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モブ×ゲーム  作者: 衣太
生活
12/27

虎馬

「やー……銃、結構難しいね」


「キヌさん、リアルで撃ったこととかあるんですか?」


「興味はあったけど海外に行くほどお金はなかったからね、これが初めてだよ。……まさかあそこまで時間かかるとは」



 猟師のクエストを受け、正式に銃装備スキルを入手した時には、もう昼も回った時間となっていた。

 遅くなりそうということが途中で分かったので、ミッコさんには合流予定の子とランチをして待ってもらっている。



「やー、それにしてもチマチマ撃つんですね。こう、どーん! ばーん! くらいの期待してたんで、私がワンパンで倒せる相手に何発も撃つことになるとは思ってなかったですよ」


「……うん、ちょっと流石に威力低すぎたというか、思ったより当たらなかったのもあるけど、慣れないといけないね、これ」


「……ちゃんと狙って撃てるようにしてもらえないと、私にも当たりそうで怖いんでやめてくださいね」


「善処します……」



 パーティとして狩りをする以上、同士討ち――フレンドリーファイアは絶対に避けなければならないというのが、中・遠距離の物理攻撃職が最初に突き当たる壁だ。

 それを考え、基本の猟銃である散弾銃は封印してある。小銃は初期装備として貰えなかったので拳銃で敵を撃つと、なんと想像していた以上にダメージが低い。威力が武器依存であり初期装備、しかも小さな拳銃弾しか撃てない拳銃では威力が低いのは当然といえば当然だが、それにしても低すぎたのだ。

 10発以上当ててようやくミキのパイルバンカー一発と同じというのだから笑えない。


 早急に新しい銃を入手しなければ、足手まといどころではないことに気づいたのもあり、集合時間を遅くしてもらったのだ。



「銃って、想像以上にドロップ少ないんだね……」


「みたいですねえ」



 二人で露店通りを歩き、何か新しい銃が買えないかと見物していたのだ。

 しかし、成果は芳しくない。銃を扱う露店自体が、皆無と言っていいほど少ないのだ。銃だけではなく、弾すらもない。

 確かに弾は『実包調合』スキルを使えば自分で作ることもできるが、今は弾を作っている時間もないので、まとめて買いたいと思っていたのだ。



「うーん、こうなったら聞くしかないか」


「ミッコさんですか? 確かにいっつも町歩いてるミッコさんなら、露店にも詳しそうですけど」


「うん、話し中悪いけど、ちょっと聞いてみる」



 フレンドリストからミッコを選び、通話。しばらく時間がかかったが、繋がった。



「お話し中すみません。あまりに銃が弱いんで新しい銃買おうと露店通り歩いてたんですけど、全然売ってるとこ見つからなくて。ミッコさんどこか知ってたりします?」


『それ絶対聞かれると思て、話通しといたわあ』


「…………助かります」



 たぶん、通話を送って応答までしばらく時間が空いたのは、それを誰かに伝えたからなのだ。

 つくづく彼女の人脈が分からなくなる。町から出ないのに、この異常な交流幅の広さはなんなのだろう。戦闘職の知り合いも多いようだし、もしかしたらベータ時代は有名なプレイヤーだったのかもしれない。



『座標3561,2477な? そんあたり、銃商集まっとるから、行ってみるとええよ』


「ありがとうございます。……ってあれ、露店通りでもないんですね」


『そうそう、銃商集まて店出してる区画があるのよお。わたしの名前出せば、融通してくれるはずよ?』


「何から何まで、ありがとうございます。ちょっと今から行ってくるんで、また集合時間遅らせて貰います」


『はあい。この店のデザート代は君のツケな?』


「……安いもんです」



 そう言って通話を切る。地図を開いてみると、彼女に指定された座標は露店通りから少し離れている。

 固定客しか居ないから、あえて大通りに店を出す必要もない、ということなのだろう。料理人界隈も似たようなものなので、最初は露店通りにぽつぽつあった食品店が、いつしか露店通りから外れた通りに並ぶようになった。

 新参者が少ないジャンルなのだ。ならば、そうなるのは当然のこと。競争率の高い通りで固まって店を出すより、口コミの力を使い離れたところに出店して集まった方が、売る側からしても買う側からしてもメリットがあるというものだ。


 10分ほど町を歩くと、ミッコに指定された座標に辿り着く。

 ……想像はしていたが、まるで違うゲームのような空間だった。


 そこにあったのは迷彩色の布を露店のいたる所に掲げ、迷彩服を着たプレイヤー達が銃や弾を物色する光景だ。

 突然違うゲームに迷い込んできたような錯覚に陥る。確かに、こんなプレイヤーが大勢集まっていたら怪しすぎるだろう。苦情が出てもおかしくない。

 大通りから外れた、知ってる人しか来ないような場所に店を構えたのは正解だ。いくらなんでも不審すぎる。


 着いてきてくれたミキさんの様子を確認すると、見るからに顔が青ざめている。うん、女の子が入れる空間じゃないよね、ここ。



「ちょっと、ここで待ってもらっても……いや、先にミッコさんと合流してもらってても良いんだけど」


「い、いえ! ここまで来ちゃったんで、つ、付き合います!」ちょっと声が震えてるぞ、ミキさん。



 彼女の虚勢とも言える大きな声に、露店にある銃を物色していたプレイヤーや雑談をしていたプレイヤーの視線が集まる。

 視線を集めてしまったことに驚いたのか、ミキさんはさっと自分の後ろに隠れ、服の裾を握る。うん、もう帰っても良いんだよ……。



「あの……」



 通りに居た一人の迷彩服の男性から、声がかかる。あれ、場違いって追い出されるんじゃないよね? 一応、銃買いに来たんですけど……。



「ミッコさんの言っていたキヌさんとは、あなたのことでしょうか?」


「あ、はい、そです」


「お、おお……思ったより普通の人で驚きました」


「モブ顔で悪かったな!?」キャラメイクに凝れば、俺だって、俺だって……!


「い、いえ、気を悪くしたならすみません、では、こちらへどうぞ」


「えーと、……はい」



 どうやら男が先導してくれるようで、彼に着いていく。

 何故かモーセが海割ったみたいに人並みがサッて割れていくんだが。これは一体どういうことだ。というか、どこに連れてかれるんだこれから。



「こちらへ」



 案内されたのは、露店から少し離れた建物の中だ。普通に入れたということは、ここは誰かが購入したプレイヤーホームということだろう。部屋にあるのは椅子が一つ。あ、ミキさんの存在に気づいたのか、すぐに二つ目が出てきた。

 ……相当小さくなっていたから、気付かなかったのにも無理はないだろう。彼女に、この空間は重すぎる。



「ミッコさんからのお客様ですので、これから銃鍛冶を連れてまいります。少々お待ち下さい」



 部屋の中で立っていた一人の迷彩服が、そう言う。うん、やっぱり嫌な予感しかしないよ。ヤクザの事務所でもないんだから、そんな形式要りません。普通に店見せてくれるだけで良いんです。

 そう言いたくとも、何故か言える空気ではない。というかお前ら迷彩服にヘルメットばっかだから個人の認識ができないよ。先導してきた男と違うことしかわからないが、もうさっきの男の顔すら思い出せない。


 しばらくすると、眼鏡の男が現れる。白いシャツに茶色のパンツを履いた姿は町中でひと目見ただけではNPCと勘違いしそうなほど特徴がなく、キャラメイクをしたというよりリアルの本人の顔そのままです、と言われたほうが納得できそうなモブ顔だった。モブ顔って自覚がある自分よりもそうなのだ。



「紹介に上がりました、倉敷です、あの、よろしくお願いします……」


「あ、はい、キヌですよろしくお願いします…………ってやっぱ待って!? なんでただ銃見に来ただけでこんなことになってるの!? 今どうなってるの!?」


「え、あの……」


「というかミッコさん何言ったの!? 何この重役扱い!? 普通に銃見せてくれるだけで良かったんですけど普通に買いに来ただけなんですけど!?」



 そこまで一呼吸で叫ぶと、先導してきた男が「あーーー」と言い右手を頭に添える。うん、偏頭痛かな、お大事にね。



「ミッコさんとは、どういうお知り合いで……?」


「一緒に暮らしてます。……こっちの子も」ミキさんを指すと、彼女はコクリと頷くだけ。うん、空気に飲まれるのも仕方ないよね。


「いつからの……」


「サービス開始2日目からです。……あの人、何者なんですか」


「…………知らないなら、知らないほうが良いと思うんですが」そういう気になる言い方するのやめろ。


「……聞かないと納得できなそうなんで、簡単に説明してください」



 そう言うと、倉敷と名乗った男は考えるように顎に手を当てて唸ると、口を開く。



「ミッコさん、ベータ時代では有名なPKKなんですよ」


「…………なんかそんなことだろうとは思ってた!」


「え? はい?」ミキさんキョトンとしてる。


「えっと、PKKってのは……」説明をしようとしたら、代わりに倉敷が話しだしたので口を閉じる。


「キヌさん、ベータ時代はどのくらいやりこまれてました……?」


「主にビルド研究してたんで、攻略自体はほとんどしてませんけど、知識はあるはずです」


「ええ、はい、ならえっと説明するんですが、私と――というか、今ここに集まってるプレイヤーは大体ベータ時代から銃士とか銃鍛冶やってたプレイヤーなんですけど、銃って、対人戦で相当有利だったんですよね」



 確かにそうだ。銃は通常攻撃の感覚が狭く、しかも中遠距離から攻撃ができ、威力が低くとも当たりさえすればヒットストップが発生するということで、銃士は対人戦では猛威を振るっていた。対エネミーで銃士を組むプレイヤーより対人想定でスキルを構成するプレイヤーの方が圧倒的に多く、対人でアドバンテージがあるということは、そのままPKに使いやすいということにも繋がる。

 銃士のPK集団に会ったらログアウトしろと攻略サイトで言われるほどに勝ち目の薄い戦いとなり、ほとんどのプレイヤーが戦闘を放棄するほどに、彼らは悠々とPK活動が行えたのだ。



「言ってしまうとほとんどの銃士はPK楽しんでたんですけど、オープンベータ終わるちょっと前、その時点でもPK界隈では有名なPKK、ミッコさんが町から離れたところで狩りをしてたの見つけて、一斉に襲うって話になりまして」



 あ、ミキさん見るからにドン引きしてる。「うわぁ……」って口だ。まあ、そういうものだろう。PK行為というのは、それをよく思わない人間にしたら嫌悪する対象でしかないのだ。



「総勢39人集まって、一斉に襲ったんですよ。ミッコさんは5人パーティだったし、こちらにも当時高レベルのプレイヤーが居たので負ける気はしなかったんですが、……結果ボロ負けです。いや、どう考えてもあの戦力差で負けるはずがなかったんですが、認識阻害と行動阻害、デバフの乱れ打ちで初動に失敗した僕らはプチプチと一人ずつ潰されていき、結果、全員が死に戻りさせられました。……ミッコさん以外のパーティメンバーは即座にログアウトしていたので、1対39だったんですよ。……いやあ、あの時は全員、反省会でPKやめるかって話になりましたよね」


「……ご愁傷様……」



 うん、1対39でボロ負けしたら心に傷を負うよね、しかも相手はデバッファーって。それは仕方ないことだよ……。



「反省会の場に、どこから嗅ぎつけたのかミッコさんが現れまして、もう僕ら屈服ですよ。非戦闘域だったのに全員負けを認めて、それ以来こんな感じです……」


「うん、辛かったんだね……」



 それ故、彼らは完全に舎弟となってしまったのだ。正直、自業自得としか言えないが、そんな状況で勝ちを収めたミッコが何をしたのか素直に気になる。……まあ恐らく対人特化の妨害ビルドなんだろうが、銃士39人に勝てるデバフ系ビルドなんて知らない。普通に数発食らったら即死だと思うんだが……ていうかあんのかそれ。



「あれ、なんでキヌさんこっちの人に同情してるんですか……?」


「あまりにも可哀想でね……」


「……その、あれ以来誰もPKしてませんので、その……」


「変なこと吹き込まないんで安心して下さい……」



 彼らの心の傷は、相当深く刻まれている。これ以上死体を切り刻む真似はできないだろう。

 というか、そんなことできるのはミッコさんだけだ。あの人死体撃ち好きそうだし。



「よろしくお願いします……。そういうわけで、銃の話でしたよね」


「……そういえばそうだった」うん、ミッコさんの過去話が壮絶すぎて、ここに来た理由すら忘れてたよね。


「職業は銃士じゃなくて猟師ということですが、希望されるのはどんなものでしょう?」



 倉敷は先程までの死にかけな表情と違い、よくいえば商人らしい表情となり、そう聞いてくる。



「使えるのが拳銃小銃散弾銃なんですけど、とりあえず今は拳銃だけで大丈夫です。拳銃と6時間分くらいの弾売ってもらえたらそれで良いんですけど……」


「拳銃ですね。STRとDEX、どこまで上がってるか伺っても良いですか?」



 そう問われ、ステータス欄を開く。そういえば、装備要求値のことをすっかり忘れていた。2週間くらいこっちで生活しているのに全く武器を持っていなかったというかほとんど何も装備していなかったのだから当然だが、自分のステータスを見るのは久し振りのことだ。……たぶん、初日しかまともに見ていない。



「STRが71のDEXが211……ってなんか極端ですねこれ」


「……そこまでDEX上がれば狙撃銃とかも使えそうですけど、猟師ですもんね……」


「はい……」



 比較的近距離でしか命中させられない拳銃は、DEXによる命中補正をそこまで大きく受けることはない。どちらかと言うと、ステータスより自身の慣れの方が重要なほどだ。タイミングと角度を掴むだけで、DEXなどなくとも命中させられる。――と聞いているが、実際には結構無駄弾が多い。まだ慣れてないだけだ、うん。



「装填数、多いほうが良いですよね」


「ですね。銃士と違って攻撃スキル使えないんで結構数撃つことになりますし」


「じゃあ…………こんなのはどうでしょう」



 彼は取引ウィンドウを通さずインベントリから一つの拳銃を取り出すと、こちらに手渡してくる。

 ……ずっしりとした重さの自動拳銃だ。初期装備の無名拳銃と比べると、倍ほどは重量があるだろうか。

 銃に右手で触れ、詳細情報を確認する。……なにこれ、所有者登録されてないんだけど。持ち逃げされる覚悟あるのか、これ。


 【Cz75 装填数16 威力79 耐久性179】


 なんか、聞いたことある名前だ。ミリタリー知識のほとんどない自分でも知っているのだから、漫画なりアニメなりでよく出る銃なのだろう。

 初期装備の無名銃が装填数9、威力20の耐久性50だったことを思うと、遥かに高い。というか高すぎて驚く。

 ハントメイドということで、説明下部には製作者自ら追加した強化状態も記されている。

 【オートリロード:マガジン交換が不要(弾丸はインベントリから消費)】えっなにそんなのあるの!? マガジンを複数持ち歩かなくて良いとか、なんて便利なんだろう。それに装填数もかなり多いし、これは今の要求を全て満たしている銃だ。



「一応、オートリロードされるんですけど、全弾撃ち切ると3秒くらい撃てない状態になるので注意して貰えたら……」


「あ、はい。これ、おいくらですか?」


「あー…………じゃあ5万くらいでいかがでしょう」倉敷がそう言うと、部屋に居た二人の迷彩服がビクリと痙攣したかのように動く。まあ、何も言わないから気にしないでおこう。


「では、買わせて頂きます。ついでに弾も欲しいんですが……」


「あ、はい、そですよね、6時間分でしたっけ、今回はおまけしておきますので、どのくらい使うか分かったら今度からその数で買いに来て下さい」


「え、弾の代金くらい払いますよ」


「いえいえ、結構ですので」うーん、そう言われると払いたくなるのが日本人だが、あまりここで時間をかけると待っているミッコに申し訳がないので、折れることにした。サービスされる方が折れるってどういうことだろう。


「ありがとうございます。ちょっと急いでるので、これで失礼しても?」


「はい、お買い上げありがとうございました。ミッコさんにもよろしくお伝え下さい」



 深くお辞儀をされ、迷彩服の男に見送られる。

 想像以上に時間を使ってしまった。後ろからミキが着いてきてることを確認し、少しだけ小走りになる。流石に、待たせすぎただろう。予定時間2時間オーバーとか、自分でもどうかと思う。

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