はじめてのおつかい1
「え?」
当然のことながら、僕の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。
「さあ、立ち上がってこちらに来てください」
メイドさんに促され、ベッドから起き上がり、近づいた。
顔が近い……。
「あのー、身体で払うっていうのは……」
不埒な想像が一瞬脳裏をよぎったが、そんなことはない。
「安心してください。臓器を売るってことじゃないですから」
メイドさんがにっこりと笑顔で答える。
僕が想像したのは、ちょっとえっちなことだったが、なんだろう。この安堵感は。
「なんでしょうか……」
僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
「この宿屋の仕事をしてもらいます。3丁目にいるエルフ族のナターシャさんに薬草を届けてほしいの」
メイドさんが箪笥の引出しを引き、中から薬草を取り出す。
「わかりました。それでしたら、今すぐ行きます」
僕は変な仕事じゃなくて一安心した。
ちょっと待って……まだ僕の名前が分からないぞ。どうする俺。
「あなたの名前ですが、たぶん、2丁目の役場に行けば登録されていると思いますよ。私たちと同じヒューマン族は登録が義務付けられているので」
メイドさんにこの町の地図を見せてもらい、役場の位置を教えてくれた。メイドさんによると個人の名前、住所等は役場が保管しており、役場に行けば、ある程度のことがわかるそうだ。
「役場ですか」
「はい。お体はもう大丈夫そうなので早めに出発しましょう。明日はこの町の町長の生誕祭がありますのではやく仕事を終えて、明日を楽しむのもいいと思いますよ」
「そうですか。わかりました。出発します」
明日の生誕祭とかはどうでもいいけど、なにより、助けてくれたメイドさんのためにもはやく届けに行こう。同じ町だし、そんなに遠くないのがせめてもの救いだ。僕はまず薬草を届けて、役場に向かうと決めた。メイドさんから薬草を受け取り、そして宿屋をあとにした。