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エルフの旦那と魔術師の嫁

脳筋の妹の恋愛事情

掲載日:2016/11/21

 王都で初の魔法剣士の称号の発表があった。

服飾の老舗商会の娘のリデリアは、発表が行われている広場で姉一家を探していた。

初の魔法剣士、しかも女性の身でありながら実力者として国に認められた者。それが彼女の姉であった。

姉はエルフの夫を持ち、かわいらしい男女の双子の子供がいる。

きっとどこかでこの発表を見ているはず。一緒にお祝いをしなければ、とさっきから探している。

きょろきょろしている彼女の側に誰かが立った。

「見つかった?」

「いえ、まだー」

リデリアと一緒に探してくれているのは、彼女が以前勤めていた雑貨屋の息子のドリアルだ。

「あ、知り合いがいる。聞いてくるよ」

そういって彼女の側を離れた。

久しぶりに会った彼は、前と同じように接して来た。

しかし、彼の後姿を見ながらリデリアは少し気まずい思いがした。

(結婚は断ったはずだけど)

リデリアは、確かに彼とお付き合いをしていた。結婚も考えていた。

でもー。


「愛なんて無かったよ」


あのやさしいエルフの義兄は、そう言った。

結婚した女性との間に愛なんて無かった。そんなことがあるのかしら。

あれからずっとリデリアは考えていた。

そりゃあ、王族や上流階級ならありえる話だった。だけど、姉にはそんな必要がなかった。

(まさか暴力で……そんな)

魔術学校時代から家に寄り付かず、卒業してもそのまま帰らない姉は脳筋魔術師といわれていた。

国に認められた実力者、それは家族としては誇らしいことだ。

しかしまだ幼かった頃しか接した思い出が無い彼女は、自分の姉を信じ切れなかった。

4年ほど前、王都に来ていると聞いてすぐに両親から姉を連れて来るようにいわれ手配した。

夫だというエルフの男性が一緒だったのは驚いた。

でも二人を家に招待すると、彼がよく噂されているエルフとは違うことが分かった。

人族と何も変わらない、やさしくて料理上手な、姉と仲睦まじいひとりの男性だった。

「リデリア、大変だ」

ドリアルが戻って来た。

「もう帰っちゃったみたいだ」

残念そうに、申し訳なさそうに彼が報告してくれた。

「ああ、そうなの。ありがとう。じゃあ」

リデリアはその場でドリアルに別れを告げ、大通りの一角にある家に戻った。

呆然とする若い商人を残して。




「ただいま」「おかえりなさい、お嬢様」

商会の従業員が彼女を迎えてくれる。店は繁盛しているが、今の彼女には居場所はない。

リデリアは成人した後、他の店で修行を積みながら、自分が働ける場所を探している。

しかし、先日、ドリアルの店で働いているときに貴族の子弟といさかいになり、怒らせてしまった。

そのせいで王都にいられなくなり、姉のいる辺境の町へしばらくかくまってもらうために行った。

エルフである義兄が経営を任されていた土産物店で半ば強引に働らかせてもらった。

そこへドリアルが迎えに来てくれた。

しかし、彼女を訪ねて来たのは彼だけではなかった。諍いになった例の貴族の子弟も来ていた。

どうすればいいのか迷うドリアルに、義兄は言った。

「リデリアを迎えにきたの?」

彼ははっきりとは答えなかった。

あの時は二人して顔を赤らめてうつむいてしまったけど、それでよかったんだろうか。

おそらくあの事件が無かったら、王都から出ることもなく、きっとドリアルと結婚していたと思う。

店の規模はリデリアの実家の方が大きく手広い商売をしている。ドリアルの親の店は小さな雑貨屋だ。

あの時はまだ、それもたいした障害ではなく、やっていけると思っていた。

しかし、ドリアルの両親はすぐにリデリアを解雇し、彼女の実家の事も相手側に伝え、自分達に被害が及ばないようにした。

従業員より、自分の店を守る。それは小さな商店の主なら当たり前のことだった。

頭では分かっていたが、二人の間にはわだかまりが残ってしまった。

エルフの義兄のお陰で問題が無事に解決し、リデリアは王都の実家に戻って来た。

そして、もう一度ドリアルとの事も考え直すことにした。

「少し考えさせてください」

「……わかった」

彼自身も自分の両親のやったことに関して思うことがあったらしく、納得してくれた。

後日、リデリアは彼が王都の家を出たことを知る。


 そしていつの間にか、ドリアルは辺境の町のエルフの土産物店で押しかけ店員をしていた。

「何やってんだか」

それでも、彼がリデリアとの接点を残そうとしていることは分かっていた。

少しうれしかったことも事実だ。

だけどドリアルと実際に会ってみると、彼が以前と同じように接してくれても、自分は気まずいままなのだ。

(やっぱり私、冷めてしまったのかしら)

義兄に、結婚に愛なんて必要ない、と言われたことが衝撃だったのかな。


「誰かに必要とされたかった」


特殊な事情があったにせよ、義兄であるエルフはそう言って姉と結婚した。

「私、ドリアルを必要としていたかしら」

リデリアは王都に戻ってからはずっとその事を考えていた。

お互いにちょうどいい年齢、同じように商売人の親を持ち、性格も容姿もそんなに悪くない。結婚相手にはちょうどいい、そんな考えばかり先行していた気がしてきた。

(これ、愛じゃないわよね)

リデリアは、自分が愛だと思っていたものが違っていた気がして、分からなくなっていた。




「リデリアさん、お食事の時間よ」

数日間、部屋に閉じこもっていた。

同居の長兄の嫁である義姉が呼びに来た。

あまり食欲もなく、家族の顔も見たくない気分だったので、「いらない」と言おうとすると扉が開いた。

「どうかなさったの?」

心配そうな義姉の顔が部屋をのぞきこんでいた。

ベッドにうずくまっていたリデリアは、毛布を頭からかぶってしまう。

部屋へ入って来た義姉は、ベッドに腰掛け、リデリアに話かける。

「ドリアルさんにお会いになった?」

毛布から顔を出し、彼女の顔を見る。

「どうして知ってるの?」

にっこり笑った義姉は、ドリアルが店に来たことを教えてくれた。

そして両親に、もう一度リデリアときちんとお付き合いしたいと告げて行ったのだと言う。

「何故?」

どうして彼はそんなに私を必要としてくれているのだろう。

商売人の娘で、同じような年頃で、容姿や性格が良さそうな娘ならどこにでも居そうなのに。

私、……私は、こんなにも気持ちが揺らいでしまっているのに。

リデリアはまた毛布をかぶってしまう。

義姉はそんな彼女を毛布の上からそっとなでる。

「リデリアさん、難しく考え過ぎていないかしら?。ドリアルさんが嫌い?」

毛布の中でふるふると顔を横に振る。

嫌い、ではない。ただ、何となく申し訳ない気がしてしまうのだ。

彼はやさしい人だ。一緒に働いていた時も、言い争うことなど一度も無かった。意見が分かれても、声を荒げることはしない。

それに比べて、自分は貴族にケンカを売ってしまうほど気性が荒い。商人の彼の嫁には相応しくないのではないか。

そうよ、雑貨屋のご主人が正しい。こんな自分を抑えられないような我がままな嫁は迷惑でしかないもの。

リデリアはぐすぐすと鼻水をすすりながら、毛布の中で泣いていた。

 広場で逢ったドリアルは、前と全く変わらぬやさしい人だった。

自分が何を言ってもそのまま受け入れてくれる。

結婚を白紙にしてしまっても、付き合いも少し考えさせて欲しいと言っても、分かったと言ってくれる。

こんなダメな私を受け入れてくれるのは彼しかいなかった。

ああ、なんだ、私、彼を必要としてるじゃない。

自分はただ、愛なんていう言葉に惑わされていた子供だっただけじゃないの。

毛布を跳ね除けて顔を出すと、義姉がそっと顔を拭く布を渡してくれる。

「裏口でドリアルさんが待ってるわよ?」

心配で訪ねてくれたらしい。急いで顔を拭いて、部屋を飛び出した。


 夕食を一緒にどうぞ、と義姉が言ってくれて、ドリアルを家に入れる。

そしてふたりで話し合い、もう一度やり直そうということになった。

「いいの?、こんな私で」

以前のリデリアなら、もっと自分に自信があった。どこでも一人でやっていける、などと思い上がっていた。

だけど貴族の子弟と問題を起こしてしまってから気がついた。

自分がどんなに浅はかで、子供だったのか。他人の中で生活するということを、ちゃんと理解していなかったのだ。

親兄弟ならしてくれることを当たり前のように思って、それを他人がしてくれないからと気分を悪くしていただけなのだと。

今更ながら、自分が嫌になってしまっていた。

「リデリアさん、僕は元気のいい貴女も好きですよ」

涙を浮かべたリデリアが微笑む。

そして、ちょっと不安そうにドリアルの顔を見る。

「でも、そちらのご両親が納得しないのでは?」

彼は何でもなさそうにさらっと答える。

「ああ、それならさっき両親とちゃんと話し合って来ました。うちの雑貨屋は弟が継ぎます」

「へ?」

リデリアの涙が引っ込んだ。彼ははっきり、親と対立し家を出たと言った。

「僕は辺境の町で、土産物店の店員からやり直します。着いて来てくれますか?」

王都を出て、小さくてもいい、いつか自分の店を持ちたい。

そんな夢を語ってくれた。

両親に逆らわない、大人しい人だと思っていたが、案外無謀な男だったようだ。いや、何だかあの義兄のエルフの影響のような気がする。

リデリアは笑いながら「はい」と頷き、家族も満足げに二人を祝福した。




 後日、「始まりの町」の教会前通りの土産物店が再開した。

店長は腹黒エルフの指示で先輩店員の女性エルフが代理で勤め、森のエルフからの仕入れも担当する。

ドリアルと妻のリデリアが販売員。

厨房は及第点をもらった元・料理人の弟子が教会に勤める女性と結婚し、何とかやっている。

「帰ってきたら絶対文句言ってやるうううう」

新婚二組に当てられ、姿の見えない腹黒エルフに、女性エルフは悔しそうに毎日ぶつぶつ言っている。

そして、領主館に文官として就職した貴族の若者が顔を出すと、うれしそうに八つ当たりするのだ。

何とも平和な、ごく普通の田舎の風景であった。



        〜完〜

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