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モブ×ゲーム  作者: 衣太
生活
19/27

恐竜

 銃声ばかりが鳴り響いていた森に、管楽器の音が響く。それはアンの持つマイクから出ている音なのか、彼女の口から出、マイクによって拡張されている音なのかは分からない。



「ふつう、テレポーターのサブスキルはバランス型になるもんだけど」



 アンはそんなことを言う。聞こえているのは、きっと自分だけだろう。

 彼女の、女性にしては低いハスキーボイスは、耳鳴りの中でも不思議と透き通って聞こえた。

 しかし、返事をするほど精神にゆとりはない。なので、喋らせておくことに決めた。



「言ってしまえば、クールタイムさえ減らしちゃえば良いからさ。方向性さえ決めれば、割と特化させることもできたんだよね」



 そう彼女は続ける。確かに、様々なスキルに“クールタイムの削減”は含まれているから、彼女の言うように方向性さえ決まっていれば、例えば攻撃だったり、例えばバフだったりに、尖らせることもできるのだろう。


 次に現れた群れは、空を舞う鳥達だ。……いや、アヒルは空飛ばねえだろって突っ込みをしたい気持ちもあるが、それどころではないので心の中で突っ込んでおく。アヒルも鴨も鶏も、あんな優雅に飛んでくるわけがねえ!



「ミキさん、葉飛ばして!」


「はい! ロケット、パアアアーーーンチ!!」



 なんかいつもより気合い入ってない? 人に見られると舞い上がるタイプかな?

 彼女の生み出した爆風は細かい枝や葉を吹き飛ばし、鳥達の姿を露わにする。そこで、アンが行動をした。

 彼女は「ん」と言い、マイクに何かを呟く。そうして響く音は弦楽器。また、マイクから鳴るとは思えない音だ。


 ヒュンと、何かが高速で飛んだ音が聞こえる。それが聞こえたのは、アンに近い自分だけだろう。高速で飛んだものが見えたのも、散弾銃を構えて敵を見つめていた自分だけだ。

 銃弾よりは遅いが、避けられないほどの高速で飛翔した“何か”は飛んでいたアヒルに直撃すると貫通し、アヒルの身を地に落とす。HPゲージは残っておらず、一撃で全損したことが見て取れた。


 彼女が一匹落としたところで、自分が撃つことに変わりはない。銃を構えたまま鳥が一度に狙えるところまで引き付け、引き付け、撃つ。大体の照準で三発も撃つと、全ての鳥はその身を地に落とした。



「敵影なあし」



 ミッコがそう言うと、ようやく散弾銃を下ろせる。先ほどまでのようなリンクは、アンの言う通りなくなっていた。

 次の群れの出現まではしばらく時間がある。こちらから動いても良いが、突っ立っていても自然と敵の群れが見つけてくれるとアンが言っていたので、群れを処理するごとに休憩するスタイルとなっていた。



「さっきの……射撃魔法ですよね」


「正解。『射撃魔法』に採掘師の『貫通』と『穿孔』載せて、後は自己強化系で吟遊詩人の『演奏』と『間奏』入れた、射撃魔法特化型。MP消費減少抜いたから連発できない分、威力と射程を優先した感じ?」


「基本骨子は“チャージャー”ですね。元々はクールタイムの問題で連射できないビルドでしたけど、クールタイム削減はそっちに機能してる、と」



 ビルド、“チャージャー”は『射撃魔法』という、軌道が銃弾にも似た魔法を用いる、遠距離戦用ビルドだ。

 飛ばしているのは銃弾ではなく“物質化したMP”であり、何にも変化させない分MP消費が激しいが、その分威力は大きい。魔法なので詠唱、つまりチャージが必要になるということで、名付けられたのが“チャージャー”。

 動きとしては、狙撃銃を持った銃士に近いものがある。INTを参考にする分威力は銃よりも上がりやすいが、一発ごとのMP消費量は馬鹿にならず、まともに使うにはMP効率か威力のどちらかを選びスキル構成する必要があるので、特化が必須となり汎用性の少ない、難しいビルドだ。



「そゆこと。だからまあ、あんたの銃と似たようなものと見てくれて良いよ。最速で連射しても5秒くらいは隙間空くし」


「……分かりました。じゃあ、動きには気にしないでおきます」


「そんな感じでよろしく。じゃ、そろそろ次かな、あと10秒くらい」


「7時から、次は――水牛が10以上」


「はい!」



 アンが居ても、動きは変わらない。ミッコによる行動阻害を弾いた水牛を始末する手段が増えただけの話だ。


 遠距離火力が二人になったことで殲滅ペースは上がり、群れのリンクもないので安定して処理ができるようになった。その繰り返しを1時間ほど続けていると、ダンジョンクリアの表記が出るのだった。





「うわっスキル結構上がってますね! 今29なので、私入れて後1回でしょうか」


「じゃ、昼食取ったらもう一回挑んで、終わりにしましょうか」



 ミキが入れなくなると、この構成は難しい。撃ち漏らしとアイを一対一にするには、彼女の爆風による吹き飛ばしが必須なのだ。爆風魔法は水牛ほどに大きなモンスターでもある程度はノックバックさせることが可能であり、空を舞う鶏を殴った時は十メートル以上も飛んで行った。ダメージも低くないし、彼女の抜けた穴を埋めることは、このメンバーではできない。



「キヌさんキヌさん、今日のお昼はなんですか!?」


「はーい、今日のお昼はー……ポタージュとホットサンドです!」


「わーい! 温かいもの! やっぱ料理人良いですねー、外でも温かいもの食べれるんですし」



 昨日作っておいたポタージュの鍋と、ユーリさんから貰った木屑をインベントリから出し、五徳の上に鍋を、下に木屑を詰め、マッチで着火する。

 インベントリに食材の冷蔵機能があると知った時は、感動したものだ。一度作ったものをインベントリに保管しておけば、火を入れただけでいつでも食べられる。こういう遠出をした時など、これほど助かる機能はない。


 木屑ではコンロほど高温にならず、鍋を火に掛けるのには多少時間がかかるので、ホットサンドの作業に入る。予め薄く切っておいた食パンに自作した鳥はむ、マヨネーズ、チーズを乗せ、胡椒を散らして重ねる。同じように数枚用意すると、火にくべて加熱しておいた、小さなフライパンを二枚重ねたような形状をしているホットサンドメーカーを開き、サンドイッチを挟み、火にかけた五徳の脇へ。直火にかけるとパンはすぐに焦げてしまうので、脇に置いておくくらいで丁度いいのだ。人数が5人にもなったのでパンは多めに焼かなければならない。トマトやレタスを挟んだもの、タッパーに入れておいた牛肉カルビを挟んだものなど複数用意していると、アンが驚いたような顔をしていることに気が付く。



「……えっマジで? 普通に作れるってことは、料理人なの……?」


「マジですよ大マジで料理人取ってますよ。ちなみに専用スキルの方なんで、バフ乗ります」


「兼用じゃない方で持ってる人、初めて見たわ……。ってか、あたしも食べていいの?」



 インベントリに収められていた簡易テーブルと椅子だと4人分しか対応できないので、今はインスタントダンジョンの前でピクニックシートを広げて座っているところだ。どうせこんなところに狩りに来る人は居ないだろうという予想で堂々と作っているが、アンには不思議な光景だったらしい。外で食事をするときは、割といつもこんな感じなのだが。


 アンの問いに皆が無言の頷きで返し、ミッコからも当初ほど険悪な雰囲気は感じられず、いつもの落ち着いた所作に戻っている。


 鍋がくつくつと音を立てたところで火から下ろし、ホットサンドメーカーも火から外して中身を出すと、包丁で真っ二つに切り、皿に並べていく。外でこういうことをしていると毎回アイが手伝いたそうにソワソワしだすので、「アイちゃんはポタージュよそってくれる?」と簡単な頼みごとをすると、「はい!」と元気に返事される。そのくらいなら、料理スキルがなくとも行えるのだ。



「では、頂きます」



 ダンジョンの目の前とは思えない、優雅なランチタイムが始まった。





「あんたら、いつもこんな優雅な食事取ってたの?」


「優雅かは知らないけど……概ねこんな感じですね」


「うわー羨ましい。絶対そのうち重宝されるよ、これ。今は料理できる人が極端に少ないわけだし」


「そんなもんですかねえ」


「そんなもんよ」



 ダンジョンの前に居ることもあり食後の歓談タイムはいつも程長引かず、使用した食器類をしまうと、すぐに準備に取り掛かる。

 食事中、いくつかメールが来ていたが、ウィスパーも来ていないし、緊急の要件ではないだろうとタカをくくり、開封は後に回す。どうせギルド関係の何かだろう。



「じゃ、大体はさっきと同じ感じで、行きましょか」



 一同にそう伝え、インスタントダンジョンに入る。消耗品は少なくないが、あと一回くらいなら全員余裕で持つようで、大した準備もなかった。

 ダンジョンに転送された瞬間、アンが「あれ? なんか違う気がする」と不吉なことを言わなければ、1時間でぱぱっと狩ってぱぱっと帰る、そんなことができたろうに――







「や、あれ何ですか!??」


「恐竜やねえ」


「恐竜って動物か!? いや、動物か!」


「キヌさんセルフツッコミですか! 余裕ですね!」


「ねえよ! 叫んでないと落ち着かないだけだよ!!」


「ああんもう計算外いい」


「何でどうぶつの森に恐竜出てくんだよクソが!!」



 不思議なことに、ダンジョンに転送されて普通に狩りをできていたのは最初の10分程度だけだった。

 10分ほどスタート地点で動物を迎え撃った後、アンのテレポートによって200mほど離れたところに飛ぶまでは良かった。しかし、そこからが異常だ。


 各々が叫びながら逃げ回っている。それはまるで、一回目の焼きまわしのように。



「アンさんこんなんベータから出てたんですか!?」


「出てねえよ! ここどうぶつの森だったよ!!」


「ですよね!! 転送ミスったんじゃないですか!?」


「ミスってねえよ! おかしいのはマップの方!!」


「死に戻りはやあよお」


「アンさん次の転送までどれだけですか!?」


「あと15秒! 次は限界まで遠くに飛ばす!」


「また恐竜に襲われないとこにしてくださいね!」


「わかってるよ!! 3、2、1、0!!」



 アンのカウントが過ぎると、再びテレポートが発動する。

 周囲を見渡しても先程まで追ってきていた謎のミニ恐竜ズは居ないが、森全体のざわめきが留まることを知らない。これは間違いなく、また襲ってくることだろう。



「えーーと、ちょっと時間あるんで整理! 各員分かったこと報告!」


「恐竜でした!」「きょ、恐竜です!」「恐竜やったなあ」「なんか恐竜襲ってきた!」


「はい終了! それ以外は!?」


「HPは、動物と同じくらいだと思います」「あっそれ私も思った! 手応えそんな変わらなかったんで!」「攻撃力が3倍くらいになっとるけどなあ」「動く素早すぎて当たんねえ!」


「個人的な意見としては恐竜は食材じゃないのでギルティ! 殺しても何の旨味もねえ!」


「えっ基準そこなのあんたら!?」


「全ての死骸回収してましたけど何か!?」


「あー駄目だ料理人様は思考回路が狂ってる! 恐竜も食えるかもしれなくね!?」


「何モチーフだよ! ミノタウロスから牛肉取れるのとはレベルが違う!」


「そういう問題なのかよ! あーまた来る! クールタイムまだ残ってるしそろそろ迎え撃たね!?」


「賛成! まだ無限POPかは判らないしとりあえず迎え撃ち! 各員準備! さっきと同じように!」


「了解です!」「頑張ります!」「はあい」「クッソ、やるしかないのかよ!」



 威勢の良い全員の返答を聞くが、これはやる気に満ち溢れているというよりは「もうどうにでもなれ!」といった感情の方が近いだろう。

 だって意味分からないでしょ、さっきまで鹿とか猪とか水牛とか鳥と戦ってたのに、次出てきたの恐竜だぜ恐竜。アニマルなんてもんじゃねえよ。ダイナソーだよダイナソー。



「あーもう! 拳銃なんかでやっとれんわ!」



 即座に装備を変更。拳銃を装備から外し、新しく購入した二丁目、機関拳銃を装備する。

 名前は“ステアーTMP”、所謂マシンピストルという類の銃であり、拳銃弾を高速でばら撒くことができる。重量は異常に軽く、弾丸さえなければ普段使っている拳銃よりも小さく、軽いのではないかというくらいのコンパクトさだ。装填しているのは全て特注の木片弾なので、ダメージは0。つまり、ヘイト操作専用の銃だ。


 散弾銃は肩付けもせず、右手で握ったまま真っ直ぐ腕を伸ばし、その状態で照門を覗き、照星で狙うことができるのを確認する。――片手打ちなんてできるかは分からない。両手で肩付けしても結構な衝撃が腕にダイレクトに来るほどだったのに、そんなものを片手など。

 一応製作者曰く、そのくらいのSTRがあれば片手打ちもできるだろうという話は聞いていたが、実際にやるのはこれが初めてだ。

 この構えは腕が異常に疲れそうであるが、そんなことは言ってられない。とりあえず撃てればいい、自分の役割は最初の数発だけなのだから、それさえ叶えば構わない。



「9時! さっきの続きよお」


「了解!」



 左手のマシンピストルは正面に向けず、視界の端に入れてるアイへ向ける。拳銃でゆっくり狙って撃つ時間がないのを予想し、高速連射できるこちらを選んだのだ。下手な鉄砲でも数撃ちゃ当たるの精神で。


 ……見えた! 高速で移動する、人の腰ほどのサイズの恐竜が凡そ10体。

 まずはミッコの行動阻害が入るが、6体はそれを抜けてきた。呪術に抵抗したというより、高速で動いて範囲から抜けた、の方が近いだろう。やはり、先程までの動物とは桁違いだ。

 確実に当てることのできる距離まで引きつけ、そして、引き金を引く。轟音、腕が跳ね上がる。恐竜たちは銃声に反応した様子が見て取れたが、先頭の一体に数発当たったようだ。しかし、まだ動きは止まらない。跳ね上がった腕を気合で下ろし、もう一度撃つ。流石に、これ以上の連発は難しい。

 まだ恐竜のターゲットは不規則だ。自分に向いているのもいれば、ミッコに向かう個体も居る。それに何故か二人とは違うところに位置取っているアンの方へひた走る個体もおり、これでは各個撃破の形にできない。ならば、ならばここだ。

 ここが、“ヘイトコントローラー”の、ヘイトコントローラーだけに許された特権。


 元はアイに向けていたマシンピストルを自身の腹に向け、感染呪術で“ヘイト上昇”を連続で使用しながら発射。ばばばばばと連続して体に当たるそれは、痛みを感じるというよりは引っかかれている程度の痛みであり、最早痛みと言えるほどの感覚はない。しかし、それでも当たっている感覚は確かにある。


 ヘイト上昇、つまり敵愾心を上昇させることのできる『感染呪術』は、何も敵に当てるだけではないのだ。

 自身に向けたヘイトを上昇させる魔法であり、それを成すのに敵を打つ必要があるわけではない。この中で最も敵から集めるヘイトが高くなれば、敵のターゲットを無理矢理奪うことができる。それは回復職が大回復をしたときに一気に雑魚のターゲットになってしまうのと同じことだ。それと同じことが、感染呪術でもできる。

 敵単体に当てて自身⇔エネミー間のヘイト値を上昇させるだけではなく、自身に撃てば“全体に対し”ヘイト上昇状態を作ることが出来る。行動としては壁職のヘイト管理スキルや回復職の回復スキルと変わらないが、一般的に『感染呪術』に属する魔法を見、それを想定する者は少ない。“次の攻撃にヘイト上昇状態を付与”などとあれば、敵に撃つと考えるのが自然だ。一発も敵に当てることなくターゲットを集中させる方法を、“自身に攻撃を当てる”という手段で達成するのを運営が想定していたかは分からないが、自分はすぐに気がついた。

 何せ、壁職や回復職でできることなのだから、何とかすればこの魔法でもできるのではないか、と考えてしまう性質だからだ。


 全ての恐竜は、元のターゲットから目を離すと一斉にこちらを向き、一瞬だけ動きが止まる。極端なヘイト上昇があると、どちらを狙うのか、一瞬だけ思考してしまうからだ。ベータ時代にそうだったから描写が三次元的になったこちらでも同じ現象が起きると予想していたが、案の定。



「アンさん! 奥から!」


「おっけ」



 今の一言で、彼女は理解したことだろう。

 これまでは、近い対象から狙っていた。その理由は“放っておくと殴られるから”という至極真っ当な思考からであり、至近距離の敵を放置して遠距離の敵を狙うメリットは、基本的には存在しないからだ。

 しかし、今の状況は違う。全ての敵が自分へ向かって走ってくるなら、むしろ危険度が高いのはすぐに処理できない遠距離の敵なのだ。


 もう照門を覗く必要もないほど近づいていた恐竜――右手の散弾銃を向けたら当たりそうなほどの距離まで寄っていた個体に銃口を向け、引き金を引く。拡散前の散弾が全て命中した個体は後方に吹き飛び、そして次の個体。こちらに飛びかかる寸前の姿で銃弾を喰らい後方に弾け飛び、そして次、そして次、そして次。



『6、1、7、9、2、6よお』



 ミッコがウィスパーで数字を伝えてくる。彼女がこの場でウィスパーを使ったのは隠したいからではなく、もう自分の耳がまともに機能していないことを理解したからだ。何か、こちらに向けて喋ったから気付いたのかもしれないし、見て、聞いただけで分かったのかもしれない。

 何にせよ助かる。彼女が今教えてくれたのは時計に当てはめた方角であり、それはつまり――


 こちらに向かってくる、順番――


 いける。いける。いける。二匹同時に襲いかかられないのは、ミッコが行動阻害をかけているからか、アンが撃ち落としているからなのかは分からない。どんどん視野が狭くなり、自分以外の状況把握すらできず、何故同時に襲い掛かられないかの理由は分からないが、このままならいける。


 しかし、散弾銃の弾は無限ではない。マガジンに内包された最後の弾を撃ち切ってしまうと、リロードに時間がかかる。その時間を――



「アイちゃん! 一旦預かって!」


「――――!」



 彼女に向け、マシンピストルで射撃する。使うは感染呪術のヘイト交換。全て集めたヘイトを、一時的に彼女に受け渡す。


 叫びはしたが、自分の声しか聞き取れない。いや、むしろそれすらも錯覚かもしれない。

 散弾銃の音は大きく、こんな速度で連発していれば耳栓をしていない耳など機能しなくなる。一発撃っただけで耳鳴りがするのに、それを連発だ。銃身が冷える間も、狙う間もなく、撃ち続ける。そんなことをしていれば耳が機能しなくのも当然であり、他人の声も、自分の声すらも聞こえなくなる。


 ああ、それでも構わない。このゲームでは、“不要な音が、多すぎたのだ”――――


 空になったマガジンを落とし、新たなマガジンを装填。アイに向かう最後尾の一体に、マシンピストルの弾を当てる。今使ったのは“ヘイト上昇”。こちらに向かってくるその個体に次は右手の散弾銃を向け、限界まで引き寄せ、撃つ。雑に当ててしまうと、散弾で漏れた弾がアイやミキに当たってしまうからだ。

 恐竜を挟んで対角線上に居る彼女らに当てない為には、位置取りを変えるか、撃ち方を変える必要がある。今選んだのは後者であり、“散弾が拡散しないところまで近づかせてから”撃ったのだ。


 ああ、心地良い。聞こえるのは銃声だけ。それ以外の音は、耳鳴りによって撃ち消される。BGMもボイスも、効果音以外の全てをオフにしてプレイしていたときは、この世界が普段だった。だから、何も不便ではない。


 自分には、目があるからだ。目で見て、目で狙って撃つことができるなら、音など必要ない。連携の法則は既に整っているし、彼女らはそれを理解して、自分で考えて行動できている。だから、今声掛けをする必要はない。



『次、同じ恐竜10以上、11時』



 唯一全体を見ているミッコが、ウィスパーを飛ばしてくる。彼女の声はこの場に唯一必要な音の情報であり、ディスプレイ越しにプレイしていた時には、文字で得ていた情報だ。


 11時の方角を見、次にアイの方を見る。彼女が相手しているのは残り2体、それを始末するまでは、自身に向けてヘイト上昇弾を連射するわけにはいかない。ならば、今はそれをしなくて構わない。

 11時の方角から向かってくる恐竜の先頭に向け、照門――照星で狙い、撃つ。外れ。もう少し近づいたのでもう一発。次は当たったが、エフェクトの量からしてダメージはあまり入っていない。



『始末完了』



 ミッコから送られたそのウィスパーは、アイの方に居た2匹の始末が終わったことの合図だ。

 彼女には何も頼んでいない。それでも、目線を飛ばしただけでミッコはそれを理解した。全く、とんでもなく“慣れた”プレイヤーだな、この人は――


 自身に向け、マシンピストルを連射。カチリと音が鳴り弾が切れたことを知らせるが、マシンピストルにはオートリロードの強化をしてもらっている。しばらく時間をおけば、マガジン内の弾は全て装填が完了される。マシンピストルから手を離すと、落下は途中で止まり、スリングによって肩にぶら下がる。丁度、左腰のあたりだ。

 ターゲットを集めた瞬間なら、一時的にマシンピストルの出番はない。だから、手を離した。

 両手で散弾銃を構え、近い対象に撃つ。近づいてきたら撃つ。近づいてきたら撃つ。撃つ。撃つ。弾が切れたのでリロードの終わったマシンピストルを手にし、ターゲットをアイに渡し、散弾銃のマガジンを外す。


 散弾銃にオートリロードの強化を付加してもらわなかったのは、それ以上に“威力”を求めたからだ。猟師の装備スキルでは火力増強が見込めないので、火力担当の散弾銃だけでも威力に特化する必要がある。だから、この銃だけはオートリロードではなく、威力を重点的に強化してもらったのだ。

 このくらいの狩場なら、散弾の粒を全弾的中させることができる距離ならば、大体のモンスターを一撃でHP全損させることができたので、その選択は間違いではなかったと知る。マガジン交換の手間を考えても、威力が高い方を選んで正解だった。


 さて、リロードが終わったので次だ。まだアイとの対角線上にいない個体にマシンピストルを連射し、こちらを向いたところで、右手の散弾銃で一発。


 その繰り返しだ。群れが出てきたら撃てるだけ撃ち、マガジンが空になったらアイへパス。彼女が対応している最中に次の群れが現れるので、キリの良いところで次の群れを狙い、そうしてまたマガジンが切れたらアイへパスする。一見綱渡りのような戦闘でも、実はこれが最効率なのではと途中から考え出すほどに、失敗がない。


 その流れを、何度、繰り返したことだろう――





『7時から、大物よお』


「……大物?」



 ミッコからの情報は、これまでとは違ったものだった。これまでは個体数や種類を伝えていたのに、今度は「大物」とだけ。つまり、それは、見れば分かると言うことだろうか。

 7時の方角を見る。そうして、理解した。


 ……うん、ありゃ見れば分かるわ。


 そこに居たのは巨大なティラノサウルス。最近主流となっている毛の生えた間抜けな姿ではなく、自分達が子供の頃から慣れ親しんでいた、皮の硬そうな、二足歩行をする、恐竜の中の恐竜だ。



「アイちゃん! タゲ渡し続けるから、なんとか耐えてみて!」


「――っ! ――――――!」



 彼女にそう声を掛け、ティラノサウルスの巨体へヘイト上昇弾を連発、20発ほど撃ち込んだところで、アイに一発当ててヘイト交換。

 これにより彼女は、擬似的なタンクとなる。ヘイトを集める手段がなくとも、それは自分が補完すればいい。彼女は誰よりも硬い防御で、敵の攻撃を凌げば良いのだ。難しいヘイト管理は、彼女に任せることではない。ヘイトコントローラーとはそういうビルドなのだ。

 タンクが居なくとも防御の硬い者で擬似的なタンクを作れ、他人が貯めてしまったヘイトを分散することも、集中させることもできる。ヘイトを0から10にすることも、0と10を交換することも、5と5にすることもできる。そんな細かい動作をしていると、サポート職が兼任することが多い“指揮官”など当然できない。今はミッコがこのパーティの指揮官だ。全メンバーの状況を把握し、敵の角度、距離、次の敵の情報を収集、必要な情報をそれぞれパーティメンバーに伝え、自身はそのアシストをする。誰よりも思考力が必要なポジションだが、しかしミッコはそれを失敗することなく成す。


 だから、敵が巨大になったところで大丈夫だ。アイはきっと、ティラノサウルスの攻撃を耐えられる。自己防御に特化した騎士であるアイの防御を抜けてくるような攻撃が、こんな制限IDで出てくるはずがない。彼女は自身より遥かに巨大なティラノサウルスの正面に立ち、切り、払い、攻撃をし続ける。防御をほとんど捨てた立ち回りだが、自身の絶対の防御を活かして殴り続けるのが、騎士のフルアタックの本分なのだ。

 ミキはアイの側に立ち、ノックバックを駆使してアイに降りかかる攻撃を払っていく。流石にティラノサウルスの巨体を殴っても吹き飛ばすことはできないが、手足や尻尾のような末端部位なら別だ。彼女は襲ってくる爪に恐れることなく立ち向かい、拳をぶつけ、弾き返している。

 アンは自身にターゲットが来ないことを利用し、ある程度離れたところから急所であろう心臓や頭部を撃ち続けている。そこで、彼女の射撃間隔が、先程までより短くなっていることに気付く。彼女は、笑っていた。誰もが苦しい表情を見せるこの場で唯一笑って攻撃する彼女には、煌めく犬歯が見て取れた。牙と言っても差し支えのない人より長いその牙が、彼女の種族がヒューマンではなく、火力に特化した“ウェアウルフ”であることを知らせてくれる。ウェアウルフはSTR、INT以外の全ステータスを犠牲にすることでMP回復速度を倍加させることができるパッシブスキルを有しており、射撃魔法の回転速度から、それをオンにしたことが分かった。

 ミッコは先程まで全力で回していた得意魔法、行動阻害系ではなく、全員へのバフ及び敵へのデバフで、総合火力支援にシフトしている。バフもデバフもジャマーもサポートなら何でもできる彼女のビルドは彼女の知識量及び思考力があって成り立つものであり、その場に最も適した魔法を選択していくことで状況をいかに有利に運ぶかが仕事だ。


 皆の動きを見、自分のやることは単純。全員に類感呪術によるバフを重ね、アイにマシンピストルを向けたまま、右手の散弾銃で射撃を続ける。ティラノサウルスのターゲットがアイ以外に移った瞬間、アイにマガジン一つ分のヘイト上昇弾を撃ち込み、それを阻止。散弾銃による射撃は拡散後でも粒が全弾当たるほどの巨体だが、ダメージを与えられている気はしない。この場で単体に向けた火力が最も高いのは急所を的確に狙っているアンであり、彼女の火力がなければジリ貧となってしまうだろう。

 HPゲージは徐々に、徐々に減っていく。HPゲージが減ってくると稀に特殊行動をしてくるが、初見でもその動作への対応はできた。ミキのビルド“パイルバンカー”は、こういう巨体に防衛戦を仕掛けるのに向いているのだ。体を吹き飛ばすことができなくとも手足なり尾なり顔面なりを殴れば弾き返すことが可能なので、特殊行動のほとんどを見てからキャンセルすることができる。相当な度胸がないと行えない行動だが、ミキはその行動すらも楽しんでいるように見える。次第に、彼女にも笑顔が見えてきた。


 初見のボスを相手にしても、ここまでの動きができるとは、正直思っていなかった。連携なんて数え切れるほどしかしていないし、ここまでの連戦は初めてだ。疲れも溜まっているだろうに、全員の動きが緩むことはない。

 そうしてボスエネミー、ティラノサウルスを相手に、一人もHPを大きく削られることもなく勝利するまでに、そう長い時間はかからなかった。

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