白米
「んー……」
「アンさん、何唸ってるんですか?」
「や、ちょっと離れたところに未踏破エリアができてるんだけど、こんなのさっきはなかった気がするんだよね」
彼女はそう言うと地図を見せてくる。確かに、マップ右端が未踏破として黒く染まっている。試しに自分で地図を開いてみてみると、マップはもっと黒く染まっていた。これはアンが自分で地図を広げていったからであり、アン以外の3人は皆自分と同じようにほとんどが黒く染まった中途半端な穴開き地図だ。
「気になるんだったら付き合いますけど……さっきのティラノサウルスでクリアの表記出たから、もう敵は沸かないはずですよね」
「うん、ちょっと気になるから付き合ってもらえたら嬉しいな。や、パーティリーダーになってるあんたがID出ちゃったら全員強制退場になるし、その前にちょいと」
「ま、大丈夫ですよ。別に急ぎでもないですし。皆も大丈夫?」
「はーい!」「まだ大丈夫です」「急いで出ないといかんわけでもないしなあ」
「というわけで、付き合います。なんか素材出たりするんで――」
一瞬の暗転の後、似たような場所に降り立つ。うん、せめて告知してから行って欲しかった、アンの転送魔法だ。
一見すると、先程までの森と変わらないように見える。しかし、アンの表情から見るに、何かしらの違和感を覚えているようだ。
「んー……」
唸りながらアンは歩きだす。方角からして、正方形なマップの角に向かっているらしい。
特に何かがあるようには思えないが、黙って彼女に着いていくと、視界が急に開けた。木々生い茂る森の中から一転、そこにあったのは、水田だ。
「田んぼ……!?」
思わず声が出る。うん、どう見ても水田だ。稲も生い茂っているし、これは間違いなく稲。
つまり、つまり、つまり!
「米きたあああああーーー!!!」
ため息をつくアンが視界に入るが見なかったことにし、思わず大声で叫ぶ。
水田! 田んぼ! 稲! つまりこれは米だ!
1ヶ月以上も食べれなかった米がついに、ついに解禁される! 日本人ならやっぱり食べたい主食がまさに米。これを待ち望んでいたと言っても過言ではない。
量は少ないが、ここまで来れば刈れるなら来ない手はない。なんとか量産を――と考えていたところで、誰かとウィスパーで話していたミッコが口を開く。
「どうやら、解禁されたみたいやなあ、米。ヴァハで売り出したみたいよ?」
「え!?」
「ここで刈ってく必要、ないってことやな」
「…………まあいいか!」
「いいんかい」
うん、良い。つまり、このID二周目が米解禁の為のダンジョンだったのだ。
制限の強いこのダンジョンにおいて、誰も二周できなかったから解禁されなかったが、それを自分達が解禁した。手柄と思っても良いのだろうが、それよりも今は白米が食べたい。自分達の手柄と時間する暇があったら、米を食べたいのだ。
ここに入る前に昼食を食べたような気もするが、もう空腹まで感じる。ずっと動いて疲れたからね、仕方ないね。
「……せめてレア素材くらい入れば良かったのに」
「いやアンさん、米はレアでしょ!? なかったんだよ!?」
「確かになかったけどそこまで不便はしてなかったし……ってミキ、何よその目」
「いや、アンさん本当に日本人なのかなあって、思いまして!」
「…………どっちでもいいでしょ」
そう言うと彼女はそっぽを向いたので、ミキもそれ以上追求はしなかった。
日本人なら米を食べたいと考えるのが普通だ、普通のはずだ。1ヶ月も米を我慢させられてた日本人の気持ちを考えてみろ。どれだけ小麦粉製品が美味しくても米が食べたくて仕方がなくなってしまう。もしも米への欲求がそんな少なかったのなら、日本人ではないと考えてしまうのは仕方がないと思えるほどに、彼女は白けていた。
いや、まあ、本人の言うとおりどっちでもいいと言われればそうなのだが。食に無頓着な人もいるだろう、くらいの感覚だ。
「あんたら、もう戻るんでしょ? あたしはもうちょっとソロでやってるから」
「そうですね……付き合おうにも、今回のでスキル上がっちゃいましたし……帰らせて貰います」
「そ。じゃ、またどっかでね」
そう言うとアンは一人ダンジョンから出てしまった。言葉一つを残し、それ以外の何も置いていくことなく、彼女は去った。
「……私、無神経なこと言っちゃいました?」
「いやミキさん、心配しないでもたぶんそういうのじゃないよ……」
うん、あれは人見知りというか、あまり人間関係を築かないタイプのプレイヤーなだけだと思う。必要以上の馴れ合いは避け、自分でゲームを楽しむタイプだ。
割とよく居たよ、うん。
「フレンド登録とかもしてなかったですね……追いかけた方が良いんでしょうか……?」
アイがそんな心配をする。うーん、たぶん、追いかけたところでアンは既に新たなダンジョンに入室していることだろう。パーティもとっくに抜けてるし、彼女はたぶんそういう人だ。
「たぶんもう遅いと思う……ところでミッコさん、アンさんと顔見知りだったりしたんですか?」
「や、顔見知りってほど……知ってはいたけど、こんとこで会うなんて、って感じかなあ。さっきも言ったけど、有名なレイダーなんよ、あの子」
「……ごめんなさい、レイダーって何ですか……?」
アイが申し訳なさそうにそう質問する。そういえばゲーム経験のあまりない彼女は、こういうゲーム用語を知らないのだ。
ミッコと目を合わすと、顎でクイとこちらを指される。うん、説明しろってことね、分かりました。
「まず、複数パーティで挑むボス戦のことをレイドって言うんだけど、レイダーはそれを専門でやる人のことね。さっきのテレポートってパーティ指定じゃなくても範囲指定とかでパーティ外の人も一度に転送できるから、重宝されたんじゃないかなあ」
「複数パーティ……そんなボスも居るんですね。……ベータ時代、そんなにレイド用のボスが居たんですか?」
「うーん……知ってる限りだと10体も居ないけど、そういうのがエンドコンテンツだったりもするからね。俺はそこまでやらなかったから知らないけど……ミッコさんのが詳しいかも?」
それ以上は知らないぞという目でミッコを見ると、しぶしぶ続けてくれる。うん、説明が面倒だっただけなんだよね、分かりますよ。人間合わなそうですからねお二人……好きでもない人の説明したくないんですよね……。
「や、わたしもレイドはさっぱりよお? レイドしてる教え子から噂で聞いたりとか、そんな程度。あっちもわたしのこと知ってるとは思ってなかったのよねえ」
「有名人同士、人づての面識はあった、程度ですかね」
「んー……有名言うたら君は……」
「や、その話は終わりにしましょ。えっと、まだ質問は?」
「大丈夫です! あ、ただ、お一人でも大丈夫なんでしょうか……? さっき5人でも必死でしたし」
「ソロでIDに挑むと沸く量が制限されるから、無理ではないのかなあ。さっき見た時アンさんのマップ踏破率ほぼ100%だから相当周回してたんだろうし、今回の恐竜祭りはレアマップみたいな、そういうのだったんですかね。とりあえず回収できるだけアイテム回収してみたけど、食材全くないですし……」
「あー、言われてみると確かに! 鱗とか爪とか牙ばっかです!」
「あれ、全く回収してないの私だけですか……? そんな余裕なかったんですが……」
……うん、敵が居なくなった瞬間に周囲の死骸に触れてアイテムを回収してたのは自分とミキさんの二人だけだったね。ミッコさんの周囲に敵が行くことはなかったし、アンさんが入ったタイミングでアイテム分配をランダムからフリーにしていたから拾った者以外のところへアイテムが行くことは全くなかったのだ。
見たことない素材が多いが、レアリティはどれも低い。最後のティラノサウルスは自動で参加者にドロップ分配がされたはずだが、その分のドロップも小型恐竜と似たようなものだった。
「んー……わたしも拾っとらんけど、最後のドロップだけは入っとるな。宝玉やって。一応宝石に分類されとるみたいやから、八重ちゃんにでも渡してみるか」
「あ! 私も宝玉入ってますよ! これ結構レアっぽい!?」
「えーと……私のところにあるのは…………何でしょう、これ……」
そう言ってアイがインベントリを見せてくる。レアコウモリから大量のレアドロップを手に入れたことのあるアイだから、またとんでもないものを拾ったのでは――という予感は的中した。
「等級SSの……なんだこれ、未鑑定アイテムだ。鑑定スキル持ってる人誰か居たかなあ……」
「あ! 私鑑定持ってますよ! レベルは低いんでそんな等級高いのできるかは分からないんですけど、やってみます!」
「お、お願いします」
そう言ってアイはミキに取引ウィンドウを開き、一時的に交換をする。不用心に過ぎるような気もするが、まあ盗る盗られるを考えている仲ではないだろう。
「んー……、失敗、ちょっともう一回――あ、できました! …………なんでしょう、これ」
「ちょいと、見してみ?」
ミキがインベントリから出したそれを、ミッコが受け取り、くるくると見渡す。
親指大の黒い宝石のようだ。ただ、中に何かが入っているようにも見える。
「……たぶん、化石やなあ」
「化石ですか?」
「……何に使うかはわからんけどなあ」
「……そうですか」
アイは少しがっかりしたようだが、まあ、何に使うかは分からないが恐らくレアドロップだ。
レアリティも高いし、ゴミにはならない……はず。
大人しく受け取り、自分のインベントリに収納する。それ以外は誰も変わったドロップをしていなかったようで、町に戻ることとなった。
あ、そういえばID一周目が終わった時点でメールがいくつか来ていたな。少し遅れたが、見てみよう――
◇
「醤油最高!!!」
今日の夕飯は卵かけご飯と牛肉と玉葱の酢醤油漬けというシンプルな二品。酢醤油漬けはニート時代、トネさんがよく作り置きしておいてくれたものだ。
今となっては和食すらも懐かしい。後は味噌汁があれば完璧だったが、味噌がないので作りようがない。あと鰹節もないので出汁も取れない。まだ先は遠そうだ。
「それにしても、まさか醤油まで解禁されてるとは」
「……アタシ気付いてすぐメールしたんだけど、返信なかったからねー」
「八重さんすみません……たぶん、一周目で醤油が解禁されてたんですよね」
森から出、メールを確認すると、古いものはその全てが「醤油解禁!」という料理人界隈のプレイヤーからの喜びのメールであり、最新のものは「白米解禁!!」という日本人からの熱狂的なメールだった。
「んー、となるとアンさん、やっぱ一度もクリアしてないことになるんですかね……?」
「わたしら入る前はクリアマーク付いとらんかったし、ま、普段の周回分ならボスとかおらんから死に戻りしても経験値は入るし、そっち目当てだったんやろなあ」
「そういうことなんですかね。……って、あれ、八重さん、何か……?」
八重は卵かけご飯の茶碗を持ったまま手を止め、驚きの表情でこちらを見ている。何か、変なことでも言ったろうか?
「……アンって、あれ、あたしよりちょっと明るめの髪したウェアウルフのアン?」
「……です、知り合いでした?」
「知り合い……だけど、あれ、一緒に狩ってたの? マジで?」
「えっマジですけど……ね?」
一応、一緒に来ていた3人の方を見、彼女らの反応を確認する。うん、皆無言で頷いた。自分だけが見た幻覚とかじゃなくて良かった。
「…………プレイしてるとは思ってなかった」
「え、そこから!? というかそれ、どんな知り合いなんですか? 突然居なくなっちゃってフレンド登録もできなかったんですよ」
「……リアルの知り合いなんだよね。ベータの時はちょっとだけ一緒に遊んでたんだけど、こっちにも来るとは思ってなかったな。ヨっちゃん覚えてる? 何度か外でも会ったけど、東音の……」
「え、私? あー……なんか覚えてる気もするわ。あれ、金髪の子でしょ? けどあの子、そんな性格だったっけ?」
「そうそう、おかしいなあ。こっち来てまでプレイする子じゃなかったと思うんだけど……」
「うーん……」
そう言うと八重と陽は二人で唸る。言葉を拾っていくと、まあ大学の知り合いとかそういうところだろうか。ベータは一緒にプレイしたが、コールドスリープして3年捨ててまでゲームをするような性格ではなかったと、そんなところだろうか。
突然リアルの話題が出てきて微妙についていけなくなったが、まあ、必要のない情報は忘れるようにしよう。うん。覚えておくべき情報は、八重や陽と顔見知りではある、というところくらいだ。
「ま、知り合いってことだけわかれば充分ですよ」
二人の思考は、そこらで止めておく。あまり他人のリアルに踏み込んではいけないなと思えるからだ。ここに来ている時点で皆がリアルに何かしらの不都合を抱えているのは当たり前なのだから、他人がそれを追求することなんてない。
純粋にゲームを楽しみに来た人より、現実から居なくなりたいと思った人のほうが多いんだなと、この世界で一週間ほど過ごしてみただけで分かったことだ。彼らは居場所を求めていた。だから、この世界がその居場所となる。
ゲーマーもそうじゃない人も、皆等しく、ここではプレイヤーなのだ。現実の仕事も、現実で持っている金も使える時間も関係ない。24時間この世界でプレイする、同じプレイヤーなのだから。
「ま、それもそうね。ご飯中断させてごめん、冷める前に食べちゃお」
八重は自分の言葉にそう返し、食事を再開する。
うん、やっぱり米は美味しい。炊飯器がなかったので鍋で炊いてあり、一部に焦げやパサついた部分もベタついた部分もあったが、それを含めても、久し振りの白米は美味しいものだった。
最初はそのまま食べようと思ったが、ミキの「卵かけご飯したいです!」との合図により、全員がそれをすることになったという経緯があった。誰も生卵が苦手ではなかったので幸いだ。
醤油がなかったからずっとできなかった酢醤油漬けも絶品。トネさんに作り方を聞いたわけではなかったので完璧なレシピとは言い難いが、自分で好きな味になるように作ったのだから、自分の舌に合っていて当然だ。
醤油さえあれば、レシピの幅が一気に広がる。和食において必須な醤油が抜けていたのでほとんどが西洋料理となっていたが、基本調味料であと足りないのは味噌だけだ。味噌を使ったもの以外なら、大体は作れる。食事バランスも改善されてきたものだなと、開始当初を思い出しながら、酢醤油漬けを頬張る。
うん、明日は何を作ろう。この調子で魚とかも解禁されて欲しいものだなと、そんなことを思い、食べ進める。狩りよりも食事が楽しみになっていることに気付くのは、まだ当分先のこと。
◇
「宝石スキルが反応してるから一応弄れそうだけど……どうする? もし他の利用方法がある素材なら、最悪壊れちゃうかもしれないんだけど」
「うーん…………」
食後の歓談タイム。八重だけ用があると呼び止めてあり、アイのドロップした化石を見せていたのだ。
ちなみにミキとミッコは今日の消耗品を補充すると言って、すぐに部屋に戻ってしまった。なので、今リビングに残っているのは自分とアイ、八重の三人だけだ。自分は特に話に混ざっているわけではないが、洗い物をしながら話を聞いている。
「鑑定スキルも入った後だからこれで完品なんだよね。詳細すら見えないのは鑑定が足りてないからというより、もう一個進んだ先で何かがあるとアタシは踏んでる」
「もう一個、ですか?」
「うん、こっから正式な手順で何かの処理を行えば、正式な素材アイテムになるんじゃないかなーと。ま、そんなアイテム見たことないから勘でしかないんだけど」
「……壊れたら、なくなるんですよね」
「や、えーと、これ見てみて?」
そう言うと八重はインベントリから宝石を一つ取り出し、手のひらに載せた。
「『壊れた宝石』、ですか」
「そうそう、加工スキルレベルが足りないとこうやって壊れるんだけど、店売り素材で元の宝石に直すこともできるんだよね。コスパが悪いから滅多にしないんだけど、高級素材の時は結構壊して直して壊して直してって繰り返してでも成功まで続けたりするよ」
「ってことは、万一壊れても直せるんですね」
「うん、それは保証するよ。で、どうする? チャレンジしてみる?」
「……では、お願いします」
「オッケー、任された。最近は加工できないほどの宝石扱ってなかったから、ちょっと緊張するわー。5分くらいで戻ると思うから、くついろいでてね」
八重は黒い化石を持ち、自分の部屋へ行く。
3分くらい経ったところで八重の部屋から「うわああーー!!」と叫び声が聞こえ、流石に無視できずにアイと一緒に部屋に駆け込む。
「ミ、ミッコさん呼んで!」
八重に息も絶え絶えにそんなことを要求され、急いでミッコを呼びに行く。彼女は部屋におらず鍛冶場で栄子を眺めていたので、八重の部屋へ引っ張っていった。
「……これ、デバフストーンです」
「あー…………アンシャクル門のレアドロップに、そんなのあった気もするわねえ」
「え、デバフストーンって何ですか……?」
アイがそう質問。今回に関してはアイだけではなく、自分もその存在を知らないものだ。
アンシャクル門というのはベータ時代の最奥地マップであり、道中は単独パーティ、ボス部屋は最大5パーティ入室可能なレイドエリアに設定されており、当時はエンドコンテンツとしても名高いマップだった。
「えっと……使うと、自分を含めた一定範囲にデバフが入るってアイテムで、MPは消費するけどそのスキルを取得してなくても使える便利アイテムのことを、デバフストーンって呼ぶんだよね」
「……そんなのあったんですね」
「キヌさんは知らなくて当然かも? ほとんど出回らなかったし、アタシも一度しか触ったことなかったから。これ装備品として加工すると使用回数制限って項目が消えて装備品の耐久だけを減らすようになるから、装備品の修理さえできれば事実上無限に使い続けれるんだよね」
覚えてないスキルを無限に使い続けることができる装備品など、バランスブレイカーにも程がある。それに、デバフだ。
アイのような壁職は基本的に自己バフは持っていてもデバフスキルは持っておらず、取得するには呪術師など魔法職のスキルを取得することになる。しかし、そうするとステータスバランスが魔法にも寄ってしまい無駄が発生するので、基本的に壁職が使うことはない。装備品一つでそれが使えるなら、一体何が起きるかと言うと。
「バランスぶっ壊すじゃないですかそれ。騎士職でもデバフ撃てるって」
「それが、壊れない仕組みがあるのよお。うーん、モノは実践? アイちゃん、装備してみ?」
「え、あ、はい」
「んで、スキル欄チェック。なんか増えとらん?」
アイの指に、八重作の黒い指輪が光る。黒い宝石は鑑定当初より小さくなっているが、それでもアイの細い指に不釣り合いなほどのサイズがあり、あまり彼女に似合っているとは思えない。
「フールっていうのが、付いてます」
「おっけ、じゃあそれINTマイナス系のデバフやね。発動はせんから、そのスキル長押しして、効果範囲の選択」
「は、はい」
「どっからどこまで入っとる?」
「えっと……指輪から、半径2mくらいでしょうか」
「ま、そゆことやな」
「え? どういうことですか……?」
「ここだと町中やから発動せんけど、それ外で使うと、その範囲内に『フール』って状態異常が入るんよね。半径2mってことはつまり、ここに居る全員。――アイちゃんも含めてな」
「……え?」
「やから、全員なんよ。魔法と違って個別に範囲設定とかできんから、デバフストーンを装備品に加工してスキル発動すると“装備者含めて”全員がデバフ食らうわけ。おっけー?」
「な、なるほど……」
「あー…………」
なるほど、バランスを崩さない理由はそれだ。
気軽に使える魔法職のデバフと違い、これはあくまで加工された石の効果でしかない。だから効果範囲はそれを起点とした無差別範囲となり、装備者は確実にそれの影響を受ける、ということだ。
……それは確かに実用性が低くなる。いくら便利とはいえ、使うたびに自身が状態異常にかかるのだ。やたらめったら使えるものではないだろう。
「え、えっと、つまり、使えるんですか……?」
「アイちゃんはINTマイナス痛くないから、魔法使ってくる相手に接近戦挑む時は使えるなあ。ちょっと、効果量見てみんことにはわからんけど、それはまた今度でええやろ」
「で、ですね。……えっと、これ、私が持ってて良いんですか? 皆さんで持ってたほうが……」
「俺、INTマイナス食らうとヘイト管理力減るからパス……」ヘイト上昇や減少は、自身のINTを参照しているのだ。この指輪が貰えると言っても、装備することはできない。
「わたしもINTマイナスは呪術成功率下がるからなあ」ミッコも似たような理由でパス。
「ミ、ミキさんに聞いてみましょうか……」
「ミキさんはINTで殴ってるから使えないんじゃないかなー……」
アイはひとしきりおろおろとするが、いつものパーティ面子で魔法職じゃないのが自分だけだと言うことに気付いたのか、しばらくすると冷静になってきたようだ。
「で、では、私が使うことにします」
「うんうん、微妙だったら売っても良いし。一応、製作者のとこにはアタシの名前入れてるから、売ってもらっても大丈夫よ」
「そ、そうですよね! 八重さん、作っていただいて、ありがとうございます。大事にします。キヌさんとミッコさんも、ありがとうございます」
「良いよー気にしないで。今ので加工レベル4も上がっちゃったし、アタシはそっちにもビックリ」
食後の歓談タイムはそんなこんなで、騒がしく終わるのだった。
どうしてアイにばかりレアドロップが行くのかという話し合いの場を設けたいなと、思うばかりであった。
書き貯めはここで終わり。更新ペース落ちます。




