正気
「うっわーーーーー!! たっのしいぃーーー!!!」
衝撃で壁に吹き飛び、漫画のようにバウンドしてようやく体は止まる。
「まあこりゃあ、言いだしっぺが実験台ならんとなあ」とミッコの言葉により、町の外に出、ビルド“パイルバンカー”の攻撃、爆発する拳をモロで食らってみたところ「グッ……ゲフッ」以外の言葉が出なかった。格闘漫画かなんかか?
うん、生産職を“パイルバンカー”で殴ってはいけない。もうなんか、パイルバンカーどころじゃなかった。エネルギー弾でも腹に食らって吹っ飛んだのかと思ったよ。
「キヌさん! もう一回良いですか!?」
「ちょ、待って無理!! マジで全損するから!!」
「えー、ほらポーションあげますから」
そう言って人を半殺しにしたミキはこちらにポーションを投げてくる。うん、試験管が命中してぶっかかって回復したよね。けど、そういう問題じゃなくな「ゴハァアーーーー!!」
はい、また殴られて爆発して吹き飛んで暗転しかけました。
「お、おねがいだからもうやめて……」
涙目になってそう言うと、ミキは投げつけるつもりで構えていたポーションをおろし、「はーい」と言ってくれる。
「すみません! なんかあまりにも楽しくて! 爆発パンチって名付けていいですかこれ!」
「お、お好きどうぞ……」
なんかもう色々が駄目だ。一発食らうと戦意というか、逆らう気がなくなるパンチ。
拳爆発したミキ本人はピンピンしているし、なんか全てが間違っているけどビルドとしては正しい形になったのかもしれない。けどやっぱり俺サンドバッグになる意味あった? マジで。
「なんか爆発するし、面白いし、ちょっとダメージは入るし痛みも感じるけどピリっとする程度でまあ気持ち良い? くらいです! キヌさん食らってみた感想どうですか?」
「あっれぇ反応見てわかんなかった!?? 普通に死ぬかと思いました!!」
「あれっそうなんですか!? なんかやけに吹っ飛ぶなあとは思ったけどそういうもんじゃないんですか!?」
「言われてみるとそういうもんだったけど!??」
いや、うん、確かにそういうものだ。このビルドは相手からの反撃を“敵を吹き飛ばすこと”で避けるという意味もある。ちなみに生産職が食らうと10m単位で吹っ飛ぶし壁にぶつかるまで止まりません。生産職を殴るのはやめましょう。
たった2つのスキルで成り立つビルドなので、INTを参照するどんな構成でも扱うことができるということで、汎用性の勝利だったのだ。魔法職が敵に近づかれた時の緊急手段としての採用も検討していたくらいには、便利なものだった。
射程0というのは確かに欠点ではあるが、0距離なら確実に当てられるということにも繋がる。ただ触れるだけで発動させられるのだから、最悪攻撃食らいながらでも発動できる。
「見た目はやけに痛そうやねんけんど、食らってみた感想はどうなん?」
「いや……痛みはそれほどでもない気もするんですけど、衝撃で肺の中の空気が全部なくなった感じで……もう本気でゲフッみたいな声しか出ないですよ」
「痛みは軽減されても、衝撃は伝わるんですなあ……」
「踏みとどまるとか抜きで吹っ飛ぶんで、対人では中々凶悪かも……いや生産職だからってのはあるかもですけど……」
「私的には楽しかったんでオッケーです! お二人とも協力ありがとうございます!」
「どういたしましてえ」
「気に入ってもらえたようで何よりです……」
結果的には採用ということになったが、中々に辛い思い出を残すこととなってしまった。
まさか、わが子がこんな形で反抗してくるとは……。反抗期かな……。
「ちょっとモブも殴ってみたいんですけど、お付き合い頂けますか!?」
「……ごめん俺はパス、戦闘スキルなんもないや」
「キヌさん呪術師スキル取ってるんですよね? デバフでもなんでもいいですよ! ついでに上げるチャンスじゃないですか!」
「た、確かに取ってるけど武器装備してないから手で触れないと発動でき……あっ」
「……人に殴るビルド押しつけといて、自分は触れたくないからやらないんですか?」
かなり冷めた目で見られ、そう言われる。うん、これは間違いなく自分が悪いね。大体ミキさんが正しい。
「…………お付き合いさせて頂きます」
「ほんなら私も着いてきますわあ。いい加減、育てたバフ使いたかったとこやしなあ」
ミッコも同意すると、どこからか取り出した丸めた羊皮紙を、躊躇なく破り捨てる。彼女の魔法、インスタントマジックだ。
……別にこの場なら即応性もクールタイムも関係ないんだから普通に魔法使ってもいいのでは? という疑問は、その魔法が発動した瞬間に消え失せた。
「え、ちょっと、これ!?」
視界の端に浮かぶ強化状態を示すアイコンは、ベータテスト時には見慣れたものだ。
「アッレグロ・モルト+++って、この町で出せるバフじゃないですよね!??」
驚いたのは、彼女の使った魔法だ。
アッレグロ・モルトとは、調律師の使う一般的なヘイスト、つまり行動速度を上げる魔法ではある。では、あるのだが。
それの強化3掛け、+++なんて、ベータテスト時代に1か月間調律師だけを極めたプレイヤーすら辿り着けないラインだったのだ。いくら24時間ログインできる状態だからといって、まだ半月も経っていないプレイヤーが使える魔法ではない。
何せ、強化度である+を一つ載せるためには、同魔法の使用回数を1000回超える必要がある。++はそこから2000回なので計3000、+++はそこから3000回なので、合計6000回もこの魔法を使っていたことになる。
ベータ時代、ログインしている間はMP続く限り常にヘイストかけ続け、毎日10時間以上、1か月に渡ってプレイしていた廃人すらも++で限界だったというのに、それを、それを……
「いや、まさかなんでミッコさん……」
「んんー?」
「まさかこっち来てから……」
「んんんー?」
「24時間常にヘイスト使い続けてたんかい!??」
「はーーい!」
やっぱりそうだ! この女、滅茶苦茶馬鹿だ!
バフの魔法は非戦闘区域である町中でも使えるし、町中では消費したMPは戦闘域に比べたら高速で自然回復される。それを知っていれば、「戦闘中以外でも常にバフ使い続けていれば簡単に強化できるのでは?」と考えるのが自然だ。
……しかし、現実では誰もそれを行わない。理由は簡単だ。
“戦闘職が町から出ずにでバフ強化する意味あんの?”
結論としては、これだ。戦闘職ならばプレイのメインは町の外であり、戦闘域に居る限りMPの回復速度は極端に遅くなる。プレイのほとんどを町の外で過ごす戦闘職において、“暇な時間にも強化できる”はあくまで“空いた時間”でしかない。故に、その暇な時間でのみバフを重ね掛けしたところで、ほとんど強化になどならないのだ。
その誰もが気付くが、よく考えてみるとやる意味はあまりない強化方法を、実際に行う方法はたった一つだけ。
そう、24時間プレイできるこの環境で、“町から一歩も出ないこと”。
……正直、正気とは思えない。自身の強化をするために、戦闘域に出ないことを選択するバッファーなど、一般的に見たら存在価値のないものだ。何せ、その強化した魔法を使う機会が訪れないのだから。
「えっつまり……どういうことですか?」
ミキさんがキョトン顔で首をかしげる。彼女はこのヘイストの意味を分かっていないのだ。
「つまりねミキさん。……ミッコさんは、町に居る時点で、常にこのヘイスト下で動いてんの……」
「は!? 何、え!??」
ミキさんが見るからに取り乱す。それもそのはずだ。
アッレグロ・モルトは効果範囲内の味方の行動速度を130%へと加速する魔法であり、+が1つにつき10%ずつ強化されていく。つまり現在のアッレグロ・モルト+++は行動速度が160%増されている状態となり、何が言いたいかと言うと。
「こんな速度で体が動くのに、日常生活なんてできるんですか!?」
「普通はできない!! というかこんな速度強化されてんのにあの動作できるミッコさんが絶対におかしい!!」
ミッコの動作は、生産者宅で誰よりも緩慢だ。急がずゆっくり、緩やかな動きをする彼女がこのヘイスト下であの動作をするには、常に“常人の半分以下”の速度で動き続ける必要があるのだ。
口の動きは速くならない。それでも、指先に至るまで勝手に1,6倍速で体が動いてしまうヘイスト環境下では、普段と同じ行動など行えるはずがない。あえて普段の半分以下の速度で体を動かそうとして、はじめてあの速度で動けるのだから、気苦労があるなんてものではない。
1動作を遅くするくらいなら意識していれば出来るかもしれないが、何せ気を抜くと、体が1,6倍速で動いてしまうのだ。そんな人間が町中に居たら浮くなんてレベルではない。
「まあ慣らすのに一日くらいはかかりましたけれど、今はもーかかってない時のこと思い出せへんくらいよお?」
そう言う彼女は、確かにこのヘイストの環境下に居るはずだ。必死に正常動作をしようとして武者震いのように震える自分とミキとは違い、ミッコだけはいつもと同じ、ゆっくり、ゆったりとした動作を続けている。
「バフはヘイストとエンチャント、それが基本やろお?」
ミッコはそう言うと、もう一枚羊皮紙の束を破り捨てる。――発動したのは調律師のバフ魔法“アルツァンド”。それも強化状態は同じく+++。…………この女、やっぱりおかしい。
気が狂ってるとしか言えない! 体の速度が速くなるどころか、肉体まで同様に強化された状態なのだ。こんな体では、普通に物を持つことすらできないだろう。パンもフォークも握りつぶしてしまうのがオチだ。
ヘイストが行動速度強化の俗称であり、エンチャントは強化全体の俗称。このゲームにおいてエンチャントは、そのほとんどが身体能力強化という形で現れる。調律師のアルツァンドも、身体能力強化に類するの魔法だ。簡単に言うと、力が強くなる。アルツァンドの基本値は110%で、+が3つ乗ってる状態だと140%。いつもと同じ力の掛け方だったら、パンすらまともに食べれずにペシャンコにしてしまうことだろう。
「気が、狂ってる……」
「そーお? わたしからしたら、バッファー皆強化もせんで余裕やなあと、いったところでしたけど」
「普通は町中で常時重ね掛けとかしてませんからね!?? つーか今使用回数何回になってんですかこれ!??」
「えーと……」
ミッコはそう言うと、スキルウィンドウを操作して使用回数の確認をする。
「7982回目やねえ」
「頭おかしいだろアンタ!!!」
もう駄目だ、頭を抱える以外にない。
まだサービス開始から300時間程度しか経っていないのに、7982回って。
もうそれ、ヘイスト切れるごとに掛け直してるなんてもんじゃない。もう、MP回復する度に連打してるほどだ。
いや、いくら町中だからと言って、そんな速度でMPは回復するか? 調律師のスキルは自身だけを強化するものではなく、パーティ全体を強化する類なのだ。MPの消費量も馬鹿にならない。一度使い切ってしまえば、全回復するのに数分はかかるだろう。
「1日200本くらいMPPOT飲んでるけど、それだけよお」
「気が狂ってる!!!」
あっ駄目、やっぱこの人気が狂ってる。人間の理屈が通じない。
「できるのに、やらないなんて。他のバッファーさんは余裕やなあ」
「できねえよ!!」
「何事も、慣れよ慣れ。ほな、狩り行きましょかあ?」
「はーい!」
あっ駄目、ミキさん早くも突っ込み諦めてる。ヘイスト具合確かめるためにピョンピョン跳び跳ねたりしてるし。駄目だこの子もあっち側だ。頭のおかしい人と、頭のおかしい人を許容できるタイプの人だ。
自分は無理、絶対突っ込みたい。親の仇のように突っ込みたい。
「まあ、やりますけど……!??」
流石に着いていかないと、後で何を言われるかわかったものではない。全ての行動が1,6倍になるという慣れない環境下でも必死に彼女らに着いていき、狩りを開始するのだった。
◇
「うっひょーー!! やっぱ楽しいですねーこれ!!」
何匹目になるか分からないゴブリンの頭部を爆発四散させながら元気に跳ねまわるミキさんの姿は、かなり異様な光景だ。
ディスプレイ越しには何度も見た光景でありながら、それをこの世界でやられるともう違和感しかない。
なにせ、殴った対象が片っ端から爆発四散していくのだ。……厳密に言うと爆発しているのは敵ではなくミキさんの腕だが、絵面的には変わらない。
「……なんか、慣れてません?」
「武道の嗜みとかあったんかなあ」
跳ねまわる爆発娘を見守りながら、バッファーとデバッファーは静かに会話をしている。
傍から見たら「お前らも何かしろよ」とでも言いたくなるが、本当にやることがないのだ。効果時間の長いバフを既に使い終わったバッファー、ミッコさんは特に手出しすることがない。
呪術師スキルのレベルが低く、低度の足止めしかできない自分が何かしようとしても、敵が現れた傍から爆発四散する。
……はい、普通に手持無沙汰になりますよね。そもそも呪術道具装備できない以上、呪術を発動させるには対象に触れるしかないのだ。モンスターが現れてそれに触れようと近づくと、ミキさんの爆風に巻き込まれて死にかける。衝撃で壁まで吹き飛ぶのはもう嫌だ! と高みの見物になっているが、ミキさんは特に何かを突っ込もうとはしない。
一応、呪術師唯一のバフスキルが存在するツリー、『類感呪術』の呪術を使ってはいる。これは『感染呪術』と違い対象に触れる必要のない呪術であり、その効果は他人のバフスキルの上書き。既に自身や他者にかかっているバフを更にもう一度掛ける魔法であり、類感呪術によるバフは既存のバフとは違うバフという扱いになるので、基本的に同種のバフは一つしか載せられない制限を超え、それぞれのバフを二重に掛けることができる、という代物だ。
……うん、こう書くと全バッファーが手を出しても良いかもしれない。しかしこの異色バフのおかしいところは、“類感呪術を使う対象に、自身によるバフがかかっていると発動しない”という点だ。それは類感呪術自身も同じこと。
つまり、調律師が使おうとすると、調律師自身によるバフを対象に一つでも乗せていたら類感呪術の条件を満たせないので発動させることはできない。
他者を対象とした強化魔法を全く持たないプレイヤーだけに許された“重ね掛けの特権”は、基本的に誰もが使おうとしないものだ。何せ、普通にバフを掛けられるスキルを選んだほうが効率が良いのだから。
それに、類感呪術ツリーに存在する呪術、魔法は、とにかく燃費が悪い。重ね掛けしたバフは効果時間が60秒固定となるが、自己強化以外、パーティ単位で掛けられるほぼ全てのバフは効果時間が数分から10分以上あり、同じ時間類感呪術を使おうとすると、数倍から十倍近いMPを消費することになってしまうのだ。
最後に、効果の軽減がある。スキルレベルが低い現状だとバフの効果は凡そ3割程度にまで落ち込んでしまうので、例えば行動速度が160%になるアッレグロ・モルト+++に使ったところで追加できるのは20%程度。決して少ない数字ではないが、そんな程度しか増やせないなら、重ね掛けすることを選ばず、調律師とは別のスキルで行動速度強化をすればいいという話になるのだ。
「それにしても類感呪術採用してるとは、たまげたなあ」
「オープンベータ終わるまでに完成しなかったんで、机上論でしかなかったですからね」
「ほんとほんと。ヘイト上昇状態を“バフ”と見なすことでヘイト上昇状態を重ね掛けするなんて、そもそも発想として意味が分かりませんやん?」
「……町中でエンチャとヘイスト連打してる人にそれ言われたくはないんですけど」
「それはそれ、これはこれやろ。類感なんてツリー誰も育てようとせんかったけど――君には、どんな可能性が見えとるん?」
オープンベータテストが終了するまでに完成に至れず、机上論、成長曲線からの予想でしかなかった状態では、それを語ることはできなかった。最後のビルド晒しでは、あくまで、コンセプトの説明をしただけだったのだ。
確かに、“盾職以外でヘイトを自由に操作する”というのは魅力的ではある。それでも、あえてそれを1つのビルドとして成り立たせる必要があるほど、皆が魅力を感じることはなかったのだ。
「……このビルド、ヘイト操作の感染呪術がメインと思われがちですけど、実際見るとこはそこじゃないんですよね」
「ほう?」
「本当の軸は類感呪術の方で。類感呪術は、パッシブスキルに“呪術によるMP消費の割合減少”が入ってることはご存じですよね」
「そうねえ、呪術師以外でも呪術スキル入れとる人なら、その為に採用することもあるくらいやからねえ」
「……その消費減少の成長曲線が、明らかにおかしいんです。いや、気付いた時にはバグかと思って運営に投げたんですけど、それが仕様って返されたのでビルドとして成り立たせることに決めまして」
「つうまり?」
「感染呪術のパッシブスキル、“呪術によるMP消費の固定値減少”と組み合わせれば――類感呪術と感染呪術のスキルレベルが40を超えたあたりで、妖術を除くほぼ全ての呪術がMP消費無しで発動できることになる……はずです」
「…………なるほどなあ」
見えない成長曲線を机上で描き、計算によってその結論に辿り着いた時には、オープンベータテストは終了してしまった。だから、この理論が正しいかは分からない。
元から単体のMP消費量が一般的な魔法より少ない呪術系統ではあるが、実際は、更に燃費を良くする2つのパッシブスキルが存在する。その成長曲線は他職の燃費向上パッシブスキルと比較にならないほどで、スキルレベルを40超えたあたりで、実消費を0にできるはずなのだ。
簡単に説明すると、MPを10消費する呪術を割合減少で50%軽減し、消費を5にする。その後固定値減少で5軽減すると、消費MPが0になる、といった具合だ。
呪術はデバフの要である『妖術』スキルを除き、スキルひとつひとつの消費MPは、他職と比べると極端に少ない。だから手数でカバーするというコンセプトなんだろうが、そこでこの二つのパッシブスキルが噛み合ってしまった。
分類としては魔法である呪術をMP消費0で使えるということは、それがどんな些細な効果しか持たない魔法でも絶対に意味がある、そう思い、組み上げたビルドなのだ。
「『妖術』の実消費を0にすることができんのならほとんど意味ないゆう開発の意図なんかねえ」
「……どうでしょうね。まぁ、呪術師イコールデバフツリーの妖術って認識がある以上、気付く人は少ないんでしょうけど」
「せやねえ。私もビルド報告見たときは、“これで何するん?”思いましたからなあ。何せ妖術すら抜いた呪術ビルドなんて、存在価値がわかりませんやん」
「……そう言われるとぐうの音も出ない」
う、うん。実際呪術師スキルの代表格であるデバフ群が優秀とされているのは、ひとえに『妖術』の存在のお陰だ。妖術以外にもデバフを内蔵した呪術ツリーは存在し、バフだけでなくデバフの重ね掛けが行える『類感呪術』や、敵に向けたヘイト操作をデバフと見れば『感染呪術』もそうだし、呪術師専用スキルである『邪術』も多くのデバフを抱えているスキルツリーだ。
それでも、“呪術師と言えば妖術”と認識されているのは、『妖術』が、全職兼用スキルであるという一点に集約される。
呪術師専用スキルである『邪術』は『妖術』の上位互換ではなく、MP消費が多い代わりに継続ダメージを与えたりと副次効果を生みだすものであり、デバフ自体の性能は似通っている。両方育てる意味はほとんど存在しないのだ。
故に、職業を呪術師にしているプレイヤーは『邪術』を選び、他の職を選んだプレイヤーは『妖術』を選ぶというスキルの住み分けが行われており、呪術師スキルで使用頻度が高いのは全職で使える『妖術』の方。つまり、呪術師イコール妖術でも、妖術を使ってるプレイヤーが呪術師である可能性は低い、ということなのだ。
「妖術抜いたのは、どういう理屈なん?」
「類感呪術の発動条件を満たすには、自分でデバフを掛けるわけにもいけないんですよね」
「……なるほど、育成の為かあ」
「ですです。なるべくなら感染呪術を発動する場面を多くするには、自分でバフもデバフも掛けずに誰かのを重ね掛けした方が圧倒的に効率良いですし、まあつまりそういうことです」
感染呪術によるヘイト減少や上昇状態は強化状態、つまりバフに分類されるが、その効果は継続的なものではないので、ヘイトの変動を成した瞬間に消える。なので類感呪術の邪魔になることもなく使うことができ、それがこのビルドのコンセプトだ。
ビルドが完成した暁にはMPを全く消費せずにヘイト操作ができるということは、つまり、タンクや回復職、火力職とは比べ物にならないヘイト操作能力を得るということであり、パーティ全体を安定させることができるのだ。
MPは、戦闘中はほとんど回復しない。故にMP配分を考えるのはどんなプレイヤーでも突き当る難題であり、そこを無視した魔法の行使が行える“ヘイトコントローラー”の存在価値は、必ずある。
絶対的なヘイト管理者が居れば、パーティの壁職はヘイト管理ではなく自身の防御を固めることができるし、火力職はヘイトを気にせず最大火力をぶつけることができ、回復職も立ち位置を気にせず安全地帯から回復を回すことができる。
その可能性を、信じたのだ。
「お二人さん、話してないで混ざったらどうですかー!? 楽しいですよー!」
何十匹目となるゴブリンの頭部を爆発四散させながらこちらに元気に手を振ってくるミキに、控え目に手を振って返す。一応、これでも仕事してるんです。類感呪術投げてるだけですけど。
バッファーであるミッコも、今はミッコのバフを重ね掛けする以外に脳のない自分も、これでも狩りに混ざってるつもりなのだ。……まあほとんど見物してるだけだけど。楽しそうで何よりだ。




