表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ×ゲーム  作者: 衣太
生活
14/27

開店

「それでは、アイちゃんパーティ加入おめでとうパーティを始めまーす!」


「え!?」



 勝手にクラッカーを鳴らす八重と空気に着いて行けず驚くアイは、人間として対象的どころではない二人だ。陽とも違うタイプだし、そもそも八重と反対のタイプの人間が多すぎる。あんた何なんだ。



「あとついでにヨっちゃん商店開業おめでとうパーティね」


「なんか扱いやけに雑ね……」


「ともあれお二人おめでとーう!」再びクラッカーが鳴らされる。うん、そんなんどこで売ってたんだ?



 帰り際、肉料理をいくつかテイクアウトしたのがいけなかった。普通に夕食を共にするだけだったはずが何故か家でパーティをするということになり、今机には、テイクアウトしてきたフライドチキンや焼き鳥の他、自分の作ったグラタンとクリームパスタ、トマトパスタが並んでいる。


 大皿で作ってしまったので各々適当に取り分けて適当に食べるというスタイルではあるが、まあ割と普段通りだ。ただ1人増えたにしては明らかに量が多いが。


 突然の家族感にアイは最初戸惑っていたようだが、しばらくすると、普通に話すようになっていた。うん、この家の人は誰も悪い人じゃないどころか、基本的に全員生産職だからね、戦闘大好きなタイプの人ではないからね……。痛みが怖いという彼女の悩みも、戦闘職以上に理解されたようだ。



「そういえばユーリさんは? また修羅場?」どれだけ修羅場でも食事はきちんと皆で摂っているユーリさんが居ないということは初めてで、思わず問いかける。


「あー、ユーちゃんは別ギルドの打ち上げに呼ばれてるみたいでそっち行ってるんだ。折角アイちゃん来たのに勿体無い」


「え、ユーリさんって外出れたんですか……?」なんか凄い失礼な疑問を上げてしまった。



 弓製作者としてはトップクラスのスキルがあるだろうが、それはあくまで生活の全てを製作に費やしているからだ。外に出て友人と話しているなんて聞いたこともないし、売買は全て陽さんに任せているなら知り合いが多く居るとも思えなかったのだが。



「二人が居ない間に、ようやく最前線の人達がヴァハに着いたみたいなんだけど、ボスへの総ダメージが一番高かったのがユーちゃんの弓持ってる弓使いの人だったらしくて、拉致られたみたいな?」


「あー……だから露店もあんな賑わってたんだ」



 ヴァハに辿り着くのに2週間かかるとは、攻略プレイヤーも大変だなと人事のように思う。

 第二の町ヴァハはダグザからあまり遠いわけではないが、町を開放するための条件として出されるクエストのボスがかなり強く、しかも、レイドで挑めないという難点があった。

 レイドと呼ばれる複数パーティ合同で挑めるクエストならば数の力で押すことができるが、1パーティしか参戦できないクエストの場合、そのパーティがいかにパターンを作り、損害を出さずにボスを倒すか、というところが重要となる。失敗の場合はほぼパーティ全員が町に死に戻りすることとなるので二度目を挑むにはまた長い距離を進んでクエストを受けて、という流れになり、開放にどうしても時間がかかってしまうのだ。


 露店通りがやけに賑わっていたのは気のせいではなく、ようやく稼働していなかったポータルが利用できるようになり、この町を出ることもなかったような生産職のプレイヤーまで、ヴァハに行くことが出来たからだ。それにより新たな素材や装備が市場に出回ることになり、普段以上の活気も頷ける。



「どんなパーティで倒したんですかね? 私もベータの時は何度かトレントマンと戦いましたけど、ほんと適正レベルじゃキツいんですよねあれ……一度全滅するとクエスト受け直すとこからやり直しですし」


「んー、やけに変則的なパーティやったみたいよ?」



 ミキの疑問に、ミッコが返す。おいアンタ一緒に行動してたはずなのにどこからその情報手に入れてんだ。俺はこの家に戻ってくるまでヴァハ解禁されたことすら知らなかったぞ。



「ほら、ふつうシングルパーティボスってヒラ2壁1バフ1の火力3やろ?」


「レイドと違って回復足りなくなるからどうしても2にする必要ありますしね」


「なんかなあ、タンクもヒラもおらんかったみたいなのよ。一応盾持ちは居ても、神谷ビルドやて」


「…………あの変態ビルド、実用性あるんですかね」



 馴染みのある変態ビルドの名前に、思わず反応してしまう。「それ君が言うかー」とか言われた気がしたが無視だ無視。



「えっと、それどんなビルドなんですか? 盾持ってるんですよね?」とミキが質問。


「うん……盾は持ってるんだけど、両手盾なんだよね」


「……両手盾なんて武器ジャンル、ありませんよね?」とアイが疑問。彼女は生産職の家に居る唯一の壁職なのだから、その疑問を抱いて当然だ。


「うん、両手で持つ盾じゃなくて、両手に片手盾持つの」


「「…………」」ミキ、アイの二人は絶句。うん、意味わからないよね。


「神谷ってプレイヤーがやってたビルドで、ヘイトを全く稼がずに防御スキルを全く使わずに全ての攻撃をパーフェクトガードすることで仲間への被害を0にするって頭のおかしいビルドなんだよね」



 うん、あれは一度だけ生で見て「頭おかしいだろこいつ」以外のリアクションができなかった。

 神谷ビルドとは神谷神というプレイヤーが考案した、どういうか誰にも広めてないのに有名になったビルドであり、行動は説明の通り。

 盾を持っているプレイヤーは敵の攻撃に完全にタイミングが合ったガードをするとパーフェクトガードという表記が出る。連続攻撃だろうが敵の行動はそこで終了となり、ほんの一瞬スタン状態に入ることで、相手がどんな特殊行動をしようがキャンセルが可能だ。パーフェクトガードの受付時間は0,1秒ほどであり、ずっとタンクをしていたプレイヤーすら故意に発動させることは難しいのに、それを前提としたビルドを組んだのが神谷神というプレイヤーであり、そのビルドこそがが神谷ビルドと呼ばれている。



「……無理じゃないですか?」ようやくアイが声を出す。うん、普通は無理。


「意味わかんないですねそれ……」パイルバンカーを使いこなすミキすらも呆れる。


「うん、本当に誰も理解できないし誰も真似できないビルドなんだよね。AGI寄りの壁職、重騎兵なんだけど、AGIマイナス補正かかるからって重装備せずに上半身裸でスキルは全部盾攻撃系で固めて盾で殴る意味分からない人。……神谷ビルドのプレイヤーが他に居るとも思えないので、きっと神谷さん本人なんですよね」


「せやろなあ、誰にも真似できひんわ……」ミッコすら呆れる神谷ビルド。



 ……ディスプレイ越しならともかく、あのビルドをこの世界でも成すというのは、最早正気の沙汰とは思えない。一歩間違えれば即死する壁職なんて不安すぎてパーティ組みたくもないよ。そのパーティの奴らどうなってんだ。



「ヘイト稼げない神谷ビルドだからヒーラー入れないんですね」


「ま、それしかないわなあ、タゲ固定せん状態でヒラ居たらただの的やわ」


「……ふつうは他の火力職もただの的になるんですけどね」



 壁職がヘイトを稼いでターゲットを固定しないということは、敵のターゲットは全て一番攻撃力の高い火力職へ向かうことになるのだ。いくら序盤とはいえ、火力全振りしてるようなプレイヤーが一発でも食らうと抵抗もできず即死する攻撃を仕掛けてくる相手に、常に最大火力で攻撃し続ける弓使いとは、こいつもこいつで正気ではない。



「わたしと同じ調律呪術のオールバッファーが一人に、神谷ビルドが一人、残り五人は弓槍剣剣剣のフルアタッカーやて。もう、正気を疑うわ」


「…………」声も出ないとはこのことか。



 ヴァハ手前のボス、トレントマンは5mほどはある木型のモンスターであり、基本的には魔法職有利とされている。一度ヴァハの町に着いてからは恒常クエストのボスとして出現する為、火属性に尖らせてる魔法職からしたらいい狩場であり、物理攻撃耐性がかなり高いので物理パーティで挑むのは得策とは言えない。壁で抑えて魔法で仕留めるのが一般的な攻略法のはずだ。

 ……しかしどうやら先陣を切って突破した奴らはただの大馬鹿共であり、セオリーすら全く分かってない火力キチの集団だった。5万人が一斉にスタートした中で一番最初に倒している以上、彼らが弱いはずもないのだが、確実に頭は悪い。うん。



「ミッコさん、どこでその話聞いたんですか?」


「ああ、さっき言うたオールバッファーの子ってのが、私の教え子なんよ、さっきウィスで話聞いたわ」


「…………」



 ちなみに“オールバッファー”はビルド名称でもなんでもなく、一般的にバフ・デバフの両面を使える職業、クラスの組み合わせ全てをそう呼称する。バフだけだと手が空いてしまうので火力スキルを取るか、仕事は多いし覚えることも多いがデバフスキルを選ぶかはその人の性格に寄る。調律師のような純粋バフ職だと、前者の火力混合を選ぶプレイヤーが9割だろうか。デバフは仕事が多すぎる割に成果が目に見えづらいので、選ばれることは少ないのだ。



「教え子って、ベータ時代のですか?」


「あー、や、ベータもやけど、リアルもやね」


「…………」これ以上はプライベートに関わることなので、聞くのはやめておこう。なんか目が怖いし。



 話が一旦区切られたところで、空気が突然静かになる。最後に質問をしておきながら黙った自分が悪いような気もするが、全員が黙々とパーティ料理を食べる姿は中々に異様だ。



「あ、あの、相談なんですが」



 沈黙に耐えられなかったのか、アイが小さく挙手をする。



「はい、どうぞ」フライドチキンを片手に八重が返答。うん、流石に自然体すぎない?


「私、やっぱヘイトスキル取ったほうが良いんでしょうか……」


「あー……」「うーん……」自分とミッコの声が重なる。これは、中々に難しい質問だからだ。


「じゃ、キヌ君から意見どーぞ、補足あったらわたしするわ」


「はい。えーとまず、アイさんの職業、騎士は全身金属鎧着けて防御上げて、剣か槍と盾持ってヘイト管理して戦う人が多いんだけど……アイさんがヘイト管理スキル上げてないのは、防御スキル優先したからだよね」


「はい……その、防御上がればあんまり痛くなかったので、そっちを……」


「うん、発想としてはそれもアリなんだよね。騎士って確かに壁職、タンクとしての色が濃いけど、実は他の道もあるんだ」


「まず一つ目は、PVP特化のビルドやね」


「そう、PVP――プレイヤー戦って、結局ヘイトスキルとかほぼ使わないまま殴り合うことになるから、そっちに尖らせたビルドの場合は、アイさんみたいにヘイト管理スキルを全く取らずに防御と攻撃を上げて殴り合うことになる。あんまり選ぶ人が居ないのはベータだとPVPの場面が少なかったからだけど、こっちだとそれなりに有効かも?」


「でも、ヘイト上げないとターゲット維持できないですよね……」


「うん、騎士のパッシブスキルにヘイト上昇系のもあるけど、それも使わないとなると、誰よりも高い火力を維持できないと難しい。だからそのPVP特化をもう少し対モンスターに近づけたビルドに、所謂“フルアタック”って構成がある。別に壁職だけに言う名前でもないけど、まあ通称ね。簡単に言うと、その職業の特徴を活かしつつも、攻撃スキルによる攻撃に尖らせた構成を言うんだ」


「フルアタック、ですか。職業の特徴ってのは……」


「アイさんみたいに騎士だったら、高い防御を活かして前線に立ちつつも全力で攻撃する火力職ってとこかな。一応、騎士の攻撃スキルには僅かだけどヘイト上昇もあるから、パーティにヒーラーが居なければ充分ターゲットを維持できる。盾を持つか持たないかはその人次第だけど、盾を置いて両手剣とか斧を持つ人が多いかな?」



 ただしヒーラーが居る状態でターゲットを維持するのは相当難しくなる。極端にヘイト上昇を招きやすいヒーラーが居るなら、やはりヘイト上昇スキルを持っておかなければならない。

 それでも、ヒーラーが居ないならフルアタックの騎士からターゲットを剥がすのは中々に難しい。手数の多さから、一対一ならほとんどターゲットを維持できるようになるのが、騎士のフルアタックなのだ。範囲攻撃などでパーティが壊滅するほどの状態になっても持ち前の耐久力で一人生き残る火力職というのは、パーティの立て直し等、どんな場面でも重大な役割を果たす。



「さっき言った神谷ビルド言うんも、厳密にはフルアタックやね。ただ彼の場合は“ソーマス理論”も取り入れとるけど」


「ソーマス、ですか?」アイの疑問。知らない言葉まみれで大変だろう。……その説明はあんまりしないで欲しいのだが。


「ソーマス言うんは、ソードマスターってビルドの名残みたいなもんで、武器をこれでもかってくらい装備してな? クールタイムごとに手持ちの武器を交換してくって頭悪いビルドやねん」チラチラこっち見ながら言うな。



 あっやっぱ大和が抜けた。うん、もうソードマスターでいいよ、正式名称それで。叩き台の名前はいつも適当にしてたんですごめんなさいインスタントマジックは中々センス良いなと思ったりもしたけど大体まず名前から罵倒されるんですごめんなさいネーミングセンスないんです。



「それと、両手の盾がどういう……?」


「神谷って人も、同じなんよ。両手の盾は騎士の『盾装備』スキルと重騎兵の『盾装備』スキルやから、名前は一緒でも別のスキルなんよ。右手の盾でスキル使いきってクールタイム入っても、左手の盾でスキルを使って右手の盾のクールタイムを稼ぐ、みたいなな」


「……なんか、難しそうですね」


「クールタイム管理ってほんとうに難しいから、アイさんはあんまり意識しないほうが良いと思うよ……」あんなプレイヤースキル要求ビルドを彼女に勧めようとするなクソ廃人め。全プレイヤーがそんな鬼のような操作能力持ってると思うな。


「わかりました、その、ソーマスというのはやめておきます。……盾持たなかったら、やっぱり防御低くなりますよね」


「うーん、それは武器次第かな? 両手剣とか両手斧にはガード機能付いてるから、盾ほどじゃないけど防御も上がるし、タイミング合えば敵の攻撃をノーダメで耐えることもできる。フルアタックにすると攻撃に使いづらい盾を持つのは勿体無いから、ほとんどの人は両手装備を選ぶね。片手ずつの二刀流とかもないことはないけど、折角なら騎士の高いSTRを活かせる両手武器をオススメするかな」


「……なるほど、ありがとうございます。剣と、斧かあ」



 彼女は少し遠くを見、考えているようだ。

 きっと自分が武器を持つ姿でも考えているのであろう。……身長150cm未満の女子に両手武器を勧めるのは若干おかしいような気もするが、ほら、ロリと巨大武器って似合うじゃん? 別に他意はない。純粋にオススメしただけですあっミッコさんミキさんこっちを睨まないで! どうして心が読めるの君ら?



「ちなみ、両手武器なら栄子が今作っとるよ。なあ?」そう言うとミッコは黙々と食事に手を付けていた栄子の頭をポンとする。一瞬ビクリと震えたが、フォークを置き、インベントリを開くとこちらに回してみせる。……無言で。


「し、失礼します」アイも栄子のことをどう扱えば良いのかずっとわかっていなかったようで、恐る恐るインベントリを見る。自分もついでに脇から覗く。



 そこには、売り物にしないことに驚くほど、大量の製作武器があった。どれもかなりの性能があり、露店通りで売っている武器に劣ることはない。いくら鍛冶場に引きこもっているからとはいえ、ここまで鍛えていたとは驚きだ。



「これ、鍛冶スキル30は超えてますよね。売らないんですか?」


「……陽の店に並べてもらう」


「そうなんですよー。露店売りすると価格競争に巻き込まれそうだったから、店持てるまでは待っててもらったんです。だから明日から、よろしくね」八重と食べさせ合いなどしてイチャついていた陽の名前が突然上がったが、陽本人は至って普通に返答する。というか栄子さん君よくあの状態の陽さんに触れたね話題。自分とアイなど完全に視界に入れないようにしてたのに。



 そういえば、陽も商店開業に至ったのか。食事前に八重の言ってた言葉を思い出す。

 ほぼ一日中露店を開いていてここまで時間がかかったのだから、彼女ほど熱心に露店を出していないプレイヤーが商店を開けるのは当分先になることだろう。

 元々この家の1階は店舗兼鍛冶場だったし、彼女はそこの店長に就任することとなる。家の中で販売できるならもうスキルレベルを育てる必要もないし、一日中寝ずの露店番とかはなくなるだろう。安心だ。



「……なんか欲しいのあるのか」栄子の問いかけに、アイが一瞬難しそうな顔をし、指を指す。


「これ……おいくらで売る予定でしょう」



 彼女の指差したのは、一つの両手剣だ。

 ……いや、これは両手剣で合ってるのか? アイが選んだのは、そんな疑問が浮かんでしまう代物だ。


 栄子がインベントリを確認し、実体化する。床板に突き刺さりそうな重量の大剣だが、幸い非破壊ゾーンである家に突き刺さることはなかった。やはり、このサイズで見ても違和感しかない。



「これ、なんで継ぎ目がないの……?」



 栄子の取り出した剣は、フォルムは一般的な両手持ちの片刃剣、バスターソードのような外見だが、他にはない特徴がある。

 剣と柄、唾に継ぎ目がなく、全てが同じ素材で作られているのだ。それにより異常なまでに無骨で、剣というか鉄の塊に見える。鉄の塊を加工して持ち手と刃を付けたような、そんなフォルムだ。

 なんか身長190cm体重120kgくらいの黒人のオジサンが持っていれば格好も付きそうな剣だが、何故アイはこれを見てキラキラ瞳を輝かせているのだろう。……女の子が見て可愛いと言えるタイプの物な「可愛いですこれ!!」「分かるか!」「はい!」あれ、なんか女の子二人意気投合しちゃいましたけど……。



「うん、耐久も高めだし、フルアタックにも申し分ないと思う」



 センスのことは気にせず、一応ゲーム的な性能を説明しておく。もうどうやら売買が成立してしまってるようだが、何故二人はこれを「可愛い」と言えるのかさっぱりわからない。鉄の塊だぞ、かっこいいとかじゃないのかこの場合。あっ八重さんと陽さんがポカーンとした顔でこっち見てる、彼女らも多分こっち側だ。どこが可愛いのか分からない組だ。


 早速アイは装備したようで、身長とほぼ同じ長さの剣を背中に実体化する。……本当に背負えてるのか? これは。歩いたら引きずられそうなものだが。

 ゲーム的にSTRの相当高い騎士である彼女はそこまで重さを感じていないようだが、150cmもない少女が

150cmくらいの剣を持ってるだけでもう違和感しかない。そもそも抜けるの? ロリと巨大武器とか言ってられる絵面じゃねえぞこれ。



「うん、大丈夫そうです、ありがとうございます!」


「気に入って貰えて、嬉しい」栄子も少し頬を赤らめて返事をする。



 ……彼女のこんな表情を見たのは初めてだ。頬を染める時は、母親に撫で回されて嫌がってる時くらいしかないのに。どうやら波長が合ってしまったようで、アイと栄子は流れるようにフレンド登録もこなした。近いセンスの人と会えて良かったね……。こんな嬉しそうな栄子を見ることは滅多にないので、とりあえず祝福をしておこう。



「私も武器トークとかしたいです! 栄子ちゃん、なんか魔法使いでも使えそうなもの作ってないですか!?」


「私は物理専門だ」


「そうですか……」露骨に落ち込んでる。



 うん、君のビルドは杖すら持てないからね。杖持っててもそれ爆発しちゃうしね。

 杖を持てないことによるINTの低さを短距離、狭範囲、高威力の魔法で誤魔化すというビルドなのだから、そもそも武器を持つこと自体がコンセプトから外れてしまう。残念だが、諦めてくれ。

 ミッコから送られた手袋のように、直接体を防御する装備品しか使えない。手袋の耐久も相当な速度で落ちるだろうが、布製品ならレアドロップでも安価に修理ができるから、まあ気にならないだろう。



「そうそう、ヨっちゃんがようやく店を持てるってことで、皆売りたいものあったら並べるよって話なんだけど、どうしよう? 専門店じゃなくて色々なんでも置いてる店にしたいと思うんだけど」



 話が止まったところで、そんなことを言い出したのは八重だ。

 ここに居る生産職は鍛冶屋、木工、細工師、裁縫師、調合師と、基本的な装備品が揃っている。普通店を出すならどれかに突出させ特徴をつけるが、逆に“なんでも置いてある”はコンセプトとしてそれなりに成り立つのだろう。色々な店に行かなくても一箇所で揃えることができるのだから、買い手としても時間の短縮に繋がる。色々置いてあるからパーティ皆で向かう場所という扱いになれば、細かい消耗品はもっと売れやすくなる。



「手数料は借金返済用の10%と、私の取り分で……えーと、3%くらいですかね、を予定してるんですが」と陽が補足。



 うん、こういうところでちゃんと手数料の話が出来るのは偉い。友人間だからと手数料が有耶無耶になると後のトラブルに繋がるし、自分が何かを作っている間も常に完成品を売り続けてくれるプレイヤーに対し、謝礼を払うのは当然のことだ。

 なるほど、こういう提案ができるということは、この家はそのように成り立っているのだろう。なにせ元々、一人のプレイヤーによる借金で作られた家なのだから。



「えーたった3%? ヨっちゃんなら10%くらい取ると思ったんだけど」


「私そんながめつくありません! もう!」ぷんぷんしてるところを八重さんがつついてる。驚くほどナチュラルにイチャつくのは、青少年の目には悪いな本当に。


「んー、わたしはいまんとこは、なんも並べんでええかなあ、まだ自分用くらいしか量産できとらんし」


「あれ、ミッコさん相当な数作ってませんでした?」


「自分用とか、知人に配ってばっかよお。儲けとか出んけど、いまはそれでもええかなあ」



 やはりここで余裕を見せたのはミッコさん。彼女のインスタントマジックは装備品として他人に売ることもできるし、他人が使うこともできる。かなりの効果時間を誇る強力なバフを使えるのはメリットがかなり大きいが、彼女自身が売ろうとしないなら仕方ない。

 知人分というのも嘘ではないのだろう。異常なまでに交流幅の広い彼女は、きっとトッププレイヤー達にも自分の作ったインスタントマジックを直接売っている。まだ知り合いでもないプレイヤーに売れる段階には至っていないのだ。……いや、それでいいのか生産職。



「ユーリさんと栄子ちゃんのは並べるとして、うん、八重のも並べるわよ、わかってるって。……で、キヌさんはどうするの?」


「……俺?」



 え、突然呼ばれてびっくり。完全にこの空気の外に居たと思ってたんだけど……。

 少し考える。何か作れるものあったっけ? 一応実包調合のスキルがあるから弾丸は作れるだろうが、それは既に専門で作ってる人が居るから自分が作ってまで売る必要はない。うーん、あと何かあったっけ。



「いや、料理売るのかって聞かれてるんだよ」そう八重さんが教えてくれた。


「あっ料理? え、別に売らなくても良くない?」


「……そうなんですか?」


「売ってる店いくつもあるし、あえて自分が売るほどでも……」



 売ろうと思えば売れるだろうが、料理スキルを持ってないプレイヤーは冷めた料理を温めることもできない現状では、元から冷たいものくらいしか売れない。確かにないこともないが、それなら別にNPCの店で買っても良いのだ。

 自分がこの家で作ってるのは、この家の人間は引き篭もりばかりで、外食という概念がないから。ただそれだけだ。



「や、でもバフ結構育ってきてるよ?」ステータス画面を見た八重さんがそう言う。


「……え?」


「や、バフ。NPCのご飯だとバフ乗らないけど、キヌさんのご飯だとバフ乗るから、それなりに需要あると思ったけど……え、違う?」


「……そいや、全く意識してなかった」



 そういえば、料理人の料理スキルで作られた料理には長時間のバフが乗るんだ。すっかりそのことを忘れていた。

 なんというかほとんど町の中にいるからステータス画面とか見ないし、唯一まともに戦った今日は朝しか自作の料理を食べていなかったから、洞窟に着いた頃にはとっくに料理バフの効果時間が切れていた。

 だから完全に失念していたのだ。自分の料理に乗っているバフのことを。



「あー、確かに乗ってる……」



 ステータス画面を開くと、確かにバフが乗っていた。魔法によるバフと違い視界に点灯することもなく、長時間低効果のバフは意識していないとあまり目立つものではない。

 発動しているのは『空腹値減少度軽減』と『体力増強』の2つだけだが、前者は4時間、後者の数値は20%。よく見るとHPが増えているし、数値で見えないがスタミナも増えているのかもしれない。

 ……大きいと言えば大きいが、誤差といえば誤差。なので、結論を出す。



「とりあえず、今は売らない方向で」


「わかりました。ミキちゃんは?」


「並べて下さい! いつも卸してる露店の人には、ギルドの商人が店出せたらそっちに流すって言ってあるので!」


「はーい。じゃあ置くのは、アクセと弓と剣と服とポーションね。…………私が言うのも何だけど、とんでもない雑さね」


「……そだね。ちゃんとお客さん来るかなあ」


「八重がちゃんと自分の客を引っ張ってくるの! 私は店番してるだけなんだから」


「うう、はあい、分かりました……」



 見た目文学少女の陽がどう見てもバンギャな八重より意見が強いことを今更知って、この二人の関係は一体……と静かに震える。うん、ユーリさんが居たらまた何か言いそうだったから、この場に居なくて正解だ。存分に祝われて来てね。



「ところでアイちゃんは、これから一緒に住むんだよね?」



 そんな八重さんの一言に、この家に居る八重を除く全ての人間が「はい?」とハモる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ