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モブ×ゲーム  作者: 衣太
そして選択へ
25/27

解析

 露店の規模が一番大きいのは、サービス開始から変わらず、第一の街であるダグザだ。

 どれだけ街が増えてもそこが変わらない理由は、一つしかない。

 攻略最前線の都市を拠点に活動しているプレイヤーの多くは日中狩りに出ており、街に残ることは稀だ。そうなると、そんな場所で露店を出したところで、日中の実入りなどたかが知れている。だからこそ、普段から狩りに出る人が少なく、出入りの少ない街であるダグザには、日常的に生産、商売をしているプレイヤーが集まるのだ。

 普段から露店が多く、通りがかる人が多ければ、最前線に拠点を置いているプレイヤーも、狩りを終えればダグザの露店街に顔を出しに来る。そうして、この街の経済は回っていた。

 そう、だから、だからこそ、時間が悪かったと、そうとしか言えない襲来だった。



「アイちゃん、そっちどんな感じ?」


『プレイヤーは……少ないです。大きなトレントには10人くらい人が集まってますが、小型は放置気味で……ミキさんと一緒に、小型を倒してるところです』


「そのまま小型優先でお願い。無理はしないでね」


『はい!』



 アイとの通話を切り、状況の整理を続ける。

 


 今立つのは、街でも最も高い、時計台の屋上だ。

 遠目スキルがあるわけでもないので、この高さに立ったところで全方位が見渡せるわけではない。ただ単純に、周囲を見渡したかっただけだ。


 周囲を見渡し、すぐには防壁が割れないことを確認。そうして、次に通話を送る相手は決まっている。



「リクあのさ。お前――知ってただろ」



 開口一番。彼への質問、いや、尋問は決まっていた。



『はい!? なんのことでしょう!?』


「お前ら行動が早すぎんだよ。あと、ヴァハでもバズヴでもなくネヴァンに直行するのはおかしい。分かってないと出来んだろ、その行動」


『えーと……』


「あの変な記号まで解析の内容覚えてたんだから、イベントフラグまで認識してないとおかしいっつー話」


『…………てへっ』


「何がてへだお前!???」



 真面目に聞いていたはずが、旧友の反応は相変わらずだった。緊張感の欠片もない、いつもの少年ロールプレイ。ネットのタブーとして、ゲーム上で彼に実年齢の話題を出すことはないが、こうも変わらないと呆れを通り越すというものだ。

 知っておきながら黙っていた彼への怒りは一瞬で溶け、何故怒っていたかも忘れてしまう。



『いや、あの、一応フラグの認識はしてたんですよ? ただ不確定だったので……』


「あー、もういい。とりあえず分かってることを話せ」


『切替え早いですね流石キヌさん! 今回の襲撃イベントを当てはめるならEVU312、ランダム発生型・襲撃イベントです。襲撃箇所は上位二都市、モブのレベルは下位都市20~40、上位都市30~60、数は住人×1,5~2の乱数です!』


「そこまで分かってんならやっぱ話せよお前!?」



 想像以上に細かいところまで分かってるじゃねえかこいつ! 流石にこれは追求せざるを得ない。

 不確定情報だから黙っていたというのは分からなくもないが、そもそも自分への依頼時点で不確定情報だ。

 不確定情報で依頼するんだから、それによって連鎖する可能性のあるイベントについても話しておくのが普通ではないか? いや、そもそも不確定どころか解析情報なのだから、話したところで公にはしづらいというのは分かるが。

 


『ひゃあ! 怒らないでえ! 無駄に警戒させちゃうのもアレだと思ってたので!!』


「……ちょっと待て」


『はい?』


「そのイベントフラグ踏み抜いたの、俺だよな」



 うん、黙ってた彼のことを棚上げしてたけど、そもそもイベントフラグを立ててしまったのは自分だ。

 《ミザイクの祠》攻略をしたのは自分だが、確実に正攻法ではない。呪術を用いて道中のエネミー全てを回避したし、ボスなんて部屋の外から破壊不可ゾーンを壁に使ってのハメ殺し。それがまっとうな攻略なはずはない。

 となると、厄介なことが。



『はい! 犯人はお前だ! 一回言ってみたかったんですよねーこれ』


「腹立つなそのノリ! いやまあ怒るのは後にするけど……これの攻略難易度、ミザイク基準なんてことはないよな」



 彼への質問は、この状況を大きく左右しかねない内容。

 正攻法ではない攻略法でイベントフラグを立ててしまった以上、派生したイベントが“正攻法で攻略できるプレイヤー前提”だとしたら、どうだろう。

 リク達なら正攻法で倒せるボスかもしれない。しかしこのダンジョン自体、彼らには突破が不可能な難易度だったのだ。

 1年間、ほぼ1日中狩りをしてきた彼らにすら、到底攻略できないダンジョン。それを前提とした、派生イベント。

 

 それに対し、この街は、この都市は、この世界は。

 乗り越えることなど、出来るのだろうか。



『…………えーと』


「下手に誤魔化すなよ」


『あ、はい、じゃあ真面目に答えます。数が数なので、全部がミザイクレベルではないはずです。ただ今正面からぶつかるのはかなりキツいかと……』


「……だよなぁ」


『ネヴァン落とされたら本格的に攻略止まっちゃうので、僕らはこっち優先します。……キヌさんの方、何とかなりますか?』


「……するしか、ないんだよなぁ」



 するしか、ない。

 街襲来イベント。攻略難易度は、数カ月分の底上げが必要な難易度。ベリーハードも良いところだ。

 それでも、するしかない。ネヴァンもそうだし、ダグザもそうだ。どれだけ難易度が高かろうが、守りきるしかない。

 


『あっ!言い忘れてたんですが!』


「え、今度は何?」


『ミザイクの攻略報酬に新スキルあったはずです! スニーキングの補助スキルなんであんまり使えないかもですが、一応!』


「え? マジか」



 新スキルの獲得ウインドウが出た記憶などない。ボスを倒したあたりではもう意識が朦朧としていたから、その時に出ていたのだろうか。

 確認すると、確かに所持スキルの最下段に『領域拡張』の文字がある。

 説明を読むと、派生のしないパッシブスキルで、範囲指定を任意に拡張することができるようだ。その代わり、拡張した範囲に応じてMPを消費するらしい。

 


「これ“範囲指定”の字に注釈ないけど、他の指定モノにも使えるのかな」


『あー、使えなくはないと思いますよ? ただMP消費が馬鹿みたいになるので、パッシブ以外に使うのはオススメはできないですが……』


「なるほどなぁ。えっと――長押しで拡張、2本指で縮小、あー、なるほど」



 街の中なので発動には至らないが、試しに毒魔法から『ヘッジホッグ』を選んで触れてみると、普段の2倍ほどまで広がったサークルが表示される。

 消費予定のMPを確認すると、それは普段の3倍以上に増えていた。これでは乱発など行えない。

 なるほど、確かにパッシブ向きだ。一回の行動で数倍のMPを消費するのはアクティブスキルを前提とすればかなりの負担となるが、5秒や10秒に1回、僅かばかりのMPを消費するパッシブスキルにおいては、MP消費が大きくなるデメリットはあまり感じない。それこそ長期戦においては別だろうが、長期戦でこのスキルを活用する場面はあまりない。拡張などしなくとも、元のスキル範囲で十分なことが多いからだ。



「あれ、これマイナスまで使えるの?」


『え? どういうことですか?』


「いや……範囲広げ続けてみたら消費予定MPが現時点のMPと並んだんだけど、それでも範囲広がり続けるんだわ」


『あー…………一応、使えるってことなんですかねぇ。流石に未実装だったので、試したことはないんですが』


「……未実装スキルになんで詳しいんだよ」



 もうこのツッコミ何度目だろうか。いい加減呆れてくる。

 普通に答えられていたから自分が知らないだけで既存のスキルなのかと思ったら、まさかの未実装。しかもミザイクの祠攻略以外で手に入らないスキルだとすると、自分が初入手したことになるはずだ。

 なんでこんなことまで知ってんだ、こいつ。……今までのゲームで、ここまで解析情報に触れたことはあったか? 聞き流していただけかもしれないが、あまり記憶にない。

 普段のゲームとは違うから、万全の準備をしてきただけだと自分を納得させる。



『仮にMPマイナスまで伸ばせるとしても、使うときは注意して下さいね』


「……なったことないけど、POT使えなくなるんだっけ?」


『ですです、マイナス1でもある状態だとMPPOTとかMPの外部回復全部使えなくなって自然回復に頼ることになるので、一応! よっぽどそんなことにはならないと思いますが、MPゲインされまくった結果キャラデリすることになった人とかβの時見たんですよ……』


「それはきっついな……」


『そのくらいです! そろそろネヴァン着きそうなのでまた後で! 何かあったらウィス送って下さい!』


「りょーかい。そっちも頑張れー」



 イベントフラグについて黙っていたことへの怒りなどどこかへ消え、頭は高速で回り始める。


 クソビルド廃人。そう自分を呼んだ人が居た。ゲーム内や、攻略wikiや、掲示板や。

 誰も使わないスキルの組み合わせから新しいビルドを作り出したこと、それに対するコメントだ。

 新しいスキルがあれば、それを試さない選択肢などない。どう使うか、どう動かすか、どう活用するか、どう組み合わせるか。頭のなかでパターンを形成、新しい選択肢を模索する。


 そうして見つけた“使い方”は、これまでなかった選択を迫られるものだった。



 そう。

 これまで通り、ゲームプレイヤーとして生きるか。

 プレイヤーである特権を捨て、この街の住人として生きるか。


 そんな選択を。

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