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モブ×ゲーム  作者: 衣太
生活
9/27

自爆

「かくかくしかじか、無人用のメールボックスとか印刷して自動で紙を壁に張り出す機能とかの改装費はあっちが出してくれるってことで、まあギルドマスターになりました。――隣のビルの」


「えっキヌさんギルマスになったんですか!? 私も入れて下さい!」


「え、ええー、ミキさん話聞いてた? NPC用のつもりなんだけど……」


「聞いてましたよ! ファンタジー物によくある酒場とかの依頼システムですよねこれ!」


「はい、実はまんまパクりました……」



 彼女に指摘され、縮こまる。そう、元はと言えば自分の発想ですらないのだ。

 MMOではない家庭用のRPGでよくある、ギルドとか酒場とかで依頼を受けるシステム、あれをそのまま流用しているのだ。


 食後の歓談タイムにてギルマスになったことの報告をすると、真っ先に加入を希望してきたのはミキさん。明るいし話し方からオタクっぽさはあまり感じられないが、彼女も間違いなく重度のゲーマーということを、今のやりとりだけで認識する。まあ重度のゲーマー以外でコールドスリープしてまでゲームしようとはしないよね、うん。



「ま、入っても損はなさそうやなあ。生産職からすると、NPCの買い手が増えることも、悪いことではないはずやし?」


「……お母さんが入るなら私も」



 そんなこんなで次に希望したのはミッコさんと栄子さん。なんか無人販売所かなんかと勘違いしてないか? いやまあ異常に広いビルなので、店舗として使えないわけでもないが。



「じゃ、アタシらも入るよねそりゃ」


「ですね、よろしくお願いします」



 次に希望をしてきたのは八重さんと陽さん。……なんだかんだで、早くもギルドらしくなってきた。完全に生産特化のギルドだが。



「皆が入るなら、私もついでに入れてもらえたらー。誘われた時断る口実にもなりますし」



 そんなことを口走りながら最後に希望を出したのはユーリさんだ。

 彼女らに申請を出しそれが受理されると、ギルドメンバーの欄に6人の名前が追加される。ちなみに、既にNPCが13人加入しているので、この時点でもう自分を入れて20人だ。



「……ギルド名、空欄のままやないの」


「あー、決めようと思ったのに忘れてた……。何か良い案あります?」



 ミッコさんに指摘され、ギルド名を決める前だったことを思い出す。こんなギルドに入って良かったのか19名よ。いや、NPCは基本的にはギルドに入らないようだが。

 構成員のほとんどがNPCのギルドなんて、こちらに来るまでは考えたこともなかった形態だ。



「ポートレイト・オブ・アン・アメリカン・ファミリーはどう!?」



 八重さんがそう叫ぶ。いや、その名前は色々とまずい。意味が分からないし物騒だ。



「長い!あとマンソンネタはやめろ」


「あれ通じちゃった!? メカニカルアニマルズは!?」


「機械仕掛けでもないし何かどんなギルドかもわからなくないそれ!?」


「じゃ、じゃあボーンヴィラン!」


「悪役系やめない!? というかいい加減マンソンから離れない?」


「ご、ごめん、つい……」



 うん、マンソンのアルバムタイトルとかから選ぶのはやめようね。元ネタ知ってる人が見たら悪の集団かなんかかと思っちゃうよ。



「……ハローワーク」


「ユーリさん、確かにコンセプトとしては近いけどトラウマ抱えてそうな人が多そうだからそれもやめよ……」



 ユーリさんの案も却下。確かに面白いが、面白すぎて面白くなさすぎる。ここに居るゲーマー共を何だと思ってるんだ。まともに社会的地位のある奴が仕事辞めてゲーム世界に来ると思うてか。



「じゃーあ、揚屋」


「子供の居るとこでそんな話はやめなさい!」


「……?? お母さん、どこそこ?」



 ミッコさんの意見は却下。うん、栄子さんは何も知らないで生きてね。というか別に大喜利をしてるわけじゃないからネタ披露みたいなのはやめてくれ。



「さて、残るは……」



 陽さん(かなり眠そう)とミキさん(よく分かってない)の二人が残る。……駄目だ、戦力にならない……。



「や、もうキヌさんが適当に決めちゃっても良いんじゃないですか?」


「……ですです、私もそう思い……ま……」


「そう言われましても……決めれたら、この場に至るまで無名のギルドになんかしてないよ……」


「……それもそうですね、すみません」



 うーん、どうやらほぼ寝てる陽さんとミキさんは案を出してはくれなそう。ならば、やはり自分で考えるしかない。……駄目だ、何も浮かばない。うーん、うーん、うーん…………



「ホワイトフォレストとかどうでしょう? ほら、この町の互助会ならそれっぽくないですか?」



 唸ってたところ、ミキさんが提案してくれる。うん、良いと思う。自分が考える何よりも良いと思う。なんか頭に浮かんでたのはアイルランドの地名とかだし。そういうのは意味分からなくなるから絶対駄目だ。



「あー、確かに。この町らしさはあるなあ」


「……うん」



 ミッコさんと栄子さんも同意。えっと……何か由来があるのだろうか。何か普通に納得してるみたいだけど……。



「……この町の建物、屋根が全部白いんですよ。だから上から見ると白い森みたいに見えるってことで、ホワイトフォレストです。キヌさん、オープニングとか見ました?」



 ミキさんに、呆れ顔でそう問われる。オープニング、オープニングか。確かにベータから何度か流れていた…………が、そういえば毎回スキップしてた。地名などからなんとなく世界観はケルト神話系だなと認識していたが、なるほど、そういう設定もあったのか。



「……見てません。それでお願いします……」


「はーい、使用料として今日のプリンくださいね!」


「はい……はい……」



 どんどん小さくなっていく。うん、実は今日のプリンは味見の段階で2個分くらい食べてるからいい。ミッコさんにはバレたが口封じで1個あげたら黙ってくれた。


 無事ギルド名を登録する事ができ、食後のデザートとしてプリンと珈琲を用意する。

 八重さんは陽さんを連れて部屋に行ったので、二人は既に居ない。夕食後はとっとと寝ることが多いようだ。うん、寝てるよ、きっと寝てる。

 陽さんは食後いつも眠そうだが、初日のように不眠ということはないはずだ。……ないはずだ。たまに朝から眠そうな顔をした陽さんと八重さんの二人を見るが、朝弱いだけだろう、たぶん。うん。きっとそうだよ。



「わーい! プリン! いやー言ってみるもんですねー」



 ミキさんに両手を上げて喜ばれる。今日のプリンは、彼女のリクエストなのだ。



「二日目の時点で材料は揃ってたから、後は蒸し器だけだったしね」


「蒸し器作ってるプレイヤーなんて居たんですか!?」


「……居るんだそれが。金物細工と鍛冶スキルで作れるらしいよ。お陰で調理道具も揃ってきたし有りがたい限り」



 料理スキルの取得が制限されている現状、食材を専門として売っているプレイヤーの周りには、料理人が集まる。そして料理人の周りには調理道具を作る者が集まり、一種の生産者コミュニティの様相を呈している。ほとんどを外食で済ます大多数のプレイヤーには全く関係ない料理スキルも、アラドの町で料理人になることを選び、スキルを取得した者にとっては違うのだ。

 いつまでも露店じゃ食材を売りづらいから食材と道具を並べたスーパーのようなものを作りたいとも話している。



「隙間産業はどこにでもおりますからなあ」


「……ていうかキヌさん、本当に家政婦が板に付いてきましたね……キッチンの充実すごいことになってますし……」



 ミキがキッチンを眺める。最初に来たときはコンロ、オーブン、冷蔵庫しかなかったキッチンだが、今では大量の鍋やフライパン、ボウルにバットなど様々な調理器具が並んでいる。これも、料理人コミュニティのお陰だ。

 この町において食材アイテムのほとんどは、外から仕入れることになる。トマトや玉葱などの野菜は町の外に自生していたり農家が作っていたりするし、卵は野生の鶏からドロップ品として手に入る。数日して開拓エリアが広がってくると珈琲豆のような嗜好品も出回るようになり、初日と比べると相当料理の幅が広がっているだろう。

 今料理人界隈で待ち望まれているのは、調味料の発見だ。現状、塩と砂糖に関しては調合師がポーションから分解する以外で入手する手段はなく、その量はとても多いとは言えない。塩と砂糖を手に入れるために大量のポーションを買うでは手料理のコストが嵩むし、なるべくなら単品で仕入れたいものなのだ。

 ……ちなみに、NPCは毎日普通に料理をして食べている。配達先で食事をご馳走になった時、どこで食材を仕入れているのか聞き、その場所に向かったが、なんとプレイヤーは入室不可能な建物だった。NPCにとってのスーパーは複数個所存在するが、そのどれもがプレイヤーには使えない。まあたぶん中身などなくデータのやり取りをしていると予想しているが、あれに入れる日は来るのだろうか。


 まあ、入れなければ自分たちで探すのがゲーマーというものだ。現状ではプレイヤーの作る料理は趣味の領域を出ない。何せどこでも外食ができるのだから、ほとんどのプレイヤーにとって食材がどこから来るからなど気にならない。


 それなりに料理をしてきているが、料理のスキルレベルは中々上がらない。新しいメニューを試すとたまに上がるのでどこか難易度を認定している要素はあるかもしれないが、その条件を掴むには至っていない。

 料理によるバフも些細なものだ。やはり、ただの趣味職なのであろう。だからと言って外すつもりもないのだが。



「一応、戦える生産職のつもりだったんだけどね……」


「けど、まだ町の外にも出てないですよね。私でも毎日のように採取に出掛けてるのに」


「この町広いもん! 絶対テスト時より広いって!」



 この町、ダグザは、明らかにベータテスト時より広くなっているように思える。背景でしかなかった建物に意味が生まれ、各地で露店を開いていたり色々な店がオープンしていたりで広さ以上に沢山のものがあるように感じられるというのはあるのだろうが、それにしても広い。

 町中を散歩する程度で1時間とかかかるのだ。もうそれは普通に町だ。5万人が暮らす巨大な町だ。



「まあ確かに、出なくても飽きんわなあ」


「そうなんですよミッコさん。町から出なくても色々ありすぎて出るどころじゃないですし……とっとと戦闘スキル上げたいんですけど」


「や、NPCイベント充実してるのは君だけやと思うけどね……」



 あっ明らかに呆れられている。実際町を歩いていて、自分ほどにNPCに話しかけられるプレイヤーはそう多くない。ふつうNPCから話しかけるのではなく、プレイヤーから話しかけるものなのだ。……うん、特に用なくても話しかけられる自分はどうなってるんだろう。



「一応、明日からはギルド立ち上げで数日見ることになりそうですけど、もう自分居なくても良いかな? って思えてきたらようやく町の外にも出ようかと思ってるので、その時は……」



 その時は、言葉はそこで詰まる。「その時は宜しくお願いします」と言おうとしたのだ。それは勿論、外に出るようになったら一緒に狩りをしようとかそういう意味で言うつもりだったのだが、言葉が詰まった理由はそこだ。


 ……ここ、生産職しかいねえ! 戦闘スキル持ちが居ねえ!

 誘う相手が居なかった。うん、どうしてこうなったんだ。



「ま、もし出るんならわたしも着いてゆきますよ?」



 そう声を掛けてくれたのはメンバー唯一の戦闘職、ミッコさんだ。彼女のビルドは生産することがメインではあるが、そもそもが戦闘職としてのコンセプトで生まれた存在である以上、戦闘力が低いわけではない。

 ただ……バフ専門の調律師とヘイトコントローラーの二人で戦闘できるはずなくない? いくらなんでも無謀すぎると言わざるを得ない。



「……結構難しいですね」


「そうやねえ……」



 二人で顔を見合わせて溜息。うん、申し出は嬉しいが、サポートビルドが二人で何をするんだ。序盤の雑魚にすら苦戦しそうだぞこの二人。たぶん、そこいらの初心者プレイヤーの方が戦闘能力は高い。



「あ、じゃあ私戦闘スキル取りましょうか? 気分転換に良さそうですし」


「え? ……ミキさん、ガチ生産ビルドじゃなかったっけ……?」


「今はそうですけどスキル枠も余ってますし、いくつか手は出せますよ? オープンベータではがっつり魔法使いしてましたし」


「おお、思わぬ伏兵。……ちなみに、なんで生産職に? っていうか調合師に?」


「あー……お恥ずかしながら、ベータで会った錬金術師さんに憧れて、ああなりたいなあって……。けどいざ始めてみると、錬金術師って中々なるの難しいじゃないですか。だからとりあえずは調合師に、ってことで」



 少し頬を染めながら、ミキにそんな告白をされる。おいその反応、まさかその錬金術師は男か!?

 いや、まあ、男でも女でもどっちでもいいが。確かに、他人のプレイに“魅”せられてその職業を始めてみるのは、ネットゲームでは割とよくあることだ。



「錬金術師の手前で調合師選ぶってことは……ビルドは劇薬投げ?」


「そうですけど……キヌさん本当にビルドに詳しいですよね。歩く攻略wikiですか?」


「歩く攻略wikiではないけど、編集者ではあるからね……」


「……なるほど、なんかちょっと納得です。」



 ミキさんに頷かれる。一瞬ミッコさんが「一部では有名なビルダーなんよお」と呟いたような気がしたが、聞こえなかったフリをしてスルー。


 ミキさんの選んだビルド、“劇薬投げ”は錬金術師のスキル『ポーション投げ』を軸に、調合師の『調合』スキルでポーション自体の効果を反転させ、底上げし、それを敵に投げつけることでダメージを狙うビルドだ。

 特徴は、ステータスにほとんど左右されない割合ダメージを与えられる、というところにある。

 元の効果がHPの何パーセント回復のようなポーションの効果を反転させることでその割合分のダメージを与えることができるようになり、モンスターの魔法耐久度――MNDで対抗されるので実際にその通りの割合ダメージが出ることはないが、攻撃者のステータスに左右されないダメージというのは生産職のプレイヤーにとってはかなり大きなダメージソースとなる。

 尚、このビルドはあくまで“攻撃できる生産職”という立ち位置でしかなく、パーティ狩りだと専らパーティメンバーに片っ端からMPポーションやHPポーションを投げまくって強引に回復する中々頭の悪い構図になる。


 しかしそれでも、ビルド“劇薬投げ”は十分に戦闘能力のあるビルドと言える。生産職における最強の火力ビルドは同じ錬金術師を職業として使うビルド、“流体操作”だが、これは職業を生産職である錬金術師にしているだけでスキル構成はほぼ全てが戦闘系の似非生産職だからこの場合は関係ない。

 “劇薬投げ”は、MNDの値が低いことが多い対プレイヤー戦においては戦闘系ビルドを完封できるほど強力なビルドなのだ。しかも、スキルはほぼ全部生産系でいいのだから、戦闘を意識した生産職が手を出しやすい良ビルドだ。

 ……自分が作った穴まみれのクソビルドとは大違いだ。



「けど調合から錬金行くなら魔法系取ってられないでしょ」


「まあそれはそうなんですけど……で、そこで相談なんですが、あんまりスキル枠埋めずに入れれる戦闘スキルのオススメ教えてください! お二人は詳しそうですし! ……なんで戦闘職に詳しい二人がここで生産職してるのかは分からないんですけど……」



 お二人と呼ばれた、自分とミッコが顔を見合わせて難しそうな顔をする。

 うん、この表情、ミッコさんも自分と同じだな。答えるのが難しいのはスキル相談ではなく、“戦闘ビルドに詳しいのに生産職をしている理由”だ。……これに関しては、簡単に言葉で説明できるものではない。

 「クソゲーマーの血が騒いで……」とか返してもミキはキョトンとするだろうし。



「そうねえ……強いって話なら、呪術師よねえ」


「呪術師ですねえ……」


「そういえば二人とも呪術師スキル入れてますよね。どう強いんですか?」


「「デバフ」」見事にハモった。


「……そうですか」呆れられた。彼女の求めていた答えではないらしい。



 実際、呪術師は“最優秀デバッファー”と言われるほどに優秀なデバフを持つ。ちなみに最優秀バッファーはミッコの調律師。

 敵の行動を阻害したりステータス減少を狙ったりするデバフ全般は、中級者までのプレイヤーが手を出すにはあまりにも強さが分かりづらく、単純にステータスを上げれば強くなる火力職、敵の攻撃を火力職に飛ばさないようにパーティを守る壁となる盾職、パーティ全体の生存力の底上げをする回復職といった分かりやすい職と違い、バフやデバフは目に見えた成果があまりない。それでも自身の強化をしてくれるバッファーについてはそれなりに評価をする傾向があるが、デバフに関しては基本的に散々だ。


 ゲームへの理解度が高い上級者になると「火力よりデバフ」と言われるくらいには需要が高くなる。この言葉は別に火力が要らないと言っているわけではなく、優秀な火力職は最大火力を出しつつも被弾しないプレイヤーだが、優秀なデバッファーは敵の行動予測や全てのクールタイムを記憶、それに応じた弱体を掛けていくプレイヤーであり、総合的にどちらがゲームを理解しているかと言えばデバッファー、という意味だ。ある程度熟練度が上がれば、4人以上のパーティでは火力を2人入れるより片方をデバッファーにした方が良いとまで言われる。


 ふつうのMMORPGではデバッファーがそれ一個の職として成り立つことは少なく、火力職のデバフ系ビルドという形になることが多いが、このゲームにおいてはデバフ専門職がいくつかある。その代表格が、呪術師なのだ。



「うーん、デバフっていまいちパっとしないんですよね……敵倒せないですし」


「まあ、敵は……」


「ほうっておいても死ぬわよねえ……」


「サポート二人で意気投合しないで下さい! ここで私が呪術師スキル取っても戦えないじゃないですか!」


「「……確かに!」」


「確かに!? 二人して気づいてなかったんですか!? ってことでなるべく火力系ので、なんか良いのないですか?」



 そう言われると、再びミッコと顔を見合わせて思案。

 たぶん結論は同じものが出てきそうだが、それでも相性の良いものを考えよう。


 まずは消去法で。調合師である彼女はSTRをダメージソースに使う物理職には適してないので、物理攻撃系は除外。調合師スキルのステータス補正はDEXに尖っており次点でINTとMND、最後にMP。このままだと基本の魔法攻撃職を選びかねないが、魔法攻撃職のほとんどは攻撃スキルが専用スキルなので、生産職のままだと使えない。

 ならばDEX補正を扱える攻撃スキルを、と思うが、DEX補正がかかるのはほとんどの場合物理系の遠距離武器だ。だからDEXは捨てて行っても良いだろう。

 彼女の性格、本職調合師というところも考えよう。調合師の戦闘時の利点はひとえに“無制限にポーションが使えること”と言える。それを活かし、バッファーであるミッコとデバッファーである自分の性能を噛み合うスキル、ビルドを考える。


 ……うん、一人では戦えないビルドだが、常にバッファーとデバッファーが居る状況でなら、防御も何も考えないクソ火力ビルドが使える。これも自分の生んだ“子”の一人であり、ギリギリ叩き台を免れ、「頭の悪い火力ビルド」として認められたものだ。



「あ、同じもん浮かんだ顔しとるなあ」



 そんなことをミッコに言われる。ということは彼女も、この“子”を選んだのだ。



「パイルバンカーってビルドがありまして、基本的に使うのは発破師の『爆風制御』と魔法使いの『爆風魔法』だけなので、調合師でも使えるんですよ」


「パイルバンカーってあのー……杭打ち出す奴ですよね? 爆風魔法が仲間巻き込むので有名な魔法ってことは知ってますが……それでどう戦うんですか?」



 流石に元魔法使い。不評な爆風魔法についての知識はあったようだ。

 爆風魔法は魔法使いが無数に持っている兼用スキルの一つであり、その評価は「INT極振りじゃないと火力が出ない」「つーかMP消費激しすぎ」「パーティで撃つと近接全部吹き飛ぶんだが」と散々なもので、ソロ狩りが困難な魔法職においては“ハズレ魔法”と言っても差し支えのない性能だった。

 そういう不遇な物を活かすのがたまらなく好きな自分が、様々な構成を試した結果作り上げたのが、“パイルバンカー”というビルド。



「『爆風制御』ってスキルは、“次に自分が扱う爆風系統を制御する”ってスキルなんだけど、それで……ええっと」



 彼女に納得してもらえるような説明ができる気がしないので、目線でミッコにパス。



「まあず、爆風制御位置を“腕 遅延 ヒット判定後0,1秒で起爆”とセットしてな?」


「ふむふむ」


「爆風魔法を、自分の腕につこうて」


「ふむふ……え? はい?」


「敵をゴンて殴りまあす」


「あの!???」


「敵がどーんて吹き飛んで、大勝利ゆうビルドですわ」


「ふざけてんですかそのビルド!???」


「ごめん、割と大真面目に作ったんだけど……」



 駄目だ。やっぱりこのビルド、普通に説明すると気が狂ってるようにしか思えない。

 そのリアクションをされることが分かっていたので、ビルド晒しをした時はちゃんと動画も添えて手順の説明を行ったのだ。結果、「滅茶苦茶馬鹿」「一周回って天才」のような反応を貰えた。いや大多数が前者だが。

 このビルドが叩き台ではなく“完成系”として投げられたのにはワケがある。戦闘系ビルドの完成系とはつまり、“誰が使っても強い”と認められたからだ。



「……ええと、お二人ともマジトーンなので、冗談で言ったわけじゃないんですよね?」


「そうよお、確かに構図はとびきり面白いけれど、弱いわけじゃあないのよねえ」


「そうなんですよね、画面は滅茶苦茶面白いけど強いことは強いし……」


「お二人とも、それ私がやるって分かってます……? 私の手が突然爆発するんですよ……? 素面で見てられますか……?」


「「……」」



 うん、なんかごめん。ディスプレイで他人がやってるところ見ると爆笑したものだが、この世界で普通の戦闘でそれをされると、面白いのか笑っていいのか分からない。



「……ちゃんと説明して下さいね」


「……はい。……ええと、まず爆風制御ってのは元々発破師がダイナマイトとか花火の制御に使うスキルですけど、それを魔法に応用するんです。爆風魔法には範囲が極端に狭いのとか連続で爆発するものがいくつかあるので、それらを腕を起点に発動させれば、X軸Y軸だけじゃなくて小範囲魔法の宿敵、Z軸を全て自分の立ち位置で調整できるようになるので、“当てにくいけど威力は凄い”って魔法が有効に使えるんです」


「なるほど、大体わかりました。……でもそれ、つまり私吹き飛ぶことないですか?」


「……ベータの時は敵だけ飛んでったんだけど、こっち来てからは……どうだろう……」


「…………あと、ダメージって入る気がするんですが」


「一応、自爆系の魔法じゃないから自分とか仲間に当てても威力軽減が入るはずで、その……」


「POTガブ飲みで耐えろって話ですか」


「……はい……」


「硬化系のバフもかけといたげるから、心配せんでも大丈夫よお」


「心配しかしないんですけど……けどお二人が言うんなら、一応、やってみます……」


「うん……弱くはないはずだから」



 なんだか、考えれば考えるほど申し訳ないものを進めてしまった。確かにここは、ディスプレイ越しのゲームではないのだ。

 爆発する魔法で腕を起点に発動するということは、つまり彼女の腕が爆発するということ。……痛覚を感じる以上、それに痛みが伴ったら戦闘どころではないだろう。


 なんか、馬鹿な子作ってごめんね……。

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