第2話 【波乱の入学式】 1
それから数ヶ月がたった、春。
今日は黒影魔導学園の入学式。
そして、その正門に足を踏み入れようとしている新入生が一人。おそらく女子生徒である。
(はぁ……緊張するなぁ。てか【性転換】の魔法って言ってたけど、大丈夫なのかこれ……?)
彼女の『ここでの』名は騎士アリス。
もう一つの名を、騎士新太という……。
「あれ? あなた、もしかして迷ってる? 新入生の入学式は第一講義堂よ?」
ドギマギしている新太に話しかける、黒髪ロングの美女。
大人びている容姿に制服が絶妙にマッチしている。
「綺麗な人だな……」
「え?」
「あ、ちち、違う! ご、ごめん! 俺、思ったことが口に出ちゃってて……」
「俺って?」
(やべぇぇ! さっそくやらかした。ここでは『私』とかだよな)
「あはは、間違えちゃいましたー! 昨日、演劇で男役やってたもので! あはははー」
「ふふっ。面白い人ね。あなた、名前は?」
(よっしゃぁぁぁ! ごまかせたぁぁ!)
「名前は、騎士アリスですっ!」
新太はガッツポーズをしながら名前を名乗った。
その様子は端から見ると体育会と言ったところだろうか。
「元気な自己紹介ね。私の名前は、御門院沙織。三年生よ、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします!」
三年生と聞いて、新入生の自分が無礼をしてしまったと新太は反省する。
「あの……御門院先輩。あたし、先輩が三年生だと知らずに無礼をしてしまいしました、すいません!」
ひとまず謝罪。
自分の性別がなんであれ礼儀は守らなければならない。
「そんなことで謝らなくていいわよ。というより、もうすぐ入学式が始まるわ。案内するから早く行きましょう」
「はいっ!」
御門院沙織につれられ第一講義堂に到着し、彼女は用事があると言ってそのまま新太と別れた。
「新入生の席はここですよー」
担当の職員らしき女性が誘導をしているのでそれに従い、自分の席を探す。
(あった!)
【騎士アリス】、という紙が張ってある席に座り、一息。
その後周囲を確認してみる。
左隣には男子生徒、右隣はまだ空席だ。
ほとんどの生徒が席に着いている中、新太の右隣だけが寂しい。
入学式まではあと一分もない。
(入学式にこんな時間まで来ないなんて、相当な大物だな)
自分が先ほど来たことを棚に上げて新太はそう考え、一体どんな生徒だろうと、右となりに張ってある紙を見る。
(【アイリス・ステファニー】? 留学生かな?)