希望
いつも読んでくださりありがとうございます。
いたらない点ばかりですが、最後までお付き合いください。
感想、ブクマは黒兎の頑張る力になります。
翌日。俺とローナは昨日狩ったモンスターから必要な素材を剥ぎ取りあまった肉を、適当に焼いてすごく早い朝食としてから素材集めを開始した。日が完全に出る前の薄暗い時間帯から、なぜかその時間帯にしか現れないコカトリス・メタヴォ――見た目がデブチョ○ボのコカトリス版だと俺は思った――の羽や、朝日を浴びてから1時間しか咲かないルコラというの花など、召喚陣を描くのに必要な塗料の素材を集めた。
余談だが、俺が召喚されたときは黒雲が空にひしめいていたが、なぜ朝はこんなに晴れ渡っているのか気になりローナに聞いてみた。ローナ曰く、理由は分かっていないが、明け方から昼前の数時間は快晴、昼から深夜は暗雲ひしめくあの状態になるらしい。
そして素材集めを終え、隠れ家に戻った頃には、昨日俺が召喚されたときと全く変わらない空模様になっていた。
「すごいのう。まさかすべての素材がたったの一日で集まるとは思ってもいなかったのじゃ。素材を手に入れるたび隠れ家に戻る必要もなかったから、余計に効率よく素材集めもできたしのう」
「まあ、このマジックバッグは便利だったな。けど、俺としては本当にこれだけの素材で足りるのか不安なんだけどな」
俺とローナは昨日と今日で集めた素材を前に感想を言い合った。
量としては、昨日俺が数がわからないからと大量に回収した卵以外は全てローナの指示通り集めたため、そこまで多くなっていない。
「それで、ここからどうするんだ?」
俺は作り方がわからないからな、俺を召喚するのにもローナは作っているだろうから、とりあえず俺はサポートをするか。
「うむ。まずは――」
ローナの説明を受けながら、隠れ家の中にあった魔女が使うような大釜に素材を言われた通りに放り込んでいく。大釜は俺の胸あたりまでの高さがあり、ローナは窯の端にかけた梯子に乗りながら中の物を混ぜている。身長に合わない窯を使いながら、一生懸命に作業をするローナの姿はロリコンでない俺でもどこか良いと思わせるものがあった。
ちなみに今のローナの姿は、数人の反乱勢に見つかっても俺がいるから安全だろうということで、幼女ではなく少女の方のままだ。服は相変わらず身体にあっていないように見えるピチピチさだが、この服装が魔族領土の女性には当たり前の様で、ローナはその上にローブを一枚羽織っているだけだった。
「あ、そうだ」
「どうしたのじゃ?」
俺は素材を放るだけの簡単なお仕事をしている途中、ローナの指示でロックキメラの卵を入れてくれと言われたとき、昨日柄の違う卵を見つけたことを思い出した。柄が違う卵が気になったため、ローナに聞いてみることにした。
「昨日、ローナが放心状態になっているときに集めたロックキメラの卵の中に、一つだけ明らかに違う柄をした卵があったんだ。これもロックキメラの卵なのかな?」
大釜に卵を入れてしまう前にローナに渡す。
「放心状態になったのはミノルのせいじゃからな?それはそうと、この卵。ロックキメラの物ではないの」
ローナは卵をじろじろと見ながら答えた。
「ロックキメラの卵は、決まって石に見えるような模様をしておるからの。それに比べこの卵は火を連想させる模様をしておる。大方、いたずら妖精がどっかから盗ってきた卵をロックドラゴンの巣に隠したのではないかの」
ローナは分析を終えると、俺に卵を返し再度大釜の中身を混ぜ始めた。
「ふーん……」
何の卵かはわからなかったけど、とりあえずこの大釜の中には入れないらしい。どうしようか。食べる?いや、まともな調理器具がないのに卵料理はできる気がしないしな……。
「ミノル。次はウィンガルムの肝を入れとくれ。奥から3番目にあるやつじゃ」
「了解」
俺は卵をどうするか考えるのを後にし、作業に戻った。
「――よし、これで完成じゃ」
卵の件が終わってから、さらに2時間ほどかけてようやく魔法陣を描くための塗料ができた。
「お疲れ」
「ありがとうなのじゃ」
俺が最後の素材を入れてからさらに1時間、ローナは一人で大釜を混ぜていた。変わると言ったのだが、混ぜるのにもなにか決まりがあるようで、俺じゃあできないと変わることはなかった。そんなローナになにかしてあげられることはないかと思い、飲み物を渡し、作業を終えたばかりのローナの汗を拭いてあげた。
「んな!?」
水を飲んでいたローナからすると不意打ちだったようで、口に含んでいた水を噴いてしまった。
「なにするのじゃ!?」
「なにって汗を拭いてやっていただけなんだが」
「なにをさも当たり前のように言っておるのじゃ!?」
なにかが、ローナの気に障ってしまったようだ。
「いや、だって汗を拭くくらい普通だろう?」
「普通じゃろうって、同性ならわかるが異性にやられるのは恥ずかしいものがあるじゃろ!」
「そうか?」
俺としては我儘な妹さまに毎週のように拭かされていたから、汗を拭いてあげることに何とも思わなくなっているんだが……。
「そ、そうかって、ミノル……。そんなに異性と触れ合うことに慣れておるのか……?」
ローナは何か勘違いしたのか、勝手なことを言って赤くなっていた。
「いや、そういうわけじゃないぞ」
「じゃ、じゃが、我にやっても普通にしておったではないか!」
んー……。なんて説明すればいいんだろう。妹とそんな関係なのかとか言われても困るしな。
「えーと。そう!ローナみたいな少女体形だったら意識する必要もないから……」
俺はその瞬間、恐怖を覚えた。言葉を最後まで言いきる前にローナが動いたのだ。レベル100でステータス10倍の補正がかかっている俺と比べると、レベルは150だが俺よりも全体的に低いステータスのはずなのに、目で追うことができなかった。いや、ローナから溢れ出る恐怖のあまり、目で追うことを本能が拒んだのかもしれない。
ローナは一瞬の内に俺の懐に入り込み、打ち上げるようなブローをお腹に叩き込んできた
「……っ!!」
俺は軽くその場で浮いてしまい背中から床に落ちてしまった。みぞおちに入ってしまい、声を上げることなく、痛みに呻いてしまった。
「ふん!」
ローナは怒ってしまい、隠れ家から出ていこうとしていた。扉の前で振り返ると、ジトっとした目で俺を睨みながら言ってきた。
「先に外におるから、大釜を持って外に来るのじゃ」
それ以外何も言わず、そのまま外に出て行ってしまった。
「うぅ……」
さすがに今のは駄目だったか……。俺は仰向けのままおよそ一分間だけ休み、痛みから回復したのを確認して、大釜運びに取り掛かる。
「よしやるか!」
さっきは活躍を見せなかったステータスを発揮し、大釜を運ぶ。
「遅いのじゃ!ミノル!」
「ごめんごめん」
俺はあえて明るく、ローナに非がないと言うように振る舞った。
ローナに支持された場所に大釜を置くと、ローナももう気にしていないというように、昨日俺が召喚された場所と同じ位置に召喚陣を描き始めた。見る見るうちに召喚陣は完成に近づいていき、すべてを描き終えるのに30分とかからなかった。
召喚陣は俺が言った通り4つ書かれていた。
「それじゃあ、ミノル。召喚陣に魔力を送るのじゃ」
「わかった」
俺は召喚陣を適当に選び、王国で習った魔法陣を使った魔法の使い方を思い出し、そのときよりも効率が上がった早い速度で、魔法陣に魔力を込めていく。
ローナは俺の隣に寄り添い、召喚の様子を見守っている。
「やはり、魔力が多いと楽なものじゃの。我がミノルを召喚するときは、魔力消費を少なくする魔法陣を追加でいくつも書いていたからの」
「ああ。だから、俺が召喚されたときの魔法陣よりも小さいんだな」
早くなったといっても、それなりには時間がかかり、ついローナと話していた。
話をしながらでも魔力を流し込んでいると、急に魔法陣が発光しだした。
「よし、これで発動するのじゃ」
「おお」
自分が召喚されたことはあっても、召喚をしたことがなかったため、純粋に今の目の前の光景に興味を惹かれていた。
発光が頂点まで達したのか、最後に目が眩むほどの発光をすると、魔法陣から光は失われていき、その光の中心には、一人の女性が見て取れた。
「あ、あれ?ここはどこですか!?」
「成功かの」
ローナは魔法陣の中心にいる女性を見ながら、俺に聞いてきた。
「ああ。条件付け成功みたいだな」
魔法陣の中心。そこにいたのは、俺がこの世界に召喚されてから最も世話をかけた相手であり、魔王討伐のためと一緒に旅に出るはずだった仲間――ダルタリア王国第1王女のナーシャ・デルデ・ダルタリアだ。
彼女は周囲を見回して俺に気が付くと、ローナやここが魔人族の領土という状況には目もくれず、俺に抱き着いてきた。
「タナカ様!!」
「うお!」
彼女――ナーシャは抱き着いたまま離れようとせず、そのまま話し始めた。
「無事だったのですね!急に消えてしまって、心配したのですよ!?」
「ごめんな。勇者がいきなり消えるなんて、今後どうすればいいのかとか心配するよな」
「いえ、そういうことではなく。純粋に、タナカ様の身に何かあったらと……」
小さい声で俺の胸に顔をうずめながら言っていたため、少し聞こえ辛かった。
「うん?」
聞き返してみたが、ナーシャは耳を赤くするだけでもう一度言ってくれる気はないみたいだ。
「それはそうとタナカ様」
ナーシャはそう言い、顔を上げてくれた。
「ここは一体どこなのでしょうか?」
俺は一瞬ローナに目配せし、ローナはそれに頷いた。ナーシャはその動作に怪訝な様子を見せたが、今は置いておいてくれるらしい。
「ここは、俺たちがとりあえずの目的としていた場所だ」
「魔人族の領土……ですね」
「ああ」
今見て取れる環境からユウナは予想していたようだ。そして、ナーシャは俺の横にいたローナを一瞥した。
「つまり、この魔人がタナカ様をこんなところに呼び出し、なにか企んでいるということですか」
ナーシャが、腰に下げていた見るからにも効果の高そうな杖を抜き、ローナに向ける。
「ほう」
ローナはローナでニヤニヤするだけで何も言わない。
「ちょっと待ってくれ。確かに企んではいるが、その企みが向くのは俺たちにじゃない」
俺は間に入るようにし、ナーシャを止めた。
「……話を聴きましょう」
ナーシャは杖を収めてくれ、俺の話しを聞いてくれた。
「――ということで、昨日今日かけて素材集めをして今に至るというわけなんだ」
俺は、ローナに召喚されてからあったこと、聞いたことを全てナーシャに話した。
「そうですか。だいたいの事情は把握しました。しかし、魔王は人に害なす魔物を創造したのですよ!?そんな者のために手を貸す必要など無いのです!」
ナーシャは毅然として言い切る。
そういえば王様がそんなことを言っていたのを思い出した。王様に言われるまでは魔王=悪というようにしか聞いていなかったからすっかり頭から抜け落ちていた。
ナーシャの言葉に対して、ローナは、何を言っているのかといった感じに返す。
「我らに魔物を創り出す力など無いのじゃが?」
「そんなはずは無いのです!」
「いや、無いものは無いのじゃが……。ステータスプレートを渡したからわかると思うが、我の技能に魔物創造なんてものは無いのじゃ」
「ですが……」
「ナーシャ。この世界ではステータスプレートは絶対に近いんだろ。なら信じてみないか?」
俺も説得を試みるが、それでもナーシャはどこか不満があるようにむすっとしている。
「魔物の存在する理由を知りたいのじゃったら、ダンジョンを踏破しているうちに見つかるやもしれんぞ。ダンジョンによっては過去の記録が残っているものもあるからの。そうじゃ!もし、ここいらのダンジョン攻略をする場合、国をあげて協力するのじゃ!」
ローナの提案にナーシャは考える。
「そうですね……。協力はしましょう」
ナーシャは淡々と言った。
「助かるのじゃ」
ローナの言葉に、ナーシャは視線を向けるだけで、話を続ける。
「ステータス魔法は改ざんができないので話は確かなのでしょうし、断ったとしてもタナカ様は協力しそうですしね?」
「そうだな。多分俺は1人だったとしても協力はするだろうな」
「ですがタナカ様なぜよりにもよって魔王の味方なんかを……?やっぱりこんなのが良いのでしょうか……」
最後の方はボソボソっと言っていたため、声が届かなかった。
「うーん、なぜって言われても……。話に聞いていたほど魔人族っていうのも悪いやつらじゃなさそうだしな。まあ今回反乱を起こしたような過激派もいるみたいだけど」
そうだよな、よく考えたら人族と魔人族は交流がなかっただけでお互いを悪いやつ扱いしているんだよな。きちんと話せれば俺たちと何も変わらないってわかるのに。
「ローナみたいなのが次の魔王なら、ナーシャも国同士で仲良くできるんじゃないか?なによりも女の子同士だし」
「タナカ様。女性同士だからと言って必ずしも仲良くなれるものではありません。ましてや敵になりうるかもしれない女性なんて、私は仲良くしたいと思いません」
フンと可愛らしい仕草でそっぽを向いたナーシャ。ローナはまたニヤニヤしだした。
「それではミノル。この王女は協力はしてくれるようじゃが、仲良くはしたくないようじゃから我々は我々で仲良くしようぞ」
ローナはそう言い、俺の腕に腕を絡ませてきた。
「な、なにやってるんだローナ!」
「なにって、腕を絡ませているだけじゃが?仲良くするなら普通じゃろう」
それはどこの世界の普通だ!ほら、ナーシャだって愕然としている!
そんなことを思いながら、なんとかローナを引き剥がそうとしているが、女の子を力のままにどうにかしようなどできるはずもなく、なかなか引き剥がせないでいた。
ローナはどこかわざとらしいが、エスカレートしたように頬擦りをしてきた。
「な、な……なにをしているのですか!」
ナーシャは見兼ねたのか、ついに動き出し俺とローナを引き離すべく割って入ってきた。
読んでくださりありがとうございました。
前回言っていたキャラ設定について、ここで紹介させていただきます。
田中 実
・平和な国、日本で暮していた高校生男子。
・オタクでありながらも気さくな人柄や、マメで面倒見の良い性格、運動もそこそこでき、ルックスもそれなりに良いためクラス問わず人気があり友人も多い。
・頼まれたら断れない、損をするタイプ
カローナ・ベルチェ
・魔王+少女ときどき幼女+一人称が我+老人口調
わかりにくかったら、すみません。
今回の新キャラ(一応一話目にいるから新キャラと言わない?)紹介は次回にしたいと思います。