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モブ×ゲーム  作者: 衣太
生活
13/27

騎士

「は、はじめまして、アイと申します」


「これはこれはご丁寧に……キヌです」


「ミキです! よろしく!」


「は、はい、よろしくお願いします……」



 ミッコに紹介された少女、アイという子は、一言でいうと「自信のなさそうな子」だな、といった印象だった。

 身長は種族ヒューマンにしては極端に低く、150cmもない程度だろうか。現実の自分とあまり身長差をつけると操作性に問題があるという運営からの忠告により、あえて極端に低い身長に設定するようなキャラメイクをするプレイヤーは少なく、150cm以下のプレイヤーというのはあまり見かけない。

 異様なまでに童顔だが、これはキャラメイク次第なのか本人が極端に若いのかどちらかだろうか。

 肩より少し低いあたりまで綺麗な金髪を伸ばしており、そこは念入りに調整したのだろう。光の当たり方次第では銀色に見えるほどに輝いており、とても、綺麗な色をしていた。



「じゃ、行きましょかあ」



 ミッコの先導で一同は歩き出す。目的地は町から少し離れた洞窟系のダンジョンだ。オープンフィールドではなくクローズなダンジョンを選んだのは単純に、その方が他プレイヤーの邪魔が入らないだろうという予想でしかない。もっとも、ミッコが居る限りPKは気にしないでも良いだろうが。


 彼女が無告知でヘイストの羊皮紙を破いたものだから、突然の移動速度の変化に全員が前のめりに倒れそうになった。せめて、何か言ってからやって欲しい。


 町から出て30分ほどだろうか。道中の雑魚敵を倒しながら目的のダンジョンに到着した時には、アイという少女のことが少しだけわかってきた。

 ゲームに不慣れな様子から、ビルドを考えて組まれたわけではないだろう、職業はタンク系で有名な“騎士”であり、全身鎧により自身の防御力を高め、接近戦でヘイトを稼ぎながらターゲットの維持をする、基本的なタンクだ。

 ……ただしアイは、モンスターに襲われた時に一瞬の硬直がある。簡単に言うと、本人が怖がっているのだ。逃げ出したりはしないが、敵の攻撃モーションに少し遅れて盾を構えたりスキルを使ったりしているので、僅かではあるがダメージを食らっている。軽減されるとはいえ痛みは感じるので、それにより次の攻撃に対してまた恐怖を――という負のスパイラルだ。


 洞窟に入る前の作戦会議で、あることを提案する。



「ミッコさん、ジャマーよりアタックデバフ優先して貰えませんか?」


「ううん? 構わないけれど、ほとんど育ててはないわよお? インスタントマジックも用意しとらんし」


「俺が増幅させるので、それでも大丈夫です」


「はあい。何か考えあってのことなのよね?」


「ええ。……とりあえずそんな感じで、進んでみましょう」



 洞窟に入る。この洞窟は基本的なインスタントダンジョン――パーティごとに違うチャンネルに振り分けられるタイプのダンジョンであり、道中で知らないプレイヤーに会うことはない。協力が見込めない分、邪魔をされることは少ないのだ。


 最初の接敵。相手は人間の半分ほどの体長のコウモリが3匹。

 空を飛んでいるモンスターに物理攻撃は当てづらく、タンクは防御を捨て、カウンター狙いの攻撃をする必要がある。



「アイさん、盾は構えず、向かってくるのに向けて攻撃を」


「えっ、けどそうしたら……」


「ダメージは、大丈夫」



 コウモリの出現とほぼ同時に発動されたミッコのアタックデバフに、類感呪術を重ねて載せる。倍率は高くないが、計算なら大丈夫。



「いたっ……あれ、痛くない」


「でしょ? 防御気にせず、攻撃優先してみて」


「はい!」



 コウモリの攻撃を食らいながらも反撃したアイは、痛みを感じないことに驚いたようだ。

 それもそのはず。彼女のHPゲージは、全くと言っていいほど削れていないのだから。



「そういうことねえ」


「そういうことです」


「私は全然分かりませんけど、ね!」



 ミッコは納得し、ミキは目の前に居たコウモリをぶん殴る。町のすぐ側に居たゴブリンと違い一撃でHP全損するほど弱くもないから、ミキにとってもパイルバンカービルドで初の戦闘行為だろう。

 ミキは継続回復ポーションを惜しみなく使い、爆発による自身へのダメージを考慮しない攻め方をしている。このビルドはそういうビルドなのだからそれで正しいのだが、こうして見ると想像以上にコスパが悪そうな気がする。……調合師であるミキはポーションを無数に持っているのだからあまり気にしないでも良いのだろうが。


 ミキがコウモリを一匹、サポート二人の協力を得たアイが二匹を倒した頃には、3分ほどが経過していた。



「ふぅ……あ、あの、さっき痛くなかったのは、どういうことだったんですか?」



 戦闘が終わり、アイがそう問いかけてくる。



「えっと、アイさんの使ってるパッシブスキルが『ディフェンススタイル』と『騎士の王道』だったでしょ?」


「え? はい、言ってないですよね……?」


「うん、被ダメ見てたら大体分かったんだけど、割合ダメージカットの『ディフェンススタイル』と数値ダメージカットの『騎士の王道』だとこのレベルでも普通は50%くらいまでしかダメージ軽減できないんだけど、そこにミッコさんがコウモリに掛けたアタックデバフとアイさんに掛けたディフェンスバフで大体40%減、で、そこに自分が類感呪術で20%乗せたら、あら不思議」


「あっ! それなら110%になるからダメージ0ってことですね!」



 アイの前にミキが反応する。アイはそれを聞き「なるほど……」と静かに頷く。



「この洞窟のモンスターならレベル20くらいまではノーダメにできると思ったんだよね。計算あってて良かったよ。ほら、痛く無ければそこまで怖くないでしょ?」



 そう問うと、アイは驚いたかのように大きく頷く。

 コウモリの攻撃を食らっても痛くないと気付いてから、アイはビクビクして敵の攻撃を待っていた洞窟までの道中と違い、コウモリの攻撃タイミングを見て、攻撃や防御ができるようになっていたのだ。

 恐怖のキーは、やはり“痛み”だった。いくら軽減されても僅かながら感じることになる痛みでも、それが0になるなら気にせず戦える、という予想だったが、これが当たったようで良かった。もしも「痛みとか関係なく、モンスターが襲ってくること自体が怖い」とかだったら手のつけようがなかったが、痛くなければ構わないなら大丈夫だ。

 バフやデバフの組み合わせでダメージを0にすることができるのは、低レベルのうちだけだろう。それでも、彼女からしたら違う。恐怖の対象が恐怖ではなくなったのだ、後は慣れさえすれば、多少のダメージも気にならなくなるかもしれない。

 この組み合わせでもダメージを食らうようになった時、彼女がどのように変化するかは、周りのプレイヤーのフォロー次第だろう。



「そんな感じで、続きもやってみましょう。パッシブスキルが切れるとダメージを食らうようになるから、MP管理だけは気をつけてね」


「わかりました!」



 いい声で返事をしてくれた。それに、いい笑顔だ。

 放ってはおけないと、ミッコが言ったのも分からなくもない。きっと普段は、明るい良い子なのだろう。


 アイはヘイト管理スキルを習得してはいないようで、一度に対応できる対象は精々2体まで。それの撃ち漏らしはミキが対応することになるが、このダンジョンなら、一度に出てくるモンスターは3~5体が精々だ。ミキは1対1なら被弾したところでポーションの余剰回復で足りるし、余った2体なら自分が相手をすることができる。そんな流れだ。


 コウモリに弾を3発当てると、スタンが入って落下する。一定以上のダメージを連続で食らうとスタンが入るのは、飛行系モンスターの特徴だ。本物のコウモリと違って的も人の胴体ほどあり大きいし、撃ち漏らすことはない。それでもしっかり照準を定めて、ウィークポイントに狙って撃つ練習。ミキに戦う術を、アイに立ち回りを教えておきながら、自分も自分で射撃練習だ。正直、この中で一番弱いのは間違いなく自分なのだから、突っ立ってなどいられない。ミッコは一人暇そうではあるが、彼女の得意なスキル群、通称“ジャマー”と呼ばれる行動・認識阻害魔法を使わないように言っているので、そうなるのも仕方がない。……それ使われたら、誰の練習にもならないからね。一歩も動けなくなったモンスターを殴っても、数値的な経験値しか増えない。今必要なのは経験値ではなく、“慣れ”なのだ。


 徐々にではあるが、着実に成長はしている。第一層のフロアボスのところに辿り着いた時には、1時間ほどが経過していた。生産職3人、ほぼ初心者の壁職1人という組み合わせにしては、早かったほうだ。戦闘職でフルパーティを組めば10分もかからないマップだが、そうも言える立場ではない。



「この扉の先が、フロアボスです。行動パターンはほとんど雑魚のコウモリと同じなんですがサイズが人の倍くらいあるのと、雑魚コウモリを召喚することがあるのでそれは注意して下さい。もし雑魚を呼ばれたら、ミキさんが雑魚の処理を優先で」


「はい! それ以外はボスコウモリ殴っとけば良いですか?」


「うん、召喚パターンはHPによって若干変化するけど、火力ならそこまで気にしないでオッケー。ミッコさんはさっきまでと同じようにアタックデバフ優先で」


「ま、結構暇やけど、しょうがないわねえ」


「お願いします。で、最後に……この時間だと、ボスがレアエネミーになる可能性が0,5%くらいであるから、そっちの対処教えときます」


「あー、そいや、そうやねえ」



 ミッコが時計を見て言う。今は15時を迎えたばかりであり、システムが“夕方”とカウントした瞬間だ。夕方から夜にかけての3時間のみ、第一層のボスはレアエネミーとして出現する可能性がある。狙うほど旨味があるわけでもないので適正レベルを超えて狩りに来るパーティは少ないが、逆に、適正レベルで戦うにはかなりしんどい相手だ。



「見た目が青系じゃなくて緑系になってたらレアエネミーね。特徴としては、HPが5%刻みで雑魚コウモリを3匹呼び出すこと。ちなみに通常ボスと同じで、不規則な召喚も数分おきにある。本体も雑魚も行動パターンは同じだけどこのパーティの火力だとたぶんジリ貧になるから、レアエネミーが出ちゃったら行動変更。まずミッコさんは雑魚に全力でジャマー投げて下さい」


「え!? 良いの!?」突然の指名に、驚きを隠せない様子。うん、さっきまでデバフ振っとけって言っててごめんね、本業そっちだもんね……。


「10匹くらいなら自分がトレインできると思うから、ミキさんはジャマー食らってる雑魚を、アイさんは申し訳ないけど、一人でボスと殴りあってもらうことになる。……大丈夫?」


「……大丈夫です!」


「うん、よく言った」撫でてあげよう。撫でやすい位置にあった小さな頭部をよしよしと撫でていると、ミッコさんとミキさんから変な目で見られたからやめる。やめます。これ以上やってると黒い羊皮紙破られそう。怖い。


「じゃ、行きましょう。よっぽどレアエネミーになることはないはずなので、手はず通りに」



 扉に手を掛け、大きく開ける。

 そこにあったのは大広間だ。モンスターは、パーティが中に入ったら出現する仕組みとなっている。



「あちゃー」広間に入った瞬間、ミッコさんが呟いた。うん、まあそうなると思ってたよね。


「すみません! これレアエネミーです!」


「え!?」「はい!」驚くアイと元気よく返事をするミキで随分反応にギャップがあるが、まあ、出たものは仕方ない。



 町に死に戻りすることだけは避けようと、心に誓う。







「つーか、マジで、ヤベェこれ!!」



 一人で広間の周りを走り回りながら、悪態をつく。

 拳銃のオートリロード便利だな! と思いながらも沸く雑魚沸く雑魚全てに『感染呪術』のヘイト上昇を載せた拳銃弾を当てると、雑魚コウモリは全て自分についてくる。回復職が居ないし壁職であるアイもヘイト管理スキルを取っていないから、一度自分をターゲットにしたモンスターを剥がすには“拳銃弾より高いダメージを与える”以外にないのだが、ミキもアイもボスと殴り合いをしているし、ミッコはジャマーを全く投げてくれない。結果、全ての雑魚をトレインしながら広間を走り回ることとなっている。


 ……あれ!? もしかして俺、嫌われてる!?


 ミッコはこちらを見ると、笑顔で手を振ってくる。うん、これは絶対わざとだ。ジャマー投げないの絶対故意だ。何だ、さっきアイの頭を撫でたから怒られてるのだろうか。うん、そう思えば目が怖い気がする。

 ここのレアエネミー、緑の巨大コウモリは通常ボスと違って召喚パターンが増えるだけであり、攻撃力やHPに変化はない。だからアイもダメージを喰らわないはずだが、HPゲージが多少削れているところを見るに、少しは貫通してくるようだ。そこは、ベータと違うところなのだろうか。



「つっ……また湧いてるし!」



 コウモリが、ボスと戦う3人の周りに召喚される。間髪入れずにヘイト上昇弾で射撃。

 うん、走りながらでも当てれるようになってるね。一発当てればこっち来るし、数発外したところで彼女らに被害が行くことはない。逃げながら撃つことに明らかに慣れていることに驚きながらも、足を止める隙はない。止めた瞬間40匹近くトレインしているコウモリ全ての攻撃を食らうし、2,3匹に殴られただけで即死しかねない自分の紙耐久では、反撃の隙すら与えられない。

 ……もう次に召喚されたコウモリのタゲ取らずに放置してやろうかとも思ったが、それは流石に性格悪すぎるなと反省。再度湧いたコウモリに弾を当て、走る。走る。走る。走る。走る。


 戦闘というか、ひたすら逃げ回っているだけだ。全力で走っていればギリギリ追いつかれることのないコウモリの移動速度が幸いし、未だにほとんど被弾はしていない。というか、これだけ走れば体力がとっくになくなってそうなものなのに、疲れる体とは裏腹に足は全く緩まない。……ゲームだからか? と思ったが、数値では見えないものの疲れは存在するはずだ。それなのに足が緩まないのは、何故なのか。


 ……追い回されては居るものの、少しは気になる。

 とりあえずステータス画面を開いてみる。……あれ、パッシブスキル発動中? アイコンに見覚えはないし、呪術によるMP軽減以外のパッシブスキルをオンにした記憶もない。基本的に2つしか発動できないパッシブスキルの3つ目が発動する条件はわからず、分からないながらもスキルアイコンに触れる。


【運び屋:運搬中のスタミナ消費減少】



「これかぁー!!」思わず叫ぶ。うん、絶対これだ。


「運搬ってトレインもそれに含まれんの!? つーか何匹から発動すいってええ!!」スキルを確認して足の回転が緩んだところで2匹のコウモリから攻撃を食らって思わず叫ぶ。



 HPゲージが急にレッドラインに突入したので、慌ててポーションを消費。

 足は緩めてはいけない。全力で走り続けないとコウモリの餌食だ。

 町長からのパシリを2日受けた結果貰えたスキル・運び屋は、お使いクエストが受けやすくなるだけではなく、どうやらモンスターに大量にターゲットされ、それらを引き回す行為――通称トレインをしている最中にも発動するようだ。その時の効果は、スタミナ消費減少。

 走り続けられているのはそういうことだ。しかし、スタミナというのはHPやMPのように目に見える数値ではない。感覚で掴むしかないが、全力で長時間走ったこともなければ運び屋スキルが発動したのもこれが初めてなので、どれだけ持つのか分からない。……お願いだから、ボス倒すまで体力持ちますように。



「また、沸いてる、し!」



 先程から、コウモリの召喚ペースが早くなっている。恐らく、ボスのHPが相当削れているからだろう。

 戦闘を開始して、20分以上が経過している。ミッコのアシストもあり、ミキとアイの2人がかりでずっと殴れているようで、それでこんなスピードでHPを削ることができているのだ。……うんミキさん、君には雑魚の始末をお願いしてた気がするんだけどね。


 律儀に召喚されたコウモリ全てに弾丸を当てて引き連れていると、大きな声が聞こえる。それはボスエネミーの悲鳴であり、HPを全損した証拠でもある。

 ようやく、狩りは終わり――と言いたいところだが、まだトレインしてるコウモリ全く死んでないからね。これ、どうすればいいんだろう。1匹ずつターゲットをミキさんに渡す? いや、それではあまりに時間がかかりすぎる。そんなことを考えていると、視界に端に2つのアイコンが灯る。それは、強化状態を示すアイコンだ。

 触れてみると、『状態異常耐性アップ』『確率で状態異常無効』『確率で状態異常無効』『確率で状態異常無効』『確率で状態異常無効』『確率で状態異常無効』『確率で状態異常無効』『確率で状態異常無効』…………『確率で状態異常無効』のアイコンはどんどん増え続ける。こんなことができるのはクールタイムを無視して魔法の使えるミッコさんによるインスタントマジックしかないし、「そういえば確率発動バフは重ねれたんだなあ」などとどうでもいい発見をする場合でもない。もう、嫌な予感しかしない。



『死なんよう、気をつけてな?』



 そんなウィスパーを送ってきたのは、確認するまでもない、ミッコさんだ。うん、彼女が何をしたいのか全て察しました。



「死ぬわ……!」



 死に戻りは嫌だ! そんなことを考えながらもしかし一応口では反論の言葉を残し、視界が暗転する。






 ―――――――――暗闇だ。音がなければ、体の感覚もない。呪術師スキル『暗黙』に似ているが、あれは体の感覚くらいは残るはずだ。

 それではない。いや、複合されているかもしれないが、それだけでこんな状態にはならない。


 今立っているのかも、走っているのかも、そもそも生きているのかすら分からない、無の世界。

 時の感覚すら曖昧になり、今暗闇になってから何秒、何分経ったかすら、知覚することはできない。




 無限とも言える時の末、瞳が再び光を映す。視界に入ったのは――金?

 なんだろう、見覚えがない金色だ。手を延ばすと、金色はビクリと揺れる。何かに触れたような感覚はあるが、それが何かは分からない。

 まだ戻ったのは僅かな視力だけ。しばらく金色に触れていると、何かに手を押さえつけられたのか、手はピクリとも動かなくなる。



 ―――――――――あれ、は、なん、だったのか―――――――――





「あ、ようやく目醒めました?」



 そんな声を聞く。聴力の次に少しずつ視界が、そして体感覚が戻り、そして記憶も戻る。

 そうだ、ボスを倒したところで、ミッコさんに何かをされたのだ。



「あれ、死に戻ったわけじゃないのか」


「すまんなあ、もうちょっとはよう起きると思ったんやけど」


「…………何してたんですかアレ」ミッコを見、問いかける。



 暗闇に入る前、確かに彼女からのウィスパーを貰ったのだ。それに、あんな芸当は壁職であるアイにも、生産職であるミキにもできない。犯人は、一人しか居ないのだ。



「えーとなあ、非常用に作っといた、状態異常重ね掛けしたインスタントマジックやね」そう言うとミッコは目を背ける。うん、怪しい。怪しすぎる。


「…………何個重ねたんですか」


「……………………500個くらい」


「アホか!!!!!! 死ぬわ!!!!!」


「だから、すまんて」


「いやマジで死ぬと思ったからね!?? つーか何で俺巻き添い喰らってんの!???」


「範囲指定モンやから…………」


「範囲が大雑把すぎる!!」


「ほ、ほら、一応耐性もつけといたし」


「あんだけ耐性載せてあの結果って俺どんだけ倒れてたの!??」床冷たいよ!! なんか鼻痛いよ!! 絶対これ走ったまま顔面から地上へダイブしたでしょ!??


「5分くらい……です」何故かアイが顔を赤く染めて言う。うん、目を逸らされた。俺、この子にそんな酷いことしたかな? 嫌われる覚えはないが…………あっまたミキさんがこっちを冷たい目で見てる。何かしたんだ、たぶん女の子にしか分からない何かをしたんだ。ごめんよアイさん…………。と心のなかで更なる謝罪。



 というか自分の引き連れていたあの大量のコウモリは、ミッコさんのインスタントマジックで全てが消失したのだろう。彼女はダメージのあるスキルを一つも取っていなかったはずだが、何故そんなことに。

 いやまあ毒付与なり呪いなりでダメージを与える手段は呪術師のスキルには多く存在するが、それで全損させることなど普通はできない。ちなみに普通ならプレイヤーを5分間昏倒させることもできません。



「まぁその…………お疲れ様でした。あとなんかすみませんでした」一応謝罪。どこが彼女らの気に障ったのか分からない以上、謝罪もあやふやだ。



「お疲れ様でした!」ミキさんは元気に、「お疲れ様です」アイさんは静かに、「…………すまんなあ」ミッコさんは謝罪。うん、アンタはあとで校舎裏な。校舎とかないけど。



「なんかレアドロとかありました? 一応レアエネミーですし」


「あー、そういえば、これがそうなんですかね」そう言うと、ミキさんがアイテムをインベントリから出す。


「うぇ……」それを見たアイさんが目を逸らす。うん、普通の反応はそうだよね。


「翠玉獣の心臓ですね。レアドロップってほどじゃないけど、レアエネミーのドロップなのでそれなりに貴重だと思いますよ。武器とかには使えないので、大体は消耗品に使うかと」



 ミキの手のひらに載ってるのは、手からこぼれんばかりのサイズの心臓だ。なんかまだ脈打ってるし。それを普通に手に載せてるのに驚きを隠せないが、うん、やっぱ女子としてどうかと思う。ずっと見ないようにしてるアイさんの反応が普通だ。

 ドロップ自体はレアエネミーの専用ドロップではなくレアエネミーが緑色の場合の共通ドロップではあるが、この町に居る時点ではそれなりに希少価値は高い。グロいけど。



「ポーションに使えますかね!?」


「うーん、どうだろ。たぶん分解を続けてけば粉末になるので使えなくもないけど、大した回復量にはならない気もする……良品になってたら出回ってそうなものだし」


「そうですか…………」あっ露骨に落ち込んでる。ごめんよ……。


「そんなら、わたしの方に回ってきよったコレと、交換してくれんかなあ?」



 ミッコさんはそう言うと、インベントリからアイテムを実体化する。

 そこにあったのは手袋だ。緑色の手袋であり、別にグロくもない。



「一応レアドロップっぽいから、損のない取引やと思うけんどなあ」


「えっなんですかそれ!? レート、合ってます?」



 ミキが驚いたかのように声を出す。ミッコに回ってきた手袋は、れっきとしたレアエネミーによるレアドロップだ。ずっと使えるほど強いものではないが、この段階においては相当強い装備に入る。

 「おんなじくらいよお」とミッコは返すが、実際のレートでは、心臓より1桁は高い金額で取引されるはずだ。

 うん、うん……ミッコさんが言わないのであえてそれを言う必要はないだろう。彼女がレアドロップの価値を知らないはずもないのだし。



「ありがとうございます! 大事にします! うわ、防御めっちゃ上がりましたよ!」



 取引が成立したようで、ミキさんは嬉しそうに装着する。

 大事にするんだよ……たぶん小さな家が買えるくらいの値段するからね、それ……。


 ニコニコとするミッコさんを見てると、彼女の性格がなんとなく分かった気がする。ここでレートの差を伝えて“貸し”を作らないのは、彼女が根っからの悪人ではない、ということなのだろう。……なんかさっき酷い目にあった気がするが、あれは男限定ということで納得させる。



「アイさんは、どうだった?」



 一人インベントリを眺めて首を傾げていた彼女に声を掛ける。あまりゲームに慣れていない彼女は、ドロップの希少価値があまり掴めないのかもしれない。



「えっと、こんなのが出てきたんですが…………」



 彼女はインベントリから取り出すこともなく、インベントリ画面をくるりと回し、そのままこちらに向ける。

 ……うん、これあんまりやらないほうが良いよ。スキルとかステータスと違ってインベントリの中身他人に教えると狙われないとも限らないからね。


 彼女のインベントリの上の方は、洞窟中でドロップしたであろうコウモリからのドロップがいくつも並んでいる。そして最後の一行は、見事なまでに“緑色”だった。



「…………普通一人にこんな偏りますっけ」


「貢献度分配にしとらんよね……?」


「してないですね……分配はランダムになってるはずなので…………」



 彼女のインベントリのラスト一行が緑色というのは、全てがレアエネミーのドロップという証だ。

 自分のところには素材が2つしか来てないし、ミキさんのところには1つしか行っていないドロップが、なんと8個。



「あ、あの、なんかおかしいですか……?」


「ううん、たぶん頑張ったねってご褒美だよ……」


「そ、そうなんですか……?」


「そうそう、アイちゃんは気にせんでええと思うよ。残しとくほどでもないから、売るの手伝ったるわあ」


「ほんとですか? ありがとうございますミッコさん。よろしくお願いします」うん、礼儀正しいのは良いことだ。



 ミキさんは何か分からずにキョトンとしているが、君も知らなくていいよ。地味にショック受けそうだから。

 アイのイベントリにあったドロップ8個はどれも装備品ではないが、その内6個がレアドロップだ。一つ一つの価値で言うとミキの元へ行った手袋ほどではないが、全てを適正価格で売れば総額ではそれを超えることもありうるほどの価値。つまり、家が一つ買えるほどの価値があるのだ。……全てを売ってそれを手にした時、彼女がどんな反応をするか気になる。ミッコさん、頑張って納得させてやってね……。



「まだ時間あるから二層も覗くことできるけど、どうします?」


「私、お腹すきました!」ミキさんが元気に告白。うん、そういえばちょっと買い食いした程度で昼済ましてたもんね。もう夕方だもんね……お腹すくもんね……。


「わたしも、帰る方向で賛成やねえ、アイちゃんはどう?」


「私は……皆さんに任せます」と控えめな意見。


「じゃ、帰る方で。夕飯はちょっと早めになっちゃいそうだから、その前に露店とか見ましょっか。皆売るものも多そうですし」


「はあい」「了解です!」二人はそう返事したが、アイだけがもじもじと指を絡ませている。



 ……流石に、放置はいけないだろう。同じ家に住んでいる自分達3人と違い、アイは違うのだ。きっと、どこかの宿に一人で住んでいる。



「アイさんも、来る?」手を前に出しそう問うと、アイの表情は目に見えて明るくなり、手を握り返してくれた。


「は、はい!」……良い返事だしいい笑顔なのは嬉しいが、そろそろ手を話してくれないとミキさんとミッコさんの目が怖い。あっ駄目黒い羊皮紙取り出さないで! それ破いたら死に戻りするしかなくなるやつだから! そう思ってると手を離してくれた。ミッコの手に掲げられていた黒い羊皮紙は一瞬で仕舞われ、アイの目に見えることはなかった。



「ほんなら、もうポータル作っちゃってええかな?」



 ミッコがそう問う。この場合のポータルとは、簡易ポータルのことだ。

 町などに設置された、テレポート用のポータルに飛ぶことができるアイテム。それなりに高価な代物であり自分は持っていなかったが、ミッコはこの時のために購入していたのだろう。

 すぐに町に帰るには高価なポータルか死に戻りをするしかなく、後者は流石に論外なので来た道を歩いて帰るつもりだったが、彼女が使うというのならありがたく借りることとしよう。なにせ簡易ポータルは、パーティ全員が利用することができるからだ。便乗しない手はない。


 全員がコクリと頷き、ミッコはポータルアイテムを床に落とす。すると、町でよく見た紋章が浮かび上がる。



「ほな、お疲れさん」ミッコは紋章に足を踏み入れ、姿を消す。これにより、タイムラグ無しで町に帰ったことだろう。簡易ポータルの制限時間は1分ほどしかないので、あまりのんびりもできない。


「じゃ、自分も。乙でした」「お疲れさまです!」「ありがとうございました」各々言葉を残し、紋章を踏む。



 一瞬の暗転の後、見慣れた町、ダグザへと戻ってきたのだった。

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