剣士は断言した。


 「陛下に御仕えした28ペグライターもそうだ。しかし・・・・あの”いけ好かない野郎”は違う」


 ギュッと老剣士は拳を握り締めた。


 そして再び僕を鋭い眼で見てきたけど・・・・冷気と鋭い声を僕は敢えて正面から受け止める事にした。


 老剣士の発言は正直に言うと疑ってしまう。


 でも・・・・真剣を持った戦いの恐怖に打克つ為にも・・・・覚悟を決めたんだ。


 それを老剣士は認めたのか、薄っすらと眼を細めてから忠告する内容を話した。


 「坊主・・・・お前は筋が良い。後数年もすれば武者修行に出されるだろう・・・・・・・・」


 武者修行に出る事で外の世界を学ぶ習わしが僕の住む天領にはあるから老剣士の言葉に黙って頷く。


 「きっと武者修行では恐らく同流か、分派とも稽古するだろう。若しくは全く知らない流派とも稽古するだろうが・・・・気を付けろ」


 稽古を申し出るまでは良い。


 ただし試合になれば話は変わってくると老剣士は僕に言った。


 「表向きは互いに遺恨無しと言うが・・・・負けた方は必ず報復に出る。何せ負ければ自流に泥が塗られ、門下生も出て行く事になるからな」


 それを阻止するには試合で勝った相手を・・・・密かに葬る事と老剣士は言った。


 「・・・・御爺さんも・・・・殺したの?」


 僕は意を決して老剣士に問い掛けた。


 「あぁ、忘れる程・・・・沢山、殺した。初めて人を殺した時は・・・・13~14の頃だったが今でも相手を憶えている」


 相手は自身が起こした流派を盛り立てる為に他流試合を頻りに行う旅の剣士だったらしい。


 「その時に道場を切り盛りしていた師範は腕っ節が駄目で、門下生に甘く接する事で道場を切り盛りする”可哀想な奴”だった」


 自分にも剣の腕は無いと自覚していたけど長男という事で否応なく継がされたんだと老剣士は言った。


 「しかし・・・・それでも自流への誇りがあった。だから試合で負けた、その日の夜・・・・当時道場で一番の腕だった儂に命じたのさ」


 『あの男を・・・・生きて、この地から出すな。我が流派に泥を塗らせる訳には・・・・いかん!!』


 こう道場主は言い、その言葉に老剣士は頷いて・・・・その剣士を殺した。


 「暗い道を歩いていた奴の背後に回り込んで思い切り真剣を振り下ろしたんだが・・・・真剣を持つのは初めてだったから身体が追い付かなかった」


 お陰で一撃で殺す事は出来ず剣士に逆襲を許したと老剣士は語った。


 「ただ、奴も真剣を使うのは慣れてなかったんだろうな?構えのへったくれもない。ただ、儂を殺す事に執着し剣を振り回した」


 対して老剣士も試合とは全然違う真剣勝負に戸惑いと恐怖を覚えたらしい。


 そして互いに小さな傷を与え、無駄に体力を消耗するだけの「泥仕合」が延々と続いたけど・・・・・・・・


 「奴に放った最初の一撃で奴の利き腕が鈍り出した」


 老剣士は「ここぞ」とばかりに渾身の突きを剣士に浴びせたらしいけど・・・・・・・・


 「儂も奴も疲労困憊だった。お陰で奴の心臓を完全に貫くまで時間を要した。おまけに剣も曲がって鞘に入らない始末だった」


 何とも無様な真剣勝負だったと老剣士は自嘲するけど・・・・その笑みには「暗い影」が宿されていた。


 「ただ・・・・それが儂の歩む道が始まったと言っても良い」


 暗い闇から出る剣士への道が・・・・・・・・


 「その暗い闇から出る剣士って・・・・・・・・」


 僕は何となく察しがついたけど敢えて老剣士に問い掛けた。


 「汚れ仕事専門の剣士だ。鼠みたいにコソコソ動き回って・・・・背後から斬ったりするのが常套手段だ」


 凡そ剣士とは名ばかりの存在と老剣士は言った。


 「しかし・・・・儂は最初の殺しに悔いなんぞ無い」


 「・・・・自分の流派を守れたから?」


 「あぁ、そうだ。お陰で今も・・・・その流派は栄えている。もっとも儂は適当な理由を付けて雲隠れしたがな」


 ただし戻りたいとは思わなかったと老剣士は語る。


 「戻れば殺されるかもしれないという思いもあった。だが・・・・それ以前に儂自身が道場に足を踏み入れちゃならねぇと思ったんだよ」


 あの場は大切な人物を護る為、そして自他の心体を鍛え共に高みへ登り場所だ。


 ただ人を殺す技を磨く為にある場所ではないというのが理由と老剣士は言った。


 「人を殺す技を磨きたいなら外に出て獣や魔物、果ては強盗騎士を相手にすれば良いからな。まぁ、それからは先程も言った通り儂は闇の道を歩いた」


 闇の剣士になってからは見ず知らずの道場主に雇われ敵対している人間を殺すなど・・・・まさに汚れ仕事を専門にしたと老剣士は語る。


 「凡そ善良な人間とは程遠い人生だったが・・・・だからこそ剣の腕は誰にも負けなかった」


 何せ一撃で決まる勝負だから常に自分を鍛えたと老剣士は静かな口調で言い続け私から木剣を取り上げた。


 「あ、あの・・・・・・・・」


 「だが・・・・中には何度も言うように・・・・”いけ好かない野郎”も居る」


 「いけ好かない野郎」という単語に私は再び首を傾げたけど老人は静かに木剣を水平に構えた。


 僕の流派では「平突き」を行う際に構えるから「平構え」と称する構えだ。


 「いけ好かない野郎は・・・・突き技を得手としていた俺とは違い・・・・”抜き打ち”が得意だった」


 抜き打ちは僕の父などが持つ片刃の湾刀で出来る技の一つだ。


 鞘に納めた状態から神速で抜刀し敵を倒す技から「不意打ちの極み」とさえ言われているけど・・・・老剣士の話を聞いた後だと何とも言えない。


 しかし老剣士は平構えから唐突に・・・・右手で木剣を鞘に納めた動作を見せた。


 「いけ好かない野郎は・・・・俺と同じく闇の剣士だった・・・・だが、俺みたいに金で雇われた人間とは違っていた」


 「どういう・・・・事?」


 僕は強い興味を抱いて老剣士に尋ねた。


 「俺は金で雇われる傭兵みたいなもんだが奴の場合は・・・・飼い主が居た」


 そして仕事を全うする事に執着した自分を「小さな犬」と称したと老剣士は語り・・・・グッと右手に力を込めた。 

  

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