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モブ×ゲーム  作者: 衣太
終幕、現実より
2/27

終幕、そして

 ゆっくりと、身体が持ち上げられる感覚。

 浮遊感。

 

 はてこの感覚は何だろうと思考を巡らせて見ると、思い浮かぶものがあった。

 初めてログインした時の、感覚だ。

 このゲームからのログアウトは初めてだから、ログインの時と同一の感覚かは分からない。

 確信を持って言うことはできない。何せ覚えていないからだ。

 記憶を辿る。この浮遊感は一体いつまで続いたものだったか。

 思い出したのは、そういう思考が巡ったころには終わるものだったということ。





 暗闇が無くなったかと思えば、視界が全て白に染まる。

 全てを覆うその白さが「眩しい」と気づいたのは、数十秒が経ってからのことだった。


 先ほどまで鳴っていたキィインという音が、耳鳴りだと言うことを知った。

 徐々に耳鳴りのボリュームが下がり、耳鳴りとは明らかに違う、人の声が聞こえてくる。うめき声とでも言うのだろうか。

 視界がクリアになってきたので周りを見ようとしたが、首を固定されているのか、動かすことができない。


 ここは、リアルだ。

 初めは新たな仮想現実に飛ばされたのかとも考えたが、それは違うだろう。

 今まで居た空間と比べ、情報量が桁違いに多い。

 一番強く感じるのは、消毒液の匂い。そして、ぱたぱたと走り回る複数の足音。

 

 固定されているわけではない。

 腕は、動く。

 その手で首元を触ってみると、特に器具などはついていない。つまり首も、動かし方を忘れていただけだ。

 身体を起こそうと、腕に力を入れる。集中する。身体を動かすために必要な動作を思い出す。



 唐突に、身体を誰かに支えられる。



「お帰り。ここでは君が最後の一人だよ」



 人の声も、クリアなものだ。

 あの世界は現実と遜色ないクオリティだと考えていたが、戻ってみると相当に違う。

 まるで映像の中に自分が居たかのように思える。それほどまでに、現実に“リアリティ”があった。



「支えなくても大丈夫かい?」


「たぶん……大丈夫です」



 返事をしたつもりの掠れた声が、自分の声と気付くのに数秒かかった。

 声が変わっているわけではなく、声も忘れていただけのこと。



「じゃあ、説明をするから、少し待っていてね」



 そう言うと妙齢の男性医師は、手を離してどこかへ走っていった。


 起き上がった身体を自分の腕で支え、ようやく回りを見渡す。

 沢山のベッドが並べられている。数えきれないほど、沢山のベッドだ。自分が横になっていたのも、そのうちの1つ。

 コールドスリープする前の記憶を辿ってもこんなベッドは見覚えがないので、寝ているうちに運ばれたのだろう。


 ベッドの上には、煌びやかな装備に身を包んでるわけでもなく、大きな武器を持っているわけでもない。変わった髪色をしているわけではないただの人間達が、そこには居た。

 自分と同じように起き上がって周りを見渡しているものもいれば、横になったまま動かない者も居る。しかし、横になったままの彼らも、起きてはいるのだろう。



『皆が帰ってきたので、少しだけ話をさせていただこうと思う』



 部屋全体に流れてきたのは、先ほどの男性医師の声だ。



『まずはおかえり。そして無事に帰ってきてくれて、ありがとう』



『君たちの協力により、この世界の医療は数十年分進んだといえる。ことコールドスリープの技術においては進化が著しく、理論上は、100年でも障害なく続けられるという確証を得ることができた』



『君たちにそんな自覚はないかもしれないが、君たちが、この世界を変えたんだ。3年前治らなかった病気も、今は治せるようになっている。それも全て、君達のお陰だ』



『おほん、君たちが興味のない医療の話なんてやめて、本題に入ろう。ログイン前にも説明したが、君達にはウィルハウス社から再就職先の斡旋がある。もっともリハビリを終え、適性検査を受けてからとなるが、君たち全員にその権利がある』



『リハビリは早ければ1週間、長くとも1か月あれば終わることだろう。その間当院から出ることはできないので、それには了承して頂く。どうしてもということがあれば、スタッフに声をかけてくれ』



『最後に。≪garden≫のフレンド機能は吸出しが完了している。君たちのベッドに置いてあるスマートフォンの、音声通話ソフトに保存されているはずだ。友人や家族、そしてあちらの世界で作った友人達の無事を確認してくれ』



『これにて私、当病院の院長、岡崎からの話を終える。今後の予定を纏めて君たちに配布する予定なので、それまで暫く待っていてくれ』



 枕元に置いてある、随分昔に買ったスマートフォンを慣れない手つきで操作し、音声通話ソフトを起動すると、新たなグループ分けができている。

 ≪garden≫

 グループをタップすると、大量の名前が表示される。

 皆、あちらの世界で出会ったプレイヤー達だ。

 一人一人、漏れが無いかを確認する。……うん、ちゃんと全員分揃っている。


 これから、どうしよう。リハビリが終われば、再就職先の斡旋をしてもらえる。一度紹介先で働いてみるのも良いかもしれないが、現実世界でも店を持ってみたい気持ちもある。

 店を出す場合、生涯手を付けないつもりだった、祖父の遺産を使うことになるだろう。手元の金はほとんどないが、それを元手にすれば開業まではできるはずだ。それでもそこまで余裕があるわけではないので、最初の1年はとても苦労しそうだ。やっていけずに、店を閉めることになるかもしれない。

 それでも、やってみたいのだ。人の笑顔を見れる、沢山の人が集まれる店を、作ってみたい。

 そんな風に、思えるのだ。


 こちらに来るまでは対人関係のつまらないことで仕事を辞め、再就職することもなく無職のネットゲーム生活をしていたオタクだったのに、ゲームの世界で3年過ごし、働きたいと思えるとは。この会社は、まったくとんでもないゲームを作ったものだ。



 このままずっと寝ていても何も始まらない。まずは、唯一連絡の取れるこの端末で、あちらで出会った皆の無事を確認することとしよう。今後のことは、それからだ。



 まずは一人目、最後まであちらの世界に居た、名前は―――









































「先生先生、近所で放火ですって。近頃、物騒なニュースが多いですね」


「うん、また不審火?」


「みたいですよ。また、火元が確認できるのに、そこに何かがあった形跡がないみたいです」


「ちょっと前ワイドショーで火炎放射器説とか出てたけど、そういうのじゃないのかなあ」


「時間的に、ビルに燃え移るほど長時間火炎放射を続けてたら、人目に付かないはずはないんですって。監視カメラにも怪しい人物は映ってないみたいで」


「それもそっか。鉄筋コンクリートだもんね。……ってことは、やっぱり“これ”関係かなあ」


「たぶん、そうですよね……」


「まさか、こんなことになるなんてね」


「ですね…………」


「この歳で異能バトルとかできる気がしないんだけどなあ……襲われたらひとたまりもないよ俺」


「先生は虚弱すぎるんですよ本当に。運動しましょう運動。剣道良いですよ? 一緒に習います?」


「いやー……剣道は良いかなあ」


「先生の得意だったこと……クレー射撃とか始めても、運動にならなそうですね」


「……やっぱ、色々間違えた気がするなあ」


「私だけは、間違いにしませんから」


「…………善処します」


「して下さい。今度はちゃんと挨拶に来て下さいね。お爺ちゃんとお姉ちゃんだけじゃなくて、お父さんとお母さんにも」


「…………はい」


「まったく、先生は変なところで臆病なんですから」



















――――『近頃、コールドスリープオンライン≪garden≫からの帰還者に、超能力のような現象を引き起こす人が居ると報告が相次いでおり――』


――――『政府はウィルハウス社及び医療関係機関に帰還者の情報を提供するよう呼びかけていますが、ウィルハウス社は個人情報に関わることなのでと提供を認めない方針を示し――』


――――『参加者及び家族の方からの、情報提供を呼び掛けております。問い合わせ先はこちら――』


――――『もし身の回りで不審な現象が起きていたり、不審な行動をする人を見かけましたら、些細な事でも構いません――』


――――『24時間いつでもお待ちしております――』


――――『それでは次のコーナーです。近頃N市で多発している不審火についてですが――』




















不審な終わり方をしてしまいましたが、次回から本編です。

“ゲーム編”がキリの良い所まで書けたら、“現実編”の連載に移れたらなあと淡い期待。並行して書けるのが一番良いんですけどね。

それでは、ようやくモブゲームの始まりです。お付き合い下さい。

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